第17話 「サムソン」
士師記 16章1節~31節
ナレーション:
動物村小学校の冬のホットな行事と言えば、「全宇宙ドッジボール大会」でしょう。子供は風の子、冬の寒さを吹き飛ばして元気に飛んだりはねたり、玉を投げたり、よけたり取ったり・・もう冬将軍が逃げてしまうほどです。
そして、この大会でのヒーローは、我らのポン吉です。その身の軽さ、ずる賢さ、そして何よりも優勝商品のニンテンドーDSが、ポン吉の力を200%引き出し、無敵の強さなのです。
この大会は一週間かけて行われるものですが、今年もポン吉の白組が順調に優勝を目指していたのです。
しかし・・
うさ子さん:
ははは・・いいのよ、いいのよ。だってポン吉はドッジボールをするために生まれて来たようなものだもの・・
でも、くやしいわ。同じチームならよかったんだけど、ポン吉とこぐくんが白組で、私が赤組でしょう?
仲良しなのに、この大会では敵味方なんだもの。
こぐくん:
まあ、しょうがないよ。たかがゲームじゃないか・・
ポン吉:
そうだよ。敵味方はゲームの中だけ、僕たちは永遠に仲間さ!
・・それじゃあ僕とこぐくんはこれから、裏山で秘密の特訓をするから、また明日ね!
うさ子さん:
えーっ? 秘密の特訓? 知りたいわー!
ポン吉:
だめだめ、いくら仲良しのうさ子さんでも、こればかりは教えられないよ。ごめんね!
じゃあ、また明日ね・・
うさ子さん:
はーい。さよなら・・
って、行っちゃった・・う~ん、くやしいわ~。実を言うとね、私、赤組のキャプテンに頼まれちゃったんだよね、ポン吉をつぶせって・・
「ポン吉さえつぶせば、白組に勝てる。今年こそ優勝するんだ。そのために、うさ子さん、この通り、土下座するからお願いだ。ポン吉の強さの秘密を探ってくれ。」と言われたのよね・・
で、「もし、うまく勝てたらエルメスのオーストリッチのバックをあげるから・・」なんて言われたのよね・・ああ、女って弱いものよ・・何しろオーストリッチしかも最高級のオーストラリアのダチョウの皮のバックって180万円はするんだから・・やはり、女性の夢でしょ!
うまくポン吉の強さの秘密を聞き出してやるわ・・
ナレーション:
ぞーっ! なにやら今回はいやな展開になりそうです。あの仲良し三人組の間に忍び寄る黒い影・・もちろん、ポン吉の強さの秘密も知りたいですが、もしかしたら三人の友情がオーストリッチのバックではかなくも壊れてしまうかも知れないのです。
ポン吉:
もしもし、ポン吉ですが・・ああ、うさ子さんか、どうしたの?
ポン吉:
な、なんだよ、気持ち悪いな、そんな猫なで声で・・うさ子さんはうさぎでしょう?
うさ子さん:
うふふ・・いいから、いいから。ねぇ~ん、うさ子のお願い一つ聞いて~ん。
ポン吉:
うん?何?僕明日のドッジボールの試合のために早く寝たいんだけど・・
うさ子さん:
ねぇ~ん、そんなこと言わないで・・あの、一つ教えて欲しいんだけど、ポン吉のドッジボールの強さの秘密教えてくれない?
ポン吉:
え? 強さの秘密? う~ん、教えられないよ!
ポン吉:
あのね、僕の耳、耳なんだ。小さいけどこれがレーダー見たいに瞬時にボールの飛んで来る方向を察知してよけるから、耳をしばっちゃえば、まるで目が見えないようになって、いちころだよ。
うさ子さん:
めもめも・・へー、「耳をしばれば、いちころ・・」そうなんだ! ありがとう! ガチャン!
ナレーション:
しかし、ポン吉が言ったのはでたらめで、次の日もポン吉は風のように飛び、相手チームを翻弄して圧倒的強さで勝ったのです!
ポン吉:
あれ? どうしたの? うさ子さん、目を真っ赤にして泣いて・・
うさ子さん:
目が真っ赤なのな生まれつきよ! それより、どうして嘘をついたの?
うさ子さん:
だって、だって、「耳をしばれば、いちころ・・」って言うから、うさ子試合の前にポン吉に帽子をかぶせるふりをしてポン吉の耳を縛ったのよ、それでもポン吉、全然大丈夫で、今日大活躍だったじゃない!
ポン吉:
ああ、あれね、嘘だよ! はは・・敵チームに本当のこと、言うはずないじゃん! ははは・・
うさ子さん:
ひっど~い! つまり、一番の友達の私に恥をかかせたのね? うさ子なんて、どうなってもいいんだ! あ~ん、あ~ん!
ポン吉:
ああ、泣かないでよ・・女の子の涙には弱いなぁ~。ねぇ、泣かないでよ、本当のこと、言うから・・
うさ子さん:
え~っ! 本当? きゃっほ~! うれしいな、うれしいな。たらったらったらった、うさぎのダンス♪~
ポン吉:
しょうがないな~、なんて現金なんだ、さっき泣いたかと思ったら、もう笑ってダンスかよ・・
うさ子さん:
で、何、何? ポン吉の秘密って。ポン吉の力がぜ~んぶ抜けるようにするには、どうするの?
ポン吉:
う~ん、あ、そうそう、あのね、ぼく、鼻をつままれると、力が抜けるんだ。鼻ってすごい大事だよね。これをつままれると、なんかきゅーっとね、力が抜けてへなへなになるんだな・・
うさ子さん:
そうだったんだ! めもめも・・「鼻をつままれると、力が抜けてへなへなになる・・」うわーい、ありがとう! じゃあね!
ポン吉:
うさこさん・・あれ? もう行っちゃった・・変なうさ子さんだな・・
ナレーション:
今度こそ、ポン吉の弱みをにぎった相手チームが勝つように思いますが・・しかしまたもやポン吉が言ったのは全くのでたらめで、次の日もポン吉は稲妻のようにあっちへ行ったと思ったらこっちと、相手チームをあわてさせ圧倒的強さで勝ったのです!
ポン吉:
あれ? どうしたの、うさ子さん、そんなところで暗く沈んでいて・・
ポン吉:
え? どうしたの、うさ子さん、よく聞き取れないよ・・
うさ子さん:
だから、もうポン吉なんて、だいっきらいって言ったのよ!
ポン吉:
うわっ、びっくりした、急に大声出して・・
うさ子さん:
うっ、うっ、うっ・・う、うわ~~~~んん!おいおいおい・・
ポン吉:
おいおい・・よせよ、泣くなよぅ。まるで、僕が泣かせている見たいじゃないか!
うさ子さん:
何よ、レディの気持ちも知らないくせに! ポン吉が泣かせているのよ! ポン吉がいけないのよ!
うさ子さん:
だって、「鼻をつまめば、へなへなになる。」って言ったじゃない。だから、ポン吉の顔、汗だらけだからこの冷たいタオルでふいてあげるって言って、吹きながら洗濯ばさみで鼻をぎゅーっとつまんで、息が出来ないようにしたのよ。でも、ポン吉、ぜんぜん元気で昨日以上に大活躍したじゃないのよ!
