木と人を見つめ 過去と未来をつなぐ

創立90周年記念 花尻忠夫社長インタビュー ―大正13年(1924)に創業して以来、日進月歩に進化する木材流通業界をリードし続けてきた大阪木材相互市場。
             90周年という大きな節目を迎えた同社の花尻社長に、これまでの歩みと未来への展望についてお話を伺いました。―

代表取締役社長 伊藤 正雄

平成13年(2001)、第14代取締役社長に就任。 (一社)大阪府木材連合会会長も務める。木材 業界の振興・発展に貢献した功績により、平成 25年には旭日双光章を受章。

大正、昭和、平成、激動の90年を振り返る

変わりゆく時代の中で決して変わらないものを見つめて

—90周年を迎えた今のお気持ちを教えてください。

大正13年(1924)に「新しい仲買の市場」として産声を上げた大阪木材相互市場は、この度、創業90周年を迎えることとなりました。ひとえに、多くの方々からのご愛顧とご支援の賜物です。心より感謝申し上げます。
この90年の間に、木材流通業界を取り巻く状況は大いに変化しました。インターネットの普及やグローバル化の影響によって、かつて1000を超えていた仲買商の数も、現在は540程度にまで減少し、建築工法の変化やプレカット材の普及などにより、木材の流通構造自体も過去とは大きく異なっています。
しかし、どれほど時代が変化しても、決して変わらないものがあります。それは、木がなければ人は豊かに生きていけないということ。山が荒れると、国が荒れ、人の心もすさむ。これを肝に銘じ、長い歴史を通じて継承してきた「日本の木の文化」を大切にし、未来へとつないでいかなければいけないと思っています。

カット
誤った先入観を払拭して豊かな森を取り戻したい

—木材業界が現在抱えている課題とは、どのようなものだと思われますか?

広く知られている通り、日本の国土の約68%は森林です。この風土においては、1万年以上も前から森と川と海がひとつに結ばれ、あらゆる生命に恵みを与えてきました。しかしながら、現在は手入れの行き届いた豊かな森が減少してきています。この現状を打破するためには、林業を活性化させることがもっとも効果的だと思います。
そこで目下の課題となるのが、「国産木材は高い」という消費者の誤った先入観を払拭すること。たとえば建築費2000万円の住宅の場合、木材にかかる費用はそのわずか1割の約200万円です。このことから分かるように、国産木材は決して高価ではありません。私たちを含めた木材に関わる業界は、この実情をより多くの人々に伝え、豊かな森を取り戻すために国産木材の一層の普及に取り組んでいくべきだと考えます。

—木材業界は今後、どのような動きを見せていくと思われますか?

木材業界には現在、半世紀ぶりに追い風が吹いていると言われています。国によって「コンクリート社会から木の社会へ」という新たな方針が打ち出され、国内林業の基礎を確立することにより木材自給率50%への引き上げが目指されているからです。この背景には、良質な木材が健康面・精神面によい効果をもたらすという調査結果があります。ある小学校では、木の教室で授業をしたところ、生徒たちの集中力がアップしたといいます。そう、木には「心に与える何か」があるのです。
こういったことがさまざまな業界や識者からの注目を集め、林野庁による「木材利用ポイント事業」※1がスタートしたほか、大阪府でも「一園一室木のぬくもり推進モデル事業」※2が推進されるなど、あらためて木材の魅力が見直されるようになってきています。流通業に限らず木材に関わる業界は、こうした時代の風を受け、新たな局面に立たされようとしています。そのステージで、いったいどのような新しい価値を提供できるのか。これこそが、私たち大阪木材相互市場にとって目下の最大の課題です。柔軟な発想で新規事業にも果敢に取り組んでいくべきだと考えています。

※1:地域材の適切な利用により、森林の適正な整備・保全、地球温暖化防止及び循環型社会の形成に貢献し、農山漁村地域の振興に資することを目的とした国の事業。
※2:保育所(認定こども園を含む)の床や壁など、内装の木質化を促進することにより、子どもの育成環境の向上を図るとともに、子どものうちから木材に接することで、その良さを体感し、森林の大切さや木材に対する理解を深める大阪府の事業。

