ゆず 「トビラ」

-このアルバムを聴け!Vol.13-


 横浜のあるストリートから飛び出したアコースティック・デュオ「ゆず」のふたりは、「夏色」「いつか」「サヨナラバス」など、
若い年代の胸のうちをその素直なメロディーに乗せて歌ってきました。彼らのアルバムにはそれまでは必ず「ゆず」という
文字がかぶせられていたのですが、このアルバムはシンプルに”トビラ”というものでした。その意味はきっと、プロとして
「ゆず」という先入観にとらわれずに勝負したいっていう想いがあったのかもしれません。
 
ゆず「トビラ」
2000年11月1日発売・全13曲
 
 そこには彼ら特有の爽やかさ、みずみずしさは影を潜め、青年の恋や世界に対しての疑問や悲しみ、そして自分とは
いったい何なのかという自問自答を繰り返しているような、そんな感覚にとらわれる、不思議であり染みるアルバムです。
 
 リーダー北川悠仁の心からのボーカル、サブリーダー岩沢厚治のとても高音でクリアーな歌声は、ボクの心をまだ無垢
だった少年の頃に戻してくれるような、そんな感覚にさせてくれるのです。
(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 
1. 幸せの扉 詩/曲 北川悠仁
 それぞれの悲しみを知ってゆく事から愛を探すたびは始まる・・・と
いうフレーズが印象的な一曲です。不器用な君だから僕の心は奪
われたって、すごくわかるような気がします。そんな人の悲しみがわ
かる人っていうのは、やっぱり素晴らしい人だと思います。
 
2. 日だまりにて 詩/曲 岩沢厚治
 そこに行けば原点に戻れるっていう場所を持ってる人って、とても
うらやましいなって思います。生まれ育った町でそのまま今も生活
してるボクにとっては、そんな場所はないような気がします。いや、
本当は気づいてないだけで実際にはあるのかもしれない・・・?
 
3. 仮面ライター 詩/曲 北川悠仁
 ロカビリーっぽい曲に歌詞を思いきり詰めこんだ、ちょっとダーク
な一曲。街の人々はみな「善人面」という仮面をかぶって生きてい
る。そしてかくいう自分もそんな仮面をかぶっているけど、剥がそう
としても剥がれない・・・う〜むタイトルだけが唯一ユーモア(笑)。
 
4. 飛べない鳥 詩/曲 岩沢厚治
 限りなく広がる大空に比べたら、僕らなんてちっほけなもんさ、と
思うことも時には必要なのかもしれない。だから目の前の失敗なん
ていくらでも取り返しのつくことなのかもしれない。大事なのは今ま
でどうしてきたのかではなくて、これからどうしていくかなんだね。
 
5. ガソリンスタンド 詩/曲 岩沢厚治
 おそらくこの曲は亡くなった愛する人にむけて歌われているんだ
と勝手に解釈しています。情緒的というかノスタルジックというか、
こういう曲って岩沢くんは得意なんだなあって聴く度に思いますね。
耳ではなくて、心に語りかけてくるような名バラードだと思います。
 
6. 何処 詩/曲 北川悠仁
 今までのゆずからは想像もつかないようなダークな一曲です。語
りと激しいシャウトで構成されてるとても実験的な曲。自分が生ま
れた時からモノが豊かだったこの国では、逆に人々の心が圧倒的
に貧しい。残念だけど自分の国に誇りを感じること少ないよなあ。
 
7. ねぇ 詩/曲 北川悠仁
 自分ではしっかり生きているとは思っていても、実はハタから見た
らそうではないのかもしれない。そして自分が間違っていたと人か
ら気づかされるたびにひとつずつ臆病になってゆくというのはわかる
気がするなあ。少年ではなく、そこには男の哀愁を感じますね。
 
8. 嗚呼、青春の日々 詩/曲 北川悠仁
 学生時代に知っていた友人たちが大人へと変わってゆく度に、時
の流れを感じると同時に淋しくなるのは何故だろう?それはきっと今
は失ってしまった何かを、その当時は持っていたっていうのが理由
なのかもしれないな。シンプルかつダイナミックで大好きな一曲!
 
9. 気になる木 詩/曲 岩沢厚治
 ギターとタンバリンだけのシンプルな演奏だから、逆にすごく歌そ
のものが映えてるなあって思います。葉っぱが一枚もついてない木
から一曲を作ったって歌ってるんだけど、きっとその木が何かを訴え
てるから、こんな曲ができたんだっていう即興的であったかい曲。
 
10.シャララン 詩/曲 北川悠仁
 すごくのん気なボーカルを見せてくれる北川くんですが(笑)、その
ボーカルとは対照的に、すぐに逢える距離にはいない愛する人への
気持ちを歌ってる。「本当は一人占めしたい気持ちでいっぱい」って
いうフレーズが何とも意地らしい一曲ですね。明るいけど悲しい。
 
11.新しい朝 詩/曲 岩沢厚治
 生きることはある意味勝ち負けなのかもしれないけど、でもそれは
本当だろうか?ってことがこの歌の出発点のような気がします。もし
かしたらこの世に生きてるみんな淋しがりやなのかもしれない。そう
感じれば僕の淋しさだって、実はみんな感じてることなのかも・・・。
 
12.心のままに 詩/曲 北川悠仁
 一日の終わりって、今日あったいろんなことを思い出します。そうす
ると、本意ではなかったのに優しくなかったなあってことが必ずひとつ
やふたつ見つかります。自分の心の思うがままに進みたい。現実を
見ていないと言われたって、自分に嘘をつくよりはましだと思うから。
 
13.午前九時の独り言 詩/曲 北川悠仁
 タイトル通り独り言的な物事が羅列されている。今の世の中は昔に
比べてホントに複雑なものになってしまった。親子が傷つけ合い、政
治家の利己主義、平和とはまず想像することから始まると歌うあの人
の歌・・・でもホントは自分自身を見つめてやることが大事だって歌っ
てる。年下なのに、よく考えてるよなあって同感しちゃうなあ。
 
 改めて聴きなおすと、普段の生活の中で見落としてしまってるものが、このアルバムには詰まってるような気がします。
「そんなこと言ったって、それは理想であって現実的じゃないよ」・・・もしかしたらこのアルバムを聴いてそう思う人がいる
かもしれない。でもそうだっていいじゃないかってボクは思います。そういう理想に近づいてゆくことじだいが、実は今この
国で一番求められていることなんじゃないかって。青くたってクサくたっていいじゃないか。ボクはそう思います。(03.3.9)
 

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