34th アルバム

「ララバイSINGER」

2006年11月22日発売

   
 毎年新譜を出してくれるとはいえ、正直久々のオリジナルという気がしてしまった(笑)一枚。ですがやはり彼女の強力なアーティスト力
というか、シンガーソングライターとして他の追随を許さない迫力と繊細さを兼ね備えた名盤。イントロから優しさと悲しさがジワッとこみ上
げてくる「1.桜らららら」から、そのまま岩崎宏美さんへの提供曲「2.ただ・愛のためだけに」へ入るこの流れがすごく染みます。「ただ愛の
ためにだけ生きてると言おう」・・・伸びやかなボーカルが気分を落ち着かせてくれます。この2曲はひとつの流れの中で一編の物語にな
っている気がします。TOKIOに提供した「3.宙船」ではダイナミック&パワフルなみゆきサウンドが襲いかかってきます。自分の生きる道は
自分で切り開いてゆけ!・・・説得力を感じますね。華原朋美さんへの提供曲「4.あのさよならに〜」は詞の行間に隠された年輪を感じま
す。今までの経験が邪魔をして今ある愛まで消えるんじゃないかと危惧する女性の不安な心情を歌いあげています。「5.Clavis」は工藤静
香さんへの提供曲。生きてる途中に落としてしまった鍵をこれから君と見つけてゆきたい・・・そんな青年の心を歌ったスパニッシュな曲。
「6.水」は人間を水にたとえた作品。人は自分の心を飲むことはできない。誰もが自分の飲み水になってくれる人を探しさまよっている・・・
うなってしまうこの人生観。どことなく拓郎テイストな「7.あなたでなければ」は、”あなたのような人”ではなく”あなた”でなければイヤなんで
す!という一途な女性の決心を歌にしたブルージーで豪快な曲。「8.五月の陽ざし」は贈り物をテーマにした作品。愛していた人から遠い
昔にもらった贈り物。愛が終わった今、それを開けてしまったことに後悔する女性の切ない想いを優しく包み込んでいます。「9.とろ」は今
作の休憩所ともいうべき(笑)彼女のとぼけた歌声が聴ける曲。自分の思い通りにいかない苦悩を、この声が救ってる気がします。ホント
に歌声の幅が広いお方です。「10.お月さまほしい」は心に突き刺さる楽曲。個人的には昨今の「いじめ問題」に対して歌った曲だと思うん
です。つらいのに笑って帰っていった君に何もしてあげられなかった。だからかわりに君に何かを贈ってあげたい・・・実際はこういう思
いをしてる子が大多数なのかもしれない。アルバムのクライマックスとも言うべき大曲「11.重き荷を負いて」。いくら自分の背負うものを他
人に説明したところで、結局それは自分にしかわからない。どの道その重き荷を最後まで背負っていくのは自分しかいないんだっていう
幾度となく彼女が歌ってきたメッセージがそこに。そしてこれからも歌いつづけてほしいな。ラストを飾るタイトル曲「12.ララバイSINGER」
『アザミ嬢のララバイ』でデビューしてから30年経ち、彼女はここでもう一度”ララバイ(子守歌)”を歌う。幾多の変遷をくぐり抜けてきた彼
女だけど「私はあの時から変わらず子守歌を歌い続けているのよ」っていう想いを感じました。悩みも悲しみも苦しみもあるでしょう。だけ
ど今は眠りなさい。たとえすぐに明日が来ようとも・・・人間ってその繰り返しで生きている生きものなんだなって改めて気づかされました。
ジャケットの吹雪の中にたたずむ美しくも悲しげなギターを持つ彼女の肖像・・・酸いも甘いもすべてを受け入れる女神のように見えます。

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