Human Scramble

「人間交差点」

原作 矢島正雄/作画 弘兼憲史


『人間交差点』は
さまざまな人間の人生を問いただす素晴らしい短編集である。
人間の心の交流や、愛憎、葛藤がそこで展開し
マンガの域を越えているというか、どの作品を映画化しても
おそらく高い評価を受けることでしょう。



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第51話 銃声
 ルポライター・富島周一は大学を卒業した5年前、警察官であった父を亡くしていた。が、その死に方は電車のレ
ールの上に顔を乗せ轢かせるという凄惨なものだった。ふとしたきっかけで25年前の記憶がよみがえった周一は
その記憶の舞台である川崎の多摩川河川敷へ何度も足を運ぶ。そして警察官であるはずの父が女性を拳銃で撃
ったシーンをはっきりと思い出す。今は亡き父の生い立ちに興味を持った彼は、父の故郷・北海道へ飛ぶのだが。
 周一は幼い頃から多摩川の河原で銃声を聞くという夢を何度も見ていた。彼は父親の同僚であり親友でもあった
桜井の何かを隠しているようなそぶりを見逃さなかった。が、彼は父親が女性を殺したという事実よりも、その女性
の正体をただ知りたかっただけなのでしょう。父の故郷へ向かった彼はそこであまりにも悲しい現実を知り、その女
性が誰だったのかを突きとめる。時代さえ、場所さえ違っていたら3人はまた違う未来を迎えていたのかもしれない。

第52話 
 京浜医大付属病院の教授である片岡と松江は、癌患者から切り取った卵巣を体外受精の研究に使ったことでマス
コミからバッシングを浴び、病院から追われる身となった。それから半年経ったある日、謹慎していた片岡を訪ねた
松江は、病院にいた頃とは別人になってしまった彼に驚く。日々進歩する医学をさらに前に進めることが人類にとっ
て本当にいいことなのかどうなのか。イケイケだったはずの片岡の言葉に松江は大切なものは何かを見つめ直す。
 「仕事」とはいったい何なのだろうか。生きていくための手段?確かにそうだ。ところがその仕事に没頭していくうち
に「生きていくための手段」のはずの仕事のために身をささげている自分に気づく。本当に大切なのは日々の「生活」
なのであって、その生活を成り立たせるために「仕事」があるんだよね。欧米では完全に根付いているこの不文律は
日本では「不真面目」に思われてしまう。それが日本らしさと言ってしまえばそうなんだろうけど、でも、なんだかなあ。


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