五月の風が、流れていた。 ゴールデン・ウィークは過ぎ去り、猶予の時は終わりを告げてほんとうの時間を歩みは じめていた。 それは新芽の成長に似ていた。 まだ春の浮ついた雰囲気は残っていたが、かわいらしい芽でいられる春の時から、次第 に青さを増し一人前の草木として力強く伸びていこうとする若々しい力の時へと風は吹き はじめていた。 夢彦もひとつの新芽だった。 色道という森のなかで、夢彦は家元という大木になろうとして歩きはじめていた。 風は、すでに吹きはじめていたのだ。 そんな五月のある日だった。 六時間目の音楽の授業が終わって教室に戻ってきた夢彦は、鞄のなかに封筒らしいもの が入っているのに気づいた。 ベージュ色の封筒だった。 表にはなにも書いていない。 夢彦は別館まで行って封筒を開いてみた。 放課後、第二体育館の二階倉庫に行ってごらんなさい。Tシャツで行くとおもしろいの があるわよ。 のぞみ のぞみだって? 夢彦は一旦自分の頭のなかで反芻してみた。 のぞみなんて同年代の子いたっけ。いないよな。だれだろう。 夢彦は、大人っぽい字だなと思いながらしばらく眺めていたが、あっと気がついた。 同年代の子にはたしかにいない。だが、同年代ではないというのならば、いる。 真紀のぞみ――あのやさしい顔、むっちりとした胸の真紀先生だ。 その真紀先生がいったいなんなのだろう。 おもしろいものって、いったい――。 夢彦はポケットに封筒をしまいこんだ。 まあ、いいや。 行ってみればわかることだ。