5th album
「誕生」(1990/11/15)
Birth
 
浜田省吾の事務所「ロード&スカイ」に移籍し、
レコード会社もソニーに戻り発表された全20曲収録のダブルアルバム。
楽曲の幅が広がり、さまざまなスタイルの作品を収録。
『街路樹』の頃からアーティストとしてさらにワンランクアップした彼がここにいます。
 
<DISK 1>
1. LOVE WAY  
 心の奥底に潜んでいるサガを表現するようかのように始まるこの曲は日常の矛盾を歌っ
た曲・・・だと思う。”生きてることは罪を増やすこと”であると宣言しているかのようです。で
もその罪な生活の中にも光はきっとある。そして汚れていくっていうことが、生きることだと
悟ったのかも。何度か人前で歌ったことがありますが、聴衆は明らかにひいてました(笑)。
     
2. KISS  
 歌われていることは、労働者と無機質な社会という、すごくハードな内容なんですけど、こ
のメロディラインと彼の弾むようなボーカルのせいか、重たくのしかかってくるような印象が
少ないんですよね。これが前作『街路樹』での彼との違いかも。ただ仕事が終わっても終わ
らなくても、人は皆24時間ハードワーカーなんだっていうメッセージが伝わってきますね。
     
3. 黄昏行く街で  
 すごく大人の雰囲気のするアレンジ。そして浮かんでくるのはどこかの異国で過ごす恋人
たち。実はこの曲、かなり苦手です。メロディ運びが素直じゃない、というか(笑)ある意味こ
れが彼の新境地なんだろうけど。カットギターって彼のイメージじゃないんですよ。この二人
『理由』『街路樹』の延長線上にいるあの傷ついた恋人たちのような気がします。
     
4. ロザーナ  
 『黄昏行く街で』に反比例して(←申し訳ない!(笑))この曲はすごく好きなんですよね。テ
ンポよく流れてゆくメロディと、もう終わってしまった恋への回想録が見事にマッチしてるし、
悲しい歌のはずなのに、なぜか楽しんで歌っているんだろうなあって想像ができるんですよ
彼の歌声からね。二人の間に優しさを見つけられなかった恋人たち。その行く末は・・・。
     
5. RED SHOES STORY  
 24歳にして、もう回顧録です(笑)。このサイトのどこかに書いた気がするんですけど、彼
は人よりも何倍ものスピードで人生を駆け抜けた気がします。だからか彼が”昔のこと”って
歌ってても違和感を感じないから不思議。まだ若いのにいろんな出会いと別れを繰り返し、
悲しみを振り切りながら生きてきた人なんだなって感傷的になっちゃうロックチューン。
     
6. 銃声の証明  
 親の愛も知らず貧しさの中で育った少年が、やがてテロリストとして成長してゆくストーリ
ーを描いたショッキングな曲。彼は何の感情もなく、ただ命令のままに殺人を繰り広げてゆ
く。その彼から放たれる”何の罪も感じることなく生きている人々が、俺というテロリストを育
てたんだ”という発信が重く胸を突く。生きることが罪・・・深く考えさせられる衝撃作品。
     
7. LONELY ROSE  
 雨の中の恋人たちを描いたラブソング。でもこの頃の彼の書くラブソングには、決して単
純に一筋縄ではくくれない恋人たちが必ずといっていいほど登場しますよね(笑)。これも
彼の実体験から来てるものなのかもしれないけど・・・。二人でいるのになぜか寂しさを感
じてしまう二人。それでも一緒にいたいっていう気持ちは彼の素直な想いなんだろうな。
     
8. 置き去りの愛  
 もう帰っては来ない日々に想いを馳せる男の心情を綴ったムードあるバラード曲。二人
一緒にいた頃は気づかなかったけど、あの頃僕の荒んだ心を彼女が癒してくれていたん
だよな・・・と振り返り、あの時彼女のその愛に気づいてさえいれば・・・と後悔する男の姿
がそこに。でもこの二人、まだお互いに愛しているんじゃないのかなとも思えるんですが。
     
9. COOKIE  
 自分の身のまわりの状況から、世界規模、地球規模にまで言及したメッセージ色あふれ
るフォーキーな楽曲。このアルバムの中でもかなり人気度が高いのでは?当然ボクも大好
きなのですが。君がクッキーを焼いてくれて、それを僕が食べる・・・ありふれた幸せがいつ
までも続くことが、実は一番の幸せなんだよなあって感じさせてくれる曲。いいよね。
     
10.永遠の胸  
 アルバムのメインテーマを『誕生』と争ったという逸話が残っているほど、このアルバムで
は重要な位置を占める楽曲。”自分はいったい何のために生まれてきたのか?・・・それは
生きている人すべてにとって永遠の命題なのかもしれなせん。もしかしたら息絶える時に初
めてその意味がわかるのかもしれない。ソラで歌詞を歌えるほど大好きな楽曲です。
     
<DISK 2>
1. FIRE  
 このアルバムのツアー全公演のオープニングを飾った曲。前半は『Freeze Moon』の少年
たちのその後、のような印象があり、後半では”真の正義とは?”っていうことに言及してい
るミディアムテンポなロックチューン。1コーラス目と2コーラス目では、まるっきり角度の違う
ことを歌っているのに、なぜか楽曲としての統一感を感じるのが不思議です。ファイヤー!
     
