『 巨乳学園 』



「よう、転校生。少しはこの学校に慣れてきたか」

 葉山めぐみの机に腰掛けて腕組みをしていた嶋田アキラは、夢彦の姿を見ると早速声を

かけてきた。

「それとも、もう源氏に帰りたいか、えっ、お坊っちゃんよ」

「べつに」

「やせ我慢するなよ。さみしくなったら、ママのところに戻ってもいいんだぜ。ママあ、

おっぱい吸わせてよ〜ってな」

「自分がすればいいだろう」

「なんだと」

 嶋田は夢彦を睨み据えた。

「またやるってのか」

「べつに。ただ、したくても、三年前に死んだ人の墓を掘り起こすわけにもいかないから

な」

「おまえなにを言ってんだ」

「母さんは三年前に死んだんだよ。君の母さんは生きているのかもしれないけど」

 ことりと音がした。

 気がつくと、ゆり子が鞄を持って立っていた。

 嶋田はいやらしい笑いを向け、ゆり子をからかいにかかった。

「よう、今日も相変わらずでけえ胸だな」

 ゆり子は無視して鞄を置き、フックにスポーツバッグをかけた。

「今日は新しいブラでもはめてきたか? それともノーブラか? おれとしては是非とも

そう願いたいところだな」

 ゆり子は相変わらず無視してかばんのなかのものを取り出した。

「おまえ、今日がなんの日か知ってるのか」

 嶋田はにやにやと笑いながら尋ねた。

「楽しい楽しい身体測定の日だぜ」

 ゆり子は無視をして席についた。

「おい」

 嶋田はゆり子の机を叩いた。

「おまえ、なにシカトしてんだよ、えっ? なんか言ったらどうなんだよ」

「なにを言うことがあるのよ」

「なんでもあるじゃねえか。おっぱい揉んでくださいとかよ、バストを計ってくださいと

かよ」

 ゆり子はきっと嶋田を睨みつけた。

「なんだ、またおれに胸揉まれてえのか」

「だれがあんたなんかに」

「それとも、鏡なら揉まれてもいいってか?」

 ゆり子はちらりと夢彦を見て、

「だれでも同じよ」

「へん、そういうふうにおかたいやつにかぎって、根っこはやらしいんだよ」

「あんたと同じにしないでよ」

「へへ、おれはやらしいのをさらけだしているだけさ。でも、おまえはどすけべを隠して

いるだけだ。そういうやつのほうがほんとはすけべなんだ」

「勝手なこと言わないで」

「勝手なことかどうか試してやろうか、体でよ」

 嶋田はゆり子の腕をつかんだ。

「手を離してやれよ」

 嶋田はぎろりと目を剥いた。

「またおまえやられたいのか」

「べつに」

「だったら引っ込んでろ」

「引っ込んだらおもしろくないだろう」

「なんだと」

 嶋田は夢彦を睨んだ。

「おまえ、おもしろいことを言うな」

「おまえほどじゃないさ」

「ふん」

 嶋田は冷たく笑った。

「やけにおまえ、香川にこだわるな」

「おまえと同じさ」

「なに」

「違うか? おまえだって、ずいぶんとこだわっているじゃないか」

「おまえの知ったことか」

「とにかく離してやれよ。大の男が女相手に勇みこんで腕をつかんだって、かっこ悪いだ

ろう」

「おまえなんかに言われる筋合いはねえや、このすけべ野郎が」

「おれはすけべだよ。すけべで悪いか?」

 嶋田はじっと夢彦を見た。夢彦もまっすぐ嶋田を見返した。

 しばらくの間、無言のままそれがつづいていたが、フンと一息発すると、ゆり子の腕を

離し、嶋田は教室を出ていった。

 夢彦が気づくと、ゆり子が見ていた。

「なに?」

「あの……ありがとう」

「いいよ。自分のしたいことをしただけだから」

 と夢彦は言った。

「この間はごめんね、嶋田君と同じだなんて言って」

 ゆり子は謝った。

「気にしなくていいよ。悪かったのはおれのほうだったんだから。いきなり叩いたりして

ごめんね」

「ううん、わたしこそほんとうにごめんね。言い方、結構きつかったかもしれない」

「気にすることなんかないよ。真実はいつも辛辣にやってくるものなんだから」

 夢彦はゆり子を見て微笑んだ。

「そうだろう?」

 ゆり子も夢彦を見て微笑んだ。

 その微笑みには、数日前のいやらしさはどこにもなかった。

(以下、つづく)


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