『 巨乳学園 』



 梅雨の六月が終わろうとしていた。

 気象庁はまだ梅雨明けの公示を出してはいなかったが、二、三日の間、梅雨とは思えな

いほど気分のいい晴天がつづいていた。迫り来る期末試験さえなければ申し分のない、夏

日だった。

 だが、ゆり子は季節の変わり目で体調を崩して風邪を引き、学校を休んでいた。

 毎日のようにゆり子と顔を合わせ体を重ねてきた夢彦にとっては、いざゆり子が学校に

いなくなると、さみしくてならなかった。

 授業を受けているときでも、いくら教室を見回してもいつもなら振り向いて微笑んでく

れるゆり子はいなかった。

 夢彦はクラスのなかで、自分がひとりだったことを思い知った。

 考えてみれば、俊樹以外、男の友だちというものがなかったのだ。

 まったく話さないというわけではなかったが、夢彦はクラスの男子に敬遠されていた。

 単に夢彦が色道の家元の孫だからというだけではないようだった。

 ゆり子と結びついたことも関係しているらしかった。

 六時間目の授業が終わると、夢彦はそそくさと教室を出た。

 こんなおもしろくもない学校とは早くおさらばするつもりだったのだ。

「鏡君!」

 突然女が駆け寄ってくるのが見えた。

 きつめの大きな瞳の女だった。

 ツンとつきたった鼻に、一筋だけ茶色の髪が長く垂れかかっていた。

 半袖の体操シャツを着ていた。

 悦子を待っていたときにレスリング部で知り合った女――北条優香だった。

「やっぱり鏡君だ! ひさしぶりね」

「え、うん」

「今日はひとりなの?」

「う、うん」

「これから暇?」

「暇といえば暇だけど」

「じゃあ、来て来て、話があるの」

 瞳が誘惑していた。

 夢彦はそのなかに欲望を感じ取った。

 その瞬間、ゆり子の姿が浮かんだ。

「なにもないんでしょう?」

「うん、でも」

「早く早く」

 優香は強引に夢彦の腕を引っ張った。

「いや、でも」

「ほんの少しでいいから。ね、お願い」

 優香の瞳が切なげに輝いていた。

(以下、つづく)


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