夢彦は呆然としていた。 目の前は真っ黒だった。 わずか一か月もたっていないのに、別の好きな人ができただなんて、なぜ……。 夢彦には全然わからなかった。 ただ、わかるのはあの背の高い男が別の男だということだった。 なぜ、あいつと……。 そう思ったが、頭のなかは答えてくれなかった。 血の気が引いて夢彦は自分が気絶しそうになるのを感じた。 ばかなやつだ、と夢彦は思った。 なさけない。 女にふられただけで気絶しちまうなんて、おれはいったいなんなんだ。 「鏡君」 ふいにゆり子の姿が飛び込んできた。 血相を変えて夢彦を見ていた。 夢彦はわずかに微笑みを浮かべた。 「おれ、幸せじゃなくなったみたい……」 「鏡君っ」 ゆり子が夢彦を抱きとめた。 「いったいどういうことなの? だいじょうぶ?」 「だいじょうぶだよ、少し貧血を起こしただけだから」 夢彦はそう言って立ち上がろうとした。 「無茶しないで」 「いいよ、ひとりで行けるから」 「だめ、肩を貸して」 「いいからほっといてくれ」 「鏡君」 そのとき、男の声が響いた。 「夢彦」 俊樹だった。 「室町君」 「どうしたんだ、いったい」 「わからない、女の子といっしょに教室を出ていって、それで心配になんで来てみたら、 こうだったの」 「真っ青じゃねえか」 「なんでもないんだよ」 夢彦は微笑みを浮かべた。 「おれひとりで歩けるから」 「ばかやろう、こんなときにうそつくんじゃねえや」 俊樹は夢彦をおぶった。 「とにかく、保健室だ」 ゆり子と俊樹は階段を駆け降りていった。