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演劇の代役専門俳優・七色いんこ。その演技力・変装力は東西随一を誇る名俳優。
ところが七色いんこは出演料の代わりにあるものを要求するという。それは・・・
「劇場招待客の身に着けているものの中で一番高価なものを奪うことに目をつぶれ!」ってこと。
そう、彼はその演技力・変装力を生かして金品・宝石を盗む大泥棒でもあるのです!
 
「週刊少年チャンピオン」の手塚治虫作品3大ヒーロー「ブラックジャック」「ミッドナイト」、そして「七色いんこ」。
彼の快盗に酔いしれながら、演劇の知識も身についちゃうなんて、手塚先生の作品ならではだと思います。
そんな”七色いんこ”の活躍の数々をここで僕なりに書いてみたいと思います。
 
*「これから読む」という方のために、極力ストーリーをぼかしていますが、わかってしまったらごめんなさい。*

 

第19話 ピーター・パン
 千里刑事は夕食時に父親の下田警部から、明日の遊園地での麻薬組織の取引を一網打尽にする
計画を聞かされる。組織からは影の大物が出てくるとの情報から、組織の厳戒の元、刑事を張り込ま
せたりはできないだろうと踏んだ下田警部は、組織が盲点とするであろう野外劇場での演劇に刑事た
ちを出演させようと計画。主役のピーター・パンは当然千里刑事が演じることに。これに千里刑事は猛
反対!だが父親のたっての頼みを断れない彼女は、七色いんこに嘲笑されながらも演技のレッスンを
受けることに・・・。ピーター・パンって童話や小説ではなく、元はレッキとしたお芝居だったんだ。演技を
レッスンする「劇団どろんこ」の渋神苦社櫛也(しぶがみくしゃくしや←何てネーミングだ(笑))の千里刑
事へのレッスンを超えたセクハラが笑える。子供たちにとって彼女は本物のピーター・パンになったね。
   
   
第20話 オンディーヌ
 七色いんこは台風が近づく中、自分の持ち島である「いんこ島」(笑)へ玉サブローとやってきた。そ
の島には彼の別荘のほかに、ちょっとした小さな劇場も構えていて、彼は気が向いたときに自分の思
いの丈をここで演技にぶつけていた。ところがいんこと玉サブロー以外、誰もいないはずのその島に
確実に人の気配を感じたいんこはその影を追うと、なんとそこにいたのは15歳の少女だった。彼女は
水の妖精で、いんこの演技を見ているうちに彼を好きになり、いんこと結婚するといきなり宣言するの
だった・・・。思わぬところで手塚治虫とさだまさしのコラボレーション(笑)。ちなみにさださんの島は「詩
島(うたじま)」と名づけられてる。それにしてもこのお話は最後まで奇妙なお話だ。当然水の精だと語
っていた彼女は普通の夢見る女の子だったと思いきや実は・・・。悲しい余韻を感じさせる好作品。
   
   
第21話 棒になった男
 信号待ちをしていた七色いんこは、ある男性に声をかけられる。「これ、あんたのカバンでしょ?」身
に覚えのないいんこは「俺のじゃない」と言いその場を離れるが、そのカバンはいんこの行く先々まで
彼を追ってくるように離れない。観念したいんこがいつもの喫茶店へ行くと、ある劇の代役を依頼した
いという男が待っていた。その劇は安部公房の芝居『棒になった男』、なんと依頼された役はその劇
に出てくるカバン役。ステージの上に置かれたテーブルの上にうずくまり、ただ奇声を発するという役
だった。「俺がそんなしょうもない役できるか!」と役者としてのプライドを傷つけられたいんこだったが
・・・。カバンの中に入っていたのは、布切れのような、七色いんこの”ホンネ”だった。代役専門の彼
はいつも自分の個性を殺してるため、こうやってでてきたのだとか。ちょっとよくわからん展開なお話。
   