写真で見る市場の歴史

たくさんの人でにぎわう10周年記念市の風景
(昭和11年5月6日)

そして100周年に向けて

新しいことへ果敢に挑み豊かな共存共栄を目指す

—木材流通業の他にもさまざまな事業を展開していますが、こうした多角経営に対する思いについて教えてください。

まずは、私の個人史からお話ししましょう。私のふるさとは、三重県と奈良県の県境にある熊野というところです。深い森に囲まれた山村で、清らかに澄んだ川や木々とともにのびのびと幼少期を過ごしました。14歳の時に「木とともに生きていく」と心に決めたのは、そんな環境をとても愛していたからです。そして、25歳の折に念願かなって大阪で木材業を開業することとなりました。しかし、現実はとても厳しいものでした。ちょうど東京五輪が開催された年だったのですが、五輪特需はその前年まででほぼ終了。景気は停滞し、不渡りを幾度も被ったものです。まさに辛酸をなめる数年が続きましたが、とあるきっかけで始めた不動産事業が軌道に乗り、その勢いを得て木材業のほうも活気づき経営は少しずつ順調になっていきました。この経験によって、「仕事は自分でつくるべき」ということを学びました。
大阪木材相互市場の社長に就任してからも、私のこの考え方は変わっていません。木材市場業だけで十分な売り上げがあったのは、もはや過去のこと。いつまでも旧態依然としているのではなく、どんどん新しいことを採り入れ、自ら積極的に動くことが重要です。賃貸・分譲物件を扱う不動産事業、北海道のメガソーラープロジェクトへの協力は、こうした考えから。私たちは、今後も柔軟な発想を活かして視野を広げ、社員はもちろん関わるすべての方々との共存共栄を目指していきます。

「人づくり」を通じてよりよい未来を創造したい

—企業として発展し続けるため、もっとも大切にすべきこととは何だとお考えですか?

かつて松下幸之助氏は「企業は人なり」と言ったといいますが、せん越ながら私もまったく同じ考えです。私どもの経営理念である「人づくり 会社づくり 幸せづくり」でも表現しているように、企業が成長して利益を拡大していくには、優秀な人材の育成が不可欠。高い目標に向かってまい進できる力があり、関わるすべての方々や仕事に感謝の念を抱くことができ、人とのつながりを何よりも大切にする。そんな人材を育て上げるために、世代や立場を超えて互いに「まごころで接することのできる人間関係」を築いていきたいと考えています。
また、社内に限らず、社外においても「まごころで接することのできる人間関係」を築いていきたいと考えています。「東北産材“復興市”」を開催したのも、東北の方々とのつながりを大切にしたいから。明治維新から戦後にかけて日本がここまで成長できたのは、東北の方々のお陰。そんな彼らが放射線の風評被害等で逆境に立たされている今こそ恩返しすべきだと、微力ながら取り組みました。木材流通業も不動産事業も、つまるところ、人と触れ合う仕事です。だからこそ、さらに成長していくための秘訣は、人を見つめる姿勢にあると信じています。

—100周年に向け、考えられていることはありますか?

現在、広島を拠点に多くのホームセンターを経営する企業と事業協力しています。100周年を迎える平成36年(2024)までには、ここで得たノウハウを活かし、大阪にホームセンターの実店舗を開業したいと考えています。ホームセンターもまた木材と深く関わる業種。利益拡大を期待できるだけでなく、一般消費者に木材の魅力を広く伝えていくという目的のためにも非常に有効です。この他にも、時代の動きに柔軟に対応しながら、木材流通業界のさらなる発展と環境共生の社会づくりを目指し、新たな道を切り開いていく所存です。私たち大阪木材相互市場に、今後とも変わらぬご愛顧ご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

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