2. レガリテート  
 繰り返されるメロディにのせて歌われた浮遊感・・・というよりも不安感を抱いた男の心。
この曲も詞を一つ一つ噛み砕いてゆくのではなく、イメージして感じるべき歌なのかもしれ
ません。たださすらうままにさすらって、永遠の愛を探し続けるこの男に安息の日は来るの
だろうか?それともこのまま彼はさまよい続ける運命にあるのだろうか・・・難解です。
     
3. 虹  
 彼はいつでも”完璧な愛”を探し続けていたような気がします。たとえば”優しさ”ひとつに
したって、完璧なものを欲していたし、与えようとしていたのかも。でも”愛”や”優しさ”は自
分ひとりでは成立せず、必ず自分以外の誰かの存在を必要とするんですよね。このラブソ
ングを聴いていると、彼はこの世にはないものを追い続けていたような気がするんです。
     
4. 禁猟区  
 麻薬名が次から次へと登場する非常にアナーキーなロックンロール。まあ彼自身がプロ
デューサーだから発表を止められる者はいなかったのだろうけど、でもよくこの作品をレコ
ードに発表できたなあって思います(笑)。ただこの曲を、彼は自分への戒めとして発表し
た気もするんです。でもまあSEX & DRUG & ROCK'N' ROLLは三種の神器ですけどね。
     
5. COLD JAIL NIGHT  
 例の事件を思わずにはいれなくなってしまう攻撃的なメロディが印象的なロックチュー
ン。現代の人々は日常の忙しさに追われすぎて”真実”というものに対して考える余裕す
らない。拘置所や裁判所で、彼は自分の人生をあたかも台本を削り取られるかのように
感じたのかもしれませんね。メロディはすごくかっこいい。でも歌詞は・・・考えさせられる。
     
6. 音のない部屋  
 二人の間に言葉はない。そして二人の暮らすこの部屋には音がない。だけど君とずっと
心を重ねていたい・・・そんな男の、悲しいまでの切ない願いが込められた美しいバラード
曲。歌われていることは、とても前向きで優しさを感じるのですが、その背景には男が自分
の思い通りに彼女と相容れられないことへの嘆きも感じるんです。美しいけど悲しいな。
     
7. 風の迷路  
 曲調も明るく彼の歌唱もとても澄んでいて、聴いてるだけで気持ちよくなってくるポップな
楽曲。でも彼を含め多くの人々が、辿り着けずにいる”真実”や”愛”に向けて背負いきれ
ずにいる罪を何とか背負いながら日々を暮らしている姿がそこに。なぜか『街角の風の中
と同じ映像がボクの中では浮かび上がるんです。人は一生迷路の中・・・なのかもね。
     
8. きっと忘れない  
 このアルバム中最も安心して聴ける(笑)バースデー・ソング。彼らしい優しさがこの曲か
らあふれださんばかりに響いてきます。だけど彼の歌に手放しに幸せなシーンが出てくる
はずがありません(笑)。喜びと悲しみはいつも表裏一体。だから君に悲しみが訪れたとし
ても、それと反対に必ず喜びも訪れるはずだからねっていう、ホントに優しい曲ですよね。
     
9. MARRIAGE  
 埃にまみれた都会で出会った二人。二人は傷つけあいながらも優しさを共有してここまで
暮らしてきた。時には愛が冷めてしまうんじゃないか?って不安にもかられるけど、それで
も僕は君と一緒にいたい・・・男が不器用ながらも彼女にプロポーズするワンシーンを歌に
した楽曲。傷んだ心に君が泣かぬようにと願う男の、終わりのない優しさが今、始まる。
     
10.誕生  
 このアルバムのメインテーマとなる約10分に及ぶ大曲。彼のここまでの半生が凝縮され
た自画曲(←こんな言葉あるのかわかりませんが(笑))であり、彼の生まれたばかりの息
子へのメッセージがこめられたロックチューン。彼がいかに傷つきながらも転がりながらこ
こまで生きてきたかが赤裸々に綴られていますが、彼の潔さを感じてしまいますね。そして
曲の最後に息子に語られる”彼なりの人生観”が、リアルであり悲しくもあるんですよね。

 

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