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◆物語がうまくいかないのは? |
なべ君 | 無駄か無駄でないかで言えば、つなぎがないというのは、勝手に無駄だと思って削りすぎとも捉えられますけど。 |
鏡 | ん? どういう意味? | ||
なべ君 | 文章単位でなくて、話の構成(シーン単位)を考えて、つなぎを、無駄なシーンと勘違いして、削ってしまう。 |
鏡 | 小説の場合だと、このつなぎの場面は必要かって考えるってことなのよ。 つなぎにも無駄なつなぎと意味あるつなぎがあるでしょ? 無駄なつなぎを書こうとしている場合はそれを削る。 意味あるつなぎの場合は残す。 でも、枚数の限定がある場合は、またプロットを立て直す。 |
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なべ君 | 恐らく、その判断ができないから、失敗するんだと思うんです。 |
鏡 | そういう時によく「じゃあ、どうすればいいんですか?」って質問が来るんだけど、そういうのって、なさけないわけよ。なんのために頭ついてんの? きみ、赤ん坊ですか? 自力でもがけない人って、だめね。 目の前に問題が起きた時に、細かな解決法がはっきりしているのは、ゲーム攻略と受験勉強だけなの。 ビジネスにも人生にも創作にも、そんなものはない。この問題集をやってこうやって直前にこれをやれば受賞しますなんてハウツーはないんだからさ。 でも、80年代以降の生まれの人は、特に安易にハウツーやガイドを求めるきらいがある。 そういうの、作り手としてだめなわけ。 処方箋を求めちゃだめ。受験参考書とかゲームの攻略本を求めちゃだめ。そんなものは、ゲームと受験勉強以外は存在しないし通用しないの。 でも、わかんないんですって言う人は、物書きやめなさい。創作やめなさい。一生受験生やってなさい。 創作の世界に突入するっていうのは、攻略本がない世界に飛び込むってことなの。自分で答えをつかみに行く世界に飛び込むってことなの。自分で答えを求めて死ぬような目に遭いながらもがく世界に飛び込むってことなの。 凄くあやふやな大枠でしか指針みたいなのがなくて、細かなところは全部自分で考えて片づけていくしかないわけ。人に聞いてもそれはあくまでもその人の場合であって、そこから「じゃあ、おれはどうするんだ?」って考えていかなきゃいけないところがある。人に聞いたからって即、攻略本みたいな答えがもらえるわけじゃない。むしろ、もらえないわけ。ただ、大枠についてのヒントが来るだけなわけ。でも、そういうのが凄く大切なんであってさ。 にもかかわらず、安易に攻略本や受験参考書を求める人が多い。そういうの、やめてほしいわけ。まず自分でもがきなさい、と。 その上でのお話。 無駄な部分についてよく言われるのは、事前に十分設計しないからだ、と。書いている最中でもそうなんだけどね。 |
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なべ君 | 心情変化とか、どう物語として見せるかとかですか? |
鏡 | プロットの設計確認。 プロットを見直しながら、枚数計算もする。 |
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なべ君 | 山場ってのは盛り上がるシーンという理解で良いのですか? |
鏡 | そう。 |
なべ君 | そうやってプロット組むときに、既にダメなものはダメってなりますよね(本人が気づくかは別として)。 |
鏡 | なるね。 結局ね、お話がうまくいかない時というのは、キャラかプロットに問題があるわけ。 |
なべ君 | そういう人が、足りない思慮(や視点)はなんなんだろうなって、いうことです。 |
鏡 | キャラとプロットの視点。 お話がうまくいかない時というのは、どちらかに問題があるのよ。つまずいた時に、どれだけそこに立ち返れるか。もちろん、小説の場合だと、何を書きたいのか、ということも関係するんだけど。 |
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なべ君 | キャラの視点というのは、心情的に無理のない変化とか、人間を描くということですよね。 |
鏡 | 違う。 この子はどういうキャラか、どういう人間かということ。 プロットの視点というのは、プロットを見直すということ。 つまずいた時に、自分は何を書きたいのかを考える。 キャラを見直す。 プロットを見直す。 そういうこと。また原点回帰なんだけどね。原稿やシナリオばかり読み返しててもだめなのよ。 |
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なべ君 | んと……、特に個人とかで物を創っていると、話の枠組み(設計図)に問題があって、そのまま最後まで疑問なく進んで終わるんだと思うんです。 そういう場合って、どういう過ちを犯しているのかなって。 |
鏡 | 話の枠組みというのはプロットのこと? | ||
なべ君 | 必要なシーン(例えばつなぎ)がないというのはプロットレベルになりますか? だとすればプロットですけど。 |
鏡 | どれくらい細かくプロットを立てるかにもよるけど、プロットレベルだろうと思う。 実作のレベルも重なっているようには思うけれど。 うまい人なら、実作のレベルで片づけちゃうだろうね。 |
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なべ君 | なぜその必要性に気づけないのかな。 |
鏡 | あらすじを書くことに必死だからだよ。 |
なべ君 | ストーリーを紡ぎだすのに精一杯? |
鏡 | 追いかけるのに精一杯。 |
