松任谷由実 「時のないホテル」

-このアルバムを聴け!Vol.8-


 数ある彼女のアルバムの中で一番好きなのがこのアルバムなのです。ボクがアルバムを「傑作」と選ぶ理由は
もちろん個人的に好き、というのもあるんですけどやはり一曲一曲の完成度が高いということ、セールスは二の次。
このアルバムはユーミンの数あるアルバムの中でもどちらかというと影に隠れているというか、有名な曲もないです
が、全編に渡ってボク好みのサウンドが広がってるのです。
 
松任谷由実
「時のないホテル」
(1980年6月21日発売・全9曲)
 
 サウンド的にはスローな曲が多いのが印象的なこのアルバムですが、早速全曲紹介にいっきまーす。
(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 
     
1. セシルの週末
 エレキギターの旋律が印象に残るミディアムテンポの曲。少女はさんざん
悪さをしてきたが、初めて叱ってくれた男性に会った時、彼女の中で何かが
変わった。仕事に忙しい父と派手好きな母の間にいる裕福な家の娘が非行
に走るというドラマに出てくる典型パターンに「出逢い」を織り交ぜた名曲。
   
2. 時のないホテル
 不思議な風景が目の前に広がる曲。このアルバムのタイトルチューンで
あるが、この曲にはなぜか危険な匂いがする。「イスラエルの文字」「バラに
しこんだアンテナ」「蜂の巣になり広場に死す」などなど。歌の一部にエフェ
クトがかかっている分、余計に不思議さが増す曲である。
   
3. Miss Lonely
 戦争へ行ってしまった愛する人を50年過ぎた今も待つ老婆の物語。今現在
にしてみれば、5年どころか5日ともたない恋があふれているのに、この老婆は
おそらく死ぬまで彼を待ち続けるだろう。その切なさがダークなメロディーに
よって迫ってくる。
   
4. 雨に消えたジョガー
 かなり好きなメロディー運びの曲。しかし詞の内容はシリアスである。「不治
の病」に冒された彼を見つめる彼女の視点から歌われた曲。周りの人達がなぜ
自分を気遣うのかわからない彼は・・・せ、切ない。そしてそんな彼を見つめ続け
た彼女は、曲のラストで逝ってしまった彼を思い出しているのだろうか・・・。
   
5. ためらい
 ある程度の年齢を重ねてから出会った二人が恋しあう曲なのだが、彼は彼女
にあからさまに愛を表現しないために、彼女はやきもきしている。そりゃそうだ、
男ってもんは年齢を重ねれば重ねるほど「好きだ」とか「愛してる」って言葉が
なぜか偽りっぽく見えてくる生き物なのだ。男は黙って「愛」を感じる生き物なの
である(←とボクはそう思っているのですが・・・)。
   
6. よそゆき顔で
 女性の七不思議(ボクが勝手に思ってるのですが)のひとつに、昔悪ぶってた
女の人ほど、けっこう性格が固めの男性と一緒になるってのがあるんですけど、
やっぱりお年を召されると軽めの男って敬遠されるのかな(そういうボクは石橋
を叩き割るほど生真面目で有名(笑))。1曲目「セシルの週末」にも通ずる曲。
   
7. 5cmの向う岸
 女の子の方が男の子よりも背が高いがために別れてしまったカップルの悲しい
曲。しかも明るい曲調で歌われているために、その悲しさが増してくる。この曲
は女の子の方の回想録ではあるが、男の方にしても「気にしない」って言われ
てもやっぱり気にしてしまうよなあ。とくに若い頃は、ね。
   
8. コンパートメント
 7分を越える、ユーミン史上もっとも長い曲ではなかろうか。しかも内容はかなり
ダークだ。おそらく自殺の歌だと思われるが、もうどうしようもなく救いようのない
歌だ。しかしこのメロディーは大好きだ。人の死ぬ時って想い出が走馬灯のよう
に駆け抜けるって言うけど、きっとこんな感じなんだろうな・・・。
   
9. 水の影
 人は皆誰でも想い出と別れなくてはならない時が来る。それは友人であったり
恋人であったり、家族であったり・・・。いつまでも想い出にすがっていては前に
進めない・・・彼女のそんな想いが優しいメロディーから感じ取れるような名曲。
「けれど傷つく心持ち続けたい」・・・本当にそう思う。人は大人になるに連れて
「人を傷つけている」ことを感じなくなってしまいがちになる生き物なのだから・・・。
   
 このアルバムはどちらかというと決して明るいアルバムではない。いい意味で荒井由実と松任谷由実がミックス
された印象を持つアルバムである(メロディーにおいても詞においてもね)。最近の楽曲ではあまり見られなくなった
彼女の内省的な楽曲がここにある。ユーミンが好きではない人にも1度は聴いてもらいたいアルバム。「へえ、こう
いう曲も歌っていたんだ・・・」そんな感想が持てるアルバムなのだから・・・。(01/05/04)
 

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