長渕剛「Captain of the Ship」

-このアルバムを聴け!Vol.14-


 シングル「とんぼ」「激愛」「しょっぱい三日月の夜」「しゃぼん玉」と、立て続けにヒットチャート1位を勝ち取り、再び日本音楽界の
トップに立った彼はアルバム『JAPAN』で頂点を極めます。ボクはこの時点で「おそらく『JAPAN』を越えるアルバムはもうできない
だろう」と勝手に思っていました。しかしこのニューアルバム『Captain of the Ship』を耳にした時、ガーンと頭を鉄の棒でひっぱた
かれたような衝撃を受けました(←ボクは3つの時に鉄棒で近所のガキに鉄パイプで頭を叩かれ病院に運ばれた経歴もあり(笑))。
 
長渕剛「Captain of the Ship」
1993年11月1日発売・全10曲
 
 決して派手なわけでもない。比較的、日本の音楽には使われにくい下品な言葉が使われていても、それが逆に純粋な心として
リスナーの耳に響く・・・いや心を叩くのです。長渕剛が苦手な人ほど聴いてほしいと思う魂のアルバム。なぜ彼の音楽がある人々
には敬遠されるのか?・・・それは誰もが触れてほしくはない、逆にいえば直視しなきゃいけないのに目をそらしている部分を歌って
いるからなんだと思います。今までで一番好きな・・・というより彼という人間を一番好きになれたナンバーワンアルバムなのです!
 
(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 
1. 人間になりてえ
 金、いかした女、でっかい家・・・人の心の欲は果てしないもの。素直な心、人を愛する温
もり、そしてかけがえのない友・・・欲しいものがたくさんあっていい。だけどそれらを手に入
れるために誰かにこびへつらうことだけはするな!というメッセージが心の奥に突き刺さっ
てくるロックチューン。うれしいことをうれしいと素直に感じ、悲しいことがあったら思いっきり
泣く、そんな人間になれ!と歌いつつ、自分もそうなりたいと彼は歌う。この曲を聴いてると
自分の弱さをあえて歌にしてる彼にすごい潔さを感じてしまうんです。
 
2. 泣くな、泣くな、そんな事で
 誰からもうらやましがられるほどの男になりたいがために、人から笑われるようなみっと
もないことも随分してきた・・・と赤裸々に告白する彼(笑)。でも良くも悪くもそれは自分だ
から、せめて人の心だけは裏切らないように生きてきたと歌う。まあそれは人それぞれ、
彼も多少は女性関係で裏切ってきたとは思うんですけど、そこはご愛嬌で(笑)。生きてる
ことがつらく感じる時は誰にでもある。だけど「明日」という日は容赦なく、待ってくれること
もなくやってくる。ならばそんな事で泣いてる場合じゃないぞっていう元気をくれる歌。
 
3. ガンジス
 優しいアコースティックギターに奏でられた9分にも及ぶ大曲。これはただのインド旅行
記ではない。命とは何か?死とは何か?そして生きてゆくこととは何か?インドの人たち
は常にガンジス川とともに生きている。そして自分の死を自然に受け入れる。だけど、自
分の死を自然に受け止めることほど強いことがあるだろうか?・・・彼はおそらく自分の生
も死もすべて自然の一部なんだと受けとめられるインドの人々を見てある意味逃げ出して
きたに違いない。そしてその弱さを素直に認められる彼が、ボクはとても好きなのです。
 
4. 純情地獄の青春は
 暗闇に白い一筋の光を感じる、どこか懐かしい感じがするバラード曲。今の時代を純情
を貫いて生きてゆくことほど難しいことはない。下手をしたらその純情がアダになって
陥れられる危険だってある。だけどそれでも自分は純情を貫きたい・・・そんな彼の想いが
伝わってくる一曲。時にはつらくて、時にははかなくて、時には周りから疎外されることも
きっとあるだろう。だけどそんな自分をもっと愛してあげてね、っていう彼の優しさがひしひ
しと響いてくるんです。命ある限り純情の白い花を咲かせつづけていきたい・・・いいな。
 
