――わ〜い、サブヒロインだあ、今度こそデブを出……。
バキィッ!
――ぐおお……。
おい、今のは雨の音だなっ! 台風の影響できっと近所の木が倒れたのだ、そうだなっ!
――うっうっうっ……そうです。グスン。
よおし。
では、恒例の復習だ。冒頭を書くときの注意点を言ってみろ。
――絵を考えること。女の子との初めての会話には気を使うこと。
よかろう。
では、サブヒロインだ。今回の話でいうと、神楽咲美とエミリー・マークライツだな。
添削実例〜輝龍さんの場合
――わ〜い、サブヒロインだあ、今度こそデブを出……。
今回はすばらしいことに輝龍さんが原稿を送ってくれたぞ。拍手〜〜〜!
では、早速見ていこう!
■■■G040 教室(背景CG)
【咲美】「おはよー!」
■■■GS001 咲美制服(背景CGに重ね処理)
【咲美】「あれ、めっずらしーい。洋平がこんな時間にいるなんて。何か悪い物でも食べた?」
【洋平】「うるせ。目が早く覚めたんだよ。」
【咲美】「とかなんとか言って、ホントは美紀の朝練が目当てなんじゃないの?
朝練終わったらシャワーだもんね。」
【洋平】「あのなぁ、なんでいまさらアイツの裸を覗かなきゃならんのだ?
それにな、覗くのだったら朝練じゃなくて...あれ?」
【咲美】「?どうかした?」
【洋平】「なんで、咲美がここにいるんだ?朝練はどうした?バスケでもやってるだろ。」
【咲美】「えっ、朝練?(ビクッ)ち、ちょっとね...」
【洋平】「なんだよ、寝坊か?」
【咲美】「違うわよ!洋平じゃあるまいし。」
【洋平】「じゃ、なんで?(ちょっと考えて)...あの日かぁ。」
●●●SE001 殴る音1(バキッ!)
【咲美】「ち・が・う・わ・よ!」
【洋平】「痛ーーー。殴るこたぁないだろ!」
【咲美】「洋平が悪いんでしょ!」
【洋平】(イッテーな。ったく、軽いジョークじゃんかよ。
...ホントにあの日じゃないのかぁ?)<メッセージのフォントを小さく>
【咲美】「何か、言ったぁ?」
【エミリー】「ハーイ。相変わらず、オツキアイしてるわね。」
■■■GE001 エミリー制服(背景CGに重ね処理)<咲美と並べて表示>
【咲美】「あ、エミリー。おはよ。」
【エミリー】「モーニン、咲美。それにヨーヘイも」
【洋平】「あぁ、おはよう。」
【エミリー】「朝からオツキアイとは2人、仲イイネ。」
【咲美】「エミリー、この場合は”オツキアイ”じゃなくて、”ドツキアイ”なんだけど...」
【エミリー】「What?ドツキ?...ウ_ン、ニホンゴ、ムズカシね。
そだ、咲美。さきのオシイネ。」
【咲美】「さっきの?」
【エミリー】「Yeah、重心低くして、コウネ!」
●●●SE002 殴る音2(ドガッ!)
【洋平】「ぐはっ!」
【咲美】「あっ!」
【エミリー】「で、姿勢崩したトコ、素早くキメるね。」
●●●SE003 折る音1(ゴキッ)
【洋平】「うぎゃっ!痛い痛い痛い。」(思わず、床にひれ伏す洋平)
【エミリー】「オーライ?咲美。」
【咲美】「ちょ、ちょっと、エミリー。」
【洋平】「エミリー、ギブアップ!ギブアップ!ギブ...あっ!」
【エミリー】「?」
■■■GE100 エミリー スカートの中からパンティ(レースの赤)が見える(イベントCG)
【洋平】(こ、これは...痛いけど、良い眺め...)
【エミリー】「ヨーヘイ、ナニ見てる。...そいう悪い子にはゴホービね。」
●●●SE004 折る音2(メキッ)
【洋平】「うぎゃー!」
【咲美】「エミリー。それ、”ご褒美”じゃなくて、”お仕置き”。」
【エミリー】「Really?」
【洋平】(結局、HRが始まるまでエミリーは外してくれなかった...ガクッ)
◆ファイル番号のつけ方
どうだ。ざっと見て。
――ぼくちんのほうがうまいな。
バキッ!
――ひでぶっ。
また木が飛んでいったな。なかなか台風もやるなあ。なっ、なっ!
