第10回 「サブヒロインの出し方 実践PART2〜エミリー・マークライツ〜」
 

 引き続き、輝龍さんの投稿作品を見ていこう。


添削実例〜つづき

【エミリー】「ハーイ。相変わらず、オツキアイしてるわね。」

■■■GE001 エミリー制服(背景CGに重ね処理)<咲美と並べて表示>

【咲美】「あ、エミリー。おはよ。」
【エミリー】「モーニン、咲美。それにヨーヘイも」
【洋平】「あぁ、おはよう。」
【エミリー】「朝からオツキアイとは2人、仲イイネ。」
【咲美】「エミリー、この場合は”オツキアイ”じゃなくて、”ドツキアイ”なんだけど...」
【エミリー】「What?ドツキ?...ウ_ン、ニホンゴ、ムズカシね。そだ、咲美。さきのオシイネ。」
【咲美】「さっきの?」
【エミリー】「Yeah、重心低くして、コウネ!」

●●●SE002 殴る音2(ドガッ!)

【洋平】「ぐはっ!」
【咲美】「あっ!」
【エミリー】「で、姿勢崩したトコ、素早くキメるね。」

●●●SE003 折る音1(ゴキッ)

【洋平】「うぎゃっ!痛い痛い痛い。」(思わず、床にひれ伏す洋平)
【エミリー】「オーライ?咲美。」
【咲美】「ちょ、ちょっと、エミリー。」
【洋平】「エミリー、ギブアップ!ギブアップ!ギブ...あっ!」
【エミリー】「?」

■■■GE100 エミリー スカートの中からパンティ(レースの赤)が見える(イベントCG)

【洋平】(こ、これは...痛いけど、良い眺め...)
【エミリー】「ヨーヘイ、ナニ見てる。...そいう悪い子にはゴホービね。」

●●●SE004 折る音2(メキッ)

【洋平】「うぎゃー!」
【咲美】「エミリー。それ、”ご褒美”じゃなくて、”お仕置き”。」
【エミリー】「Really?」
【洋平】(結局、HRが始まるまでエミリーは外してくれなかった...ガクッ)


◆エミリーの性格は?
 では、まずキャラクターの性格を確認。

2.エミリー・マークライツ
10歳の時に母親を亡くしており、現在父親と2人暮らし。
父親(軍人)の配属で日本(森川学園)にやってくる。不慣れな日本語を話す。
父親から格闘術のイロハを教わっており、たまに主人公を実験台にする。(悪気なし)
[性格]陽気なアメリカン。性については開放的(非処女)。
[容姿]170cm、54kg B:90(Fカップ)W:54 H:92。サングラスを髪にかけている。
[服装]冬の私服:上はジャガー柄のベロアのカットソー。下はマイクロミニスカート。ロングブーツと網タイツ。
    夏の私服:上はビキニまたはビスチェ。下はミニのタイトスカート。

 
 全体的には、咲美よりよく出来てる感じだな。オープンなアメリカン姉ちゃんってことで、ステレオタイプなんだが、ステレオタイプと思い切り割りきったがゆえに、気持ちのいいものになっている。かなりいい出来と言ってよい。
 ――おお、珍しくお褒めの言葉。
 当たり前だ。よいから褒めておるのだ。
 ただ、シーンとしての甘さというか、ぬるさがまだある。もっとシャープにできるぞ。
 一つ一つ、内容を見ていこう。

【エミリー】「ハーイ。相変わらず、オツキアイしてるわね。」
■■■GE001 エミリー制服(背景CGに重ね処理)<咲美と並べて表示>
【咲美】「あ、エミリー。おはよ。」
【エミリー】「モーニン、咲美。それにヨーヘイも」
【洋平】「あぁ、おはよう。」


 ここ、おかしいぞ。
 喧嘩やらかしてる最中に人が来ていきなり「おはよ」としらふに戻るか?
 ――戻らない。
 余韻、残ってるよな。朝だから挨拶するという、自動的なパターンにはまってしまっている。自動的に書いてしまうと、せっかくのキャラクターが死んでしまうのだ。
 ――ボクチンも殴られすぎると死んでしまう。
 なんか言ったか。
 ――なにも。
 そうか。
 挨拶のシーンはたらたらしないほうがいいな。オツキアイも出すのなら、あとでパンチ利かせて出したほうがいい。

◆会話の質と量をコントロールしよう

【エミリー】「グッモーニン♪」

■■■GE001 エミリー制服(背景CGに重ね処理)<咲美と並べて表示>
【洋平】「げ」
【咲美】「あ、エミリー」


 こうした方が中身がすっきりする。
 始めの頃って、会話はついつい饒舌、無駄になりがちなのだ。
 できるだけ会話は無駄を少なくすること。前回も話をしたが、会話を書くときに2つ気をつけなければならないことがある。
 1つ、質をコントロールすること。
 2つ、量をコントロールすること。
 人が違えば、しゃべる量も違う。話し方も違う。それをしっかり描き分けること。全然しゃべらない子もいるからな。
 ――うんうん。ボクチンなんか、寡黙だもんなあ。
 ばきっ!
 ははは、何か聞こえたかな!
 ――な、なにも言ってません……グスン。
 今回の場合、一番寡黙なのはだれだ。
 ――咲美かな。
 一番饒舌なのは。
 ――エミリー。
 よし。そのことを忘れずに行こう。

