「せんぱーい!」 小町通りを歩いていた夢彦は後ろを振り返った。 夢彦と同じように海陵中学へ歩いていた制服たちも何人か後ろを振り返った。 ショートヘアが元気に手を振って駆けてくるところだった。 永井悦子だった。 悦子は鞄をゆらせながら走ってくると、夢彦の腕に抱きついた。 「先輩、おはようございます」 「ああ、おはよう」 少々度肝を抜かれながら夢彦は答えた。 「今日はいい天気ですね」 「そうだね」 「わたし、昨日すっごくよく眠れたんです。痛くて眠れなかったと思ったんですけど。こ んなに気持ちよく寝たの、はじめてってぐらいよく眠ったんです。でも、あんまり気持ち よく寝ちゃったから夢なんじゃないかって思っちゃったりしたんですけど」 悦子はくすくすと笑った。 「夢じゃないですよね」 悦子はぎゅうっと腕に体を押しつけた。 Fカップのふくらみがセーラー服越しに押しつけられた。 「先輩はなにか部に入ってるんですか」 「なんにも。少し家で家庭学習があるから」 「そうでしたね。先輩、お勉強しなきゃいけないんですよね」 「悦子ちゃんも勉強しなきゃいけないんだよ」 「そうですよね、もうすぐ中間テストですもん。先輩は勉強得意ですか?」 「不得意じゃないけど」 「じゃあ、そのうち教えてくださいね。それで、あの、今日わたし部活があるんです。そ れで、帰るの遅くなっちゃうんです」 「待っててほしい?」 「待っていてくれるんですか? でも、お勉強の邪魔になるのなら」 「いいよ、適当に暇つぶししてるから」 「先輩って、やさしいんですね」 悦子はにっこりと笑みを浮かべて夢彦にしがみついた。 周りの中学生は、変な顔をしていた。