では、始める前におさらいをしておくか。CG枚数は?
――140枚。
開発期間は?
――4カ月。
キャラクターの人数は?
――6人……だったけど、今女3人男2人になってる。
では、我が輩が一人こしらえてやろう。
――でぶ? でぶ? でぶ?
馬鹿者! キザ野郎だ。
――どうして?
キザ野郎というのはきわめて典型的なライバルなのだ。シナリオを書いていると、必ずこういうやつにぶつかる。
――だから?
そういう場合にはどうすればよいのか、説明したいのだよ。
――なるほど。
◆シナリオを書くとは、ファイル管理と番号管理も行うこと
さあ、シナリオを書くぞ。
――わ〜い。ええと、シナリオ本編のテキストファイルを作ってと、さあ、やるぞ!
待ったあ!
――なに? でぶ出していいの?
たわけ!
シナリオファイルだけ開くやつがあるか!
――え? 他にもあるの?
当たり前だ。
よいか。シナリオを書くというのは、同時にファイル管理・番号管理もするということなのだ。
――ファイル管理? 番号管理?
たとえばだ。
イベントCGが出てくるよな。どうやって枚数を数えるのだ。CGは全部で140枚、イベントCGは51枚と限られておるのだぞ。
――面倒くさいから、あとで一斉に……。
あとでするな!
だいたい、どうやってイベントCGとエッチCGと立ちポーズのCGと背景CGを見分けるのだ? しかも、それぞれ枚数を数えておかねばならんのにローラー作戦で数えに行っても、見落とさないほうが不思議だぞ。
――うぐっ。
だからだ。
CG管理用のテキストファイルを作るのだ。平たくいえば、CGリストだな。
――なるほど。……GRP.txt作ったよ。名前、こんなのでいい?
一目でわかればよい。おれの場合、「●●CG.txt」としたりしているけれど。
──そのまんま。
やかましい!
立ちポーズ、背景CG、エッチCG、イベントCGと中見出しを振っておけよ。
――なんで?
CGはイベントCGだけか? いっぱい種類あるだろ?
──あ、そっか。
予定の枚数を記入しろ。
――これはなんで?
忘れぬためだ。書かないでおくと、知らぬうちに枚数がオーバーして泣くことになる。
──くわばらくわばら。……記入したよ。
それぞれにキャラクターの名前を小見出しで書け。
――書いた。
それにも予定の枚数を書け。
――書いたよ。
よし。見せてみろ。
◆CGリスト実例(まっさらの状態)
【 立ちポーズCG 】……18枚
《高野美紀》……4枚
《神楽咲美》……4枚
《エミリー・マークライツ》……4枚
《今井章》……2枚
《皆本純》……2枚
《草薙京介》……2枚
【 背景CG 】……20枚
【 イベントCG 】……51枚
《高野美紀》……17枚
《神楽咲美》……17枚
《エミリー・マークライツ》……17枚
【 エッチCG 】……51枚
《高野美紀》……17枚
《神楽咲美》……17枚
《エミリー・マークライツ》……17枚
◆CGの比率は変わってもよいが総枚数は変えてはならぬ
――どう?
うむ、完璧だ。これがまだCGを作っていく前のCG管理テキストだ。
――枚数ってさ、絶対ここに書いてある数字を守らなければいけないんだよね。
ある程度の範囲なら増減があってもいいぞ。
たとえば、エッチシーンを50枚でやろうと思ってたけど、イベントが多くなっちゃったから、エッチ40、イベント60でやる、とかな。
全体の総枚数はいじってはならんが、部別の枚数はあくまでも目安なんだ。書いているうちに話の内容によって当初の目論見と違ってくるってことはあるからな。そのときにあくまでも初めの数字にこだわった結果、話を損ねてしまうほうがまずい。ただ、CG枚数が大幅に予定をオーバーすることは絶対あってはならない。
――それでも枚数が増えてしまった場合は?
5枚以下の増加ならなんとかなる。だが、それ以上となると難しいな。5枚なら、早い原画家さんで3日で描ける。それでもいろいろ考えると1週間が限度か。それでタイムリミットってところだな。
――じゃあ、140枚ってことは、145枚ならギリギリ大丈夫なんだね。
でも、あくまでも140枚を目安に書くのだ。
◆SEリストのテキストファイルも用意しよう!
――さあ、書くぞお!
待て! まだ、残っておる。
――なに?
SEリストはどうする。
――SEリスト?
ゲームには必須であろう。SE、Sound Effect。効果音だ。
――効果音のリストもいるの?
馬鹿者!
SEというのは結構使うのだ! 鏡だって40近くになったことがあるのだぞ!
――ひええ。それはまずい。どういうふうに見出し書けばいい?
ゲームのタイトルを書いて、SEリストと書いておけ。
――キャラクター別に分けなくていい?
不要だ。キャラに関係なしに使うからな。
◆キャラ設定のファイルも開いておこう!
