中島みゆき 「生きていてもいいですか」

-このアルバムを聴け!Vol.2-


 はっきりいって、「このアルバムを聴け!」と言っていいかわからない。
と言うより、もしあなたが音楽を「心を癒すオアシス」と感じてる人ならば
この先は決して読まない方がいいかもしれない(笑)。
そのくらい、このアルバムは「魂にくる」一枚なのだ。
 
 ボクにとってこのアルバムは中島みゆきの全アルバムの中で
一番印象に残っているアルバム
と同時に聴き終わるとグッタリとうなだれてしまうのだ。
このようなアルバムに出会ったことはない。しかしそれも彼女の魅力!
 
 ここではこのアルバム全体を通してその魅力、というか
ボクにとってどんなアルバムなのかを検証したいと思います。
 
 
中島みゆき「生きていてもいいですか」

(1980年4月5日発売・全8曲)

 
 まずこのジャケット。真っ暗である。そしてこのタイトル。
「生きていてもいいですか」なんてまず日常生活では使わない(当たり前だ!)
これ以前に「元気ですか」という曲(朗読してるだけだが、クレジットに作詞・作曲、そして編曲
とまであったのだから「楽曲」なのであろう(笑))はあったが、これとはまた違った響きである。
 
そしていきなり全曲解説!(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 
1.うらみ・ます  のっけから「うらみます うらみます」と恨み節を展開。騙した男が悪いのか、騙された
  女が悪いのか、それはともかくとしても「ふられたての女くらい おとしやすいものはない
  んだってね〜」はリアル過ぎる。ひとりで夜に聴くにはちょっと気が引けるが、悪い女に
  騙されたとしたら、きっと共感できる詞なんだろうなあ・・・。(この曲が彼女の一般から
  のイメージを固めてしまっている節があるが、ボクは断固否定する)
   
2.泣きたい夜に  1曲目の後、その傷を包み込むようなこの曲の大らかなメロディーにホッとする。きっと
  この曲は「うらみ・ます」のアンサーソングなのだ。男に騙され、身も心も傷ついた女性
  がたどり着ける船着場といったところであろうか。
   
3.キツネ狩りの歌  その後いきなり曲調が明るくなって、ヨーロッパの民謡みたいなこの曲。しかし歌詞を
  もう一度よく噛み締めてみると、なんとも「皮肉」を歌ってるように聴こえるのだ。「キツネ
  狩りは素敵さ ただ生きて戻れたら〜」・・・社会には仲間だと思っていても、実はそいつ
  は・・・なんてことを暗示しているように聴こえてしかたないのだ。
   
4.蕎麦屋  つぶやくように歌われるこの曲では本当にどうでもいいことを歌ってる。しかし、「自分
  はこの世の中に本当は必要ないんじゃないか」と思えるとき、そのどうでもいいことが
  けっこう重要なのだ。相手が自分の存在を肯定してくれることによって、人はどれだけ
  救われ、どれだけ生きていく糧を得ているか知れない(アルバムタイトルどうりだ)。
   
5.船を出すのなら九月  どうして「九月」なのだろうか。「八月」は夏が終わり、海を見飽きている、「十月」は皆
  冬支度で忙しくなる。つまり「愛」も同じで、誰かを愛して飽きてきた頃(言語道断だが)
  が「八月」で、他の愛を探し始めるのが「十月」なのだ。うまく言葉で説明できないが(た
  だのボキャブラリー不足(笑))、自分の見解を論じさせていただいた。
   
6.  決してタイトルを書き忘れているのではありません。この曲にはタイトルというものが
  ないのです。おまけに歌声もありません。インストゥルメンタルというやつです。こんな
  題名のない曲なんて前代未聞ではなかろうか(「題名のない音楽会」なら聞いたことあ
  るが(笑))
   
7.エレーン  このアルバムの主題曲といってもいい楽曲。とにかく重いテーマを歌っている。エレー
  ンという女の悲しい生き様を描くと共に、「生きていてもいいですかと誰も問いたい」けれ
  ども「その答を誰も知ってるから誰も問えない〜」という歌詞にガツーンとやられた。つ
  まり、もしかしたら自分以外の人間に「生きるな」と言われるかもしれないと思ったら、
  それを聞くのが怖くて誰もそれを問えない、なんてキツイテーマなんだ!でもこの曲調は
  好きなので、ボクのフェイバリット・ソングだったりする。
   
8.異国  このアルバムの最後を飾るのはこの「異国」という曲。普通どんなアルバムでもラスト
  の曲というのは安心感というか落ち着きのある、ホッとする曲を持ってくるのが通例だ
  が、このアルバムは違う。悲しい、悲しすぎる。ボクはしばらくの間この曲を聴くたびに
  泣きそうになりました。もしかしたらこの曲がこのアルバムの中で最も重いのかもしれ
  ない。「百年しても あたしは死ねない あたしを埋める場所などないから 百億粒の
  灰になってもあたし 帰り支度をしつづける」の怒涛の5回リフレインには言葉も出ない
  ほど絶句した・・・。
   
以上がアポロ的リスニングノートであります。書いていて思ったんだけど、
このアルバムは決して「暗い」のではなくて、「重い」のだ。
誰にでも描けるものではない。しかも誰も描こうとしなかったから
彼女が描いたのだとボクは思っている。

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