〜シーズン・オブ・レーズン〜
「あの頃について」

1991年11月10日発売

1. あの頃について     5. ジャカランダの丘     9. 夢しだれ
2. 祇園会     6. あと1マイル     10.おそらくあなたには聴こえない小夜曲
3. Always     7. 糸電話      
4. 涙のストロガノフ或いはご来訪     8. ニッコウキスゲ      
 
 グレープ解散から15年。グレープは解散しているのだからその名はおかしい。ならば「レーズン」で。このセンスが彼ららしいですよね(笑)。
「1.あの頃について」振り返る。確かに若き日というのは、今だからいろんなことが美しく見える。でも生きているのは「今」なんですよね。京都
を題材にした恋物語「2.祇園会」はただひたすら哀しみと淋しさが広がる一編。最後に出てくる「後の祭」という節が「時は過ぎてしまった」と
いうどうしようもないさみしさを醸し出しています。「いつも」という確かさの中にある不確かさを思い知らされる「3.Always」は優しい曲調と歌
声に満ちている。人はいつも同じ状態ではいられない。でもそれでも「いつも僕は君を見ている」と歌うその矛盾に彼は言及している。さださ
んってホントに正直な人だよな。そして題名から曲調からグレープ時代の作品のパロディで固められている「4.涙のストロガノフ或いはご来訪
。彼の妹さんの彼氏が「初めて家に来た」エピソードはほとんど彼の作品を聴いていればわかってしまうという微笑ましい作品。ご家族、特
に妹さんは心の広い方ですね(笑)。このエピソードにまつわる曲はもれなく心が温かくなる曲ばかりです。「岬をめぐる船が」という冒頭のフレ
ーズとアレンジに思わず別のユニットの『岬めぐり』を思い起こしてしまう「5.ジャカランダの丘」は、夢を抱いて旅立っていった「君」に思いを馳
せた曲。忙しければ忙しいほど生きてゆくのは楽になる。でもその一方で忙しすぎて大切なことも見落とすこともある。難しいですね。この世
に何十億人いようと、私が大切に思うあなたの命はたったひとつしかないのです。戦禍の中に散っていった若き命を描いた「6.あと1マイル」
はこの盤の中でもっとも強い印象を与えます。『「誰があなたに射てと命じたのか そんな風に育てていない」母の声がいつも耳に残って僕は
いい兵士になれそうもない』その手紙が彼女の元に届いたのは彼が亡くなってから1週間あとだった。そこからあと1マイルもすれば味方の
陣地だったのに。順番を違えて旅立たれることほど生きていてつらいことはありません。ぜひこの曲がひとりでも多くの人に届くことを願いま
す。近づきすぎたら聴こえない。離れすぎたら切れてしまう。あなたとの恋はそんな「7.糸電話」のような不器用なものでした。昔の恋話は一種
古傷のようなものかもしれませんね。恋の話をするのにも不器用だった友人が逝ってから7年目を迎えた主人公の想いを綴った「8.ニッコウキ
スゲ」をはさみ、ふたたび京都の桜を題材にした「9.夢しだれ」が荘厳な雰囲気の中鳴り響きます。遠く離れた彼を人知れず思い続ける女性
の想いを月明かりの情景とからめて歌われた「10.おそらくあなたには聴こえない小夜曲」でこの盤は幕を閉じます。「レーズン」と謳われてい
ますが、やはり「さだまさし」の作品ですね。温かい曲はより温かく、悲しみを歌った曲でもその奥底の方には人の温かみが隠れているもの。

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