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演劇の代役専門俳優・七色いんこ。その演技力・変装力は東西随一を誇る名俳優。
ところが七色いんこは出演料の代わりにあるものを要求するという。それは・・・
「劇場招待客の身に着けているものの中で一番高価なものを奪うことに目をつぶれ!」ってこと。
そう、彼はその演技力・変装力を生かして金品・宝石を盗む大泥棒でもあるのです!
 
「週刊少年チャンピオン」の手塚治虫作品3大ヒーロー「ブラックジャック」「ミッドナイト」、そして「七色いんこ」。
彼の快盗に酔いしれながら、演劇の知識も身についちゃうなんて、手塚先生の作品ならではだと思います。
そんな”七色いんこ”の活躍の数々をここで僕なりに書いてみたいと思います。
 
*「これから読む」という方のために、極力ストーリーをぼかしていますが、わかってしまったらごめんなさい。*

 

第10話 ゴドーを待ちながら
 雨やどりした喫茶店の軒先で、七色いんこはある女性ロボット・オルガに出会う。彼女はかつて神戸で
行われたポートピア博覧会のパナック館で展示されていた展示用ロボットだった。それをこの喫茶店が
安く買い上げ、客寄せ用として宣伝文句を覚えさせしゃべらせていたが、古い記憶が消えず彼女のしゃ
べりにはパナック館での案内文句も混じってしまっていた。そして彼女は時おり”ゴドー”という人物を呼
び続けるのだった。七色いんこはこの”ゴドー”という人物が彼女を開発したエンジニアだったということ
をつきとめたのだが・・・。なぜかこのロボットのことに肩入れする七色いんこ。きっとただ壊れるまで使
い続けられて捨てられる運命の”彼女”に、役者として何かを感じたのだろうな。それだけに、このお話
は最後まで悲しい雨のにおいのするストーリーなのです。ラストのコマの彼女の姿が悲しいですね・・・。
   
   
第11話 幕間(まくあい)
 七色いんこは、暴力団・札付組の金を盗み追われていた。金の入っていたカバンをゴミ捨て場に捨て
たのが運の尽き!札付組はそのカバンのにおいを番犬にかがせ、いんこにすぐそこまで迫っていた!
・・・とその時、なぜか屋根から番犬の鼻めがけてトニックのビンが転がってきて、番犬の鼻は使い物に
ならなくなってしまった。いんこは間一髪で助かった。屋根からビンを転がして助けたのは玉サブローと
いう白い子犬だったのだが・・・。いよいよ登場した七色いんこの盟友・玉サブロー。「ホントにお前犬か
よ?」というほど人間くさいこの犬は、この『七色いんこ』という作品にとってまさに「幕間」となるほっとひ
と息つけるような存在なのです。『ブラックジャック』で言えばピノコにあたるかな?そんな玉サブローな
のですが、彼の生い立ちにも悲しい過去がありました。彼の動きはコミカルで思わず噴き出しちゃう。
   
   
第12話 化石の森
 前回玉サブローのおかげで札付組から逃げおおせたと油断していた七色いんこは、またいとも簡単
に彼らに捕まってしまった。彼らの言われるがままに車を走らせていたいんこは、札付組のリーダーで
ある汗地廉(あせちれん)の故郷の田舎町へ到着する。一方、その町の名士を目指す鈴木家では、息
子の一男・娘の和子が父親の厳しい教育の元、窮屈な毎日を送っていた。一男は父親の目を盗んで
趣味のマイコンを操り、ゆくゆくは工業大学へ進むことを夢見ていた。そのさなか、鈴木家にいんこを
連れた汗地が現れる。汗地は幼馴染だった鈴木に自分は警視庁の捜査官で、逮捕したいんこを護送
中だとのたまうのだが・・・。数回に一回、必ずといっていいほど荒い流れのお話があるんです。このお
話も全体的につじつまが合わないというか・・・なんか釈然としないんだよなあ。これもご愛嬌かな?
   
   
第13話 じゃじゃ馬ならし
 ある田舎の単線赤字路線の列車に乗っていた七色いんこ。ところがまたもやあのスーパーポリスガ
ール(←言っときますが、勝手にアポロがつけました(笑))・千里刑事も、いんこを追って同乗していた
のであった(実は父の薦めるお見合いがイヤで飛び出してきたのだけれど)。宿に着き、ふたりは馬を
借りてある牧場に辿り着く。その牧場にはかつて名馬といわれた元三冠王・ナシノツブテがいた。不慮
の横転事故により引退したナシノツブテはこの牧場にひきとられ、牧場の牝馬と結ばれナシノカチドキ
という立派でたくましい息子をもうけた。ところがある日ナシノツブテは狂ったように暴れ出し、ついには
牧場を飛び出し行方をくらましてしまったのだった・・・。動物の親子愛というのは、人間のように煩悩が
ない分非常に純粋な絆で結ばれてるな。最後の最後には七色いんこの素顔もちょこっとだけ登場。
   