うそつき!
ポン吉:
おいおい、敵チームに本当の弱点教えてどうするんだよ! 僕は、もともと花粉症がひどいし、ふだんも鼻炎だし、鼻なんかいつも完璧につまっているから、口で息しているだよ、だから鼻をずーっとつままれても、全然平気なんだよ!
うさ子さん:
ひどい人! うさ子、自分のチームから「ウソ子」って言われていじめられて、無視されて、ひどい目にあっているのよ。
ねぇ、ポン吉って自分のことしか考えていないんじゃないの?
ポン吉:
ええ? そんなことになっていたのか・・知らなかったよ。
うさ子さん:
ポン吉は、ニンテンドーDSだけしか目にないんでしょ? うさ子なんてどうなってもいいんだわ・・
今度失敗したら、もう追放だ、とまで言われたんだから・・
うさ子さん:
なら、教えてよ! 最後のチャンスなのよ。
うさ子さん:
ポン吉の力の秘密を教えてよ! どうすれば、ポン吉の力をなくすことができるの? うさ子を助けると思って・・!
ポン吉:
でもなぁ・・チームを裏切る訳にも行かないし・・
うさ子さん:
いいわ、じゃあ、婚約解消ね! もうポン吉の所にはお嫁さんに行かないんだから・・もう、やけだから、こぐくんと結婚しようかな~っ?
ポン吉:
おいおい、それは困るよ、まじ困るよ・・わかった、わかった。じゃあ、本当のことを言うよ。
うさ子さん:
え~っ! 本当? ・・でも、いいわよ、うさ子だけがひどい目にあえばいいんだから、本当に大事なことなら、言わなくていいのよ。
ポン吉:
ありがとう、僕のことをそんなにまで・・! よし! 僕の力の秘密を教えるよ・・
僕の力の秘密は・・このしっぽなんだ。
うさ子さん:
あ、そうなんだ! めもめも・・「しっぽが力の秘密・・」
ポン吉:
うん、さるにとって、しっぽはと~っても大事なんだ。これでバランスをとって動いているから、どんなに早く動いても、どんな体勢でも正確にすばやく動けるんだ。これをしばられたら、まるで羽のない鳥のようになってしまう。
うさ子さん:
うんうん、「ポン吉のしっぽをしばれば、羽のない鳥のようになる。」ありがとう、ポン吉! 大好き、ちゅっ!
ポン吉:
そうなんだ・・だから、明日の試合は、僕、しっぽをしばって出るよ。うさ子さんのために・・
うさ子さん:
え~っ? うっれしい~ぃ! だから、ポン吉が世界中で一番好き! ありがと~っ!
ポン吉:
ああ、行っちゃった・・うさ子さんのためにはこうするしかないのか・・
ナレーション:
今度こそ、ポン吉は本当に自分の力の秘密を言ったのでしょうか? そうなんです、うさ子さんを助けたいばかりにポン吉は身を犠牲にして自分からしっぽをしばり、しっぽでバランスを取れない状態で試合に出て、本当に翼がない鳥のようなぶざまな動きで相手チームにめっためたにされたのです。
ところが・・
陰の声1:
はは・・! やったぜ! あのバカ女、うまくやってくれたな! 御陰で今年の総合優勝は赤組のもんだな!
陰の声2:
まったく! 自分が利用されただけだとも知らないで・・180万円するヘルメスのバックなんかもらえるわけないじゃん! あはははは・・バカうさぎ、バカおんな!
陰の声2:
きゃー、こ、殺さないで~!(ばし! ぼいん!)
うさ子さん:
純真なレディーをだますからよ!
はっ、しまった、ポン吉!ごめんね!
ナレーション:
自分がだまされて大切な仲間を裏切ったことに気づき、我に帰ったうさ子は急いで試合をしているポン吉の所に行って、叫びました!
うさ子さん:
ポン吉~っ! 私が悪かったわ! 私のためにも勝って!
うさ子さん:
私、だまされていたの! お願いだから、しっぽを自由にして、赤チームをめっちゃくちゃにして!
ポン吉:
なんだか、よく分からんが、とにかく勝つよ! よ~し、このひもを取って・・おお! しっぽくん、自由になったか! よし、ひとあばれだっ!
ナレーション:
ポン吉の強さの秘密、しっぽが自由になったことでポン吉は100人力の力を発揮し、赤チームの選手の投げる玉を右に左に上に下に避け、手でも、足でも、しっぽでも相手のボールをキャッチし、自由にカーブする玉で相手の選手をばったばったと倒して行きました・・そして! 優勝です! 総合優勝です!
うさ子さん:
きゃーっ! すごかったわ! こんな鬼みたいに強いポン吉、初めてみたわ! またまた大好きになるわ~!
ポン吉:
うさ子さんが真剣に応援してくれたからだよ。一体どうしたの?
うさ子さん:
本当にごめんなさい。わたし、「ポン吉の力の秘密を聞き出したらエルメスのバックをやる。」と言われて欲に目がくらみ、ポン吉をだましてたの・・もう、ポン吉のフィアンセの資格なんてないわ、いいえ、もうポン吉の友達としても失格よ。
ポン吉:
そうなんだ・・どうもおかしいと思ったよ・・でも、いいよ、許すよ。ポン吉は心がお空ほども広い、ビッグなモンキーさ。さ、ちゅーをしようよ、ベイビー。
うさ子さん:
だめ、ちゃんと結婚してからよ。ちゅーするなら、この優勝商品のニンテンドーDSにしてね。
ポン吉:
わーい、やったー! ニンテンドーDSだ! あれ?これ、ニンテンドーDSのカタログじゃないか! どうしたんだよ!
こぐくん:
あ、それね。大会本部で今年の優勝賞品は、チャンピオンがいいと言えば、賞品を買うお金をスマトラ沖地震の支援のために募金していいかって・・いいよね、ポン吉。僕、もういいって言っちゃったよ! はは・・
ポン吉:
う、うえーん! いいよ、いいよ、おいらは心がお空ほども広い、ビッグなモンキーさ! 人を助けるために使うなら、それが一番さ、さ、最高にうれしいよ!
うさ子さん:
かわいそうな、ポン吉、じゃあ、うさ子がちゅーしてあげる!
ナレーション:
何が一番大切なのでしょう? それは、自分を犠牲にして相手のためにたおれることです。そしてお互いに許し合うことです。おっと、それから誘惑する人にだまされないこと、いいですね?
(おしまい)
第18話 「ステファノの殉教」
使徒言行録 7章54節~8章1節
ナレーション:
6月の動物村では、住んでいる動物全員が参加する大きな行事があります。それは、「動物村大くじ引き」と言うものです。宝くじと言えば、3億円が当たる「サマージャンボ宝くじ」が有名ですが、動物村のそれは、少し変わった行事なのです。
少し断っておきますが、今日は目には見えませんが、いつもと違うキャラが出て来ますので心の目で見ていてくださいね・・
こぐくん:
そうそう、とうとう、やっとこさ、ついに・・なんだな、この日になったね・・で~えっと~、どんな日だっけ?