【エミリー】「朝からオツキアイとは2人、仲イイネ。」
【咲美】「エミリー、この場合は”オツキアイ”じゃなくて、”ドツキアイ”なんだけど...」


 少しぴんと来ないな。このギャグをいかしたいのなら、エミリーの台詞をもう少し長くしたほうがいいな。

【エミリー】「ナイスパンチ、咲美。ヨーヘイ、スウェーバックしなきゃダメね。オツキアイするなら、もっと広い場所でやらなきゃアブナイね」
【咲美】「エミリー、それ言うんなら”ドツキアイ”なんだけど……」


 ――スウェーバックって?
 上体をそらすだけで相手のパンチを避けることだ。ステップで避ける場合は、ステップバックという。

◆話題転換は接続詞でするな!

【エミリー】「What?ドツキ?...ウ_ン、ニホンゴ、ムズカシね。そだ、咲美。さきのオシイネ。」

 いかんな、ここ。
 ――なんか、話に無理やり戻してるのが見えてるもんね。
 「そうだ」なんて言葉は、普通はなかなか使わないのだ。使うときというのは、バイバイしかけたときにいきなり思い出したときだったりする。
 たとえば。

「ほな、帰るわ」
「おう」
「あ、そや」
「なに」
「文彦、この間のこと、なんか言うとった?」

 
 ――うんうん。
 「そうだ」なんて言葉は、唐突に使うともう話題転換をしたがってるのが見え見えなのだ。100%わざとらしい。こういう言葉は使ってはならん。会話を書く力が落ちる。

【エミリー】「What? ドツキ? Oh,I remember! ドツキアウほど仲がいいっていうね」
【咲美】「(少し呆れて)それは喧嘩するほど」
【エミリー】「喧嘩? 細かいこと気にシナイ。咲美、ファイティングポーズ! エミリーがもっといいパンチの打ち方、教えるね」
【咲美】「いいよ、もう」
【エミリー】「No,No。あきらめたらダメね。Look。拳、ちゃんと握るね。相手、よく見る。And、重心低くして、コウネ!」


 話題を戻すときや、転換するときは、間を使う。あるいはいきなりやる。そのほうが普通の会話っぽくなる。
 ――接続詞使ったらだめなの? 「ところで」とか「それに」とか。
 ところで、なんてめったに使わないぞ。「それに」だってそうだ。

◆ゲームは映画にあらず、止めCGで出来ることを意識しよう

●●●SE002 殴る音2(ドガッ!)
【洋平】「ぐはっ!」
【咲美】「あっ!」
【エミリー】「で、姿勢崩したトコ、素早くキメるね。」
●●●SE003 折る音1(ゴキッ)
【洋平】「うぎゃっ!痛い痛い痛い。」(思わず、床にひれ伏す洋平)
【エミリー】「オーライ?咲美。」


 ぐはははは! ここいい! 絶対いい!
 ――ぼくちん、嫌い。だれかに似てるんだもん。
 ばきっ!
 わははは、面白いな! な! な! な!
 ばきっ! どがっ! ばきっ!
 ――ぐ、ぐはあ……はい……おもしろいですぅ……うげえ……。
 だが、ひとつだけ無理な部分があるぞ。「床にひれ伏す」。このシーン、実際はどうするつもりだ。
 ――ぐっ。
 映画ではないからな。アニメーションはできん。
 ――ううん。
 止めCGで出来ることとできないことに気をつけるように。
 あと。
 最後はオーライではなくてオーケイだと思うぞ。
 
【咲美】「ちょ、ちょっと、エミリー。」

 この台詞、美紀っぽくないか。
 ――言われてみれば。
 おれならこうするな。

【咲美】「それって、ボクシングじゃないような……」

◆派手な行動でキャラを立てよう

【洋平】「エミリー、ギブアップ!ギブアップ!ギブ...あっ!」
【エミリー】「?」


 少し早くないか、シーンの移り変わりが。
 ――そうかな。
 止めCGなんだから、洋平がなにをしているのか見せてやったほうがいいな。映画を作っているのとは違うぞ。もう少しシーンを盛りあげよう。

【洋平】「エミリー、ギブアップ! ギブアップ! ギブ……骨が折れる……ンッ、ンッンッ!」
【エミリー】「ワ〜オ、ヨーヘイ、凄いパワー。Meから逃げるつもり? エミリー、負けないヨ。――んっ、んっ(と踏ん張る)……Oh!」
【洋平】「どわっ!」
●●●SE005 倒れる音(ドサッ)