   
第14話 彦市ばなし
 七色いんこと玉サブローはいつもの行きつけの喫茶店に入った。が、犬が喫茶店は入れるわけもな
い。玉サブローはなんとかして人間の変装をしてでも喫茶店に入ろうとするが、すったもんだの末、い
んこに追い出されてしまう(笑)。その時、店の外には惰政党推薦の候補者・矢目西郎(やめにしろう)
の選挙カーが止まり、矢目が演説を始めたのだった。ところが観衆はそんな矢目に向かって苦笑いを
始めた。なんと大げさな身振り手振りで演説する矢目のさまを、玉サブローが矢目そっくりに真似して
いたからだった。選挙のうさんくささをそのまま作品に持ち込んだお話。お金が絡んでるのだから、当
然七色いんこが黙ってるはずもない。彦市のように悪ヂエを働かせたいんこだったが、さて・・・。とに
かく話の流れがスピーディーでまるで無駄がない。ラストまでどんでん返しで読者を飽きさせないなあ。
   
   
第15話 シラノ・ド・ベルジュラック
 歌劇「シラノ・ド・ベルジュラック」の主役・シラノの代役を引き受け、連日演技する七色いんこ。ところ
が、演劇評に「こんなひどい芝居は見たことがない。金を払って観るお客は損をしている」と書き立てら
れてしまった。書いたのは演劇評論家・胡月真鷲(こづきまわし)という役者あがりの男だった。頭に来
たいんこは胡月に自分の名誉のためにあの記事の内容を取り消せ!と詰め寄るが、逆に代役専門だ
からこそ、演技は天才だが個性がない!と、返されてしまう。お返しとばかりに千秋楽に胡月にシラノ
を演じて欲しいと依頼したうえに財布をネコババしたいんこだったが・・・。あの七色いんこでさえも圧巻
してしまう胡月の演技。だが演劇に対するその真っ直ぐすぎる性格が災いし彼に悲劇が起きてしまう。
自分の正しいと思ったことをそのまま口にすることと皆との協調性・・・そのバランスって難しいですね。
   
   
第16話 青い鳥
 ある朝千里刑事の自宅前で日頃から仲良くしていた小学生の女の子がひき逃げ事故に襲われた。
両足マヒになってしまった女の子のためにも絶対にひき逃げ犯を捕まえると誓った彼女は、管轄外で
あるにもかかわらず、なぜか七色いんこを無理やり協力させ(笑)心当たりのある車をしらみつぶしに
調べまくった。七色いんこが馴染みの中古車のことなら何でもござれのおじいさんに聞いたところ、そ
の車はある車会社の試走車だということが判明。すったもんだのあげく割り出した青い車を発見した、
いんこと千里刑事は壮絶なカーチェイスを繰り広げ、ようやくその車の出所を突き止めるのだが・・・。
お話の中に七色いんこの正体に関するヒントがいくつも出てきます。そして実は大富豪の息子で、イン
コをまねて人まねや演技の勉強をしたということも。千里刑事はますます七色いんこにメロメロに・・・。
   
   
第17話 悪魔の弟子
 七色いんこを呼び出すための私書箱に入っていた手紙の主は、なんといんこが子供の頃から役者
として尊敬していた『悪魔の弟子』の異名を持つ名優・ドン・カルロからだった。いつになく緊張した面
持ちでドン・カルロと会ったいんこは、そこで来日中の三日間、演技からプライベートまで自分自身に
なりすましてほしい・・・という申し出を受ける。そして芝居の当日、いんこはこの話が何かおかしいこ
とに気づき、カルロの妻・マチルダを問いただすのだったが・・・。日本では退屈とか窮屈とか、そんな
生活観がはびこってるけど、暮らしに対してそういう風に感じれるっていうのは、やはりこの国には何
者にも束縛されない”自由”ってものがあるからなのかもしれない。もしこの国に自由がなく、生きるこ
とに対して誰もが真剣に考えることができたら・・・でもどっちにしてもつらい選択なんですけどね・・・。
   
   
第18話 南総里見八犬伝
 うだるような夏の暑さの中、玉サブローは七色いんこの運転する車から飛び出した!そして街中で
あるメス犬にメタメタに恋をしてしまうのであった。ところが、そのメス犬は玉サブローの目の前で野
犬収監所の職員に捕まえられ、トラックで連れ去られてしまったのだった。玉サブローはなんとかして
愛しのメス犬を助けようと、あの手この手でいんこに協力を求める。そのメス犬にはなんと3万ドルの
懸賞金がかかっていたことを知ったいんこはやっと重い腰を上げ玉サブローの恋人・・・いや恋犬救
出作戦を練るのだが・・・。全編にわたってコメディータッチ。犬が八匹集まって里見八犬伝のマネを
するところには抱腹絶倒(笑)。なんでこんなにおもしろい話書けるんだろう?手塚先生は(笑)。いや
〜、それにしても玉サブローって手塚キャラの中でも異色の魅力の持ち主だ。ホント人間顔負けだ。

 

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