なべ君 | なるほど >追いかける |
鏡 | でも、書いている最中はヴィジュアルが浮かぶから、わたしってクリエイトしてると勘違いしてしまう。 違うのよ。 あらすじ書いてもだめなのよね。 筋書き読みたいわけじゃないんだから。お客さんは。 |
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なべ君 | もっと余裕を持って書けば粗筋を書かなくなる? |
鏡 | 何を書きたいのか、何を伝えたいのか、意識すること。 それから、人物に対して考えること。 そういう作業を余裕を持つというのなら、余裕だろうね。 |
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なべ君 | 人物に対して考えるってのは、人を描くって感じですよね? 心があって、日々日常色々なことを考えて、そうして行きている人間を描く。 という感じですよね。 |
鏡 | そう。多面的な部分とかね。多層的な部分とかね。裏表。外面と内面の差とかね。その人の歴史、背負ったもの。好きな食べ物とか妙に細かいことばかり考えるんじゃなくてね。人間としてどうなのか、っていう人格的な部分、心理的な部分ね。 | ||
なべ君 | でも、そういうこと目が行きがちですよね 好きな食べ物とかそういう細かいの。 |
鏡 | 素人さんの設定というと、たいていそういうとこいくね。 | ||
なべ君 | そういうことを考えないと、ステレオタイプとか言われちゃうんですよね。 |
鏡 | そうね。だいたいね、再生しているだけの人が多いからね。 |
◆再生とクリエイトの区別 |
なべ君 | 再生してるだけ? |
鏡 | たとえば、今まで見てきたフィクションがあるでしょ? |
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なべ君 | 沢山あります。 |
鏡 | それがいろいろストックとしてたまっているわけ。どこから引用してきたのかわからない状態でね。 たとえば、久しぶりに愛し合っていた二人が出会った場面がストックされてるわけ。 でも、そういうのはたいていチープなのがたまっているわけよ。 で、二人駆け寄って、「ひしっ! はぐっ!」 |
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なべ君 | よく見かけますね。TVとかでも。 |
鏡 | あるいは、夢のなかのシーン。 お母さんが出ていっちゃう。 そうすると、なぜか主人公は走っているわけだ(笑)。 それをそのまま書いちゃう。 つまり、再生しちゃうんだな、ビデオデッキみたいに。 でも、ヴィジュアルが浮かんでいるから、それをクリエイトと勘違いする。 クリエイトというのは、再生する手前で立ち止まって「おれならどうする?」って考えることなんだよ。 |
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なべ君 | なんか、借り物の張り合わせですね。 |
鏡 | そう。チープなフィクションの張りぼて。 でも、クリエイトするっていうのは違うわけ。「おれなら──」っていう部分がオリジナルなところがあるから、再生じゃなくてクリエイトになってるわけよ。それがなかったら、ほとんどパロディ以下だよね。 |
◆ゲームをつくらせるもの |
なべ君 | で、いい機会なんであと一つのテーマ、インプットはなんだろうってことですけど、そういう「おれならどうする」ってのは、インプットなくしてはあり得ないと思うんですよ。 |
鏡 | もちろん。 | ||
なべ君 | 唐突ですけど、鏡さんのインプットってなんですか? そんな24本とか書いてきたのって、そうとう出力したと思うんですけど(苦笑)。こういうのやってみたいってのは、どこから生まれてくるんかなぁ……と。 |
鏡 | 成功と失敗。 前作のね。 前にこんなのやって、ある部分ではうまくいったけど、別の部分ではうまくいかなかった。 そういう反省とか悔しさみたいなのがあって、今度はこうしたらどうなるんだろう……とかね。 ゲームの場合、ひとつの心地よい形を探している感じはするね。 できるだけ多くのユーザーが心地よい形。できるだけ多くのユーザーに心地よいと思ってもらえる形。 それをどこかで考えている気はする。ある意味「理想」というものなんだろうけど。メインで探求しているんじゃなくて、何かしら入っているっていう感じね。 あからさまに求めたら、それは媚び媚びになっちゃうんじゃないかな。そういうのは自分がやる仕事じゃない気もするし。 やってみたい、と思うのは、それが理想形じゃないか、という思いがあるからなんだろうね。 |
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なべ君 | うまくいったとかは、ユーザーの反応を見てってのもありますか? |
鏡 | もちろん、あるよ。書いた直後はオレサマ天才になってるからね(笑)。 | ||
なべ君 | やっぱりなるもんですか?(笑) 素人は当然なるんですけど(自爆)。 |
鏡 | なるよ。それは書き手としてひとつの宿命というか才能だと思う。自分は凄いと思ってなきゃ書き続けられないわけでさ。ひとつの比喩として、オレサマ天才くらいは思えなきゃね。 | ||
なべ君 | (ある程度)自信もってなきゃ、作ってられないとも言えますね。 |
鏡 | だめだ、だめだ、だめだ……ってシンジ君みたいに思い続けてたら書けないよ。 |
なべ君 | (苦笑)。ただ結果としてはフィードバックをする、と。 |
鏡 | そう。結局、自分に向かい合って、自分を掘り下げていくわけだからさ。書いている最中は天才と思って。世に出たら、謙虚になる。 |