ソロ 26thアルバム

「日本架空説」

2000年9月21日発売

1. 飛沫(しぶき)     5. 天空の村に月が降る     9. 月蝕
2. 風炎(フェーン)     6. The Day After Tomorrow 〜明後日まで〜     10.最期の夢
3. アパート物語     7. 舞姫      
4. 城のある町     8. 八ヶ岳に立つ野ウサギ      
 
 ”僕の愛する日本という国は本当に存在するのだろうか”・・・それがこのアルバム製作の出発点のようです。昔この国に確かにあった
ものが今どこにも見当たらない。たとえばそれは誠実であったり、慈しみであったり・・・そんな悲しみも、このアルバムからは響いてくる
気がします。「1.飛沫」は、雨の中道を渡ろうと飛沫を浴びながら車が止まってくれると信じて手をあげて立っている少年と、その横を車
でそれをまるで無視するかのように通り過ぎる大人たちを構図とした楽曲。誰もがゆとりのないこの国。やはりこの国はどこかへ大切な
何かを置いてきてしまったようだ。「2.風炎」はアコースティックを基調とした恋への想いを歌った曲。この国の四季はあとを濁さず移り変
わってゆく。そんな季節の移り変わりのように、僕は君のことを忘れてしまうのだろうか?・・・日本風景の美しさと人の心の機微を織り交
ぜた美しくも悲しい作品。「3.アパート物語」は初めてひとり暮らししたアパートでの出来事を歌にした作品。もちろん創作でしょうけど、恋
に破れたり、悩み迷いながら人は生きていくものなんだなあと改めて感じる温かい楽曲。柔らかくはかなげなアレンジが印象的な「4.城の
ある町」は香川県丸亀市を題材に描かれたハートウォームな作品。人は何かに立ち止まる時、ふるさとに助けてもらうことあるんだよな、
きっと。四国・・・いいところだよなあ。ダイナミックな演奏が印象的な「5.天空の村に月が降る」は、信州のある村をモチーフに描かれた異
世界を感じる楽曲。現実に日本にも「異世界じゃないか?」と思える場所はたくさんあります。まるで自分が現実の世界から一瞬でトリッ
プしたかのように心震わされる場所が。「6.The Day After Tomorrow」はビートルズの『イエスタディ』への彼なりのアンサーソング。どんな
につらいことが続いても、人は笑うために生きている。明日流れが変わるかもしれない。だから明後日まで生きてみようよっていう彼のメ
ッセージに心救われます。「7.舞姫」はひたすら一途に愛する人を待ち続ける女性を描いた楽曲。”待つことを不幸だと思うあなたの方が
不幸”って一節が何とも印象深いのです。あなたを待っている間はこの恋決して嘘じゃない・・・中島みゆきさんに姿が重なるワルツな曲
(笑)。「8.八ヶ岳に立つ野ウサギ」『風に立つライオン』の日本版と言っても過言じゃない曲。もちろんここに出てくるお医者さんは実在す
る方。都会では片隅に追いやられてしまうような人間として大切なことも田舎ではきちんと重んじられている。都会こそ、ある意味病に冒
された患者かもしれない。「9.月蝕」は人が恋する時間を祭りにたとえた楽曲。心重ねた一瞬を”愛”と呼ぶのか・・・この一節が重い。本
当に”生きている時間”とは、自分のまぎれもない本心を誰かに打ち明けられた瞬間のことをさすのかもしれませんね。「10.最期の夢」
文字通り人生最期の夢を歌った曲。確かに死ぬ前に見る夢によって、自分が生きてきた意味がわかるのかもしれない。煩雑な生活に追
われているとしても、実はその中に大切なものが見え隠れしていて、死ぬ間際になってそれを知ることになるのかも。最期の夢・・・いった
いボクは何を夢見るのだろう・・・。『日本架空説』・・・このタイトルにこめられたのは、この国が失ってしまったものをさしているのではなく
て、まだまだこの国には大切なものが息づいているんだと信じる、彼の願いや希望をさしているのかもしれない、と思ったのでした。

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