第8回 「父よ、母よ、どこから書き出せばよいのだ!」
 

 さあ、シナリオを書くぞ。
 さあ、書くぞ、書くぞ、書くぞ!
 始める前にキャラクターのおさらいをしておこう!

0.佐野洋平(さの・ようへい)
 主人公。帰宅部。美紀とは幼なじみ。何もせずぷらぷらしている。己の適性も未来もわからない宙づりの学生。
 勉強熱心で活動的。帰宅部の主人公をふがいなく思っている。
1.高野美紀(たかの・みき)
 
ヒロイン。主人公の幼なじみ。柔道部。勉強熱心で活動的。帰宅部の主人公をふがいなく思っている。
2.神楽咲美(かぐら・さくみ)
 
森川学園3年。美紀の親友でバスケ部所属。活発で言葉より先に手が出る子。恋愛にはうとい。
3.エミリー・マークライツ
 
親(軍人)の配属で日本(森川学園)にやってくる。不慣れな日本語を話す。父親から格闘術のイロハを教わっており、たまに主人公を実験台にする。(悪気なし)性については開放的(非処女)。
4.今井章(いまい・あきら)
 主人公の友人。普通の少年。主人公からの相談に対してはぽつりと警句的にもらす。音楽に萌えている。後に咲美に……。
5.皆本純(みなもと・じゅん)
 主人公の同級生。
 設定はすべて輝龍さんの通り(このキャラはいけてる! 設定がしっかりしているので大切にしたい。ヒロイン美紀のシナリオの鍵!)
6.草薙京介(くさなぎ・きょうすけ)
 主人公のライバル。自分がいちば〜んという性格。護衛の女性に手を出す女たらし。エミリーに手を出そうとするが、……。


 ファイルは開いたか?
 ――開いた?
 よし! 行け!
 ――おお!


1時間後

 ――できた!
 おう、見せてみろ。

【美紀】「洋平く〜〜〜ん!」
【洋平】「あ、美紀ちゃん」
【美紀】「おはよう」
【洋平】「おはよう」
【美紀】「今日早いのね。どうしたの」
【洋平】「いや、なんとなく目が覚めたから。美紀ちゃんは」
【美紀】「朝練」
【洋平】「柔道部だったっけ? レギュラーなんだよな、美紀ちゃんって。えらいよなあ。真面目だよなあ」
【美紀】「洋平くんが不真面目すぎるのよ」
【洋平】「ははは……」
【美紀】「宿題やってきた?」
【洋平】「なんの宿題」
【美紀】「もう忘れてる。洋平くんってたるんでるのよねえ」
【洋平】「美紀ちゃんも胸たるんでるんじゃない」
【美紀】「いや〜ん、ばか〜〜ん! えっち〜〜〜〜!」
【洋平】「あはははは。おっといけない、早く学校行かないと遅刻しちまう」


◆書き出しはヴィジュアルから考えよう
 おい。 
 ――なに? よく出来てるでしょ。ほめてほめて。
 ばかも〜〜〜ん!
 ――うわあ、なんだよお。
 おまえ、気づかんのか? CGの指示がないではないか! な〜んにもグラフィック出さんとプレイヤーにシナリオ見せる気か?
 ――うぐ。いや、その、あとでいいかなあって……。
 ばかたれ!
 シナリオを書くとは、ある意味シーンを創出することであ〜る!
 CGの指示をせずしてシナリオとは言えん! そんなやつはシナリオ書くのやめろ!
 ――ぐすん。しどい。
 しどいのはおまえだ〜〜! シナリオを放棄するな!
 ──うひぃっ!
 よいか。
 こいつは冒頭のシーンなのだぞ。大切な冒頭なんだぞ。どんな絵を最初に見せるんだ? どんな絵でゲームをスタートさせるんだ?
 映画でも最初のシーンは重要だろ。漫画でもそうだ。小説でもそうだ。おおよそ物語と名のつくもので、冒頭のシーンをないがしろにしてよいものはな〜い!
 ――わ、わかったよ。書くよ。
 よし。すぐやれ。

◆CG番号は必ず半角アルファベットと半角数字で!
 ――でも、CGの指示ってどうすればいいの?

