前作「愛していると云ってくれ」のほとんどの楽曲が「別れの歌」だったのに対し、このアルバムでは歌ってい |
る対象が「別れた男」から「世間」へと移り変わっている。あたかも前作での「別れ歌うたい」を否定するかのよ |
うに力強いナンバーがズラリとならんでいる。「1.裸足で走れ」では何かすごく「痛み」を感じる。それは「ガラス |
の荒地を裸足で突っ走」るという現実的な痛みよりも、精神的に来る痛みである。「2.タクシードライバー」では |
彼女の泣き顔を知ってか知らずか関係のない話を繰り返すタクシーのオヤジの温かさ、「3.泥海の中から」で |
は何か強いメッセージを感じる。一転ジャジーなイントロが印象的な「4.信じ難いもの」では寂しい夜の自問自 |
答を、「5.根雪(ねゆき)」では別れた男を見返してやる、という気持ちが見え隠れする。比較的あっけらかんと |
歌われた「6.片想」を聴くと「片想い専門」(笑)のボクにとっては耳の痛い言葉が出てくる。「うかれているのは |
おまえだけ〜」・・・そ、そうだったのかな(笑)。比較的このアルバムの中で一番悲しいのは「7.ダイヤル117」 |
であろう。彼女が電話をかけている相手というのは実は・・・(タイトル通り)。「張りつめすぎたギターの糸が |
夜更けにひとりでそっと切れる」・・・オ、オカルトだ!(笑)。若者の行き先を案じるように歌われる「9.小石のよ |
うに」を経て、クライマックスである「9.狼になりたい」へと辿り着く。その人物描写というものにボクは感服した。 |
「牛丼の吉野家」を舞台に繰り広げられる人間模様、それは他の人には描けない独特の雰囲気を持っている。 |
ラストを飾るタイトル曲「10.断崖 -親愛なる者へ-」は逆にテンポよく「人生とは走り続けるもの」と説いている。 |