『 巨乳学園 』



 ゴールデン・ウィーク――。

 四月の末から五月五日まで、学校も会社も自動的にほぼ一週間の休みとなる。

 その間、しがない制服を着ていたOLたちは外国へと羽を伸ばしに出掛け、男たちは、

家族のあるものは家族サービスに追いまくられ、彼女のいるものは彼女とのひこびさのデ

ートに明け暮れ、彼女も家族もいない気ままな自由人は、のんびりと家で時間を忘れて暮

らす。だが、中学生にとってはただ学校に行かなくてすむ、うれしい休暇だった。

 夢彦も、今年のゴールデン・ウィークはどうしようかと考えていた。

 母が生きていた頃には、父と三人で国内を巡ったこともあったし、少し控えめに遊園地

に出掛けたりしたこともあった。母が死んでからは父は仕事一辺倒で、休日だというのに

姿を現さなかった。秘書のところに泊り込んでいるのはわかっていたが、夢彦はなにも言

わなかった。ひとりのほうがずっと気ままだったからだ。父もきっと、そういう主義だっ

たのだろう。

 夢彦は父がいないのをいいことにビデオを借りまくったり――もちろん、そのなかには

未成年が見てはいけないものもあった――友達と遊んだり、ヴァーチャル・リアリティ・

ゲームで潰したりしていた。だが、今年は祖父がいた。叔母もいた。そして、かわいいい

とこもいた。ひとりで気ままにゲームでもして一日中自分の好きな放題にして過ごすとい

うわけにもいきそうになかった。

 ゴールデン・ウィークの前日、夢彦がるり子や弥生と手を振って別れてひとりで帰って

くると、珍しく祖父が待っていた。祖父はいつもなら奥座敷にいるか、セックス・スクー

ルか性技場にいて、姿を現さないのがふつうだったのに、その日はなぜか祖父が待ってい

た。

「ついて来るのだ」

 祖父月彦は夢彦を見ると、ただ一言だけそう言った。

 夢彦の勉強役、真田が祖父のそばにいたが、ただ無言でうなずいただけだった。

 いったいなんなのだろう。

 長い廊下を歩きながら夢彦は思った。

 ついて来いとは言ったが、なぜついて来いと言ったのか。今日になって突然自分を出迎

えたのか。夢彦にはわからなかった。

 祖父は長い廊下を一分ほど歩きつづけた。

 やがて、角を曲がり、しばらく歩いて祖父は円形の高殿に入った。

 それが性技場だった。

 一階は応接室のようになっていて、二階がベッドやシャワーが備えつけてあり、色道の

修行ができるようになっていた。

 祖父はソファに腰を下ろすと夢彦にもすわるように促した。

 真田は静かに部屋に入ると、祖父の斜め後ろに立った。

「今日わしがおまえを呼んだのはなんということでもない」

 と祖父は顎に生えた白い髭を動かし、話しはじめた。

「おまえが三月に家元を継ぐと言うてから、もう二か月ばかり経った。ふうつなら一か月

のところだが、おまえにはその倍ほど勉強してもろうた。おまえもだいぶ知識のほどは増

え豊かになったであろう。だが、色道というのは、論に始まり論に終わるものではない。

実践に始まり実践に終わる、さらに言うならば心に始まり心に終わるものだ。だが、その

最後までいくのはまだ早い。まずは論の上、実践にゆくのが道というものだ。いままで論

ばかりでずいぶんと退屈であったかもしれんが、それもすべておまえのため、色道のため

、ゆくゆくはすべての人のためだ。今日よりは実践に挑み、さらなる心を目指して励むが

よい」

 祖父が話し終えると、真田は一歩前に進み出て、衣装を渡した。

「大お師匠様よりの贈り物です」

 夢彦は受け取った。

 それは、ライラックの色の――別の名を紅藤色の――ローブだった。

「若様、こちらへ」

 真田はそろそろと部屋を出た。

 夢彦もそのあとにつづいた。

 真田は応接室裏の小部屋のドアを開けた。

「若様はこちらでそのお召し物にお着替えになってください。下のものもすべてお脱ぎに

なさるように」

 夢彦が入ると、真田はドアを閉めた。

 狭い部屋だった。

 着替えるためにのみつくられたような部屋だった。

 夢彦はローブを広げてみた。

 以前、はじめて色道に入門されたときの真っ白なものとちがって、少し紫づいている。

 だが、色は薄い。

 夢彦は着ているものをすべて脱いで、素っ裸の上にローブを身に着けた。

 パンツもなにもはかないのは白いローブを着ていたときと同じだったが、やはり少し奇

異な感じがした。

 真田はずっと静かに待っていた。

 夢彦が現れると、静かに螺旋階段を上がっていった。

 長い螺旋階段だった。

 高殿を取り巻くように巡っているらしい。

 頂上に着くと、扉があった。

「どうぞ」

 真田は扉を開けた。

 夢彦はなかに入った。

 大きな丸いベッドが真ん中にあった。

 薄紫色のベッドだった。

 その前に、ひとり、女が正座をしてすわっていた。

 紅梅色のローブを着ていた。

「お待ちしておりました、若様」

 紅梅色の女は両手をそろえ、頭を下げた。

(以下、つづく)


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