やっぱり、ゆり子ちゃんってかわいいよな、と夢彦は思った。やっぱりゆり子ちゃんが 一番かわいいや。女の子って笑うといろんな雰囲気がするけど、一番ゆり子ちゃんが胸の なかが幸せになるような感じがする。 「よう」 保健室の廊下で壁にもたれて、クラスメイトとともに身体測定の順番が来るのを待って いると、E組の男がやってきた。額に反り込みを入れていて、一目で不良グループの連中 だとわかった。 夢彦ははじめ自分に来たのかと思ったが、そうではなかった。夢彦の近くでふざけてい た嶋田に声をかけたのだった。 「おう、南沢か」 「もう終わったのか」 「まだだ。いま待ってるところだ」 「へえ。いま、女のやつ脱いでんのか」 「ああ」 「香川のやつも脱いでんだな」 「いまごろあのデカパイでも計ってんのかもしれねえぜ」 「ちきしょお、覗きてえぜ」 「さわりてえの間違いじゃねえのか」 「おまえといっしょにするな」 嶋田と南沢は笑い合った。 「それより聞いたぜ、香川の胸さわったんだって」 「少しな」 「どうだった」 「気持ちよかったぜ。なかなか揉み心地がよくてよ」 「ちきしょお」 「おまえのクラスだって、園田がいるだろう」 「ああ、あのレスリング女か。あいつもでけえけどなあ」 「飛びかかったら逆に卍固めされるってか」 「うるせえや」 嶋田は低く笑った。 「おまえ、るり子のほうはさわらないのかよ」 「A組のやつか」 「ああ」 「あまり興味が湧かねえな」 「B組の海野は」 「あいつか。いつも本読んでやがって気持ちわりいや」 「じゃあ、飛鳥は」 「あいつよりはな」 「橋本か」 「いや、真紀だ」 「ああ、保健の先生な。たしかにあいつもでかいよな。それに、大人の色気がむんむんで よ、一度はやりてえ相手だよな」 「まあな。こいつの妹もなかなか二年のくせにでかくてそそるけどな」 嶋田は顎で夢彦を指した。 「鏡ってやつのいとこなんだとよ」 南沢はじろりと夢彦を見た。 「おまえか、嶋田の言っていた転校生ってのは」 夢彦は黙って南沢を見た。 「おまえ、じいさんが色道の家元っつうのだったらよ、あれはやったことあんだろう? 何人とやったんだよ」 「だめだぜ、そいつに聞いたって。答えやしねえからな」 「へえ、なんで」 「やったことがねえんだろう。きっと、童貞なのさ」 「笑えるな、色道の孫が童貞なんてよ」 南沢は遠慮なくヒヒヒといやらしい笑いを浮かべた。