二人はしばらく口も利けなかった。 いままで一度としてこんなに烈しいオーガズムを味わったことはなかったのだ。 裸のまま、二人はお互いの存在を感じ合っていた。 まるで時の静止を感じているかのように、かたく抱き合っていた。 二人は時間を感じなかった。 いや、時間はあったのだが、二人が完全に時間に一体化したとたんに、二人の前からも 後ろからも消えてしまったのだ。 二人はもはや時間そのものだった。 時間そのものであるがゆえに、すでに時間のなかにはいなかった。 お互いの腕に抱かれながら、二人は時間のない時間のなかにいた。 オーガズムの波にゆられながら、今でもない過去でもない未来でもない時を見ていた。 やがて、優香が首を動かした。 夢彦を見つめた。 まだ夢を見ているような目だった。 だが、生まれたときのように純粋な目だった。 「わたし……」 と優香は言った。 夢彦は無言で唇を近づけた。 優香はごく自然に唇を重ねた。 熱い情熱が頭のなかを流れ、それがだんだんと夢彦の頭を覚ましてた。 夢彦は少し寒気を覚えた。全身にうっすらと浮かんでいた汗が冷えてきたのだ。 「優香ちゃん寒くない?」 そう言って夢彦は自分が彼女のことを北条さんではなく、優香ちゃんと呼んでいること に気づいた。 だが、優香はそれがごく自然であるかのように素直にうなずいただけだった。 「シャワー浴びてこなきゃね」 と優香は言った。 「鏡君も浴びる?」 「うん。でも」 「タオルならわたしのを使って。わたし構わないから」 「優香ちゃんは」 「いっしょに浴びればいでしょう?」 頬に生命の輝きが戻った。 瞳には五十パーセントの純粋と五十パーセントの欲望が混ざっていた。 時間が、再び二人を動かしはじめていた。