六時間目、夢彦は頬杖をついてゆり子を眺めていた。 昨日はいったいなんだったのたろうと夢彦は思った。 どうして泣くんだ。 おれのこと幸せかって聞いて。 泣くことなんかないてのに。 それに、悦子もそうだ。 なんだか泣いているようだった。 声も弱々しかったし、いったいなにがあったのだろう。 終業のチャイムが鳴った。 ペンや教科書をしまう音が鳴り、椅子を押す音がつづいた。 学級委員の号令がかかり、生徒は一礼をすると教室を飛びだしていった。 夢彦もちらりとゆり子を伺って教室を出た。 「先輩」 弱々しい声が耳に飛び込んできた。 ショートヘアの女の子が立っていた。 「悦子ちゃん」 夢彦は悦子のもとに駆け寄った。 「どうしたの。昨日いったいなにがあったの」 「少し来てください」 悦子は背を向けて歩きだした。 いったいなんなのだろうと夢彦は思った。 もし、妊娠だとしても――いや、そんなことはない。いつもコンドームを使っているか ら。だとしたら、親になにか言われたのだろうか。それとも、試験の成績が悪くてなにか 言われたのか? 悦子が連れていったのはLL教室の前だった。 だれも、人はいなかった。 「いったいどうしたの。なんだか泣いていたみたいだったけど」 悦子はうつむいた。 「ねえ、黙っていてもわからないよ」 「わたし……」 と悦子は言った。 「…きな人ができたんです」 「え?」 夢彦は自分がふるえているのに気づいた。 「悦子ちゃん、いまなんて言っ……」 「ごめんなさい!」 悦子は突然走りだした。 「悦子ちゃん!」 夢彦が追いかけようとしたとき、角から背の高い二年生が現れた。 夢彦を睨んでいた。 「もう悦子に構わないでくれ」 と男は言った。 「おれの悦子を奪わないでくれ。悦子はおれのものだ」 「おれのものって」 「悦子はな、もうおまえが好きじゃないんだよ」 頭のなかから血が一斉に引いていった。 血がてっぺんから下りていくのがわかった。 好きじゃなくなったって、そんな……。 男は踵を返して去っていった。 夢彦はその場にすわりこんだ。