◆前回の復習〜シナリオのテーマは具体的であるのがよい
前回の復習だ。美少女ゲームのシナリオを書く時に最初に決めることはなんだ。
――テーマ。
そうだ。シナリオのテーマとはたとえばどういうものだ。
――閉経間近の老女との情熱的な恋愛。
相変わらず強烈に悪趣味だが、いい答えだぞ。さっと一言でわかりやすくまとめるのがコツだ。別に難しく考える必要はないぞ。
――90年代アニメにおけるポストモダンとか?
そんな難しいことを考える必要はない。そういうことは、東浩紀さんが考えてくれる。抽象的な命題を言う必要はないんだ。
――戦争における不条理とか。
そんな高尚でなくてよい。テーマは思い切り具体的であるのがよい。だいたい、戦争における不条理というのが絵に描けるのか?
「こういう話です」と簡単に具体的に言ったのが、お話のテーマだ。
◆前回の復習〜口が裂けても「〜みたいなやつ」というセリフは言うな
――オリジナリティがあったほうがいい?
奇を衒(てら)う必要はないが、ぱっと見で「あ、まねし」とわかるのはまずい。
たとえば「お世話ロボット娘との感動的学園恋愛」なんてのは……。
――『To Heart』のマルチだ!
そうだ。その瞬間、ユーザーは「なんだ、まねしかよ」と思ってしまうであろう。一瞬にして引いてしまうぞ。
よいか。口が裂けても「みたいなやつ」は言うな。
◆前回の復習〜お話を一言で言えずしてシナリオライターならず!
――幼なじみとの恋愛はOK?
幼なじみといっても、どのゲームか特定できんからな。素材的にはOKだが、どういう恋愛かわからんな。
――意地っ張りの幼なじみとのコミカルどつきあい恋愛。
ブラボ〜〜〜〜! エクセレント! 実に素晴らしい答えだ。幼なじみのギャグ物とはいいぞ。
よいか。自分が書こうとしているお話を一言で言い表せんようでは、シナリオライターとして失格だ。それだけでシナリオライターのレベルがわかるというものだ。
CG枚数の計算だ、現実的に!
◆テーマの次にすることは?
テーマは決めた。次は何を決める?
――キャラクター。
違う。
――エッチの回数。
ぬぬ。近い、近いぞ。
――じゃあ、体位。ぼく騎乗位がいいな、楽だもん。
馬鹿者! 誰がおまえの好みを聞いた!
――話を書く。
いきなり書くな!
――書いちゃだめなの?
ならんっ!
――え〜っ……じゃあ、どうすれば……
てめえの頭で考えろ。
──攻略本落ちてないかな。
攻略本に頼るな!
シナリオを書くということは、マニュアルのない世界に飛び込むということだぞ! 自分で考えろ!
──ううん……
どうだ、思いついたか。
──ううん……
なぜトイレに入る。
──いや、ちょっと。ううん……
なぜズボンを下ろす。
──なんとなく気分。
汚い尻を出すな!
──うひっ! あっ、思いついた!
何っ!
──もしかしてCG枚数……
ブラボ〜〜〜〜〜〜っ!
その通りだ!
シナリオテーマの次にすることとは、CG枚数とキャラクターの人数を決めることだ!
◆CGは時間と金なり! 会社をパトロンにするな!
ゲームの規模を決めてみよ。
――えへへえ。じゃあね、じゃあね、CG枚数は400枚で、キャラクターは男女合わせて15人。
うつけ者!
──うへぇっ!
貴様、『同級生』を作る気か! どこからそんな資金が出てくるのだ!
──うぐっ。
会社はパトロンではないぞ! 会社を勝手にパトロンにするな!
普通、ゲームを作るといったら背景・立ちポーズ・イベントCG・エッチCG合わせて120〜150枚程度だ。少ないところでは100枚以下というところもある。
美少女ゲームを作るには時間と金が掛かる。
原画を描くのもCGを塗るのも、すべてマンパワーだ。マシーンがやってくれることじゃあない。だから時間と金が掛かるのだ。
――ちぇっ、自由じゃないのか。
当たり前だ! それが職業だ! プロフェッショナルだ! 自由にやれるのがプロではない! シナリオライターは死んでもCG枚数のことを忘れてはならんのだ。
――ボクチン、忘れたい。
◆CG枚数とゲームの規模の計算の手順
たとえばの話をしよう。
CGの塗りは月間60枚できるとしよう。原画家さんはなかなか優秀な人なので月間40枚あげられる。開発期間は4カ月。これで考えていこう。
ゲームの規模を計算していくとき、手順がある。
(1)CGの全枚数を決める
(2)キャラクター数を決める
(3)それを元にCG配分を決める
――面倒くさあ……。
当たり前だ。シナリオライターは面倒くさいことをするのだ。いやなら、なるな。
――むぐぐ。
◆CGの全枚数は、開発期間と相談
では、先に進もう。どんな規模のゲームにする?
――イベントCG400枚!
ドガッ!
──うぎゃおっ!
まだそんな戯言を言うか! CGの塗り月間60枚で、どうやって400枚を4カ月以内にあげるんじゃ! CGの塗りだけで7カ月もかかるわい! すでに開発期間オーバーではないか!
