ソロ 31thアルバム
「とこしへ」

2005年9月7日発売

1. さよならさくら     5. とこしへ     9. MOTTAINAI
2. 冬物語     6. 手紙     10.長崎の空
3. ぬけみち     7. 秋麗(あきうらら)     11.記憶
4. ちからをください     8. 女優      
 
 「日常の中の非日常、不安と平安」がテーマの今作のジャケット写真がまた趣深い。大都会の中の自然とたわむれる彼の姿が、毎
日不安と平安との間を揺れ動く日本人の表情をとらえてる気がします。廃止された「寝台特急さくら号」に思いを馳せ歌われた「1.さよ
ならさくら」は故郷から東京へ出てきた青年の、想いを遂げられなかった悲しみが爽やかに歌われてる。その爽やかさがさらに悲しい
な。「2.冬物語」はアコースティック・ギターを基調とした若き日の残酷な回顧録。若い時って今から思うと残酷なくらい人の心をわかろ
うとはしなかった。今それがわかっただけでもいいのだろうけど、その時失ったものは二度と取り戻せない。誰かを好きになったことを
「3.ぬけみち」にたとえて歌われたこの作品。いつも生活で使っている表通りとは別の、裏道とはまた違う第三の道・・・それが恋なの
かもね。「4.ちからをください」は、誰も傷つけずに社会を平和にする力が欲しいという願いがこめられた曲。それを鼻で笑う人もいるだ
ろうけど、武力でカタをつけようとすることほど簡単なことはなく、誰も傷つけずに誰かを守ることほど難しいことはない。それを当たり
前のように歌える彼の存在って大切だな。タイトル曲「5.とこしへ」は、永遠に変わらないものがテーマ。それは本来人間が大切にしな
ければならないものに結びつく。誰かの幸せを願う。そこがどうか”とこしへ”でありますように。「6.手紙」は「りんけんバンド」の照屋林
賢氏との共作曲。確かに今携帯メールが横行してしまって「手紙を書く」習慣が失われつつある。でも誰が打っても同じ文字しか出な
い”メール”より、その人の感情や素顔が垣間見える「その人だけの文字」が読める手紙の方がその人の感情を何倍も伝えられると今
思います。その人のために一生懸命漢字を調べたり、文体を考えたり・・・それもひっくるめての”手紙”なんですよね。「7.秋麗」は季節
の中で”生きる”という事へ対してのはかなさ、哀しさを歌った美しい曲。”人の夢と書けば儚いという文字になる””水に戻すと書けば涙
になる”・・・気づいていたようで気づいてなかったことに気づかせてもらった気がする。「8.女優」は人生の中で人は誰もが誰かを演じて
いる・・・という儚いテーマを持つ楽曲。嘘と本当のはざまで溺れ死ぬ・・・みんなそれを求めて生きてゆくのかも。フォーキーで温かい「9.
MOTTAINAI」は、モノに限らず人間のあり方に言及した曲。今は愛にあふれた時代。モノが豊かな時代に生まれたから受け入れすぎ
て受け止める心が枯れてるだけなんだよ、と歌う彼の視点の鋭さに脱帽。人の心が廃れたんじゃない。ただ受け入れる皿を用意でき
てないにすぎないんだ。そこが”もったいない”。「10.長崎の空」は”昭和20年のあの日”をテーマにした深遠な楽曲。いつかどこかで生
命が尽きようとも伝えたいと思う心は継がれてゆくもの・・・そう強く信じたい。「11.記憶」は死んだ人も生きてる人間の中で共に成長し
てゆくものなんだ、と歌った曲。たとえそれが本人の思い込みだけだとしても、ボクもそう信じたい。そしてそれが志半ばにして逝ってし
まった人に対するはなむけになるんじゃないだろうか?以上全11曲収録のこの盤こそ日本人にとっての”とこしへ”であってほしい。

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