――は、はい……台風はよくやるです……グスン。
表記はどうだ。
――いいと思うけど。SEの番号の振り方なんか、特に。
そうだな。
ただ、1つ注意点があるぞ。
SEを作ったら、必ずSEリストに書き込むこと。でないと、どれだけSEを作ったのかわからなくなる。ファイル管理はシナリオライターの重要な仕事だ。
――GE100のEって、エミリーのEかな。
そうだろうな。
鏡の場合、アルファベットをつけるのではなく、番号でやってた。
たとえば。
A000〜 高野美紀の立ちーズ
A010〜 神楽咲美の立ちポーズ
A020〜 エミリーの立ちポーズ
G000〜 高野美紀とのイベントCG
G100〜 神楽咲美とのイベントCG
G200〜 エミリーとのイベントCG
H000〜 高野美紀とのエッチCG
H100〜 神楽咲美とのエッチCG
H200〜 エミリーとのエッチCG
ついでにフラグもいっしょにしていた。
F000〜 高野美紀関係のフラグ
F100〜 神楽咲美関係のフラグ
F200〜 エミリー関係のフラグ
こうしておくと、番号で誰かがわかる。
――なるほど。でも、どうしてアルファベットつけないの?
名前を表すアルファベットをつけておるとだな、次のゲームを作るときに、前のゲームのCGデータなんかがデバッグ用のダミーデータとして使えないのだよ。一々ファイル名を変えねばならん。200個も変えるのって、めんどいぞ。
――ぐ。ぼくちん、面倒くさいの嫌い。
◆使うとまずい記号
ひとつ、気になる文字があるな。
――なに?
””
――だめなの?
プログラムによっては、こいつの半角で誤動作する可能性がある。
――そうなの?
そうだ。?/¥も危ないな。
――うぐぐ。
実際にこういう文字については、プログラマーと打ち合わせをしたほうがいいな。プログラム関係でわからないときにはプログラマーに相談する。これが基本だ。
――あったりまえのことじゃん。
だろ? ところが、わからないくせにうやむやでごまかして自分で進めてしまうやつがいるのだ。口があるのなら聞け! おのれはシンジか!
――まあまあ、ここはぼくちんの波打つお腹に免じて許してやって。
うげっ。
◆性格にふさわしい言葉づかい
では、内容を見ていこう。まずは神楽咲美だ。
ざっとキャラクターのおさらいをしておこう。
2.神楽咲美(かぐら・さくみ)
森川学園3年。美紀の親友でバスケ部所属。バスケの腕は準レギュラーといったところ。
活発で言葉より先に手が出る子。恋愛にはうとい。当然恋人なし。
面には出さないが、なかなかレギュラーになれず苦悩している。
(心の奥では毎回試合に出場している美紀を羨ましく思っている。)
ヌイグルミに目がなく、よくUFOキャッチャーにお金をつぎ込む。
[性格]表は気が強いが、ついつい主人公とは冗談のやりとりをやってしまう。でも、根は真面目。
[容姿]163cm、52kg B:85(Cカップ)W:57 H:86。
[服装]冬の私服:ジージャンにジーパン
夏の私服:Tシャツにホットパンツ
■■■G040 教室
【咲美】「おはよー!」
■■■GS001 咲美制服(背景CGに重ね処理)
【咲美】「あれ、めっずらしーい。洋平がこんな時間にいるなんて。何か悪い物でも食べた?」
【洋平】「うるせ。目が早く覚めたんだよ。」
まず、日本語の規則。
。」とは書かない。「。」が」の前に来るときは、」とだけ書く。これ、日本語のルール。覚えておこう。
――じゃあ、「目が覚めたんだよ」にすればいいってこと?
そうだ。
次、今度は内容的なこと。
咲美って、気が強いんだよな。
――うん。
この1つの台詞で気が強いってわかるか?