カメ吉:
あんさん、ほんまにおばかでんな! マンモスも驚く大きな体の割には、脳みそはピーナッツより小さいのんとちゃうか?
今日は、動物村のみなはんならよ~く知ってはる、「動物村大くじ引き」の日でんがな!
ポン吉:
そうそう、だからこのファッショナブルな「動物村スクェア」に、動物村に住んでいる動物が全員集まったんじゃないか。みんなもカラーボールを持っているし、ほら、こぐくんだって持っているじゃないか!
うさ子さん:
あ~あ、ショッピングやライブ、タッキーのサイン会みたいなイベントなら、よかったのにな~、「動物村大くじ引き」なんて、もう流行らないわよ!
ポン吉:
たしかに、ロケットが火星や木星に行く時代に、こんな古くさい行事など、もういらないよ!
ゾウのおじいさん:
これこれ、ばちあたりなことを言うもんじゃない、わしはこの通り、77歳にもなる年よりじゃが、この行事の「6月にライオン神さまのためにくじ引きすれば、秋に収穫もりもり」のことわざは本当なんじゃよ。
うさ子さん:
しっ! そろそろ始まるわよ! 名前が呼ばれたら、くじを取りに行くのよね・・
こぐくん:
くじ引き実行委員長のレッサーパンダさん、直立してはりきっているね! あの立ち姿は、ほれぼれするよ・・!
レッサーパンダ:
それでは、全員集まったようなので、そろそろ私たち動物村の仲間の一番大事な年中行事、「動物村大くじ引き」を始めたいと思います。名前を呼びますので、一人づつくじを取りに来て下さい。おっと、その前に・・毎年のことですが、注意事項を読みます・・
1) くじ引きの最中はお静かに。
2) くじを引くときは、くじ箱の中をのぞかない。
3) くじを引いたら、さっさともとのところに戻る。
4) くじをみんなで一斉に見る最後まで、ぜーったいに盗み見ない。
5) くじではなをかんだり、お尻をふかない。
(笑わないでください。これ、本当にする人がいるんですから・・)
6) くじの当選者が決まったら、さっさカラーボールを使って終わらせる。
以上、みなさん、分かりましたね?
レッサーパンダ:
では、始めます。「♪~ライオン神のため~くじ引けば~秋に収穫も~りもり~♪」
アルマジロさん、アリクイさん、アライグマさん・・いのししさん・・
ポン吉:
どきどき・・心臓に悪いな~っ! 今年は誰が当たりを引くんだろう・・
うさ子さん:
ねぇ~っ! いやだわ~、私たち仲間が当たらないと、いいわね・・
こぐくん:
えっ? くじなんだから、当てようよ・・
カメ吉:
またまた、おばかなこと言いはって! 普通のくじなら、当てた方がよろしい、でもあんさん、これは普通のくじやおまへんのや、なにしろ・・
レッサーパンダ:
こらっ! そこっ! うるさいぞ! この行事は厳粛な行事なんだから、静かにしなさい!
ゾウのおじいさん:
まったく、近頃の若者はなってないわい。昔、わしらは全員直立不動で一言を言わずに名前を呼ばれるのを待っておったもんじゃ・・
ポン吉:
おい、かめ公! おまえのおかげで怒られたじゃないか! あとで、砂場で決闘だ、いいな! 逃げるなよ!
カメ吉:
それは願ったりかなったりや、最近、ボブサップはんからおそわった、プロレスのわざの実験台に困っておったところや!
うさ子さん:
あ! あたしだ、どうしよう・・足ががくがくしているわ・・
ポン吉:
がんばって! 当たらない様に・・当たらない様に・・
こぐくん:
でも、くじなんだよね? なぜ、当たらない様に祈っているの?
カメ吉:
ちょーばか! こぐはんには記憶力がおまへんの? 去年のくじを当てたワニはんがどうなったか、まさか、お忘れにならはった? もう、見ておられんかったやないか・・
レッサーパンダ:
こらっ! またそこかっ! だまらなかったら、犬のおまわりさんに逮捕してもらうぞ!
ゾウのおじいさん:
は~、世もすえじゃ・・子供たちがつけあがるのは、親たちがだらしないからじゃ。昔なら・・
ポン吉:
おい、かめ公! またおまえのおかげで目をつけられたぞ! どうしてくれるんだよぉ~!
レッサーパンダ:
あ、こらこら5枚もつかんで、一枚にしなさい・・
ポン吉:
ばかだな! くじが多ければ当たる確率が高くなるだろっ!
レッサーパンダ:
ぺんぎん・・ポン吉・・ポン吉くん!
レッサーパンダ:
ふざけないでください。君がポン吉でしょう?
レッサーパンダ:
うそはいけませんよ。この動物村戸籍データーベースによると、ポン吉にはお兄さんはいません。早く・・!
レッサーパンダ:
らいおん・・らくだ・・レッサーパンダ・・あ、これはわたしだ・・一枚取ってと・・わし・・わらいかわせみ・・これで、最後ですね。それでは、みなさん、くじを開けてください。
ポン吉:
ごく・・僕のじゃないよね・・や、やったー! はずれだ! わーい、わーい!
カメ吉:
あほな・・はずれのがええんじゃ。わいのもはずれ・・
ポン吉:
さ~て、誰かな? 当たったのは? よーし、ポン吉のスーパーボールが炸裂するぞ~っ!
こぐくん:
うさこさんは? あれ? うさこさん・・泣いてるよ・・
ポン吉:
本当かよ! ああ! このくじの黒い大きな丸は・・当たりだ! うさこさん・・!
レッサーパンダ:
では、当たった人は出て来てください。
レッサーパンダ:
一体誰なんですか? さっさと片付けないと、みんな午後の仕事が忙しいんだから・・
カメ吉:
わいや! わい! 今年の「ラッキー動物」の大当たりは、このカメ吉でっせーっ!
カメ吉:
さあさあ、みなはん、このカメ吉のこうらを的だと思って思う存分にみなはんのカラーボールを投げつけておくれなはれ・・ほれほれ、遠慮はいけまへんで~っ!
レッサーパンダ:
そうですか、それでは、カメ吉くんを本年の「動物村大くじ引き」の大当たり、「ラッキー動物」と認定します! みなさん、思う存分にカラーボールを投げつけましょう!
ナレーション:
そうだったのです! なんと恐ろしい事に、くじ引きと言えば普通は当たった人は、何か賞品が当たったり、何かいいことがあるのですが、「動物村大くじ引き」に当たった人は、みんなにカラーボールを投げつけられて、ぼこぼこにされ、死なないまでも全身打撲で意識を失い・・2~3日は病院で過ごす事になるのです・・実際、大昔には本当の石が使われて、当たった人は死んだのでした。それは、ライオン神への犠牲となって、喜ばせ、秋に大きな収穫を願うためでした・・
ポン吉も、こぐくんも、うさこさんも、なるべく弱くカラーボールを投げましたが、興奮した他の動物はものすごい勢いで投げつけました・・
最初は、うおっ、いたっ、いたたた・・と言っていたカメ吉も・・声が出なくなり、とうとう気を失ったようです・・
レッサーパンダ:
はい! そこまで! 終了です! 早く手当をしてください!