5. 明日の風に身をまかせ
 メランコリックで、かつものすごい淋しさが襲いかかってくるようなメロディーが印象的な
一曲。「銭が欲しいか そらやるぞ 銭じゃ買えねえものもある♪」・・・すごく彼らしいフレ
ーズなんですけど、その銭じゃ買えないものとは何だろう?と考えた時、やはりそれは人
の心じゃないかとボクは思いました。人の道をはずれなければ、どんな生き方をしてもボク
はいいと思うのです。その「人の道」っていうのはやはり「人の心」を大切にすることなんじ
ゃないかな。明日の風に身をまかすことしかできないんなら、せめて人の心だけは・・・。
 
6. RUN
 「賽銭箱に100円玉投げたら つり銭出てくる人生がいい」・・・そりゃあそうなら確かに苦
労もないよなあ(笑)。夢、夢、夢だけで今日も日が暮れてゆく・・・だけどその夢を思いつ
づけることこそ大切なことなんじゃないかなと思います。「なるべくなら嘘はない方がいい 
嘘は言わない そう心に決めて嘘をつき続けて 俺生きている」・・・それは誰にでも当て
はまることじゃないだろうか?逆に嘘をつかずにこの社会を生きていくことは至難の技だ。
でもそれでも嘘はできるだけつきたくないと思う心は忘れずに生き続けていきたいな。
 
7. 12色のクレパス
 「そんなあなたになりたくて そんなあなたになれなくて」・・・真っ直ぐな心を持つ男性に
想いを寄せる女性のはかない心情を綴ったバラード曲。あなたが私に優しさをくれるたび
に私のずるさが自分自身に響いてしまう・・・そんじょそこらのアーティストじゃ決して書けな
いフレーズです。この男性というのは彼の目指す理想像、そしてこの男性に想いを寄せる
女性は今の彼自身のことを歌ってるんじゃないかなあ・・・って聴き続けてゆくうちにそう思
うようになりました。ただのラブソングではなく心を優しく突いて来るイメージがありますね。
 
8. 結晶
 長渕剛の楽曲の中で最も好きなうちの一曲がこの「結晶」なのです。まさに辺り一面「白」
に埋め尽くされた雪の中にいるような、そんなイメージを受ける楽曲。アレンジャー瀬尾一
三氏の真骨頂。抱き合う男と女・・・だけどそこからは伝わってくるのは幸せや喜びではなく
この上ない苦しみや悲しみ。人を愛するということは、相手の抱えている苦しみや悲しみを
も分かち合おうとすることなのかも・・・とこの楽曲から感じます。聴き方によってはこれから
心中しようとしていう男と女のようにも感じる。生死を越えた魂の交流が響いてきます・・・。
 
9. Captain of the Ship
 「結晶」の吹きすさぶ吹雪がおさまり、一瞬の静寂のあと、それを引き裂くかのようにこの
楽曲が始まる瞬間っていうのがたまらなく好きなんです。今の若者へのメッセージを、想像
絶する絶唱で楽曲の中に詰めこんだ13分にも及ぶロックチューン。自分の前に立ちはだか
る大波を蹴散らし、自分の夢に向かってゆくのは「自分」しかいない。それは1隻の船を操
る船長のようなものだ。だから周りに流されることなく、誰かにののしられようともお前自身
が舵をとれ!彼の絶唱する姿勢こそが、この曲の持つもっとも重要な意味を表している。
 
10.心配しないで
 「Captain of the Ship」で大海原に出た男が港に帰ってきたような、そんな安らぎを感じる
バラード曲。そこには自分の想いを愛する人にうまく言葉にして伝えられない女性のはかな
くも切ない心情が綴られています。そして「愛しているから 心配しないでおやすみ」という
男からの返事。この歌をリスナーに伝えられるのは彼しかいないでしょう。彼以外の人が歌
っても伝わってこないような気がします。それほどこの曲に彼の優しさが全面に散りばめら
れている気がします。暗闇が徐々に明け地平線から朝陽が差してくる映像が浮かびます。
 
 
 10曲収録で71分39秒・・・数字だけ聞けばなんだかとてつもなく長いアルバムのように聞こえますが、一気に時間を忘れ聴いて
しまえるアルバム。とりあげられているテーマはどれも軽いものではないのだけれど、決して目を背けてはいけないことを歌ってい
るような気がします。彼に興味がちょっとでもある方にはぜひ聴いていただきたい珠玉のアルバムなのです。(04.2.22)
 

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