――うぐ。見えない。
気が強いのなら、「おはよー」の代わりに「おーっす」でもいいし、いきなり殴るのでもよいし。もう少しキツメの出方にしたほうがいいな。
たとえば
【咲美】「お〜〜っす」
■■■GS001 咲美制服(背景CGに重ね処理)
【咲美】「あっ! なんで洋平がいるんだよ。悪い物でも食べたか? まだ始業までは時間あるぞ」
【洋平】「うるせ。目が早く覚めたんだよ」
◆「?」の使い方
【咲美】「とかなんとか言って、ホントは美紀の朝練が目当てなんじゃないの? 朝練終わったらシャワーだもんね。」
【洋平】「あのなぁ、なんでいまさらアイツの裸を覗かなきゃならんのだ? それにな、覗くのだったら朝練じゃなくて...あれ?」
【咲美】「?どうかした?」
ここも日本語の規則。
「?」の後には、全角でスペースを1字分空けること。詰めていいのは後ろに」が来たときだけ
――「? どうかした?」ってすればいいんだね。
そうだ。
あと、「...」。この表現は使わないように。市販されているゲームでも使っている人が多いが、日本語の書き方を知らない理系の人の文章に見える。
必ず「……」を使うこと。1マスに「…」と点が3つ。これを2マス分打つのが日本語のルールだ。
類似表現で「――」も同じ。どうしても、という場合だけ「――――――――」のように使ってよろしい。詳しくは『久美沙織の新人賞の獲り方おしえます』(徳間書店・1200円)を。
次、内容。
この台詞の言い回しだと、洋平と咲美って距離近いよな。
――呼び捨てだから?
そうだ。中学とか小学校のときいっしょだったか。そんなふうに見える。咲美・洋平・美紀の3人も距離が近いな。
――うん。
それから、美紀とのことを冷やかしているってことは、美紀と洋平はある程度噂される関係だってことだな。
――なるほど。
恋愛ごとで人をからかうってことは、咲美は恋愛を欲しているとも読める。彼氏のいない代償にやってるんだな。咲美と洋平の関係を少しうらやましく思っているのかもしれない。
――ううむ。
ここまでは確認だ。
次、咲美の台詞について。「朝練終わったらシャワーだもんね」。何か気がつくことはないか。
――説明的。
そうだ、説明的だ。こういう説明はやっちゃいかん。
語尾もおかしいな。気の強い台詞ではないぞ。
――「ね」じゃ、ちょっと弱いよね。なんかとってもいい友達みたい。
そうだ。それに「朝練」が目当てというのもおかしい。目当ては「美紀」か「美紀の裸」ではないか。
――あ……そうだ。
【咲美】「うそつけ。ホントは美紀が目当てなんだろ? 今頃シャワーだぜぃ」
なんてふうにしたほうがいいな。
◆話題転換は間でやる
【洋平】「あのなぁ、なんでいまさらアイツの裸を覗かなきゃならんのだ? それにな、覗くのだったら朝練じゃなくて...あれ?」
【咲美】「?どうかした?」
【洋平】「なんで、咲美がここにいるんだ?朝練はどうした?バスケでもやってるだろ。」
洋平の台詞がおかしいな。「それにな」というのがいかん。間が悪い。普通の人は、こんなしゃべり方せんぞ。
――「だいたい」とかだよね。
つながりもおかしいな。説明的だ。バスケに話を振っているのが見え見えだな。
――うぐぐ……自然な会話は難しい。
バスケを持ち出したいのなら上の台詞をいじらんと駄目だな。
【洋平】「馬鹿言え。まだ練習やってるよ」
【咲美】「美紀、真面目だからなあ……洋平と違って」
【洋平】「うるせ。おまえ、練習どうしたんだよ。バスケ部、朝練だろ」
――うわ、だいぶ変わった。
結構な、会話の切り替えって、突然来るのだよ。日常会話ってそうだぞ。「ところで」なんか聞いたこともない。
――言えてる。
日常会話では、間でやってるんだ。
たとえば
「いやあ、わりいわりい。なんかおふくろ起こしてくんなくって。起きたら11時だろ? めちゃ焦った」
「いいよ、別に。――おまえ、金持ってる?」
――おお。リアル。
話題転換は、「間」でやるのだ。「で」とか「ところで」とかは極力使わないように。
◆落差でキャラクターに親しみを
【咲美】「えっ、朝練?(ビクッ)ち、ちょっとね...」
ここはいい! この変わり方、おもしろい!
こういうのがあると、キャラが生き生きする。落差があるとキャラクターに親しみがもてるようになる。
【洋平】「なんだよ、寝坊か?」
【咲美】「違うわよ!洋平じゃあるまいし。」
ここ、まずいな。「わよ」ってのは、おばさんしか使わないのだ。いまどきの高校生は、「だよ」か「よ」なのだ。
【咲美】「違う! 洋平といっしょにするな!」
【洋平】「じゃ、なんで?(ちょっと考えて)...あの日かぁ。」
●●●SE001 殴る音1(バキッ!)
わははは!
