『 巨乳学園 』



 応接室の壁の真ん中に、巨大なスクリーンが埋め込まれていた。

 ハイビジョン型のスクリーンだった。

 画面には、抱き合いぐったりとしている二人の男女が大きく映し出されていた。

 夢彦とみどりだった。

 その画面の二人を、どっしりと深くソファに腰を下ろして一人の老人が無言のまま見つ

めていた。

 鏡流第四代家元、鏡月彦であった。

 夢彦の祖父その人である。

 その後ろに、背の高い男が立って、コンピューターのディスプレイに向かいながらキー

ボードを叩いていた。

 夢彦の勉強役でもあり、また鏡流のブレーンを務める第四代の右腕でもある男、執事の

真田であった。

「シータ波二十秒間検出、快感指数最高値二二五、オーガズム並びに発汗現象確認――オ

メガ波は検出されておりませんが、快感指数はオーガズム・ラインの二〇〇を確実に越え

ております。熱処理分析をご拝見になりますか」

「いや」

 と月彦老人は言った。

「若様もなかなか上手でいらっしゃいます。はじめてのご体験にしては、ずいぶんと優れ

た御成績です」

 ふ、と老人は笑った。

 はじめて、という真田の言葉がおかしかったらしい。

「フィニッシュにおいて屈曲位があれば、子宮口を突けて快感指数ももう二十ほど上がっ

ていたかもしれませんが」

「おまえははじめてだと思うか」

 ふいに老人は穏やかに尋ねた。

「お察しの通りでございます」

 老人はまた、ふ、と笑った。

「星彦と同じだな」

 ふいに老人はつぶやいたが、真田には老人のつぶやきは聞こえなかった。

「なかなか若様はご熱心なお方のようでございます。特に――特定の部位においてなんら

かのこだわりをお持ちのようでございますが、そのことに関連してひとつ、納得のいかな

いことがございます」

「なんだ」

「若様がバストを愛撫している最中に、快感指数が一八〇まで達しました。シータ波も微

量ですが検出されております。みどり様は胸が特にお感じになる方ではなかったと思いま

すが」

「おかしいというわけか」

「はい。過去のデータを見ましても、みどり様がバストの愛撫だけでこれほど高い数値を

記録されたことはございません。過去の最高で一五〇というのがございますが、これは乳

首の愛撫によるものです。バストへの愛撫ですと、最高は九十と下がります。これは若様

と同じ愛撫の方法によるものです。サーモグラフィを見ましても、これほど高い温度分布

が表れたのははじめてでございます。もちろん、みどり様の心理的な影響というのも考え

られますが」

「それだけでは説明がつかぬというのだな」

「はい。乳房と乳首とうなじを同時に愛撫するという三点攻めをしたのならば、また話は

違いますが、若様の愛撫はあくまでも局所的です。もちろん、人間には個性というのがあ

りますから、たとえ同じ愛撫をしたとしても、セックスは芸術のひとつですから必ず個性

の差が表れます。その個性の差がこのような快感指数の差を生み出したと考えることはで

きますが、それで一八〇という高い数値を説明するのは、無理がございます。ただ、その

人間自体がきわめて特殊であった場合は例外ですが」

 老人はじっと真田を見つめた。

「つまり――おまえは夢彦が特殊だと言いたいのか」

「まだはっきりとは申し上げられませんが」

 画面の上で夢彦とみどりが会話をはじめていた。老人は真田との話を中断してスクリー

ンに顔を向けた。

 だが、見ているというわけでも、聞いているというわけでもなかった。その目はなにか、

べつのものを見ているようだった。

(以下、つづく)


次の頁に進む
前の頁に戻る
学園一覧に戻る
トップページに戻る