   
第22話 タルチュフ
 青年・井上はある大会社の社長令嬢・多津の運転手を務めていた。多津に秘かな想いを寄せてい
た井上には、最近気になることがあった。それは芝居好きの多津に近づいてきた森小路という男の
存在だった。森小路は東大出身で貿易会社に勤務、ゆくゆくは香港に自分の会社を持つことが保証
されているといわれる男。井上はせめて芝居の知識だけでも森小路に勝ちたい!と、芝居の本がた
くさん置かれているという喫茶店に出向いた。が、その喫茶店とは、七色いんこが常連として通ってい
るあの喫茶店だったのだった・・・。う〜む、この手のオチは他のドラマやコミックでも出てきがちなも
のなんだけど、途中から物語が急展開になってるのが残念なところ。まあ限られたページ数の中で
一話完結させなきゃならないんだから大変だよな(笑)。でもいんこのちゃっかりさだけは秀逸(笑)。
   
   
第23話 靭猿(うつぼざる)
 尾上扇十郎の女形にハマっていた犬の玉サブローはテレビに映るそれそっくりに踊れるようになっ
た。あまりに興味津々のため、いんこはその舞台に連れて行く。最初は隠れて観ていたが次第に本
物の舞台に興奮したのか、その場でそっくりに踊り始める。おかげで観客からは大喝采。だが扇十郎
サイドは舞台を侮辱されたとしていんこに莫大な慰謝料を突き付ける。もしそれが嫌なら扇十郎の目
の前で玉サブローを殺せという条件を出してきた。後日やって来た尾上扇十郎の弁護士は、もう見る
からに犬(笑)。が、本人は「犬なわけがないでしょう」とか言いながら皿のミルクをなめるように飲む
(笑)。玉サブローを殺すことを条件に出してきた際に「同類としてそんな残酷な目にあわせるのに賛
成なのか!」とのいんこの問いに「わたしぁ犬じゃない。弁護士だ」と言い張る場面がおもしろすぎる。
   
   
第24話 森は生きている
 ある大企業が文化事業のために劇団をつくった。そこに招かれた演出家のある先生は多額の契約
金をもらい家を建て息子を大学にまで入れたのだった。ところがその大企業の社長の御曹司が何かに
つけてその先生の演出にケチをつけ「新感覚」の名のもとに芝居をシッチャカメッチャカにしてしまう。も
ちろん社長は息子に甘く「こっちが金を出しているんだから息子の言うことを聞け」とのたまう始末。お
かげで主役をはじめ、役者たちが片っ端から辞めていく。困った先生は所属する役者から代役専門の
七色いんこを紹介されるのだが。とにかくこのお話は絵からしてもうメチャクチャ。手塚治虫はこの時よ
っぽど欲求不満だったのだろうか?と勘ぐってしまうぐらい、この先生は社長の息子に蹴られ殴られな
のである。スプラッター映画のように始まった本話だが、ラストの爽快感がアンバランスでなんかいい。
   
   
第25話 セールスマンの死
 芝居の本番前にいんこの前にまたもや”ホンネ”たちが現れる。しかも今度は家族そろっての登場で
ある。さらにこのホンネたちは他人にはボロきれにしか見えず、本体はまったく見えず聞こえずなので
余計にタチが悪い。このホンネたちのおかげでまったく演技に身の入らないいんこは、ついに病院へ行
く。診断結果は「極端なノイローゼ」だった。その後昔の俳優仲間から「サラリーマンの死」という公演の
主役に穴が開き劇団が代役を探していることを聞いたいんこは、心機一転その役を引き受ける。そし
て医者からもらった精神安定剤を飲むと、今までずっとそばでうるさくしていたホンネたちが嘘のように
消えてしまった。ところが今度はその薬の副作用で全身かゆくてかゆくてしょうがない症状に見舞われ
る。それにしても話の進行がかなり荒っぽい。ヤケッパチで進んでゆくストーリーがどうしても不可解。
   
   
第26話 三文オペラ
 高校生・百済内三(くだらないぞう)は2頭身半しかない体格とは裏腹に、三千人の子分を指一本で動
かせるほどの大不良だった。そんな百済に呼び出された七色いんこは彼から学園祭の芝居の演技指
導を依頼される。「学芸会の手伝いなんかまっぴらだ」と断ろうとするいんこだったが、ガールフレンド
の知佳の喜ぶ顔が見たい百済は彼女の母親(なぜかひげが生えている(笑)。彼女に父親がいないの
で両方を演じているというアピールらしい)がたくさんの宝石をもってることをちらつかせ、渋々いんこに
承諾させる。こんな悪党をなぜ学校側が放ってあるのか。その秘密は校長と百済に起きた立ち直れぬ
ほどの悲劇的な過去にあった。なんだかどんちゃん騒ぎ的な導入部から、中盤にブラックジャックに出
てきそうなシリアスな転回。そしてラスト付近で次々に話が結実してゆくこの展開。さすが巨匠ですね。
   