■■■G000 洋平を殴る美紀

 としておけばよいだろう。こいつは例えばの例だ。他にも表記の方法はある。要はぱっと見、CG表示だってわかればいいのだ。
 ――■■■ってなに?
 逆に聞くが、おまえ、のべ200個を越えるCG、あとでどうやって探すわけ?
 ――逐次。
 ばかもの!
 文明の利器を使え! 「検索」機能を使用するのだ!
 ――ケンサクって、 森田健作?
 バッキ〜〜〜〜!
 ──ぐっはあぁ……
 くだらぬだじゃれを言うなあ! 竹刀でどつかれたいか〜〜〜!
 ――じょ、冗談ですっ。
 よかろう。
 ■■■としておくと、あとで「■■■G」となってる部分だけを検索すれば、CG表示を順次たどっていけて便利なのだ。別に「●」でもいいんだけどね。
 ――なるほど。
 あと、CG番号は必ず半角を使うこと!
 ――全角はだめなの?
 ならぬ! 絶対ならぬ!
 プログラムのときって、半角数字と半角アルファベットでCGとかPCMとかSEとか管理してんのよ。全角なんかでやっちまったらバグの元になる。


さらに1時間後

 ――できたよ。
 見せてみろ。

■■■G030 通学路(背景CG)
【美紀】「洋平く〜〜〜ん!」
■■■G000 美紀制服(背景CGに重ね処理)
【洋平】「あ、美紀ちゃん」
【美紀】「おはよう」
【洋平】「おはよう」
【美紀】「今日早いのね。どうしたの」
【洋平】「いや、なんとなく目が覚めたから。美紀ちゃんは」
【美紀】「朝練」
【洋平】「柔道部だったっけ? レギュラーなんだよな、美紀ちゃんって。えらいよなあ。真面目だよなあ」
【美紀】「洋平くんが不真面目すぎるのよ」
【洋平】「ははは……」
【美紀】「宿題やってきた?」
【洋平】「なんの宿題」
【美紀】「もう忘れてる。洋平くんってたるんでるのよねえ」
【洋平】「美紀ちゃんも胸たるんでるんじゃない」
【美紀】「いや〜ん、ばか〜〜ん! えっち〜〜〜〜!」
【洋平】「あはははは。おっといけない、早く学校行かないと遅刻しちまう」


◆最初の会話でキャラの印象が決まる!
 ――どう?
 まあ、絵としては可もなく不可もなしというところだな。書き方としてはよい。
 しかし。
 ――しかし?
 シナリオが陳腐だ。
 ――え? なんで? ぼくちんの処女作だよ。結構自信あるのになあ。
 このうつけ者!
 おまえ、設定がわかっておるのか!
 ――設定?
 美紀は、幼なじみだよな。
 ――うん。
 では、会話を見てやろうか。

【美紀】「洋平く〜〜〜ん!」
【洋平】「あ、美紀ちゃん」
【美紀】「おはよう」
【洋平】「おはよう」
【美紀】「今日早いのね。どうしたの」
【洋平】「いや、なんとなく目が覚めたから。美紀ちゃんは」


 ――問題ないじゃん。
 どあほ!
 美紀と洋平は幼なじみだぞ! 幼なじみが、なぜ「洋平く〜ん」「あ、美紀ちゃん」なんて気恥ずかしい会話を交わすんじゃ? 他人じゃねえんだぞ、他人じゃ。設定を忘れるな! 人間関係と人間的距離は会話に反映させろ!
 ――うっ。
 女の子が幼なじみの相手に向かって「くん」なぞつけるか! 呼び捨てだろ、呼び捨て。
 ――うぐ。
 「〜のね」なんてのも幼なじみ相手に言わんぞ。「〜だね」だろうが。観察不足だ。
 ――うぐぐ。
 洋平も洋平だ。幼なじみ相手に「ちゃん」なんかつけるか。「あ」なんて気恥ずかしいこと言うか。
 ――うぐぐぐぐぐ。
 主人公があるキャラクターと初めてしゃべるときってのは、すげえ大切なのだ。その会話で女の子のタイプと女の子への距離がわかるのだ。
 ――ううむ……。
 おまえの書いたやつでは、ただのクラスメイトだぞ。しかも、洋平は美紀に対して「女の子」って意識しておる。どこが幼なじみだ。
 ――わかったよう。でも、どうすればいいの?
 がはは、見せてやろう。


