「入って」 夢彦は弥生の言葉に誘われて海野家の玄関をくぐった。 女の子から家に遊びに来ないかと誘われたのは小学校六年のこと以来だった。だが、そ れも数人で押しかけたという感じで、ひとりで行くというのははじめてだった。 玄関には靴がひとつ丁寧に脱いで置いてあった。 弥生が話していた女友達のものらしい。 父母の靴は見当たらなかった。 「お父さんとかはどうしたの」 「今日はお母さんと二人でゴルフに出掛けているの」 と弥生は答えた。 仲のいい夫婦だなと夢彦は思った。 弥生は廊下をつたって部屋のドアを開けると、 「るり子、連れてきたよ」 と言った。 「どうも、こんにちは」 夢彦はお辞儀をして部屋のなかに入った。 ソファにひとり、女の子が腰掛けていた。 その子を見たとたん、夢彦は声をもらした。 「か、香川さん……」 「はじめまして」 と女の子は挨拶した。 「会うのも話すのも、たぶんはじめてよね」 「え?」 「わたし、ゆり子の姉のるり子なの」 夢彦は驚いてゆり子そっくりの顔を見た。 「双子なの?」 「うん。驚いたでしょう」 「う、うん……知らなかったから」 「わたしもいままで知らなかったの」 思わず三人は笑い声をあげた。 「結構似ているって言われるんだけど、ゆり子とちがってわたしにはほくろがないの。そ れで見分けがつくんだけど、みんな間違えるみたい」 「でも、感じっていうか、雰囲気は少し違うね」 「そうでしょう? 顔も雰囲気も同じ人って、なかなかいないもの」 弥生は飲み物を持ってくるねと言って部屋を出ていった。 夢彦はソファに腰を下ろした。 「弥生ちゃ……海野さんとは友達なの?」 「そう。一年のときから」 「同じ部かなにかに入っていたの」 「一年二年と同じクラスだったの。いまは別々だけど。弥生とは知り合いなの?」 「え、まあ」 「なんかずんぶん親しいみたいね」 「そんなことないよ」 「弥生ちゃんなんて名前で呼んだりして」 「そのほうが呼びやすいから」 くすっとるり子は笑った。 「隠さなくたっていいのよ。したんでしょう?」 「したって、なにを」 「わかってるじゃない」 夢彦はどきりとした。 なぜ、この子が知っているのだろう。 「鏡君って、おっぱいの大きな女の子が好きなんでしょう」 「べつに、そういうわけじゃないけど」 「じゃあ、わたしはあまり好みじゃないの」 「そんなことはないけど」 るり子は夢彦にそっと顔を近づけた。 「弥生のおっぱい、どれくらいあるか知りたくない?」 「え?」 「わたしの願いを叶えてくれたら教えてあげてもいいわよ」 「おれをからかってるの?」 「まさか。そんなつもりじゃないわ。ただ、弥生にしたのと同じことをしてほしいだけ。 だめかしら」 足音が近づいてきた。 「弥生」 とるり子は大きな声をあげた。 「アイスクリーム食べない?」 「アイスクリーム?」 弥生はお盆を持って顔を出した。 「少し買ってきてくれない」 「だって歩いて十分もあるのよ」 「お願い」 るり子は手を合わせて頼み込んだ。弥生はおぼをん置くとちらりと夢彦を見て、 「鏡君食べる?」 「う、うん」 「わたし、道知らないしさ」 とるり子は畳みかけた。 「るり子とだけになるけど、鏡君、いい?」 「う、うん、適当に話でもしてるから」 弥生はそれじゃあ買ってくると言って部屋を出ていった。