4th album
「街路樹」(1988/9/1)
Trees Lining A Street
 
この盤のツアーを行いながらも、発売延期に延期を重ねたアルバム。
所属事務所の都合でレコード会社が変わり、プロデューサーの須藤晃氏とも別れ、
再出発ともいえる中期の尾崎豊がこの盤の中に散りばめられている。
が、物思いにふける彼の肖像が印象的なこの盤には、悲しい印象を抱いてしまうのです。
 
 
1. 核(CORE)  
 12インチシングル発表時のものと比べると、歌い方もシャウトも演奏も、ソフトで聴きやすく
おとなしい印象のものになっています。が、どちらかというとこの曲はあの12インチのとっ散
らかったようなまとまりのない、ある意味凄いって感じるバージョンの方が響いてくる気がし
ます。この盤でちゃんと歌い直したかったんでしょうね、きっと。(12inchシングル『核』へ
     
2. ・ISM  
 小刻みなリズムに合わせて歌われたこの曲からは、彼の猜疑心のようなものが響いてく
るんです。この曲の始めから終わりまで、迷って探して結局何もわからない・・・っていう結論
が彼の中では出たようですけど(笑)目隠しされたまま歩かされているような、そんな男の姿
が浮かんできます。それにしてもブラックな楽曲だ。そして彼のしゃがれ声が痛々しい。
     
3. LIFE  
 彼の楽曲はこの頃から何か哲学めいた歌詞が目立つようになりますが、この盤の中でこ
の曲がその最たるもののように感じます。”生きること”・・・それをこのたった一曲で表そうと
したんだろうな。それにしても歌詞の意味がわかりづらい、というかストレートに入って来ず
なんか遠まわしに何かを伝えようとしてる彼の姿勢に、悲しさを感じてしまう作品なのです。
     
4. 時  
 今自分が歌う意味がどういう意味を持つのか・・・そんなことを考えながらこの曲作ったの
かなあ?って思ってしまう歌です。そして詞は・・・やはり哲学的で、その詞の意味が直接的
には入ってこない。どちらかというと詞を噛み砕いて理解するというより、頭の中でイメージ
をふくらます抽象画のような、そんな印象を受ける曲。サビがチャゲ&飛鳥みたいだ(笑)。
     
5. COLD WIND  
 彼の雄たけびと共に軽快に始まるロックチューン。だけどそこにいるのは尾崎豊というよ
り、世良正則に近い感じがしてしまいます(笑)。決して揶揄してるんではなく、素直にそう感
じてしまうんだから仕方ないです。この頃の彼の精神状態って、とても荒んでいたのだなあっ
て感じてしまいます。逆に言えば彼はそれだけ自分の作品に正直なんだってことですよね。
     
6. 紙切れとバイブル  
 この盤の中で最も尾崎豊らしい曲だなって感じるのがこの曲なんです。詞がすごく素直に
伝わってくるんですよね。心の中を具体的に表現するってすごく難しいことだと思うんですけ
ど、なぜか『LIFE』『時』では、それを無理やり心から引っ張り出してきたっていう印象が強
いんです。それらに比べるとこの曲は・・・楽しそうに歌ってる彼の姿が浮かんでくるんです。
     
7. 遠い空  
 この盤で一番聴きやすいのはこの曲かもしれません。ですが何もひっかからないんです
よ。これは昔からのボクの固定観念なのかもしれません。すごく好きな曲なんです。最も明
るい方向にベクトルが向いてる曲だと思うし、聴いててすごく気持ちいい。でも・・・しつこい
ようですが尾崎豊の曲としては?と言われたら・・・(12inchシングル『太陽の破片』へ)。
     
8. 理由(わけ)  
 美しい伴奏を受けて始まるバラード曲。日々の暮らしの中で、お互いがお互いをごまかし
ながら生きている恋人たち・・・いや、当時の彼本人の気持ちなのかもしれないけれど。”僕
は君を守るのに 僕は君の理由を奪う”という一節で心が串刺しになりました。君を守ってい
たつもりが、実は君の自由を奪っていたのは僕だったと気づく主人公の心情が切ない。
     
9. 街路樹  
 この盤を尾崎豊の作品として聴くのは正直つらいところがあります。なぜかと言えば、彼
のキャリア中で最ももがきあがいてる姿が目に浮かんでくるからです。何をしてもスっとしな
い。いつも苦悩がつきまとう。そんな時期に作ったこのアルバムのラストがこの曲であるこ
とが救いだなって思います。生きてゆく中でどんなに行きづまろうとも、立ち尽くそうとも、道
の両側に立ち並ぶ街路樹たちが、生きる力と優しさを注いでくれているような屈指の名曲。

 

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