創造の周辺<5>


  ◆言葉への意識の低さ
  いや、エロゲーは低いよ。無選抜の世界だもん。
小説なら新人賞とか出版社の人とかいて、選抜システムがあるわけよ。だから、少なくとも、日本語の書き方を知らない馬鹿は入ってこない。そういうのはまず振るい落とされるからね。
 
  なべ君 ええ、1次落ちってやつですね。  
  けど、エロゲーにはそういうのはない。
ないから、エロゲーの世界は、一次予選で瞬間的に落選しちゃうような台詞力、文章力の人がぞろぞろ入ってきちゃう。だから、シナリオライターの構成率が、まるで小説新人賞の応募原稿のような感じになっちゃう。
 
  なべ君 笑(^^  
  いや、これが笑い事じゃないんだってば(涙)。8割アマチュア、2割まともレベル。あるいは、9割アマチュアレベル、1割まともレベル。そんな感じ、感覚的にあるからね。  
  なべ君 全体が低くなってるってことですね。たしかに泣けてきますね。  
  泣けるよ。平均評定値だしたらわかるもん。
仮に、9割がだめだめとして点数1つけるだろ? で、1割がいい人として最高点の5をつけるとするでしょ? で、ライターが100人いるとするじゃない。
1.4よ。平均値。
 
  なべ君 うわ(^^;;  
  低いってもんじゃないでしょ? 地の底。匍匐前進レベル。これじゃユーザーがかわいそうだよ。三点リーダーの使い方にしても知らない書き手がいっぱいいるし。「?」や「!」のあとに全角1字をあけない人とかね。「・」(なかてん)を使って沈黙を書いちゃう人とか。  
  なべ君 基本ですね、どっちも。  
  その基本も知らない。これ、他の世界だったら凄いことだよ。野球の世界だって、アマチュアの少年もルール知ってるわけよ。なのに、文章の世界はそうじゃない。
「……」使ってても2マス分じゃなくて、1マス、3マスとかやたら多用している人とかがいる。わかっていて、でもここは敢えて……というので使っているのならわかるんだけど、そういう確信犯じゃなくてずるずると無意識に使っている。言葉への意識が低すぎるよね。
はっきり言って杜撰すぎる。工業用排水と同じレベルの文章ばかり大量生産してるんだから。それで3MB、6MBって言ったって全然偉かない。ただ近所迷惑なだけ。そういうの、やめてほしいのよね。産業廃棄物垂れ流しにして、何テロップに名前を載せてんだよって気になる。削って削って、ちゃんと日本語規則守って書いて結果として5MBっていうなら話はわかるけど、そんなものはないわけよ。だいたい、今どき5MBも費やさないと書けない物語ってめったにないし、物語の必要性からそれだけの量を書いているとは思えない。書き手として未熟だから爆発的に量が増えるんであってさ。ユーザーがコントロールキーで飛ばすからっていうけど、もともと飛ばされて当たり前の糞みたいな文章をだらだら書き流しにされたら、誰だって飛ばすわけでさ。責任は下手糞な文章を大量にものした自分たちでしょ? って思うわけよ。このソフトは中身がありますよっていう保証のために「何MB」って魔法が使われている側面もあるんだけど、そんなのはただの質の低い幻惑であってさ。1キャラにつき150KB以上のシナリオが用意されていればそれだけで十分ユーザーが満足できるお話というのは書けるわけ。そのあたり、作り手にても受け手にもわかってほしいわけよ。これ以上言葉に対してプライドもなく技量もない人にみっともない真似をされるの、不愉快なだけだもん。ユーザーもかわいそうだし、業界もかわいそうだよ。
 

  ◆つなぎという曲線
  なべ君 少し戻して話を、直線的なシナリオとそうでないシナリオってやつですけど、直線的なシナリオってのは、物語の最初から最後に向かって一直線で、最後に描きたかった(?)ラストにたどり着いて、それで終わって、ある意味、すごく無駄がないというか寄り道がなくて、進んでいくという感じですよね?  
  無駄がないというのではないね。必要なつなぎがないお話。  
  なべ君 シーンとシーンの間のつなぎ?  
  山場と山場のつなぎ。つなぎって、そういうものでしょ? 山場と山場をつなぐことだから。それをつなぎっていうわけよ。  
  なべ君 私は物語の厚みってことかなって理解したんですよ。直線的ってのを。  
  直線的ではないことが、物語としての厚みがあるってこと? 直線的なのは、物語として厚みがないってこと?  
  なべ君 うーん……ゆとりっていった方がいいのかなぁ。  
  ゆとり? ちょっとわからないな。おれが考えているのは違う言葉なんだよな。  
  なべ君 山場ってのは盛り上がるシーンという理解で良いのですか?  
  そう。  
  なべ君 つなぎってのは、どういう感じですか?  
  山場と山場をつなぐこと。それがつなぎ。ゲームのシナリオだったら、何気ない日常シーンとかね。
山場というと、イベントCGがある場面という理解でもいいと思う。
 
