Mr.Children「深海」

-このアルバムを聴け!Vol.16-


 1993年発表のシングル『Cross Road』、1994年の『innocent world』のミリオンヒットにより、その年に出た彼らの4thアル
バム『Atomic Heart』は300万枚を越す大ヒット作になりました。その後も『Tomorrow Never Knows』『everybody goes』
『【es】』『シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜』、そして本盤にも収録されることになる『名もなき詩』『花 -Memento Mori-』
と、シングルを出せば向かうところ敵なし!っといった感じでした。もちろんボクもその頃の彼らの曲が大好きだったし、ホン
ト、どうしてこうも人の心をつかむメロディーと歌詞が書けるんだろう?と、桜井和寿恐るべし!と当時感じていました(笑)。
 
 ところが彼らのシングル曲はすごくいいんだけど、アルバムとなると話は別なんですよ。確かにアルバムの中にも好きな
曲はあるんですけど、アルバム単位で見ると、アルバム通して全部いい!って作品はありませんでした。最近作である
『IT'S A WONDERFUL WORLD』『シフクノオト』『I LOVE YOU』の中にも、好きな曲はあるにはあるんですけど、やはりアル
バムを通して「これ!」ってものはないんですよね。これから紹介する彼らの5thアルバム『深海』を除いては・・・。
 
 音楽誌などでは、どちらかというとこの『深海』は、暗い・重い・失速の三拍子揃ったアルバム、と揶揄されがちですが(笑)
まあ桜井さんのスキャンダルとか、ヒットシングルを連発しすぎて壁にぶち当たったとか、いろいろ評価が分かれるところです
が、ボク自身はこの『深海』というアルバムが、彼らの全キャリアを通しても最もアルバムらしいアルバムだと思うんです。
 
Mr.Children『深海』
1996年6月24日発売・全14曲
 
 ボクはコンセプトアルバム(全編通してひとつの物語や意味を成すアルバム)っていうのがすごく好きなんですよ。この盤
も、そういう意味ではコンセプトアルバムのような気がします。あれだけ出したヒットシングルを盛り込まず、あえて『名もなき
詩』『花』の2曲だけを入れた、ってとこにもすごくかっこよさを感じたし。なのでこの『深海』の後に無理やりのように『名もなき
詩』以前のシングルを詰め込んだアルバム『BOLERO』が発表された時、思わず閉口してしまいましたよ。出さなきゃいいの
に。収録曲が足りなきゃ新曲だけのミニアルバムとして出せばいいのに・・・って。そこは大人の都合なんでしょうが(笑)。
 
 それではこの足におもりをつけられたかのような重たい、彼らの中でボクが最も大好きなアルバムをご紹介いたします。
 
(曲目に下線が引いてある曲はアポロライブラリーで紹介しています。)
 
 
1. Dive
 まるで海面から深い海の底へ潜水していくかのような効果音。ジャケットの「深
海にただひとつだけ置かれた椅子」の効果とあい舞ってこれから何が起こるのだ
ろう?っていう期待感と不安感をあおってくれるインスト曲・・・いや、曲というより
浮遊感を呼び覚まさせる効果音、と言ったほうがいいのかなあ?
 
2. シーラカンス
 そのDIVEから続けざまに始まるこの曲では、シーラカンスという絶滅した魚をモ
チーフに、「いったい僕らは何のために生きているんだろう?」という究極の問いに
向かっていこうとしている。選択肢ならいくらでもある。でも、その選択をして何処
へ行きたいのかが自分でもわからない。はい、ボクもわからないです(笑)。
 
3. 手紙
 前曲の激しい演奏からそのまま静かなピアノ演奏でイントロを迎えるこの曲は、
もう自分の目の前にはいない愛しい人への”手紙”を綴った一曲。ふたりの間に何
があったのかには一切触れられていないけど、春なのにこんな寂しくて悲しい想い
をしてる自分がここにいるとあなたは知ってるだろうか?って想いが伝わる楽曲。
 
4. ありふれたLove Story

〜男女問題はいつも面倒だ〜

 すごくプライベートなことを歌にしてるよなあっていう印象を受けるポップな曲。「愛
は永遠に続くのか?」っていうまたも答えを出すのが難しい問いに向かってってる
よな。このリアリズム満載なところもこの盤が好きな理由でもあるんだけど。二人の
恋が途切れても、信じるべきものがないにしても未来へ進んでいくしかないんだ。
 
5. Mirror
 どんなに強い意志を持ったあなたでも、世の中のすべてが嘘っぱちに見えてしま
う時が来るでしょう。そんな時あなたが誰で何のために生きているのか、その謎が
解けるように僕は歌い続けていくよっていうメッセージを放つメランコリックなラブソン
グ。確かに自分の生きてる意味って自分じゃなく他人が決めるってとこもあるよね。
 
6. Making Songs
 まるで第一幕終了・・・とでも言わんばかりのタイミングで始まる、リハーサル風景
が浮かび上がってくるようなスタジオの音が収録されています。仮歌であったり、絶
叫であったり・・・普通はこれを”一曲”としてとりあげることはしないんだろうけど、不
思議とこのアルバムの雰囲気にフィットしてるんですよね。そして最後には・・・。
 
