『 巨乳学園 』



 アフロディアは国立海陵大学の門をくぐった。

 源氏大学と並んで一、二位を争う優秀な頭脳の集まる最高学府のひとつである。車で門

を通過するのはそう難しくはないが、試験を受けてまともに門をくぐろうとすれば、果て

し無く狭き門となるに違いない。現在のところは源氏大学に次いで総合では二位の座に甘

んじていたが、性医学に関しては無双の地位を誇っていた。

 全長二千メートルの緑映える広大なキャンパスは、静かに夏の日差しを受けていた。

 キャンパスの真ん中を貫くメインストリートには、夏らしい爽やかな服装に身を包んだ

大学生があふれていた。

 夢彦ははじめて見る海陵大学のキャンパスに、窓に張りついて外の景色を眺めた。

 何人かがアフロディアの雄姿に驚いて顔を向けたが、なにを噂しているのかはわからな

かった。

 メインストリートを曲がってアフロディアは医学部の前に停車した。

 白衣の助手が迎えに出ていた。

 その隣には眼鏡をかけた教授らしい姿があった。

 月彦老人がアフロディアから姿を現すと、眼鏡をかけた教授らしい男は頭を下げた。

「暑いときにようこそお越しくださいました。お元気そうでなによりです」

「日向先生こそ、いつもお手を煩わせて申し訳ない」

「いえいえ、こちらは好きな研究をしているだけですし、それに、逆にいつも助けていた

だいているほうですから。そちらのお坊っちゃまがお孫様でいらっしゃいますか」

「うむ、夢彦だ」

「こんにちは」

 と日向教授は微笑んだ。

「緊張しなくていいから、いつもの自分を出すんだよ」

 肩を叩くと、日向教授は先に歩きだした。

 緊張しなくていいって、なにをするんだろう。

 いつもの自分を出すって……。

 いったい、医学部になんかにおれを連れてきて、どうするつもりなのだろう。

 日向教授が案内したのは、自分の研究室だった。

「むさくるしいところですが、どうぞ」

 ソファに腰を下ろすと、白衣を着た若い女の人がアイスティーを持って現れた。

 髪を長く後ろに伸ばし、茶色のセルロイドの眼鏡をかけていた。

 歳は二十一、二歳というところだろう。

 医学部の学生らしい。

 天下の海陵大学――それも医学部の学生となると、かなりのエリートだ。

 美人というわけではなかったが、知性に満ちた気品ある顔だちをしていた。

「なかなかお美しい女性だな」

 月彦老人はさりげなく言い放った。

「お名前はなんと言われるのかな」

「七瀬律子です」

「ほう。ここの学生さんだね」

「はい」

「うちの講座の者です」

 と日向教授が割って入った。

「いまは三年生で教養から移行してきたばかりなのですが」

「なかなか感心なことだ」

 月彦老人は少しアイスティーを口に含むとテーブルに戻した。

「それで、あのことだが」

「準備のほうは、整っております。ほんとうはもっと早くご連絡さしあげるつもりだった

のですが、なにぶんいろいろと込み入っておりまして」

「いや、こちらからとやかく申し上げられる立場ではないので気になさることはない。た

だ、お忙しいところだったのならば」

「いえいえ、べつに研究に差し障りはありません。わたしとしても興味のある問題ですか

ら。ただ、実験のあとでもし事実だと判明すれば驚愕するしかないことになるでしょうな」

「うむ、わしもそれが事実かどうかを確かめたくてお願いしたのだ」

「よくわかっております」

「できれば早くお願いしたいのだが」

 日向教授はうなずいた。

「七瀬君。お坊っちゃまを少し案内してさしあげなさい」

 眼鏡の女子大生はうなずいて立ち上がった。

(以下、つづく)


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