ポン吉:
うん? みんな黙って! 何か音がするよ!
ポン吉:
おい、カメ吉! どんどんどん! 大丈夫か!
カメ吉:
や、やかましいがな! 人が気持ちよう眠っているのに・・
うさ子さん:
あ、頭が出てきたわ! 生きているのよ!
カメ吉:
生きてまんがな、びんびんやでぇ~! カラーボールがぽんぽん当たってきよって、ナイスな刺激でふわーっと寝てしまったがな・・
こぐくん:
ポン吉、泣いてるよ。仲悪かったんじゃないの?
うさ子さん:
けんかするほど、仲がいいって言うのよ。でも、ありがとう、カメ吉さん、だってもし当たりが温室育ちですっごいデリケートな私だったら、きっと死なないまでも大けがをしてたわ・・ありがとう・・
こぐくん:
ほんと、勇気あるよ・・こぐくんを押しのけて、「わいや!」って言ったの、かっこよかったよ!
ポン吉:
でも、どうしてなんだ? どうして自分を犠牲にして・・?
カメ吉:
はは、まだ言うてなかったな・・わいのおっかはんは医者だったって・・「他の動物より長い命を与えられている私たちができることは、その命を他の人に与える事。自分のためだけに生きるのは、生きていないのと同じ事。といつもいつも言っていた。まだ安全か分からない薬を自分の体に使って実験して作っていたんだ・・それで、早く死んでしまったけど・・でも、そんなおっかあが世界で一番自慢なんだ・・わいもちょっとでも、おっかあに近づきたい・・だから動物村東大の医学部にも行きたいし、自分の仲間が傷つくのはよう許せなかった・・
なぁ、レッサーパンダはん、ここにいる動物村のみんな、そんなわいのおっかあに免じて、このやばんな「動物村大くじ引き」を止めまへんか。なぁ、ぞうのおじいさんも・・
ゾウのおじいさん:
おお! よう似ておるのぉ・・お前は、おカメさんの息子なのか! わしは、66歳の時にひどい病気で死にかけたが、おカメさんの薬のおかげで命びろいしたのじゃ・・そうかカメ吉くん・・おカメさんがそう言っておったのか・・うんうん、レッサーパンダさん、動物村のみんなも、わしからもこの恐ろしい行事を止めるように提案しますじゃ。
レッサーパンダ:
この村一番の賢者のゾウじいがそうおっしゃるなら、この行事を廃止したいと思いますが、みなさん、どうでしょう?
みんな:
そうしよう! そうしよう! ぱちぱちぱち!
レッサーパンダ:
それでは、全員一致なのでこの行事を廃止します。その代わり、ここにいるみんなが何かしらお世話になったおカメさんを記念する日にしたいと思いますが、どうでしょうか?
みんな:
そうしよう! そうしよう! ぱちぱちぱち!
ポン吉:
あ~あ、カメ吉は一躍動物村のヒーロー、亀たくかカメローになっちゃったな! もう、けんかもできないや・・
カメ吉:
それとこれとは別、さっきの約束はまだ生きているぞ、後で砂場で決闘だっ!
ポン吉:
よーし、モンキーパンチでぼこぼこにしてやるぞ!
こぐくん:
カメ吉のこうらを殴ってもポン吉の手がぼこぼこになるだけだぞ!
ナレーション:
こうして、古くからあった忌まわしい行事、「動物村大くじ引き」は、カメ吉の犠牲的な捨て身の提案で廃止となりました。そして、自分の体を犠牲にして新しい薬を作ってみんなを助けたおカメさんを記念する日として、誰でもただで病院で治療を受けられる日になったのです。命を傷つける日ではなく、自分の命を犠牲にして命を守り育む日になって、さぞ天国のおカメさんもカメ吉が自慢でよろこんでいることでしょう。
(おしまい)
第19話 「汝の父と母を敬え」
出エジプト記 20章12節
ナレーション:
今日は動物村のアニマル教会で仲良し三人組は「出エジプト記」の中の十戒のうち、五番目の戒め「汝の父と母を敬え」を学びました。
ポン吉:
「汝の父と母を敬え」か・・う~ん、お母さんを敬うのは分かるんだよな・・でも、うちのおやじはどうかな? かなり微妙だな~
うさ子さん:
え~っ! どうして? あたし、パパを思いっきり尊敬しているわ、やばいくらい・・だって、会社の社長で、た~くさんの人を雇っているし、私たちの大きな4階建ての家、車はベンツ、庭にはハート形のプール、みんなみんな、パパが一生懸命働いているから、エンジョイできるのよ~!
あたし、結婚するなら、パパ見たいな人がいいな、いえいえ、パパがいいなぁ~!
ポン吉:
おぇ~! 「結婚するなら、パパがいいな~」かよ! それ、まじきもいよ。ファザコンだよ、あぶないよ。
こぐくん:
あれ? ポン吉、本当にお父さんを尊敬できないの? 僕のお父さんザ・ビッグベアーは、僕のヒーローだよ! もう、アニマルプロレスは引退しちゃったけど、現役時代は無敗だったし、今でも動物村の建築現場では重い丸太なんかをクレーンなんかいらないくらい軽々と持ち上げているもの。
ポン吉:
まあ、確かにこぐくんのお父さんはすごいよな、僕だって大ファンだったもの。K-1に出ていたらきっとよゆうで優勝だったよ。でも、僕のおやじはねぇ~とてもとても・・
うさこさん:
そうかなぁ~、あたし的にはすてきな中年モンキーに見えるんだけど・・
ポン吉:
まあ、外面はいいかもね・・でも、ただのサラリーモンキーだから、対してお金もないし、仕事がきついきついっていつも言っていて、家に帰ればいつも「リラックス、リラックス」と言って、パンツ一枚でソファにふんぞり返って、「おい、ポン吉、ビール持って来い。なんだ、ビールだけ持って来たのか?おつまみはどうした?分かっているだろ?気が利かないな。なんだ、このビールは冷えてないじゃないか!」って言って、僕の頭をポカポカなぐるんだもん! すごーい、酒臭い息しちゃってさっ! そんな人、尊敬できるわけ、ないよ!
うさこさん:
う~ん、それは確かにひどいわねぇ・・
こぐくん:
でも、やっぱり僕たち家族のために一生懸命汗流して一日中外で働いて来るんだし、少しくらいは大目に見ないと・・
ポン吉:
だめだめ、それでうちわぱたぱたさせて野球をわめきながら見ていて、いつのまにかよだれたらして寝ちゃってさ、ぐおーぐおーいびきかいているんだもの・・それで、僕がタオルケットをかけてあげたら、お礼の代わりに「ボム」っておならするんだよ! 鼻ッ先でだよ・・もう臭くてくさくて・・正直、ちょっと意識がうすれたね・・
うさこさん:
あらあら、自分のおならで免疫ができていて平気なんじゃないの?
ポン吉:
なにを! 自分だってトンネルの5番とか言うくっさい香水ぷんぷんのくせに!
