6th album
「放熱への証」(1992/5/10)
Confession For Exist
 
彼が急逝15日後に発売された、彼の最初で最後の完全セルフプロデュース作品。
草むらの上で寝転ぶジャケットの彼の姿が、まるで十字架に磔にされているかのようで印象深い。
劇的に変わってしまった彼の周囲の状況も、作品に多くの影響を与えているであろう一枚で
個人的に好きな曲が多いけど、もうあの疾走感は感じられない悲しいアルバムでもあります。
 
1. 汚れた絆  
 アルバムのオープニングを飾る彼のラスト・シングル曲。確かにサウンドは彼の作品らしく
疾走してるけど、『Scrambling Rock'n Roll』や『路上のルール』の頃のようなものではありませ
ん。うまく言葉にはできないけれど、彼は繰り返される出会いと別れの中で上2曲の頃には持
ってはいなかった経験を、この曲で体現しようとしていたんじゃないかな。悲しいことだけど。
     
2. 自由への扉  
 『失くした1/2』に通ずるようなポップさを感じる楽曲。この曲からは、彼はかつて自分が持っ
ていた”人と心を通い合わせることで新しいものを生み出したい”っていう希望を取り戻しつつ
あったんじゃないだろうかっていう印象が浮かびます。すべては信じることから始まる。悲しい
ことに今は信じやすい人ほど騙されるようなそんな堕落した世の中になってしまったけれど。
     
3. Get it down  
 前作『誕生』では24歳の若者らしからぬ人生観ばかりを披露していた彼だけど、考えてみり
ゃこの盤を作った時点を考えてみても、まだ25歳だったんですよね。この曲にはそんな彼の
若者らしさがあふれてる気がします。確かにこの曲でも毎日に傷ついてはいるんだけど(笑)
でも転がりながらも前のめりに突っ込んでいこうぜ!っていう若さを感じるうれしい曲です。
     
4. 優しい陽射し  
 日々を過ごしていくうちに、答えってものは作られていくんだよっていう彼の新しい考え方が
すごく染みてくる曲なんですよね。漠然とした迷いや悩みが襲ってこない日はない。だけどそ
れを何とかしようとしても、答えなんてすぐに出てくるものじゃない。もし答えを求めるのだとし
たら・・・自分が毎日の暮らし中でひとつひとつ積み上げてゆくしかないのかもしれないな。
     
5. 贖罪  
 小刻みに刻まれるメロディに淡々と歌をつけてゆく彼の歌声が印象的な楽曲。人は幸せを
求めてさまよう生きもの。だけどその”幸せ”がどんなものかですらわからず、その”幸せ”を
求めるから厄介だ(笑)。そしてボクも当然その一員(笑)。幸せを模索する中で、名もない日
々が一日また一日と過ぎてゆく。まるで来る日も来る日も切り捨てられていくかのように・・・。
     
6. ふたつの心  
 個人的には『I LOVE YOU』で若すぎる愛を模索していた若者たちのその後の心を歌った
曲であると思っています。ただこの二人には、もうあの頃の純粋な相手を思う気持ちはなく
・・・というよりは”現実”という日々の中で次第に押しつぶされてゆくお互いを思いやる純粋
な心がここで歌われています。それでも君に僕のこの想いを届けたい・・・邦楽バラード全体
を見渡しても、その中でも屈指の名曲だとボクは強く思うし皆に知ってもらいたい曲です。
     
7. 原色の孤独  
 ”生きている奴らはみんなイカサマな賭博師さ”と歌うこの歌をボクは最初好きになれませ
んでした。でも日々を生きてゆくうちにそれもあながち嘘じゃないな、と思えてきました(笑)。
考えてみれば人は生きているんじゃなくて”生かされている”のではないかと。だって人間い
つ何時何があるかわからないもんね。ボクの主観が変わっただけなのかもしれないけど。
     
8. 太陽の瞳  
 この歌を通して彼は一種の告白をしている。それは決して明るいものではないし、どちらか
といえばあまり人には見せたくない弱い部分なのだけど、誰もが一度は感じる感情なんじゃ
ないかなあ。この曲ができて一番最初に聴いたのは、その4日後に急死してしまう彼のお母
さんであるらしいけど、この曲を聴いた時、彼女は息子に何を思ったんだろうなあ・・・。
     
9. Monday Morning  
 この曲、ボクの骨の髄まで染みてくる曲なんですよ(笑)。そう、月曜日の朝ってホントにブ
ルーだし(←ボクの場合夜中だけど(笑))、仕事へ向かう足取りってホントに重いよね。でき
れば逃げ出したくなることだってある。だけど一度踏み外したらもう挽回する余地はない・・・
ような気がしてしまうんだよな。生きていくのに逃げ場所はない。苦しいけどそれは事実だ。
     
10.闇の告白  
 このアルバムの主題曲。前作の『銃声の証明』『COLD JAIL NIGHT』に通ずるサウンド的
にも攻撃的でダイナミックな作品だけど、ここで歌われていることは誰もがあらゆるものに引
き金を引いて生きている、というショッキングなもの。でも確かに自分を取り巻く状況ひとつひ
とつを撃ち抜きながら毎日を生きてる気がする。そしてそれは明日も繰り返されるんだ・・・。
     
11.Mama,say good-bye  
 急逝した彼の母親へ宛てたレクイエム。まさかその4ヶ月後に彼自身も逝ってしまうなんて
・・・。彼の母親への想いがどれほど強かったかがうかがえる曲です。彼はこのアルバムの
製作インタビューの中でも自分にとっての母親の存在の大きさを語っているけど、本当のひ
とりぼっちになってしまったような、そんな寂しさや怖さに襲われたんだろうなあ、きっと。

 

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