『 巨乳学園 』



 昨日夢彦が話したボインの子――香川ゆり子は、まだ来ていなかった。

 隣の机には鞄もなにもなかった。

 夢彦は少しばかりため息をついて鞄を置いた。

 まだ、昨日のことを気にしているんだろうか、と夢彦は思った。

 嶋田にいきなり胸をつかまれたことを怒っているのだろうか。

 昨日のシーンが浮かび上がった。嶋田がこっそりと近づいた。香川ゆり子が振り向こう

としたそのとき、嶋田が胸を鷲掴みにした。ゆり子が悲鳴を上げた。嶋田は卑猥な笑みを

浮かべ、ゆり子の胸を揉みしだいた。《アンッ、イヤッ、アアンッ》ゆり子は体をよじっ

た。手のひらのなかで胸のふくらみが揺れた……。

「ねえ」

 ふいに、後ろの席の女が突然声をかけてきた。葉山めぐみという女だ。

「昨日さ、女の子といっしょに帰ってなかった? すっごくかわいい子だったけど、だれ

なの」

 夢彦が答えようとしたとき、香川ゆり子が教室に入ってくるのが目に入った。

「腕なんか組んじゃってさ、あつあつだったじゃん。もしかして彼女?」

 香川ゆり子がちらりと夢彦を見た。

「結構胸おっきかったけど、ああいう子が趣味なの」

「趣味ってわけじゃ……」

 夢彦はちらりとゆり子を見た。

 ゆり子は夢彦と視線が合うと、顔を背けた。

「でも、嫌いじゃないんでしょう?」

「嫌いじゃないけど」

「さすが源氏ねえ、あんな子を彼女にするなんて。手が早いんだから」

「彼女じゃないよ、いとこだよ」

「いとこ? そのわりにはずいぶん仲よすぎない? いとこ同士が腕を組んだりするかし

ら」

「あいつ甘えん坊なんだ」

「ふうん、甘えん坊ねえ」

「うそだと思うんなら、二年C組に行けばいいよ。鏡ゆいって子がいるはずだから」

「へえ、同姓なの」

 夢彦はその瞬間、カチンと来た。

 怒鳴ってやろうかと思った。

 が、その前に、いやな男の声が耳に飛び込んでいた。

「鏡ゆいって、おまえ、あのボインと知り合いなのか」

 嶋田アキラだった。昨日、ゆり子の胸を揉んだ男だ。

「いとこなんだってさ」

 と葉山めぐみが言った。

「へえ、いとこなあ。たしかに、名字は同じだよな」

「昨日いっしょに歩いてたのよ。それも腕組んで」

「へえ」

 嶋田はおもしろそうに、ちらりと夢彦を見た。

「きっとできてんのよ」

「かもな。うらやましいかぎりだぜ。鏡ゆいっていったら、二年で一、二番のボインだぜ。

夢吉、おまえ、昨日いっしょに帰ってどうしたんだよ。胸とか揉ませてもらってたのか」

「そんなことするものか」

「ほんとかよ。あのボイン女がいとこだっていうのなら、おまえもあのじいさんの孫なん

だろう。色道とかやらしいことやってる変態じじいのよ」

 その途端、夢彦の顔色が変わった。

 突然、恐い顔に変わり、夢彦は嶋田を睨み据えた。

「なんだよ、やるってのか、夢吉」

「おれは夢吉じゃない」

「いいじゃねえか、夢吉でも夢之介でも。かかってくるのならかかってこいよ」

「おまえから来ないのかよ」

「なに」

 嶋田は片方の眉をぴくりと上げた。

「やめときなさいよ、嶋田」

 葉山めぐみが半分からかうような調子で言った。

「こんなやつ相手にしなくたっていいじゃない」

「別にこんなばかを相手にしなくたっていいんだけどな、おれも退屈してるとこだし、や

っぱ、売られた喧嘩は買ってやらないとなあ」

 嶋田はぎろりと夢彦を見た。

「表に出ろや」

 喉の奥からしぼりだした声で、嶋田は言った。

(以下、つづく)


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