うさこさん:
ま、なんて無教養なの? 「トンネル」じゃなくて「チャネル」よ! 自分じゃないの、「おれ、お尻で息しているんだぁ~」ってふざけて「連続おなら100回!」とか言ってるの、このおならマンのプー吉!
こぐくん:
まあ、まあ、二人ともけんかしないで・・
カメ吉:
あんさんがた、いつもおめでたいでんなぁ・・なぁ、ポン吉はん、気持ちはよ~分かります。わいもおんなじでした・・
ポン吉:
あ、カメ吉。そう言えばカメ吉のお母さんのおカメはんは今では動物村のヒーローだもんね。野口英世かアルバートシュバイツァー、まぼろしの名医、自分を犠牲にして新しい薬を作って、みんなのために命を捨てた・・素晴らしいお母さんだったね・・
うさこさん:
でも、お父さんのことは聞いてなかったわ・・お母さんにお似合いの、やはり素晴らしいお父さんなんでしょうね! ね、聞かせて、聞かせて!
こぐくん:
うん、カメ吉のお父さんのこと、聞きたいな。きっと、「ニンジャタートルズ」の様にかっこ良く悪者を倒す正義のヒーローなんじゃない?
カメ吉:
ふっ、ちゃいます、ちゃいます。動物村、いや、世界中で一番ダメなおやっさんでした・・
ポン吉:
おいおい・・「でした・・」って・・もう、いないんだ。ごめんね、聞いてさ。
カメ吉:
いやいや、みなはんには聞いて欲しい、思います。わてのおやっさんのこと・・ひどい人でした・・
うさこさん:
初めて聞くわ、お父様のこと。おカメはんは有名で、動物村資料館にもアニマルノーベル賞受賞の時の写真とかたくさん書いた医学書があるけど・・
カメ吉:
ポン吉はんのおやっさんはわてのおやっさんに比べれば、かわいいもんです。ライオンとねずみを比べるようなもんです。本当にひどかった・・
カメ吉:
おやっさんは、めったにうちに帰りませんでした。たまに帰れば、お酒でも飲んでいたのか、大暴れしておっかぁとわてに暴力をふるいました。今でも、忘れられません、そん時のこわさ・・押し入れにおっかぁと隠れてぶるぶるふるえてな・・「カメ吉はどこだぁ~!カメ吉を出せぇ~」ってどなって、出て行けば何されるか不安で不安で、おっかぁの胸にしがみついていました・・
ポン吉:
それはひどいなぁ・・力は暴力のためじゃないよ・・
うさこさん:
ひどいわ~、でも優しい時もあったんでしょう?
カメ吉:
ま、確かにおもちゃとかケーキを買って来てくれて、「ごめんな、昨日は・・おとん、ほんとに悪い事した。許してな。」って涙流して・・それで、キャッチボールもしてくれてな・・でも、また次の時もまた怖いおやっさんになって・・
うさこさん:
お酒飲む人ってそうらしいわね・・。あばれて、謝るんだけど、ぜんぜん直らなくて・・
カメ吉:
でもな、一番分からなかったのは、おかんが、「おとうはな、本当はいい人なんだ。おとうはえらい人なんだ。」って繰り返し繰り返し言っていたことなんや。いい人なら、なんで毎日普通に帰らん、なんで暴れる、なんでどなるって、いつもいつも思うてた・・でも、ある日・・
こぐくん:
「ある日」? あるぅ日~、くまさんにぃ~出会った~。花咲く森の道ぃ~くまさんに~であ~った~
うさこさん:
ね、続けて・・「ある日」どうしたのよ!
カメ吉:
みなはんもよう、覚えてはりますやろ? あのアニマル村大地震を・・! あの日なんや・・
ポン吉:
忘れるもんか! アニマル村始まって以来の大地震で・・確かマグニチュード9.3・・
うさこさん:
9.5よ! ギネスブックにも載ったくらいだから・・とにかくすごい地震で・・あたしのうちは制震住宅だったから大丈夫だったけど・・
ポン吉:
僕のうちなんか、一瞬にしてぺちゃんこになって、父さんが赤ちゃんの僕を抱えて逃げてくれなかったら死んでたって・・
で、確かうさこさんちの犬小屋に半年くらい住まわしてもらったって・・はは、そん時は、ありがとうね・・
うさこさん:
そうよ! ポン吉は、あたしには逆らえないはずなんだから・・
こぐくん:
そう言えば、僕のお父さんも地震救急隊員になって、木とか家の下敷きになっている人を助けてたそうだ。
ポン吉:
うんうん、とにかくひどい地震でポンポコ山の形まで変わって、地震の亀裂で今のゴーゴー川が出来たくらいだもの・・
カメ吉:
その日、わいはおやっさんの本当の姿を見たんや・・
ポン吉:
えーっ! まさか・・地震に驚いて甲羅から飛び出してお父さんの裸を見たとか・・
うさこさん:
ばかね! かめの甲羅は背骨の一部だから、中身が出るわけ、ないでしょ! カメ吉は、お父さんが本当はどんな人か、分かったって言っているのよ!
ポン吉:
冗談だよ、冗談・・いくら僕でもそこまでバカじゃないよ・・とにかく、カメ吉のお父さんの本当の姿って? そんなひどいお父さんだから、カメ吉とおカメはんをおいて自分だけ逃げたとか?
カメ吉:
違います。その正反対や・・おやっさんがどんなに素晴らしい人か知ったんや・・
カメ吉:
あの恐ろしい地震が起こった瞬間、僕はたまたま、おかんの研究所にいてました・・すごい地震のすぐあと、火事が起こっておかんと僕は煙にまかれて気を失ったんや・・おかん、必死に僕を体の下にかくまってくれて、「助けて~!助けて~!」って叫んで・・すると、隣の部屋から大きな「うおー」って叫び声がして、ぶちぶちって何かが切れる音がして・・最後に見たものは体中に電線を付けたおやっさんだったんや・・映画の中のフランケンシュタイン見たいな姿で・・ああ、このおやっさんに殺されんや、もうだめや、と思ったな・・
ポン吉:
ばか! 死んでるなら、ここにいないだろっ!
うさこさん:
しーっ! で、どうやって助かったの?
カメ吉:
おやっさんが助けてくれたんや・・余震が続いて柱が倒れたりガラスが振ったりする中、火事の炎がめらめらと燃える中、ガスが充満して息も出来ない中、おやっさん、自分の大きな体の下に僕とおかんをかばいながら、ゆっくりゆっくり進んで、研究所が爆発する前に安全なところまで運んでくれたんや・・
カメ吉:
はっきりは覚えておまへんが、その間もずっと「死ぬな~!おとんが自分の命と引き換えにおまえら、助けるから。もう長くないこの命取ってもいいから、神様、こいつらだけは生かしてくれ・・」って・・
うさこさん:
すごいわね、親の力って、お父さんの力って・・でも、その「長くないこの命」ってどう言う意味だったの?