   
第27話 犀(さい)
 最近の玉サブローはいんこに鎖につながれて散歩をしている。なぜならリードでは何をしでかすかわ
からないからだ。ところがその日も鎖につながれていたにもかかわらず機転を利かせ、いんこのスキ
を突いて犬のくせして自販機で日本酒を買い酔っぱらう始末。なのにそんな玉サブローに人々が寄っ
てくる。彼の流し目がすごくキュートでかわいいと巷で評判なのだ。そんな玉サブローに「犀」という芝
居のサイの役がまわってきた。ところが主催者側は大きな犬を想像していたらしく、小さな玉サブロー
に無理やりサイの格好をさせることで話は結実。そんな玉サブローの流し目はまるで熱病のように流
行り、子供も大人も都会も地方も、そして国会議員までもがつけまつげで流し目を始めた。「犀」という
芝居を現実に絡めて進行してゆくストーリーが見事。日本人の飽きっぽい本質がうまく描かれてるな。
   
   
第28話 R・U・R
 東方劇場での公演でソージアライヤダ国の王子から50カラットのダイヤの指輪をすりとったいんこは
逃走途中に人形劇の劇団の倉庫の中に置かれていたある人形の頭にそれを隠すと警察に出頭し千
里刑事の取り調べを受けることに。ところがそこへまたもやいんこの「ホンネ」が登場。彼と一戦を交え
るが、周囲からはボロキレをたたきつけているとしか見えず、精神病棟へ入れられてしまう。釈放され
たいんこは警察に泳がされていることに気づき、得意の変装で千里刑事たちをまき、一目散に指輪を
隠した人形劇団の小屋へ向かったが、そこであの人形が廃棄処分となり焼却炉へ持って行かれたこ
とを聞かされる。さらにあわてたいんこは焼却炉を管理するじいさんにマリオネット劇を披露することに
なるのだが。最初から最後までドタバタ劇。最後のオチを書きたいがために描いたのかな?この話。
   
   
第29話 俺たちは天使じゃない
 前科三十三犯のランプと前科十八犯、いや猫の皿の開きを七回盗んだのを合わせ前科二十五犯
の(笑)ドジえもんに片田舎の町に呼び出されたいんこは、町にある美術館に運び込まれた海外の有
名絵画を盗むために協力させられるハメに。実は美術館の裏手に一軒家がありそこから穴を掘って
潜り込むため、その一軒家の主人になりすますのがいんこの役割。ところがこの主人が最低な父親。
十三歳の娘を酒場で働かせ、そのあがりで借金を返していたとんでもないぐうたら野郎。三人はその
娘と暮らしていくうちにだんだん情がうつり、やがて打ち解けてゆく。しかしいつまでも人は騙せないも
の。からんできた借金取りたちと大立ち回りを演じたいんこはついに娘にその正体を明かしてしまうの
だが。最後の最後でとんでん返し。盗人が町の英雄に。しかしこのラスト、ブラックジャックか?(笑) 
   
 
第30話 サロメ
 フランスの有名な舞台女優・ジェルマン夫人はイギリスから祖国に帰る途中、旅客機の事故に遭っ
た。瀕死の彼女はいつも一緒だったペットのキツネ「ヨナカーン」が自分の財産のありかを知っている
と言い残しこの世を去る。ところがいつも彼女と一緒だったはずのキツネはどこを探しても見当たらず
巷では謎になっていた。そのキツネを見たという目撃談を手に入れたいんこは、フランスのノルマンデ
ィー海岸まで玉サブローを連れてやってきた。あやしいとにらんだ休憩所でキツネについて尋ねるがし
らを切られたためひと暴れするいんこ。ところが逆に捕まってしまい身もふたもない。そこで我らが犬
の玉サブロー大活躍。縄をほどいたいんこは神父に成りすましついにキツネを手に入れる。演劇『サ
ロメ』の内容通りに進むストーリー。いんこはすんでのところで「サロメ」にならずに済んでよかったね。

 

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