ソロ 21thアルバム

「さよならにっぽん」

1995年10月25日発売

1. さよならにっぽん     5. 地平線     8. 銀杏散りやまず
2. 名刺     6. 六日のあやめ     9. 兵士の手紙ときよしこの夜
3. ステラ、僕までの地図     7. 鳥辺山心中     10.青の季節
4. 烈            
 
 阪神大震災、オウム真理教によるサリン事件など列島じゅうが脅威に巻き込まれた1995年。そしてこの年は戦後から数えてちょうど50年。そ
の年に発表されたこのアルバムの核は何といっても「9.兵士の手紙ときよしこの夜」だと強く思います。『きよしこの夜』をバックに特攻兵士として
死んでいった三人の若者の遺書を読み上げるという、ある意味彼の作品とはいえないものかもしれないけど、だからこそのリアルさが戦争の悲
惨さ、残酷さを物語る。あの時代敵艦に特攻していったのはスーパーマンでもヒーローでもない、ただごく普通の青年たちだった。聴くたびにこ
みあげるものを感じる傑作。タイトル曲「1.さよならにっぽん」はその戦後から50年経った現代を生きる者の悲しみを綴ったバラード曲。「美しい
のは花そのものではなく そう感じる心だ」・・・はたして今の大人たちはこのことをきちんと子供たちに教えられているだろうか?いや今の大人た
ちこそ知るべきじゃないか。もちろん自分も含めて。「2.名刺」は、文字通り名刺で人間を切り捨ててゆく世間を皮肉った楽曲。たった50平方cm、
1g足らずの名刺に振り回される男を描きながら、なぜか突然クリスマスソングになってしまうコミカルな曲(笑)。もうこの世にいない愛する人に
向けて歌われた「3.ステラ、僕までの地図」は、幻想のような雰囲気ただよう豊かなワルツ曲。「4.烈」は映画『藏』の音楽を担当した彼が、主人
公である盲目の女性「烈」をモチーフに殉愛を描いた楽曲。線は細くても芯の強い女性を想起させる作品。「5.地平線」は、たとえ今がどんなに
つらくてもその涙ひと粒ひと粒が愛を育てていくんだよ、というメッセージがこめられた曲。山で生まれた霧が雲になるように、君の悲しみもいつ
か雲になって君に笑顔がきっと訪れる・・・笑顔っていうのは悲しみや苦しみの反対語ととられがちですが、実は表裏一体なんじゃないかな。「6.
六日のあやめ」は子供の頃から何をやるにも人より遅れていた女の子を主人公にした曲。確かにそういう子はみんなにからかわれる格好の対
象になるけど、人よりおっとりしているって子はボクは魅力的だなって思うんです。次から次へと乗り換える女の子よりもよっぽど一途で、たとえ
望みが実らなくても思い続ける・・・そこに日本的な美しさを感じます。「7.鳥辺山心中」は心中とは言っても心と心の心中という意味。あなたにつ
かれた幾つかの嘘と一緒に私の心は心中する・・・恋が死にゆく瞬間の女性の心情をとらえた何とも悲しい歌です。「8.銀杏散りやまず」はこの
年に逝った彼の伯父さんをテーマにした楽曲。『戦友会』で父親を、『広島の空』で叔母さんを歌った彼と”戦争”というテーマは切っても切り離せ
ないものなんでしょうね。多くの友を戦時下で失いつつも天寿をまっとうした彼の伯父さんは何を思いながら逝ったのでしょう?この曲を聴くとき
”切ない”という印象が大き過ぎて考える機能が麻痺してしまいます。そして「9.兵士の手紙〜」という順番ですから、この構成はいい意味でかな
りつらいです。「10.青の季節」もきっと「9.兵士の手紙〜」と繋がってる。海に帰っていったあなたに語りかけるように私は話しかけている。もし私
が海に帰る時が来たら、その時はまたあなたを初めから愛したい・・・生きるっていったいどういうことだろう?この曲は生きている人間ではそう
簡単に解くことのできない命題を突きつけてきます。生きている間はとにかく辛抱するしかないのかなあ?優しい曲なんですけどね。”さよなら
にっぽん”・・・このタイトルの奥底には、好きだった日本よさらば!という意味ではなく、それでもこの国をまだ信じてるっていう意思を感じます。

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