カメ吉:
で、救助隊が見つけた時には、長時間火にあぶられておやっさんの甲羅は触れない程熱かったそうだ・・それに大きな柱が落ちて来たのか、大きくへこんでいたそうだ・・
こぐくん:
そう言えば、うちのお父さんが、救急隊員で一番活躍したことで表彰されたけど、この村で一番表彰されなければならないのは、自分の命をかけて家族を助けたカメ吉のお父さんだっていつも言っていたな・・
カメ吉:
でも、おやっさんのすごさを知ったのは、おかんが病院で死ぬとき、わてにおやっさんの本当のことを話してくれた時なんや・・
カメ吉:
そうんなんや、「カメ吉、カメ吉、おとんの本当のことを話そう。おとんはな、お酒のみでも、うちに帰らない悪いおとんでもない。秘密があるんや・・おとんはな、おかんの薬の研究のための実験台になっててくれてたんや・・もともと、おかんの検査で悪い癌があって、あと1年の命しかないと分かって、それなら、この体使うてや、この命使うてやと言ってな、一番つらい、一番くるしい薬の実験台になったんや・・
うさこさん:
ああ、だから、体中に電線をつけてたのね・・
カメ吉:
うん、それでたまに家に帰って来たとき、苦しいのであんな風に暴れていたんだって・・それにそんな姿でもまだ小さい僕に会いたかったそうなんだ・・
だから、おかん、言ってたよ、「カメ吉もおとんみたいな素晴らしい人になってね。おとんのような人に・・」って・・
ポン吉:
すごいよ、すごすぎるよ、カメ吉のお父さん・・それに、最後はカメ吉とおかあさんを助けて死んだんだもん・・う、う・・
カメ吉:
あれ? 知らなかったん? おとん、死んでないんや。
うさこさん:
えーっ? でも、その地震の日に死んだんでしょう?「ひどいお父さんだったって・・」
カメ吉:
ああ、ひどいお父さんだったんや、でも、奇跡的に助かって、それだけじゃなくて、おかんの薬で癌もなおって、あと100年は生きるって、今じゃ、「おカメはん博物館」の館長をやっているんや・・
カメ吉:
だからね、カメ吉のだらしのないおやっさんも、きっと地震が来たら、助けてくれる素晴らしいおやっさんなんや。だから尊敬しなきゃあかん。
(おしまい)
第20話 「わたしのもとに来なさい」
マタイによる福音書 1章25~30節
ナレーション:
最近はみんな忙しくて、色んなストレスを抱えていて、「癒し」と言う言葉がよく聞かれます。また、すごい健康ブームで、「もっと健康になろう。体を鍛えよう。」ということで、色んな健康グッズとか健康食品とかサプリとかがTVなどで宣伝されていたり、スポーツクラブも梅雨後のタケノコのように多く開業して、みんなわれもわれもと重いバーベルを持ち上げたりルームランナーで走って汗をかいています。
でも、みなさんのお家でも使わなくなった健康グッズはありませんか? 階段を上がるように足を踏むステップとか、押し入れの肥やしになってませんか? 本当の「癒し」ってなんなんでしょうね?
ところで、ここ動物村でも健康ブームが盛んでアニマル銀座にも、どうどうとバベルの塔ににも負けないくらいの120階建ての「アニマル健康ビル」が立ち、そのアニマル癒しカウンセリングが超人気なのです・・・
ポン吉:
見て見て! 「完全無料! アニマル癒しカウンセリング無料招待クーポン」が今朝の新聞に織り込んであったよ! 「もっと本当の君になって見ないか? 本当の自分の力を目覚めさせよう! 無料相談+1ヶ月無料お試しキャンペーン実施中! 今ならPSPを抽選で全員に進呈!」だって! これは行かなきゃ、だね!
うさ子さん:
・・だね! だね! あたしはこの「完全無料! アニマルエステ無料招待クーポン」がいいわ。しびれるじゃない、この文句。「あなたの美しさを発掘! あなたの美しさを眠らせていませんか? 無料お肌カウンセリング+1ヶ月無料エステ体験キャンペーン実施中! 今ならチャネルの5番、20cc小瓶もれなく進呈!」女心をとろけさせる言葉よねぇ~!
ポン吉:
うさ子さんはそのままでも十分きれいだと思うけどね・・でも、ぼくも行って見たいな、「完全無料! アニマルマッスル無料招待クーポン」だって。「あなたのパワーを無限大に! 小指で像を持ち上げちゃって下さい! 無料体力測定! マッチョマンカウンセリング+1ヶ月全トレーニングマシーン無料使用キャンペーン実施中! 今なら100kg巨人の星養成腹巻きもれなく進呈!」これは、行ってみるしかないね。
ナレーション:
と言う訳で、仲良し三人組はとにかく行ってみる事にしましたが、何やら怪しげな雰囲気ですね・・どこかのキャッチ商法みたいな臭いがぷんぷんするでしょう?・・一体どうなることやら・・
ポン吉:
で、どうだった? ちょっとがっくり来たよ、PSPがポン吉スペシャルポーチのことだったって・・でも、実際色んなゲーム機が置いてあって、秋葉系の電車男みたいなお兄さんが「ゼビウス攻略プログラム」とか「頭のDSトレーニングカンニングプログラム」とか色々教えてくれたよ。で、最後に無料カウンセリング受けたら、「あなたは疲れています。ストレスがたまりまくってます。ぜひ、当クラブのエレキトリカル癒し機を試して見て下さい。」って言われて・・
うさ子さん:
あ、私もそう。チャネルの5番20ccの小瓶って本当に小瓶だけなんですもの・・え? 中身はないの? ガビーンって感じ・・でも実際、超モデル系のおねえさんたちがエステしてくれて気持ちよかったわ。で、最後に無料カウンセリング受けたら、「あなたのお肌は疲れています。ストレスのせいでお肌年齢100歳です。やばいです。ぜひ、当クラブのエレキトリカル癒し機を試して見て下さい。」ですって・・
こぐくん:
あれ? みんなも? 100kg巨人の星養成腹巻きの100キログラムは、書き間違いで実際は100グラムの腹巻き風手ぬぐいだったよ。でも、実際ポブサップもかすむくらいのマッチョのお兄さんが色々トレーニングマシンの使い方教えてくれて・・。で、最後に無料カウンセリング受けたら、「あなたは全身筋肉疲労です、おまけに頭蓋骨が疲労骨折寸前です。ぜひ、当クラブのエレキトリカル癒し機を試して見て下さい。」って言われたんだ・・
ポン吉:
あの癒し機って、見てくれはヘンなんだけどね・・効くと言えば効くような・・
うさ子さん:
何期待してんのよ! すぐに効くわけないでしょ? でも、1回だけでもお肌がなんとなくすべすべになった気がするわ・・
ポン吉:
ま、とにかく無料(ただ)だし、電車男のお兄さんがゲームのこと色々教えてくれるから、しばらく通って見るよ。
うさ子さん:
あたしも・・! 今度こそ「お肌きれい度判定機」で100%取るわよ!
こぐくん:
僕もあの高地トレーニングボックスで鍛えたいから、みんなと行くよ!
