『帰去来』『風見鶏』『私花集』・・・彼の初期のアルバム三枚から厳選した楽曲たちを、今の声、今の演奏で歌いなおしたセルフカバー |
アルバムの続編です。昔の曲を改めて歌い直すことで賛否両論になるというのは自然の流れですが、彼のセルフカバーには歌いなお |
す”意味”が感じられるのです。決して歌うネタに詰まった訳ではないでしょう。トークのネタに詰まることはあるとは思いますけど(笑)。 |
だって彼のトークは時におちゃらけ、時に悲しく、ある意味テレビに出てるようなタレントのトークより全然おもしろいんですもの。おっと、 |
また脱線してしまいました(笑)。こういうセルフカバーを出しながらこの年には『季節の栖』、そして翌年には『日本架空説』をきちんとリ |
リースしてる。誰もが認めるキャリアをもっているのに貪欲に作品を作っていく、こういうところがさださんのスゴいところでもあります。作 |
品全体としては、やはり70年代後期にリリースされたものよりもよりドラマティックになっており、やはりあの頃より円熟味の増した彼の |
ボーカルが、これらの曲に新しい息吹をあたえている印象があります。曲のスピードを落としてじっくり聴かせてくれる「1.夕凪」、女性の |
悲しみと温かみをオリジナル以上に感じる「2.童話作家」、より臨場感を増しドラマティックになった「3.指定券」、別れのつらさがそのま |
まボーカルを通じて伝わってくる「5.加速度」。この盤で最も劇的に素晴らしくなったなあ、と思える「6.檸檬」はアレンジから何から絶賛 |
したくなる仕上がり。サスペンス劇場のような幕開けが特に(笑)。そして今は遠くなってしまった青春時代を見つめる今の彼の歌の表情 |
がまたいいのです。恋人との別れのシーンを描いた「8.つゆのあとさき」はきらびやかな風景の中で別れてゆく二人の情景が目に浮か |
んでくるようです。美しい風景が随所に散りばめられた「10.桃花源」からは聴くだけで優しくなれるような、そんな印象を受けます。山口 |
百恵バージョンのアレンジがうれしい「11.秋桜」は、やはり何度聴いても名曲だ。後世に歌い継がれるべき楽曲だと改めて思い知らさ |
れます。秋から冬へ移り変わる時期の恋人たちの別れの瞬間を描いた「12.晩鐘」は、まさに目の前に風花がひとひらふたひらと舞い降 |
りてきそうな悲しい錯覚に陥ります。「13.飛梅」は実際に大宰府で聴いたら泣いてしまうだろうな、と思えるような悲しくはかない曲。特に |
中盤から後半への壮大なロックサウンドが「心変わり」をテーマにしたこの曲を聴く者の心を揺さぶります。この盤はセルフカバー・アル |
バムといえども、彼の歌の一貫性、人間の大切な部分をずっと歌い続けてきた人なんだなあ、とうなずいてしまう一枚でもあるのです。 |