  なべ君 分かりやすいですね >イベントCG  
  たとえば、ある子が悩みを打ち明けるとするじゃない。
すると、その前に最初に出会って、それから何度か出会いを重ねて、というのがつなぎなわけ。悩みを打ち明けるところが山場でね。
けど、悩みを打ち明けるプロセスもへったくれもないわけよ。
いきなり登場してすぐに悩みを打ち明ける。最近のアニメもそうなんだけど、
「わしには娘がいるんじゃが……悪いやつがいてそいつに……(涙)」とかね。
そんなに簡単に人が悩みを言いますか、って思うんだけど、やってしまう。
人に対する理解が足りない。人間を理解していない。 人間の情緒反応と言語表現とのつながりをまったく考えていない。つまり、これだけ苦しいときにはこういうふうに言葉として出てしまうというそういう言葉と情緒とのつながりを一切理解していない。だから、人間が描けない。
 
  なべ君 ああ、ありますね。シナリオのためのキャラクターだったり性格だったり、行動だったり。  
  粗筋を書いているような感じね。そんなの商品として出すなと思うんだけど、出てしまっている。  
  なべ君 「人は、話の流れに感動するんではなくて、話の中の人の感情に感動する」  
  近い近い。
感情というのは、プロセスなわけよ。それはつなぎがあって初めて描かれるものなわけよ。
山場はあくまでもひとつのきっかけ。ホースの先みたいなもの。
中に水が通っていないと出てこない。ホースの中に水を通すっていうのが、つなぎを書くこと、プロセスを書くことなわけよ。
けど、水を通さないでいきなりホースの先を絞ってしまう。屁しか出ないってば(笑)。
 
  なべ君 (笑)  
  で、プロセスが抜けるから、重みがなくなると。ぺったんこの感じになる。
それを流れから見ると「直線的」ということになるだろうし、厚みから見ると「うすっぺらい」ということになるだろうし、重みから見ると「軽い」ってことになるだろうね。
 
  なべ君 物語って、大まかに言えば数としては大した数ないと思うんですよ。じゃ何が違うのかって、描き方なんだろうなぁって。
いかに丁寧に、自分らしく描けるか。積み上げることが出来るか(積み上げるのは物語)。
 
  元素変換すれば物語はいくつかのパターンにはおさまっちゃうからね。
実際、物語のパターンというのは、19世紀にすでに出尽くしてるって言われてるからね。ただ、それは元素が発見し尽くされているというのと近いんじゃないかと思うのよ。
 
  なべ君 物質が出尽くしてるわけじゃないですよね。  
  そう。物質は人の精神、人の個性だからね。  

  ◆短く書いてだらだら感を出すのが、書き手の技
  なべ君 少しさっきしかけた厚みの話をしたいのですけど、物語を描きなれてないと(自分も含め)、思いついたものを描くので精一杯になって、ゆとりがなかったり、あせって、先を急いでしまったりとかあると思うんです。他人の言葉を借りれば「君が描こうとしてることは、本当にその長さで足りるのか?」って。  
  粗筋を書いちゃうってことね。  
  なべ君 そうです。で、書いてるときに気分がのると、物語には必要ないって思うんですよね、例えばさっきの日常シーンとか。もちろん必要がないわけじゃない。なんていうのかな、余裕とか、広がりとか、つなぎとか、厚みとか、そういうのってすごく大切だけど見落としがち。でも一番大切なのは、さっきの言葉で言えば山場のシーンよりも、そういうところを丁寧に、妥協なく"掬いあげる"ことなんだろうなぁ……と。
 
  そういうところを丁寧にっていうのは、日常シーンとか、余裕とか拡がりとかつなぎとか厚みってこと? そこを丁寧にってこと?  
  なべ君 そうです。  
  小説の場合は、丁寧にというより、いかに無駄なくうまくってことになるだろうね。ゲームの場合は、いかに短い行数で、でも、ものたりないという感じを出さずに、ということになるだろうね。つなぎに対する意識が人称の感覚が違うから。  
  なべ君 うーん……言っておいて、よく自分でまだよく整理付いてない感じします(汗。ただその無駄、無駄でないという線引きは、かなり難しいように思います。  
  そうでもないよ。ゲームの場合は、死んでも書きたいか? ユーザーにクリックさせたいか? 小説の場合は、ここ削れるか? 削れないか?
 
  なべ君 死んでも書きたいかってのは名言ですね。余計なことを書きたくなっちゃう人にとっては、とっても。  
  多く書くことが才能と勘違いされている節があるからね。でも、違うからね。
絞り込めてなんぼ。
日常シーンをだらだら書いてだらだら感を出すんじゃなくて、短く書いてだらだら感を出すのが書き手の技。
だらだら感を2倍だらだら書いて出すのは書き手として未熟なだけ。そんなのは才能でも屁でもない。
 

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