真っ白なバレーボールが、ポンポンと軽やかな音を立てて跳ねながら少年のほうに転が ってきた。 春らしい、うす青い空の広がった日だった。 少しあたたかすぎるくらいの陽気が風にのって校舎のまわりをめぐっていた。 新中学三年、鏡夢彦は、新しい制服に身を包み、市立海陵中学の正門のそばの植え込み の前でにぎやかな喧騒を聞いていた。 そうしていると、陽気が体の隅々まで駆け抜けていくような気分に襲われるのだった。 夢彦は空を見上げ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。 虹色の期待と空色の不安がすうっと胸をかすめたが、すぐに幸せな気持ちで夢彦はいっ ぱいになった。 親しい友人とも別れてただひとり、別天地でのスタートだったが、うまくやれそうな気 がした。 そのときに、バレーボールが転がってきたのだ。 夢彦は右脇に鞄を抱えたまましゃがんで白いボールを拾った。 「すみませーん」 スカートの上に目の覚めるような青色の体操服を着た女の子たちが、四、五人ほど輪を つくってこちらを見ていた。 そして、ひとり、半袖の体操服の女の子が明るい表情で腕を振っていた。 唇の左上にほくろがひとつ、微笑んでいる。 どことなくいたずらっぽい感じのする子だ。 かわいい子だなと思いながら彼女の顔から視線を下ろした夢彦は、はっと目を見開いた 。 その胸の部分は、大きく迫り出していたのだ。 水色の半袖のシャツは、はじけそうなくらいみずみずしくふくらみきっていた。 「すみませーん、ボール返してくださーい」 ボインの女の子は陽気に手を振ってみせた。 夢彦は鞄を置いてバレーボールを投げ返した。 白いボールはゆるやかな孤を描いてボインの子の胸に抱きすくめられた。 「ありがとう」 女の子は大きく言って、仲間のほうに向き直り、高々とボールを打ち上げた。 夢彦は少しの間立ち止まってバレーボール見物をはじめた。 ボインの女の子の表情は空に負けないくらい、元気に輝いていた。 そして、同じくらい元気にボールを追いかけて動いていた。 そのたびに、胸に実った果実もぷるんと揺れ、はずんだ。 夢彦はふと、他の女の子も、かつて自分がいた学校の子と比べると胸がずいぶんと発達 しているのに気づいた。 ぺったんこの子はだれひとりとしていない。 みんな胸にいくらかのふくらみを持っている。 だが、そのなかでも一番大きいのは、夢彦にボールを返してと大きな声で言った、口許 にほくろのあるボインの子だった。 胸の揺れ方やはずみかたが、他の子と全然ちがっていた。 まるで毬のようだった。 夢彦はちらりと空を見上げ、噂はほんとうだったんだと思った。