ゆり子はすでに教室に来ていた。 いつものようなセーラー服でいつものような胸のふくらみだった。 やっぱりおっきいよな、と夢彦はゆり子の胸を眺めた。 「おはよう」 と夢彦はゆり子に声をかけた。 ゆり子もおはようと返事を返した。 だが、どこか表情がぎこちなかった。 「どうしたの」 夢彦は尋ねた。 「ううん、なんでもないの」 ゆり子は首を振ったが、横顔には曇りが浮かんでいた。 「ほんとうになんでもないの」 「うん……」 ゆり子は一旦うなずいたが、ふいに尋ねてきた。 「昨日、歩いていた子、だれなの」 「え?」 「いっしょに歩いてたでしょう」 心臓が変な音を立てた。 まさか、見られたのか。 「いっしょって」 「ショートヘアのかわいい女の子」 「あ、ああ、あれはいとこの友達なんだ」 「それだけ?」 ゆり子の目に夢彦はどきりとした。 「うん」 なぜうそをつかなきゃいけないんだ。 そう思いながら夢彦はうなずいた。 「仲いいのね」 「え、いや」 「いっしょに腕組んでいたけど」 「小さいとき遊んだりしていたから」 夢彦はまたうそをついた。 「そう」 「それがどうかしたの」 「ううん、べつに。なんでもないの」 ゆり子は少し晴れやかな表情になって首を振った。