ここ、いい! 絶対的にいい! おれ、暴力ビンタパンチ賛成〜〜〜!
――ぼくちん反対〜〜!
◆悩みの存在は、怒りか沈黙で表現しよう
【咲美】「ち・が・う・わ・よ!」
ここもいかんな。咲美が朝練に出ないってことには、レギュラーになれなくて悩んでることが絡んでるんだろ? なら、もっと激しく反応させるべきだ。
【咲美】「(怒って)違うって言ってるだろっ!」
悩みがあるとな。そこを突かれると、黙るか怒鳴るかのどちらかなのだ。さりげなく反応しているのはよほどのポーカーフェイスだ。
ここはまだ伏線の段階だから、彼女の悩みを直接出すわけにはいかない。「レギュラーになれないからいらいらしてんだあ!」などとやっちゃうと、もはや終結。エントロピー0。
急激な感情反応として出すのが一番賢い。それで少し匂わせるわけだ。
【洋平】「痛ーーー。殴るこたぁないだろ!」
ここ、日本語の表記。
「いてえ」なのか「つう」なのかわからない。あと、伸ばすときは「――」を使うこと。
◆百人いれば百人の怒り方がある
【咲美】「洋平が悪いんでしょ!」
ここもまずい。気の強いやつの台詞に見えない。
【咲美】「洋平が悪いんじゃないか!」
これぐらい強いほうがいい。短気なところも出る。
【洋平】(イッテーな。ったく、軽いジョークじゃんかよ。 ...ホントにあの日じゃないのかぁ?)<メッセージのフォントを小さく>
【咲美】「何か、言ったぁ?」
ここも、怒ってるんだから、もっと激しくしたいな。
【咲美】「まだ文句あんのか」
人によって、怒り方ってのは違うんだ。
一様に反応すればいいってわけじゃない。ついつい、この辺り自動的に書いてしまうんだがな。それはいかん。怒りのシーンは自動的に書いてはいかん。泣くシーンも同じ。怒ると沈黙する人もいるし、妙に冷徹になる人もいるし、暴れる人もいる。
咲美には咲美らしい怒り方を用意してやる必要がある。もちろん、美紀には美紀の、エミリーならエミリーの怒り方が必要だ。
――むむむ。難しい。
◆キャラクターによって会話の質と量をコントロールしよう
咲美については、シーンのこしらえ方はよろしい。問題ない。面白い。
でも、会話の端々が少しぬるくなってしまっている。キャラクターがはっきりしない。
――ううん。
キャラクターが違えば、会話の質も量も違うのだ。
――質って?
言い回しのことだ。気の強い子なら、気の強い言い回しってのがある。
――ふむふむ。量は?
よくしゃべる子もいれば、しゃべらない子もいる。人によって、しゃべる量ってのは違うんだ。それをコントロールしないと、み〜んな同じ量でしゃべってることになる。下手すりゃ、「無口」と設定した女の子までぺらぺらしゃべってることになりかねん。
――うぎゃあ。
その点、台詞の質のコントロールは、『ときめきメモリアル』はすばらしいな。なかなかよいテキストになってくれる。
添削例
【咲美】「お〜〜っす」
■■■GS001 咲美制服(背景CGに重ね処理)
【咲美】「あっ! なんで洋平がいるんだよ。悪い物でも食べたか? まだ始業までは時間あるぞ」
【洋平】「うるせ。目が早く覚めたんだよ」
【咲美】「うそつけ。ホントは美紀が目当てなんだろ? 今頃シャワーだぜぃ」
【洋平】「馬鹿言え。まだ練習やってるよ」
【咲美】「美紀、真面目だからなあ……洋平と違って」
【洋平】「うるせ。おまえ、練習どうしたんだよ。バスケ部、朝練だろ」
【咲美】「えっ、朝練? (ビクッ)ち、ちょっとね……」
【洋平】「なんだよ、寝坊か?」
【咲美】「違う! 洋平といっしょにするな!」
【洋平】「じゃ、なんで?(ちょっと考えて)...あの日かぁ。」
●●●SE001 殴る音1(バキッ!)
【咲美】「(怒って)違うって言ってるだろっ!」
【洋平】「痛ぅ――。殴るこたぁないだろ!」
【咲美】「洋平が悪いんじゃないか!」
【洋平】(イッテーな。ったく、軽いジョークじゃんかよ。 ...ホントにあの日じゃないのかぁ?)<メッセージのフォントを小さく>
【咲美】「まだ文句あんのか」
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