 ――効果音つけたんだ。
 そのほうがよいであろう。面白みが増す。
 派手なキャラクターは派手に動かしてやったほうがキャラが立つ。全員なまぬるいとキャラクターが埋没して印象に残らなくなってしまう。それでは最悪だ。
 ゲームはキャラクターが命。しっかりキャラクターを立てよう。

■■■GE100 エミリー スカートの中からパンティ(レースの赤)が見える(イベントCG)
【洋平】(こ、これは...痛いけど、良い眺め...)
【エミリー】「ヨーヘイ、ナニ見てる。...そいう悪い子にはゴホービね。」
●●●SE004 折る音2(メキッ)
【洋平】「うぎゃー!」


 ――いやな予感。
 わはははは、ここ面白い! どうだ、面白いであろう!
 ばきっ! どがっ!
 ――うぎゃっ、ぐへっ……やっぱり予感が当たったあ……。

【咲美】「エミリー。それ、”ご褒美”じゃなくて、”お仕置き”。」

 なんか、咲美落ち着いておるな。
 ――そうだね。
 慌てさせてもよいのではないか?

【咲美】「エミリー、ストップ! それじゃあ、お仕置きだって!」

◆個性とは、ある事件への反応の違い

 全体的に見て、シーンにはめりはりをつけたほうがよいな。少し淡々としておる。
 ――そうだね。なんか、おもしろいんだけど、もう少しインパクトないね。っていうか、インパクト減ってるね。
 うむ。淡々としたシーンならばよいが、エミリーは、ここでは風雲児、トラブルメーカーみたいなものだ。ならば、徹底的にめちゃめちゃにしたほうがよい。そのほうがキャラクターも立つ。ついでに、エミリーの行動に対してだれがどう反応するかでキャラクターの個性を描けるというものだ。
 個性というものは、ある事件に対する反応のことを言うのだ。
 たとえば、エミリーが洋平の首を締めたとする。
 そのとき、美紀ならどうするか? 咲美ならどうするか?
 この、反応の違いが、個性なのだ。それがキャラクターの違いなのだ。
 ――なるほど。

【エミリー】「Really?」

 この台詞、もったいないな。
 大暴れしておるわけだろ? レスリング技かけて。
 ――うん。
 それで、この冷静さ。「ほんと?」って、もったいない。ここはコミカルなシーンなんだから、もっとコミカルに行こうぜ。
 ――シーンが中途半端なんだよね。ところどころ。
 そうだ。そのせいでぬるくなっている。徹底的にいこうぜ。
 シーンははっきり色付けしたほうがいい。悲しいなら悲しい、コミカルならコミカルに徹したほうがいい

【エミリー】「オシオキ? Oh、オシオキ知ってるネ。ヒッサツ、オシオキニン! 町の人に代わって、エミリーがオシオキするネ。――(声、仕事人入ってます)恨み、ハラさせてもらいま〜す。覚悟!」
●●●SE004 折る音2(メキッ)
【洋平】「ぎゃああああああああああああああ!」


◆同じシーンを別のキャラで演じさせてみよう

 では、次に行こう。ラストだな。

【洋平】(結局、HRが始まるまでエミリーは外してくれなかった...ガクッ)

 ――なんか変な収束の仕方だね。
 うむ。ここ、フェードアウトかけて、場面転換したほうがいいな。

 黒へフェードアウト(2秒程度)
●●●G040 フェードイン(2秒程度)
【洋平】おお、いて。まだ骨がおかしいぞお。ぐはあ……エミリーのやつ、人を実験台にしやがって。
【洋平】くそお……いてて。ほんとに骨折れたんじゃないだろうな。
■■■GS001 咲美制服(背景CGに重ね処理)
【咲美】「生きてるか」
【洋平】「死んでるわけないだろ……いてて……絶対骨折れたぞ」
【咲美】「洋平の骨がそう簡単に折れるか」
【洋平】「おれはか弱い少年なのだ」
【咲美】「どこがだよ。だいたいな、骨折れてたらもっと痛いんだよ」


 ――なるほど。
 もし、咲美の代わりに美紀が来たらどうする?
 ――うぐ。
 恐らく、こうなるな。

【美紀】「またエミリーに技かけられたんだって?」
【洋平】「ああ、ひどい目に遭ったよ。エミリーのやつ、手加減ってものを知らないんだから。いてて……」
【美紀】「だいじょうぶ?」
【洋平】「さあ。骨折れたかも」
【美紀】「お医者さん行ったほうがいいよ。保健室、ついていこうか」
【洋平】「いらねえよ」
【美紀】「そう? 気をつけてよ」
【洋平】「突然やってくる災難に注意なんかできるか」
【美紀】「そりゃそうだけど。――洋平も柔道やればいいのに」
【洋平】「あんな汗くさいスポーツできるか」
【美紀】「でも、面白いよ」
【洋平】「おれは面白くない。おれ、汗かいてねじりハチマキ締めてっていうのいやなの」


 ――なるほど。
 同じシーンでも、キャラクターが違えば声のかけかたも、心配の仕方も違うのだ。
 1つのシーンを別キャラで演じさせてみると、キャラクターを描き分ける訓練になるぞ。

 

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