ナレーション:
頭のいい日曜学校のみなさんなら、もうお分かりですね? 三人組が、気付かないうちにだまされていることが・・? でも、まだまだ序の口なんです・・
ポン吉:
ああ、疲れた・・! 最近はなんかだるくて、外で遊ぶ元気もないや。でも、ここに来ると色んなゲームができるから楽しいよね。ただ・・高いんだよね。電車男のお兄さんに「お前はゲームの天才だ、磨けば光るダイヤの原石だ、ぜひ国際ゲームオリンピックに出ろ」って言われてゲームの達人スペシャルコースにしたんだけど、毎月5千円はきついよ・・! おかげでモバイトしてるんだけど、近所のアニマルコンビニで。
うさ子さん:
あたしびっくりしちゃった・・コンビニに行ったら、ポン吉がいらっしゃいませ! なんて言うもんだから・・あたしも神田うの似のおねえさんに、「うさこさん、ほんと美人うさぎでうらやましいわ、今度の国際ミスユニバニーズ美人コンテストに出ない?」って言われて・・全身耳まで美容コースに変えて・・夜は道路工事の交通整理のバイトしてるの! でも、美しさが手に入るなら、3万円も安いもんよ! でも、なんか疲れるわー!
こぐくん:
あんまり言いたくないけど、うさこさん、本当に疲れていて目の下にくまが出来てるよ・・
うさ子さん:
うるさいわね、こぐくんこそ、激やせしてなんかやつれているじゃないの!
うさ子さん:
きゃっ! なにすんのよ! あ~ん、あ~ん!
ポン吉:
おい、おい止めろよ! どうしたんだ、こぐくん? 今までのこぐくんなら女の子に暴力なんかふるわなかったぞ!
こぐくん:
ご、ごめんね! うさこさん! ぼ、ぼく、最近なんかイライラしてて・・
ポン吉:
ほんと、変だぞ、こぐくん。最近変な薬飲んでるって?
こぐくん:
何を! 変じゃないぞ! あれはすごく効くサプリで、体にある悪いものをどんどん体から出すものなんだ・・おかげで100kg体重が減ったよ!マッチョのお兄さんがあと50kg落とせば、世界ジュニアボディビルコンテストで1位になれるって勧めてくれるんだ。でも月々5万円はなあ・・引っ越し屋さんのバイトでようやく払えるんだよ。
ポン吉:
あ、それで最近こぐくん学校休んでいるんだ!
うさ子さん:
う~ん、なんか、私たちだまされてない?
こぐくん:
そんな、すぐに人を疑っちゃだめだよ! 現にどんなに疲れていてもあの癒し機で元気になるじゃない?
ポン吉:
うん、そうだそうだ・・なるなる・・頭がキーンとするどくなってね・・
うさ子さん:
うんうん、まるで電気が体中を走って・・気分が爽快になるわね・・あ、なんかまた行きたくなっちゃった・・
ポン吉:
でも、お金、ある? あれ、1回1回1000円札を入れないといけないからね・・
ナレーション:
なんだか、この癒し機と言うのも怪しいですね・・かなり追いつめられている感じの三人組ですが、一体どうなってしまうのでしょうか?
ポン吉:
やっぱりやって良かったね。すっきりしたよ。
うさ子さん:
うん、なんかこう・・ウソみたいに肩とかが軽くなるのよね。
ポン吉:
た、大変だ! 中でこぐくんが暴れている!
うさ子さん:
ほんと! オーナーのバベルさんを呼ばなくちゃ!
ポン吉:
あ、大変なんです、なんとか癒し機で気持ちを落ち着かせて下さい!
バベルオーナー:
た、大変だ! 機械がこわされそうだ!
ポン吉:
だから、癒し機なんだから、なんとかなるでしょう!
バベルオーナー:
す、すまん! あれはインチキなんだ! ただの電動マッサージ機なんだっ!
ポン吉:
なに~っ! インチキだって? じゃあ、僕がやっているゲーム脳完成ヘルメットは?
バベルオーナー:
それも、インチキだ! ただのウオークマンなんだ!
うさ子さん:
まーさーか、あの10万円のクレオパトラフェイシャルクリームもインチキでは、ないでしょうねぇ~ さ~だ~こ~
バベルオーナー:
こ、怖い・・残念だが、あれもインチキ・・ただのホイップクリームなんだ・・!
こぐくん:
うおーっ! すると、あの「体中の毒素さよなら~サプリ」も、ウソだったのか~っ!
バベルオーナー:
いや、あれは、その~、ほ、本物の・・
こぐくん:
ほんもの? 本当だな~っ! うそなら・・許さないぞ!
バベルオーナー:
本物の超強力下剤です!・・きゃー、助けて~っ!
ポン吉:
うわーっ! み、みんな逃げろー! この状態のこぐくんを止めるのは無理だ!
こぐくん:
うおおおおおっ! お前だけは許さないぞーっ!
ナレーション:
さあ、大変です、ただでさえ、連日の引っ越し屋のバイトで疲れていて、下剤のインチキサプリで体中ぼろぼろな上に純真なこぐくんは、だまされていたと知って逆上して暴れ出しました。小型の原子爆弾級の力を持つこぐくん、それが120階建てのビルの地下で怒りが爆発して・・
ポン吉:
と、とにかくビル内の人を避難させないと・・!
うさ子さん:
あたしも、飛び回ってみんなに知らせるわ! ビル内の放送で避難を呼びかけましょう!
ナレーション:
なんとか全員外に避難したと思った瞬間、さっきまで天にも届くほどの120階のビルが地獄にも届くような大きな音を立ててくずれ、あとはただのがれきの山になってしまったのです。
ポン吉:
あれが全部インチキだったとはな・・! 国際ゲームオリンピックなんて最初からなかったんだ・・そんな悪い夢を見てたんだな・・あ~あ・・
うさ子さん:
国際ミスユニバニーズ・・あれもウソだったのね・・悪い夢のあとに残ったのは、汚い肌と醜いしわだけだわ・・
うさ子さん:
あのがれきの下よ? 自衛隊が救助犬を使って探しているけど・・無理じゃない? こぐくんにつかまっていたバベルのオーナーもきっと死んだのよ・・
ポン吉:
うあ! びっくりした!・・ゆうれいじゃないよね?
うさ子さん:
やだー! 急に出て来ないでよ、びっくりしてこっちが死んじゃうわ! でも・・よかった、よかった・・あ~ん、あ~ん!
こぐくん:
はは・・泣かないでよ! 実はこうなんだ・・
インチキのオーナーを追いかけて暴れ回っているうちに、地下に追いつめたんだけど、オーナーがショックで気を失ったんだ。そしたら回りが崩れて来て、もうだめかと思ったんだけど、目の前にすごい金庫があってそれを開けてオーナーを抱えて一緒に中に入って助かったんだ。すごく厚いチタン性の金庫で中にみんなから騙しとったお金がどっさりあったよ。
自衛隊の救助犬に助けられたんだけど、オーナーは心から反省していて、お金は全部返しますと言っていたよ。
ポン吉:
おおっ! よかった! 実はアニマルサラ金から20万円借りているんだよ!
うさ子さん:
あたしもお父さんから100万円おこづかい前借りしちゃったのよ!