手直し例

【美紀】「洋平〜〜!」
【洋平】「おう、美紀か」
【美紀】「今日早いじゃん。どうしたの」
【洋平】「いや、なんとなく目が覚めたから。おまえは」


 ――わ。活発。
 呼び捨てにすることで人間的な距離の近さが出ておるだろう。言葉は関係の深さ・二人の距離を表すのだ。
 ――ううむ。奥が深い。

◆説明口調になるな!
 では、続きを見ていこう。

【美紀】「朝練」
【洋平】「柔道部だったっけ? レギュラーなんだよな、美紀ちゃんって。えらいよなあ。真面目だよなあ」
【美紀】「洋平くんが不真面目すぎるのよ」
【洋平】「ははは……」
【美紀】「宿題やってきた?」
【洋平】「なんの宿題」
【美紀】「もう忘れてる。洋平くんってたるんでるのよねえ」
【洋平】「美紀ちゃんも胸たるんでるんじゃない」
【美紀】「いや〜ん、ばか〜〜ん! えっち〜〜〜〜!」
【洋平】「あはははは。おっといけない、早く学校行かないと遅刻しちまう」


 おい。一言言っていいか。
 ――なに?
 幼なじみだろ? 洋平って、当然美紀が柔道部にいること知ってるよな。
 ――うん。
 なのに、「柔道部だったっけ?」なんて言うか?
 ――うぐ。
 うつけ者!
 彼女が柔道部にいることをプレイヤーに知らせるために、わざと台詞を言わせたことが見え見えではないか!
 ――ひい、お許しを。
 説明口調を入れるな! やるならわからんようにうまくやれ!
 ――ひいい。
 「不真面目すぎるのよ」もいかんな。なんで「のよ」なんて幼なじみ相手に言うんだ?
 「不真面目すぎるんだよ」だろ。「たるんでるのよねえ」もそうだ。「たるんでるんだよなあ」だろう。
 ――うぐぐぐ。
 あと。
 美紀って真面目だよな。
 ――うん。
 真面目なやつが性的ジョークに身をひねって反応するのか?
 ――うぐ。
 「いや〜ん、ばか〜〜ん! えっち〜〜〜〜!」って、そんなこと言う真面目なやつがいるか! 性格と台詞が矛盾しとるだろう
 ――サービスのつもりで……。
 そういうのは別のキャラクターでやれ!
 シーンのために勝手にキャラクターの性格をねじ曲げるな!
 ――ひいい……怖いよお。
 あと、もう一つ。
 ――ぎくり。
 朝早いね、なんて言っとるくせに、なんで「早く行かないと遅刻」するんだ?
 ――あ。
 矛盾しとるぞ。
 ――うぐぐ……。

◆冒頭が大切な理由
 よいか。
 冒頭というのは、まずプレイヤーに絵を見せるという意味で大切なのだ。
 たとえば、『ワーズワース』。
 98版・TOWNS版では「空」になっておった。あとでこの意味がわかるのだが、ストーリー性が高いものの場合、きわめつけ冒頭のCGは大切だ。
 冒頭のシーンではどういう絵でゲームをスタートするのかを考えること。
 普通っぽく日常的にいきたいのなら、日常の背景からでもかまわん。
 ――うん。
 次、冒頭が大切な理由2つめ。
 たいてい、冒頭のシーンではキャラクターとの会話が入る。その会話で、そのキャラクターとの距離・関係の深さがわかってしまうのだ。
 ――うん。
 真面目な先生が、しょっぱなから「は〜〜い、わたしのプリチーな生徒諸君〜〜! げ〜〜んき〜〜〜! あそこもっこり勃ってる〜〜〜!」なんて言ってみろ。
 どこが真面目なんだ、どこが。
 ――100%飛んでる。
 そうだろう。全然設定と違うキャラになってしまう。するとだな、せっかくデザインしてもらった絵と合わなくなってしまうのだ。
 ――さすがにそれはまずいか……。
 キャラの第一印象を決めるという点で、冒頭は大切なのだ。

 

 次回は「サブヒロインの出し方」


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