補講第13回 「閃いたものと考えたもの」
 

続いての質問は、観月葵さんです。

詩は考えて作った作品よりもふっと湧いて出てきたもの、閃いたものの方が出
来がいいという話を聞いたのですけど、それはシナリオや小説と言った分野で
も言えることなのでしょうか?


閃きを呼ぶ思考

◆韻文の場合
 たとえば、タイトルや詩、キャッチコピーなら「考えてつくる」よりも「閃いたもの」の方がいいかもしれません。
 ただ、詩にしても、同じ閃いたもののなかでもよいものと悪いものの差はあります。中学時代つくっていた詩は、半分以上が閃いたものでしたが、その半分はだめだめだったと思います。
 さて。
 では、小説やシナリオの場合、どうなのか。

◆閃き? 思考? あるいはそれ以外?
 これね。
 答えが違うんですよ。
 違うというのは、こういうことです。
 リンゴと梨とどっちがうまいか。そう聞かれて「桃」と答えるようなもの。そういう答えなんです。
 ゲームのシナリオも小説も、ともにお話です。
 お話にも、ぽんと閃いたものと考えてつくったものとがあります。そのどちらがいいのか。

◆閃きで生まれてもよいとは限らず
 たとえば、閃いたものについて。
 閃いたからいいってわけじゃないんです。閃いたものでも、使えるものと使えないものがあります。
 『パンドラの夢』の櫻のシナリオは、ほとんど閃きだけでつくったようなものですが、評価は中くらい。
 また、同じ『パンドラの夢』でも、スウがラストシーンで唯人が描いたクロッキーを持っているというのがあります。あれは元々何も持っていなかったんですが、ポンと閃いたものです。
 このように、閃いたからといっても、レベル差があります。

◆考えてつくってもよいとは限らず
 今度は、考えてつくったものについて。
 これも、やっぱり差があるんです。考えに考え抜いた結果、よくなるものもあるし、かえって悪くなるものもある。どちらも差があって、「閃いたもの」と「考えてつくったもの」とのどちらがいいとは一義的に決められないのです。
 キャラクターの名前にしてもそうです。
 『プリズム・ハート』の神弥無というキャラクターの名前は、考えてつくった名前です。対して、キザーロフというライバルキャラの名前は、ぽんと閃いた名前です。 
 どちらがいいのでしょう?
 やはり名前にしても、「閃いたもの」と「考えてつくったもの」とのどちらがいいとは一義的に決められないのです。

◆「閃いたもの」と「考えたもの」との間に明確な差はない
 そもそも、「閃き」と「考え」というのは、お話をつくる上では、特殊な場合をのぞいて、それほど明確に差があるものではないのです 
 たとえば、考えに考え抜いた結果、ポンと閃いたとします。だいたい2日間ぐらい考えつづけていると頭が疲れてぽんとアイデアを思いつくものなのですが、その時出来上がったものは、考えた結果できたものなのでしょうか。それとも、閃いてできたものなのでしょうか。 
 ある意味では、考えた結果できたものですが、できあがる瞬間は閃いています。しかし、純粋に閃いてできたというわけではなく、やはり考えに考え抜いたという過程があって初めて閃いたものであります。考えて考えて閃いてしまったものの場合は、閃きで生まれたのか考えで生まれたのか、はっきりとは分けられないのです。
 実例をあげましょう。
 たとえば『パンドラの夢』の最初の3ループ。
 なかなかループ感が出せなくて、ずいぶん考えました。考え考え、考えて、ファンの子に読んでもらって、そして、意見を聞いた時に、あ、そうか、と閃いた。気づいた、というべきかもしれません。 
 でも、それは閃きなのでしょうか? それとも、考えてできたものなのでしょうか?
 お話については、閃いたものの方がいいとか、考えてつくったものの方がいいということはない。むしろ、考えに考え抜いた結果閃いたものの方が出来がいい。

◆物語が閃きだけでは駄目な理由

 韻文ならば、「閃き」で全部書きあげられます。考えに考えたものよりは、閃いたものの方が平均的に出来として上でしょう。
 しかし、散文──物語──となると、韻文よりもはるかに量が多く、また構造も複雑で、キャラやら構成やらの問題が出てくる。ですから、純粋に閃きだけで決めることはできないのです。
 詩に、キャラの問題なんかいりませんよね?
 でも、小説やゲームシナリオにはキャラの問題が出てくる。分量もあるため、構成の問題も出てくる。となると、閃きだけでは片づけられなくなるのです。思考の入り込む余地があるというか、思考が必要とされるわけです。

◆考えても閃くようにコンディションを持っていくことが大切

 だから、プロとして大切なのは、考えても閃くようにすることです。そういうコンディションに自分を持って行くことです。
 閃きを待ってはだめです。よく勘違いしますけれど、閃きは待つものじゃない。プロは、考えてひねり出せるようにならなきゃいけないんです。
 閃きはコンディションから生まれます。
 そういうコンディションに自分を持って行くこと。体調管理をしたり、考えて考えて頭が疲れて閃きを起こしやすくなる状態に持って行くこと。それがプロの仕事なんだと思います。

 

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