7. 名もなき詩
 前曲のリハーサル風景からいきなり始まるこのイントロの繋ぎ方が絶妙!彼らの
シングルの中で最も売れたのが”名もなき詩”ってタイトルってのがいいよね(笑)。
確かにあるがままの心で生きていくのって難しい。自分ひとりで生きてるわけじゃ
ないし、かといって自分本位じゃ不可能だし・・・傷ついてもがくのが人間っていうの
がこの歌の答えかも。浮いたり沈んだり・・・そうやって人は生きていくものかもね。
 
8. So Let's Get Truth
 長渕剛か?(笑)・・・初めて聴いた瞬間からそういう思い続けています。わざとそ
ういう風に歌ってんだろ?って(笑)。けど放ってるメッセージっていうのは方法は違
えど両者ともそうは変わらないんじゃないかなって思います。ただこちらは若者側か
らこの社会に対する不安・不満を歌ってる。苦しむことが人間の生きる意味かもね。
 
9. 臨時ニュース
 チャンネルをガチャガチャ変える音が納められてる。ニュース番組、歌番組、ドラマ
・・・テレビを通してさまざまな情報が耳に入ってくる。でもこれってホントはいいこと
ばかりじゃない気がする。社会に何が起きてるのかを知るのは大切だとは思うけど
変な情報まで耳に入ってきちゃうのは・・・もちろん選ぶのは個人次第なんだけど。
 
10.マシンガンをぶっ放せ
 人は何が諸悪の根源かをわかってる方が生きやすいような気がする。たとえばは
っきりした敵がいりゃあ、おのずと生きる意味っていうのもわかってくる気がする。で
もそれが見えないからみんな悩んだり苦しんだりしてるんだよね。いや敵は見えな
いんじゃなくて、数が多すぎて自分の中で収拾しきれないだけなのかもしれない。
 
11.ゆりかごのある丘から
 インディーズ時代からあった曲だそうです。はっきり言って長い。メロディー単調。
だけど、この曲の発する悲しみがボクの中ですべてを許してしまうんですよ(笑)。
仕事と愛とを両立できるのか?・・・これも普遍的な人間の悩みのひとつ。恋人との
生活を守るため恋人を顧みず働く・・・でも恋人は寂しさを感じて僕の元から離れて
ゆく・・・いったい何のために働くんだろう?・・・ここにまた新たな悩みが勃発(笑)。
 
12.虜
 君は最低な女だ。それはわかってる。でもそんな君が好きなんだ。そんな最低な
君のことをすべて知っておきたいんだ・・・そんな男のつぶやきを歌にしたようなロッ
クバラード曲。愛っていうのはいろんな形があるもんなんですよね。決して教科書に
載ってるような愛だけが愛じゃない。そして愛には間違った答えもないんですよね。
 
13.花 -Memento Mori-
 副題の「Memento Mori」ってのは「死を思い起こさせるもの」って意味なんだそう
です。誰にだって生きてりゃ「死」はつきまとう。「どうせ死ぬんだ」とわかってはいて
も人は幸せを求める生きもの。「死」=「負け」とは思わないけど、負けるとわかって
る試合をどうやってひっくり返すのか?・・・それが「生きる」って意味なのかもね。
 
14.深海
 ラストになってふたたび登場シーラカンス君(笑)。シーラカンスは人間が登場する
ずっと以前から深海の中で進化も遂げずにただ黙って暮らしてきた。自分から「死」
するのは、逃げることだとボクは思う。シーラカンスは何を思い続けて生きてきたの
だろう・・・もし人間の技術が進歩して、タイムマシーンでも発明して、戻りたいあの
日に戻れるようにでもなれば、きっと人間の苦悩って大幅に減るんだろうな。ただそ
の時は人間は人間じゃなくなっちゃう。過去を顧みることによって成長するのが人間
のいいところだもんね。って、ボクは相変わらず未発達のままですけどね(笑)。
 
 
 
 やっぱりこの盤を聴きとおすたびにグテーっと疲れを感じます。MrChildrenの他のアルバムにはない感覚なんですよね。
多分それは、このアルバムが彼らの作品の中で最も「人間が生きる意味」を模索してるからなんじゃないかって思います。
だってそんなのいくら考えたって正答など出ない問いだもんね。だけど、だからこそ聴き応えのあるアルバムでもあるんです。
 
 おそらく全曲の作詞・作曲を担当するボーカルの桜井和寿さんの精神状態が当時そういう風だったのかもしれないですけ
ど、アーティストが苦悩したりしてる時の作品ほど魅力を感じてしまうっていうのも皮肉なもんですよね(笑)。
 
 シンガー・ソングライターは自分がどうやったら幸せになれるのかっていう方法論を自分の作ったメロディーにのせて歌う。
だけど、そのライターが生活に幸せを感じちゃった時、ボクはその作品をいいとは思えなくなってしまう・・・なんだかなあ。
 
 そう考えると、ボクの好きなアーティストには、もっともっと悩んで欲しいっていう、かなりわがままな希望が出てきてしまい
ます(笑)。なんか矛盾してるんだけど、でもそうなんだから仕方がない(笑)。それにしてもこのアルバムからもう10年かあ・・・。

(06.2.11)

 
 

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