――じゃあ、全部でCG250枚ぐらいかな。
ほほう。それでは開始日から終了日までずっとグラフィッカーはCGを塗っておるんだな。デバッグはいつするんだ。
――あ……忘れてた。
デバッグ期間も考えろ。
――じゃあ、2週間デバッグを取るとして、3カ月半だから、200枚ぐらいかな。
なんだぁ、開始日からすぐ原画があがるのか? 原画があがるのとCGが出来上がるのとはタイムラグがあるんだぞ。
第一、原画が月間40枚なのに、どうやって3カ月半で200枚あげる気だ? 原画だけで5カ月かかるだろ。原画家がいきなり分身するのか。
――うぐ。じゃあ、140枚。
まあ、よかろう。
◆キャラクターの数は、CG枚数と相談
では、キャラクターは何人にする?
──15人。
まだ言うか!
15人もいたら立ちポーズだけで最低15枚取られるぞ!
――でも、服装のパターンは4つ欲しいもん。夏と冬で、それぞれに私服があって。
では、人物CGだけで60枚だな。背景を20枚に抑えたとしても、残り60枚。イベントとエッチ合わせて一人当たり4枚だぞ。どうする気だ。
――うぐ。じゃあ、服装2つでいい。
人物CGだけで30枚ということだな。背景20を足して50。残り90枚。一人当たり6枚だな。前とあまり変わっとらんぞ。
――うぐぐ。じゃあ、服装1つ。
おい、待て。おまえ、『同級生』っぽい15人分のシナリオ、どのくらいの時間で書けると思ってるんだ? 完全にマルチプロセスで恋愛を進められるゲームって、シナリオ書くの時間かかるんだぞ。
――どのくらいかかるの。
おれでも12人の女の子との恋愛のシナリオを書くのに4カ月かかった。それが最速だ。せいぜい書けて1カ月当たり3〜4人だろう。初めての挑戦者となると1カ月あたり1〜2人というところか。
もし仮にひとりあたり最低で150KBとしても、15人分で2250KB。すなわち、2.2MB。原稿用紙で3600枚ぐらいか。
──う、うへえ……
思い切り短く済ませて1人あたり120KBあたりで抑えたとしても、総量1.75MB。だいたいプロのスピードは月間250KB、つまり、原稿用紙400枚程度だから……
――じゃあ、プロでも7カ月半……。
おまえ、期限内に書けるか?
――ぶるぶるぶる。じゃ、じゃあ、6人。
全員女か。
――男も2人追加。
いいのか。女が6人もいるぞ。後悔するぞ。
――女6人、男2人。
ほほう、チャレンジに出たな。では、CG配分を計算しよう。
◆悪戦苦闘! 電卓片手にCG配分
電卓は持ったか?
──なんで?
シナリオライターの必需品だ。電卓なくしてCG配分も全枚数も出せぬのだ。早く用意しろ。
──う、うん。
さて、と。登場人物が8人でそれぞれ服装が4種類とすると、人物CGで32枚というところだな。背景を入れて52枚。残り88枚だ。88枚をどうイベントCGとエッチCGに割り振る?
――男にイベントCGはいらないから、6で割って一人当たり14、5枚ぐらいかな。
ぎりぎりお話が作れる程度だな。だいたい一人当たりまともな話を作るためには、我が経験ではイベントCGで10枚ぐらいないと苦しいな。
『Fresh!』のせせりなんかは6枚で作ったが、少なすぎると深い感動話は作れん。
――じゃあ、各キャラクター、イベントCGが10枚。
エッチCGはそれぞれ4、5枚だな。ユーザーさん、エッチシーンが少なかったって言うだろうな。全部で28枚しかないぞ。
――ううん、ううん……。
制限内でものを作るのは難しいのだ。
――じゃあ、女4人。男2人にする。
そうすると、CG配分は?
――服装はやっぱり4種類ってのは捨てられないから、人物CGで24枚。背景で20枚。
残りは96枚だな。
――エッチCGは一人当たり10枚、イベントCGは一人当たり14枚にする。
エッチCGの合計は40枚。イベントCGの合計は56枚。ぴったり140枚だな。きっとユーザーさんに言われるぞ。あと1人か2人、キャラクターがいればよかったって。
――ううん……そのときは仕方ないよ。140枚じゃ6人は作れないもん。
作れるぞ。
服装が4種類あるのは女の子だけにする。野郎は2種類。そうすると、人物CGは28枚。背景を合わせて48枚。残り92枚。
――あ、ずるい。
わはは、経験の差だ。
◆限られた枚数でやりくりするのも、シナリオライターの手腕
ついでにイベントCGも6人全員同じ枚数にするのはよして、イベントCGが10枚あるのは4人にする。残り2人はイベントCGが5枚ずつ。すると、イベントCGだけで50枚。残り42枚はエッチCGに使う。一人あたりのエッチCGは7枚。これなら、ぎりぎりユーザーさんは許してくれるだろう。
――むぐぐ。
もちろん、イベントCGとエッチCGの比率はゲームによって違うぞ。凌辱系・インモラル系となると、エッチCGが圧倒的に多くなるし、純愛系となるとイベントCGが多くなるだろうな。
ドラマはイベントCGを要求するんだよ。
――難しい。算数嫌い。
甘い、甘いぞ。
映画や漫画よりも、美少女ゲームのカット数はさらに限られておるのだ。
カット数が少ないと言われた『機動警察パトレイパー2』でも800ある。美少女ゲームでは800枚のゲームなんか作れん。作れんから、立ちポーズを背景CGと重ねて枚数を稼ぐのだ。
限られた枚数でいかにやりくりするか、そこもまたシナリオライターの腕の見せ所なのだ。
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