浜田省吾 「誰がために鐘は鳴る」

-このアルバムを聴け!Vol.12-


 以前このページで「ボクの中で浜田省吾のNo.1アルバムは『君が人生の時』だ」と書きましたが、あの青春の切なさ、みずみずしさ
に胸打たれた想いは今でも変わりません。しかし、「浜田省吾の集大成的アルバムは?」と聞かれたら、迷わずこのアルバムを推す
でしょう。何を隠そう浜田さんの楽曲をリアルタイムで聴いたのはこのアルバムが初めてなのです。ですがそれを抜きにしても、「この
アルバムを聴けば浜田省吾のすべてのエッセンスを感じることができる!」とボクは断言できます。そのぐらい、このアルバムのボク
への影響は大きいのです。まあ「どのアルバムが一番好きか?」と言われれば、人それぞれだとは思うんですけど・・・ええい!書か
せてくれい!(笑)浜田さんの音楽に一番最初に触れたその感触、そして感激は今でも心に残っています。そしてこれからもずっと・・・。
 
浜田省吾
「誰がために鐘は鳴る」
(1990年6月21日発売・全11曲)
 
 昔の書物をひっくり返すと、彼は「『PROMISED LAND』『J.BOY』『FATHER'S SON』と、ある種の使命感にかられて曲を書き、アルバム
を発表していくことは、もうやれるだけのことはやったという思いがあったので、次に出すアルバムは大自然をテーマにしようとしたんです
が、結果的にはすごく個人的な作品になってしまいました」と語っています。大自然をテーマにする前に、その自然の前に立ちはだかっ
ているこの国に生まれた人間として、この国のことを歌い、この国で生きる人々の心を歌おうと思ったんだとボクは思います。
 
 そこにすごく共感するものがボクの中にありました。大自然ということの前に、この国の置かれている状況、その国に生きる人たちの恋、
そしてリアルな現実を歌う。やはり彼は日本屈指のソングライターだと思います。
 
(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 

1. MY OLD 50'S GUITAR

 1曲目を飾るのは、40歳になった男の心の弱さ、不安、葛藤を
歌ったシンプルだけど浜田さんらしいロックンロール。本当に強い
男っていうのは、周りに強さを誇示するのではなくて、自分の弱さ
を素直に認め、その弱さにどう立ち向かっていくかを考える人だ、
ということを感じた楽曲です。
 
2. BASEBALL KID'S ROCK
 プロ野球選手を歌った、浜田さんにしては珍しくコミカルな一曲。
ですがその裏では今までコツコツと積み上げたものを一瞬にして
崩されてしまった男の哀歌のようにも聴こえます。でも曲の後半部
分では「この人って本当に野球が好きなんだなあ」って感情がわい
てきて、なぜだかうれしくなります。
 
3. 少年の心
 「友達以上、恋人未満」の仲のふたりを歌った物静かな一曲。で
も男は「自分はこの女性を愛している」ということに気づいてしまうと
いう、またなんと男の純情な部分をうまく表現した楽曲なのでしょう
(笑)。抱き寄せたくて、抱きしめたくて、でも・・・今の関係を壊した
くないっていう何とも言葉にしがたい感情ですね!
 
4. 青の時間
 浜田省吾の数あるバラードの中でも屈指の名曲です!しかも
3分46秒という短い楽曲の中に、これほどの男の哀しみを吹きこ
むなんて!高速道路の渋滞にはまって、恋人との約束の時間に
約束の場所に着けなかった男の哀しみ。彼が来ないことを私へ
の答えだと感じ、立ち去る女の哀しみ。思わず涙ぐみます・・・。
 
5. サイドシートの影
 『青の時間』と、この『サイドシートの影』は「車もの」です。おそ
らくここに出てくる男は『青の時間』で愛を失った男と同一人物な
のでしょう。街の灯りがどんなに華やかでも、人々がどんなに歓
喜の声をあげていようと、自分はひとりぼっち。気がつけば誰もい
ないサイドシートに話しかけている。彼女の面影を抱いて・・・。
 
6. 恋は賭け事
 すごく恋に対してアグレッシブな歌だなあって思います(笑)。
君や俺は天使でも聖者でもなく、欲望を持った人間なんだ。かけ
ひきなんかしないで、もっと心の底から想いをぶちまけよう・・・っ
てメッセージが受け取れます(ぶっきらぼうな言い方ですいません
(笑))。恋=ALL or NOTHING・・・真理かもしれない!(笑)
 
7. 夜は優し
 「人に恋をする」っていうのが「悲しみ」に似てるっていうのは
すごくわかるような気がします。何とも切ないような、それでいて
何か温かいような・・・。この言葉にできない感情がどんなものな
のかが後に発表される『初秋』という曲で歌われているような気
がします。それは逃れられない哀しいものなのですけれど・・・。
 
8. SAME OLD ROCK'N' ROLL
 ストレートなロックンロールなんですけど、すごく好きですね、
この楽曲。確かに歌われていることは今の音楽シーンからは敬
遠されがちな「古い」「堅苦しい」ものかもしれないけど、それだけ
重要なことだから逆に敬遠されているのだと思います。群れの中
にいることほど、自分にとって楽なことはないのですから・・・。
 
9. 太陽の下へ
 もう恋をするっていう年齢ではなくなったふたりの行き着いた場
所とは・・・?ふたりはふたりでいることに疲れ、そして別れを決意
する。中盤に”What is LOVE?”というフレーズがあるんですけど
それがすごく重たくのしかかってきます。浜田さんの歌はこんな
悲しみを容赦無くリアルに描きます。そこもまた魅力なのです。
 
10.詩人の鐘
 国際社会の中でのこの国の現状を痛烈に批判し、それでも世
紀末はやってくる・・・もうとうに越したんですけど(笑)、北では飽
食のために苦しむ人たちがいて、南では飢餓に苦しむ人たちがい
る・・・なんてアンバランスで、なんて絶望的な惑星になってしま
ったのでしょう。それを救えるのは、やはり「人の心」でしょうね!
   
11.夏の終り
 彼はこのアルバムを作る前まで、もう歌うべきことはすべて歌っ
たという想いが強かったために楽曲作りが難航したそうです。そん
な想いがこの曲を生んだのでしょうね。ミュージシャンを辞めたらき
っと彼はこんな想いを抱くのだろうな。ただ、そこまで来るには色々
な人たちを傷つけてきたという後悔の念も込められているような
気がします。だからこそ今でも彼は歌い続けているんでしょうね!
   
   
 このアルバムは、ボクにとって個人的にどこから切って食べてもおいしい「金太郎飴」のようなものです(←ファンの方々、大目に見
てやってください!(笑))。このアルバムを聴くたびに、なんだか音楽を聴き始めた頃の初心に帰れるような、そんな感情を抱いてし
まうのです。これはホントに不思議なことなのですが・・・。それだけ浜田さんは時代が変わろうとも、変わらない「人の心」を歌ってきた
ということなのでしょうね!

(02.8.23)

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