――他には?
BGMも必要だが、あとでもよかろう。キャラクター設定のファイルは開いたか。
――あ、まだ。
開いておけ。しょっちゅう確かめることになるからな。話のベースはキャラにありだ。
◆進行表も用意しよう
――もう、ファイルいい?
あま〜〜い!
進行表はどうした。
――進行表?
どれくらい進んだか、わかるように箇条書きにしたファイルだ。完成したい日にちや、発売日も書いておくのだ。
――それ、日程表みたいなやつ?
そうだ。自分の場合、一番上に日程表を書いておいて、その下に次から次へとシナリオの進行具合を書いていく。
9/3 高野美紀14KBとかな。
――1日で14KBって書いたってこと?
違う。9/3で高野美紀のシナリオ容量が14KBに達したってことだ。9/2が10KBだったら、9/3の日に4KB書いたことがわかる。
――ふうん。
◆シナリオライターは管理者
さらに、原画家さんから原画が上がって来たらいつ何枚来て、合計何枚来ているのかも書いてたな。
――そんなことまで書くの?
たわけ。
シナリオライターは管理者でもあるのだ。ディレクターを兼務している場合だってある。そうでなくても、原画家さんとやりとりすることのほうが多い。つまり、窓口ってわけだ。もし社長さんが来て「原画家さんから何枚来てる?」って言われたらどうするんだ。
――ボクチン、3しゃいだからわかんない。
どあほ!
──うひっ!
社長さんは原画家さんにお金を払う義務があるのだぞ! それで訊いているのだぞ! 窓口のおまえが知らずしてだれがわかるのだ!
――キャシャーン。
ばっき〜〜〜っ!
◆必要なファイルは?
どうだ、進行表は用意したか。
――は、はい……用意しました。顔の形が……。
うむ。いつもそのように素直であればいい。
――もうない?
のちのち出てくるが、それはそのときに作っていけばよかろう。
――のちのち? いったいいくつあるの?
11。
――いっ? そんなにあるの?
あるぞ。言おうか。
シナリオ本編
キャラクター設定
ゲーム紹介
ゲームシステム
フラグリスト
字コンテ
CGリスト
SEリスト
BGMリスト
PCMリスト
進行表
――お……多い。
がはははは。シナリオライターの仕事はシナリオを書くことであると同時にファイルを管理することでもあるのだ。番号をつけるものだけでも、CG、SE、BGM、フラグ、PCMと5つあるからな。
――PCMって?
音声のことだ。声優さんが吹き込んだ声。SEは違うぞ。
――あれも番号振るの?
当たり前だ。だが、PCMに番号を振るのはシナリオが上がってからだ。取り敢えず心配することはない。
◆全ファイルの説明
大雑把だが、ファイルの説明をしておこう。
・シナリオ本編
これはシナリオのことだな。恋愛ゲームでマルチプロセスで進行する場合、女の子別にシナリオファイルを用意することになる。実際、『Fresh!』は7本のシナリオに分かれていた。女の子6人分と、プロローグだ。
・キャラクター設定
第3回〜第6回の講義で立てたキャラクター設定のことだ。シナリオを書きながら更新していくことになる。
・ゲーム紹介
出版社に渡すためのゲーム紹介文。ゲームを一番理解している人、つまりシナリオライターが普通作る。
これで記事の書かれ方が決まってしまったりするので、手を抜いてはいけない。
・ゲームシステム
ゲームデザインやシステムについての説明。今回の講義では触れていないが、ゲームを作る場合、システムをどうするのかということは重要問題。シナリオライターが特に忘れやすいのがセーブ・ロードの方法である。
・フラグリスト
フラグとは、旗のこと。ゲームでは、ある道を通ったとき、そのことを示す目印のことを言う。
たとえば、選択肢が2つあった場合。1つを通ったらハッピーエンディングになる条件が成立するとき、フラグを立てたりする。後に詳述。
・字コンテ
原画家さんに対して絵コンテで提出するところと、字コンテで提出するところがある。字コンテとは、絵ではなく文章で書いたコンテ。
絵の場合、イメージが制限されてしまうため、字コンテを求める原画家さんもいる。
・CGリスト
全CGのリスト。CG枚数を管理するために使用する。
・SEリスト
全SEのリスト。SEを管理するために使用する。だれかに依頼する場合は、そのまま指示書となる場合が多い。
・BGMリスト
全BGMのリスト。BGMを管理するために使用する。音楽屋さんに依頼するとき、これを元に指示書を提出する。
BGMも、外注の場合はお金が絡むので曲数の把握が必要。
・PCMリスト
台本のこと。縦書きにして印刷すると、声優さんによろこばれる。必ず仕事を渡す相手のことを考えて仕事すること! ゲームのことは素人の人が多いので、声優さんにわかりやすいように加工してあげることが必要。
・進行表
日程管理のスペシャル。シナリオライターは毎日こいつを見ることになる。
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