セルフカバー・アルバム
「帰郷」

1986年10月19日発売

 
 グループデュオ”グレープ”を結成してから15年、そしてソロデビューして10周年を記念して製作されたセルフカバー・アル
バムです。新録音であり、アレンジも変え、ある意味オリジナルよりも聴きやすいかなあって個人的には思います。ただオ
リジナル時の各々の曲の持っていたメッセージ性、表情の豊かさは何ら変わりなく、まさに”さだまさし入門盤”と言うにふさ
わしい一枚だと思います。親類の悲劇から作られたという生と死をテーマにした「1.精霊流し」、恋人の心変わりと時の流
れの淋しさを綴った「2.交響楽」、ささやかな母の一生を息子の視点から歌った涙なくしては聴けない「3.無縁坂」、恋人と
の決別を思い切るために、初めて二人で歩いた鎌倉へもう一度向かった男を描いた「4.縁切寺」、出会いと別れを繰り返
してきた女性の悲哀を歌った「5.掌」、彼の反戦への願いを込めた最初の曲であり、そのメッセージ性に打ちのめされてし
まう「6.フレディもしくは三教街」と、ここまではグレープで発表した6曲。クラフトに提供した墓参りの曲(←他に言い方ない
んかい(笑))の「7.僕にまかせてください」は、逝ってしまった愛する人の母親の墓前で誓いをたてる歌。ここからソロ発表
曲に入ります。彼が一世を風靡した「8.関白宣言」は、まさに亭主関白を絵に描いたような曲ですが、どこかコミカルさを感
じるのは彼ならではの個性ですね。後年発表された「関白失脚」という曲には改めて共感しましたが(笑)。遠く離れた子を
想う父親の心情を綴った「9.案山子」、結婚する前日の娘と母親の、言葉にするには何とも言いがたい別れのワンシーン
を切り取った「10.秋桜」、彼の幼少時代の家族の思い出を綴った「11.転宅」には人生というものには浮き沈みがあり、悪
い時ばかりではないんだよと教えられました。その逆もですが(笑)。そして、人生の中ではひとりひとりが主役なんだよって
いうメッセージを歌にした「12.主人公」でこのアルバムは幕を閉じます。グレープ時代の相棒・吉田政美さんも加わって製
作されたこの盤は、どちらかといえばほとんどが重たい曲ばかりで構成されています。でもこれがさだまさしなんですよね。
しかもさださんのすごいところは、これらの名曲たちは彼のキャパシティーのほんの一部にしかすぎないというところです。

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