『 巨乳学園 』



 海陵市桃源区極楽通り和志六十九――。

 その広大な壁のなかに、大邸宅が静まり返っていた。

 色道鏡流の家元が代々暮らしてきた本屋敷である。

 そしてまた夢彦の住む家でもあった――といっても、夢彦がいるのは本屋敷から渡り廊

下でつながった別館の二階の一室だった。

 夕食が終わって、夢彦はひとり雑誌を読んでいるところだった。

 BRA−BUSTERSという雑誌だった。

 大きなバストをしてかっこうのいい女、というアメリカの俗語からつけたタイトルであ

る。

 そのタイトルのとおり、BRA−BUSTERSは、国内最大の巨乳専門雑誌だった。

載っている女の子はみんなデカパイやボインばかりで、Dカップ以上ない子なんて一人も

いなかった。毎月「BRA−BUSTER OF THIS MONTH」という企画が

あって、一番おすすめのボインちゃんを国内から応募で一人、海外からは取材で一人、そ

れぞれ十頁ほどにわたって載せていた。最大の巨乳アイドル豊原エリがその企画の国内篇

から飛びだして一躍スーパースターになって以来、国内篇への応募者が増え、ボインちゃ

んの質もとみにレベルアップしていた。

 夢彦は、今月のセンターフォールドを眺めていた。

 ロクサーヌ・ディアブルといって、夢彦の一番大好きなグラマー・モデルだった。

 シリコンも入れていないのにバスト百三十四センチと、目玉の飛び出るような超スーパ

ーボインで、それでいてルックスがよく、スタイルも、でかすぎるおっぱいをのぞけばウ

エストがくびれヒップが飛びだしていてすばらしくよかった。

 夢彦はロクサーヌが大好きで、源氏にいるときはよく写真を見ながらベッドの上でティ

ッシュペーパーの世話になっていたものだった。

 やっぱりでかいよなあ、と夢彦は思った。

 手におさまんないもんなあ。めちゃめちゃにでかいよなあ。揉んだら、きっと凄いだろ

うなあ。こんなおっぱい、ゆっさゆさとゆらしながら後ろからしたら、メチャメチャ気持

ちいいだろうなあ。

 ことりと音がした。

 夢彦はふと振り返った。

 Vネックのトレーナーの女の子が立っていた。

 胸元まで深く切り込んだVネックだった。

 凹凸のわかりにくいトレーナーだというのに、胸のあたりは豊かにふくらみ、迫り出し

ていた。

 夢彦のいとこ、ゆいだった。

「な、なんだよ、いきなり」

 慌てて夢彦はBRA−BUSTERSを閉じ、ノートの下にしまいこんだ。

「入ってくるのならノックしろよ」

「なに見てたの」

「べつに」

 夢彦はノートの下にしまいこもうとした。

 ひょいとゆいが首を伸ばして覗き込んだ。

「あっ、BRA−BUSTERSだ、見せて見せて」

「ばか、おまえの見るようなものじゃないよ」

「いいじゃない、わたし見たことないんだから、ね、お願い」

 夢彦はじっとゆいを見て、

「あとで返せよ。おばさんに見つかるなよ」

「うん、だいじょうぶ。ここで見るから」

 ゆいはぺたとすわると、雑誌をめくりはじめた。

「わあ、この人すっごい胸おっきいの。百三十四だって、すっごいボイン」

 ゆいは驚いた声をあげた。

「これ、絶対夢ちゃんの好みだ。そうでしょう?」

「なにが」

 夢彦は椅子を立ってゆいのそばにしゃがみこんだ。

 ゆいが開けていたのはロクサーヌ・ディアブルだった。

「この人、おっぱいすっごくおっきいもん。ツンって突き出していて、かっこいい」

 ゆいはいたずらっぽい顔を夢彦に向けた。

「夢ちゃん、こういうの大好きでしょう?」

「好きだよ」

「ふふふ。わたしわかってんだから。でも、これだけおっきいと大変そうだな。そう思わ

ない?」

「べつに」

「冷たいんだ、夢ちゃん」

「だって、おれ胸ないもん」

「わたし、あるもん」

「へえ、どのくらい」

「夢ちゃんのすけべ」

 夢彦は笑った。

 ゆいも笑っていたが、

「そうだ、今日いいことがあったんだ」

「へえ、なにが」

「聞きたい?」

「うん」

「あのね」

「うん」

「今日身体測定があったの」

「おれも昨日あったよ」

「それでね、計ったらおっきくなってたの」

「そりゃ縮んでいたら困るよな」

「夢ちゃんのばか」

 ゆいは夢彦の背中をばしばしと叩いた。

 夢彦はけたけたと笑った。

「いいもん、どのくらいになったか、もう、絶対教えてあげないから」

 ゆいはふくれっ面をしてみせた。

「そんなこと言わないで教えてよ」

「いやだもん」

「謝るからさ」

「ほんと?」

「ほんと」

「じゃあ、教えてあげようかな」

 ゆいはいたずらっぽい横目で夢彦を見た。

「知りたい?」

「うん」

「どれくらい知りたい?」

「どれくらい?」

 夢彦はゆいを見つめた。

 ゆいもじっと夢彦を見た。

 と、突然いじわるな笑いを浮かべ、

「教えてあげな〜い」

 と笑いだした。

「おまえずるいぞ」

「いいじゃない、夢ちゃんのすけべえ」

「なにがすけべだよ、おまえ、おれをからかいに来たのか」

「わかった?」

「おまえ」

 夢彦は立ち上がった。

 ゆいはきゃっと叫んで逃げた。

 夢彦は追いかけた。

 ゆいは声をあげて部屋のなかを逃げ回った。

 が、ふとしたはずみにベッドに倒れかかった。

 夢彦は片足をつかんだ。

 ゆいは蹴飛ばしてベッドに上がった。

 夢彦もベッドに上がった。

 ゆいは枕を投げた。

 夢彦は枕をかわしてゆいに飛びかかった。

 ゆいが小さな悲鳴をあげた。

 夢彦は両腕をつかみ、ゆいを壁に押しつけた。

 ゆいは激しく息をついていた。

 呼吸するたびに、豊かな胸が隆起をくりかえしていた。

 そして、その胸の真ん中に双つ、小さな突起が現れていた。

 夢彦が腕をつかんだ拍子にトレーナーが引っ張られて浮き出たのだった。

 それに、夢彦は気づいた。

 まさか、と夢彦は思った。

 まさか、ゆいのやつ……。

(以下、つづく)


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