夢彦の部屋の受話器が軽やかな電子音を響かせた。 「はい、もしもし夢彦ですけど」 《若様、永井様という方から電話ですけど、おつなぎしますか》 「うん」 すぐに通信が入れ代わって悦子が出た。 「悦子ちゃん」 返事はなかった。 「どうしたの」 《う、うん……》 「今日部に来なかったって聞いたんだけど、どうしたの? 早退でもしたの?」 悦子はなにも言わなかった。 「悦子ちゃん、どうしたの? なにかいやなことでもあったの? だったらなんでも話し ていいよ。おれ、付き合うから」 《ごめんなさい》 乱暴な音がして、ふいに電話が切れた。 「悦子ちゃん、ちょっと、悦子ちゃん」 夢彦は何度も呼んでみたが、電話がつながっていないことを示す、あの素っ気ない音が くりかえし鳴っているだけだった。