第１章　巨乳学園

２

　源氏市第二中学から海陵中学への転校が決まるほんの少し前――といっても、夢彦が悪

ガキ真っ盛りの中学二年の冬だったが、海陵市から転校してきた変わり者がいた。夢彦は

一目見たときから感じが合わなくて自分から話しかけたり直接口を利いたりたことはなか

ったが、ある二月の昼休み、友達と話しているのを聞いたのだ。

《海陵の女って、みんなボインなんだぜ》

《へえ。でも、豊原エリぐらいじゃないんだろう》

　豊原エリというのは、人気絶好調のグラマー・アイドルだった。百センチのバストを引

っ提げてグラビアに登場してから、もの凄い人気旋風を巻き起こしていた。

《豊原エリぐらいあったら凄いけどな》

《昨日、『笑ってナイト』に出てたよな》

《うん、おれも見た》

《あれだけあったら凄いよなあ》

《そんなの目の前にいたら、おれ、さわっちゃいそう》

《うしろからモミってやっちゃったりしてさ》

　少年たちは卑猥な笑い声を立てた。海陵の少年はクールな顔で仲間を見ながら、

《高校生だったらそれぐらいはいるけどな》

　と乾いた口調で言った。

《えっ、ほんとか？》

《でも、少ないんだろう》

《いや、ぞろぞろしてるぜ。Ｄカップなんて中学の時点でクラスに最低一人はいるからな

。ほかのやつだってＣぐらいはあるし。それがみんな成長するんだぜ。みんなボインばっ

かりさ。だいたい海陵の女って、二十歳で平均八十五のＤはあるんだ。みんなＤカップで

当たり前なんだ》

《じゃあ、九十なんか……》

《高校になったらいっぱいいる。中学でもいることはいるしな。おれのいとこだって、中

三で九十五あったし》

《九十五！》

《Ｄカップか？》

《そんなもんですむか。Ｆだよ》

《Ｆだって！》

《Ｆっていったら、Ｄカップより二つ上のサイズだろう？》

《トップバストとアンダーバストの差二十二・五センチってとこだな》

《すんげえ、中学でＦカップもあんのかよ》

《揉んでみてえよなあ》

《気持ちいいだろうな》

《九十五のＦだもんなあ》

《さわったら、もうたまんないだろうなあ》

《ああ、くそおさわりてえ》

《なあ、色川、そのいとこ今度紹介してくれよ》

《ばーか。おまえらが海陵に来りゃいいんだよ。胸のでかいやつなんかそこら中いるから

な。顔も選べるし、選り取り見取りだぜ》



　あの色川という男の言っていたことは、ほんとうだったんだと夢彦は思った。さっき会

った子がはたして九十もあるのか、Ｆカップなのかはわからないが、相当のボインちゃん

であることは間違いない。Ｄカップは確実だろう。源氏は−−そんなグラマーな子はいな

かった。成熟した大人の人だって、みんなスリムでスタイルはいいけど、グラマーな人は

少なかった。

　海陵中学の校舎のなかを歩きながら、夢彦は、ふと自分が応接室の前までたどり着いて

いることに気がついた。昨夜連絡があって、女の人の声で−−たしか、七瀬明日香という

名前だった−−昼休みに応接室に来るようにと言われていたのだ。

　夢彦はそろりと応接室のドアを開けた。

　そのときだった。

　目の前に突然女の人が現れた。

　夢彦がドアを開けると同時に、反対側から彼女もドアを開けていたのだ。

　あっと声を上げたが間に合わなかった。

　女の人はきゃっと声をあげて夢彦にぶつかった。

　むにゅっとしたやわらかい心地よい感触が胸に押しつけられた。

　夢彦はドキッとした。

　まさか。

　いまの気持ちのいいものは……。

　顔をあげた夢彦は息を呑み込んだ。

　真っ白のブラウスの襟が大きく開き、白い肌が覗いていたのだ。

　その白い肌と対照的に、濃いＹ字の影が深く胸元にさしこんでいた。

　そして、その下の真っ白のブラウスの胸の部分は、大きく急カーブを描いて盛り上がり

、はちきれんばかりにふくらんでいた。

　夢彦は思わずごくりと唾を呑み込んだ。

「ごめんなさい。だいじょうぶ？　どこかぶつけなかった？」

　きれいなショートカットの女の人は夢彦の顔を覗き込んだ。

「どこも痛くない？」

「だいじょうぶです」

　夢彦はちらりと胸の谷間を見ながら答えた。

「ほんとうにごめんなさいね、ちょっと考え事してたの。でも――応接室になんの用事だ

ったの？」

「ここに来なさいって言われてたんです」

　女の人はふいに黙って夢彦を見上げた。

「ひょっとして、鏡君？」

　夢彦はうなずいた。

「水原法子先生ですか？」

「フルネームまで覚えててくれたの？　うれしいわ。いま様子を見に行こうって思ってた

ところだったの。鏡君は、いま着いたところ？」

「そうです」

「じゃあ、タイミングぴったしってとこね。少しぴったりすぎたかもしれないけど」

　水原先生は微笑んでみせた。