こぐくん:
良かったね。あのアニマル健康ビルの跡地には、みんなが心と体を休めることが出来る森林公園にするらしいよ・・
ポン吉:
あ、ところで質問なんだけど、こぐくん・・
ポン吉:
あのさ、金庫に入って助かったって言ってたけど、オーナーさんは気を失っていたんだよね?
うさ子さん:
あ、そうそう、おかしいじゃない?どうやってそんなチタン製の頑丈な金庫に入ったの?
こぐくん:
あ、それね。開け方分からないから手でね、こう、ぐいっと開けたんだよ。ばりばりって開いたよ・・はは。
ポン吉:
あら~っ! こぐくんなら、インチキトレーニングしなくても、余裕で世界ジュニアボディビルコンテストに出られるよ!
うさ子さん:
そうよ! あたしも・・国際ミスユニバニーズ美人コンテスト出ちゃおうかな?
ポン吉:
ほんと、ほんと、僕が審査員ならミス決定だよ!
うさ子さん:
ありがとう! ポン吉だって国際ゲームオリンピックに出なさいよ!
ポン吉:
はは、サンキュ。でもさ、今回の事件で、ナンバーワンになるために無理しているより、オンリーワンの自分でいいじゃないかって分かったんだ・・
うさ子さん:
おお! ポン吉もたまには良い事、言うじゃない?
こぐくん:
うん、さすがポン吉は仲良し三人組のリーダーだな!
ポン吉:
え? 僕がリーダーだっけ? うふーん、ありがとう! うむ・・リーダーか、はは、リーダー! うん、がんばるよ、君たち!
こぐくん:
うん、冗談・・だってみんながリーダーなんだもん。
うさ子さん:
まったくーっ! おっちょこちょいねぇ! 今回は、簡単に人を信じちゃいけないって学んだんじゃないの?
こぐくん:
でも、そんなドジなポン吉がいいんだよ!
ナレーション:
みんなは疲れていませんか? 何か、突っ走っているのを休んでどこかに座って休みたいと思いませんか? でも、間違ったものを背負い込んだり、間違ったところで癒しを求めたりすると、逆に苦しくなるものです。本当に体の芯から、いや魂の芯から私たちを苦しみ、ストレス、心配から救って下さる方は、イエス様しかおられません。イエス様を信じて、イエス様のおっしゃる通りに生きるようにすること、それがイエス様のくびきを負うことです。それができたなら、本当の自分に出会え、自分らしく心軽やかに生きることが出来るのです。
(おしまい)
第21話 「東の国の学者たち」
マタイによる福音書 2章1~12節
ナレーション:
しゃんしゃんしゃん、しゃんしゃんしゃん、すっずが~鳴る~~♪
さて、ここ動物村でもクリスマスが近付いてきました。動物村教会に行っているあの仲良し3人組もクリスマスページェントの準備におおわらわ・・のはずなんですが、さてどうでしょう・・・?
ポン吉:
あ~あ、今年もクリスマスページェントか~、かったるいな~!
うさ子さん:
「かったるいな~」とはなによ! そんなこと言うとイエスさま、悲しむわよ! あたしなんか、「うわ~、楽しいな! わくわく・・どきどき・・今年はマリヤさまかな? 天使かな?」なんて楽しみで楽しみで落ち着かないわよ!
ポン吉:
でも、今年はすごい地震があって教会の建物に大きなひびが入って、よく調べたら耐震強度が0.1%だと分かっておおあわてで補強工事なんかしてたから、大幅にクリスマスの準備が遅れたんじゃないか・・おまけに、ページェントの台本が決まらなくて決まらなくて・・もう、みんな何回もやっていて、目新しいのがないんだよな~!
こぐくん:
でも、僕もうさ子さんと一緒で楽しみだな・・巨人ゴライアスとか、兵隊の役とか、サムソンとか・・なんかかっこいい役、やりたいもん。でも、去年みたいに壁とか山の役はやだな・・
ポン吉:
はは! でも、こぐくんはしゃべるのスローモーだし、セリフ忘れたり噛んだりするから、しゃべらない役が似合っているよ!
こぐくん:
ひどいよ、ひどいよ・・うわ~ん!(とポン吉を軽くはたく。)
ポン吉:
うおー! が~ん! きゅるきゅっ! きゅるきゅっ!
ポン吉:
おい! うどの大木! ひどいじゃないか! 今、目の前に火花が散って脳みそが半分飛び出したぞっ!
うさ子さん:
そんなの飛び出したら死んでるわよっ!
こぐくん:
ごめん、ごめん、つい力が入っちゃった・・
ポン吉:
「つい力が入っちゃった」じゃないだろ! スパイダーマンIIにもあったけど、「大いなる力には大いなる責任がともなう」って言うぞ・・気をつけてくれよ・・あれ?
ポン吉:
今ね、こぐくんにどつかれて、このクリスマスページェントの台本がいっぱいつまった棚に激しくぶつかったよね・・
こぐくん:
ごめんね・・ずいぶん棚が曲がってこわれちゃったね、大丈夫かな・・その棚・・おお、かわいそうに・・よしよし・・
ポン吉:
おい! 棚がなんだよ! 僕の体を心配しろよ・・まったく・・いやね、ぶつかった拍子に、偶然これをつかんじゃったんだよ・・
うさ子さん:
なにかしら・・ノートみたいだけど・・
ポン吉:
なになに・・? 「五人目の博士」・・えっ? 「4人目の博士」ならヴァン・ダイクの書いた、アルタバンと言う博士が他の3人の博士との待ち合わせに遅刻してイエスさまに会えなかったお話しなんだけど・・「5人目」っていったい・・
うさ子さん:
ふーん、聞いたことないわよね。それに手書きよ、それ。あ、作者が書いてあるじゃない。
ポン吉:
あ、書いてある。「by よしお」・・「よしお」? あれ? 日曜学校の仲間にはいないよね・・先生かな?
こぐくん:
でも、相当古そうだよ・・紙もきばんでいるし、ずいぶんぼろぼろになっているし・・
ポン吉:
うわ~っ! そう言えば、ばっちいね~! 捨てよう、捨てよう・・
うさ子さん:
ちょ、ちょっと待ってよ! 面白いお話かも知れないじゃない。それに・・新しい台本探していたんでしょ?
こぐくん:
そうだよ。外がきたないからって、中身を見ないのはいけないよ・・
ポン吉:
まっ! いいか、確かに・・「5人目の博士」か・・面白そうだから読んでみようか・・
うわっ! きたない字・・読めるかな~!
うさ子さん:
きたない、と言うより昔のガリ版刷りだからうすかったり、にじんだりしているだけよ。なんとか読んで見ましょう。
ポン吉:
うん、えっと・・
「ナレーション: さてさて、イエス様がお生まれになった最初のクリスマスの夜に3人の博士が星の光を頼りに馬小屋にいらっしゃるイエスさまに出会い、贈り物を捧げましたが、その他にアルタバンと言う博士がいた話は有名です。しかし、実はもう一人の博士がいたのです・・
うさ子さん:
ふんふん、なかなか面白いじゃない。続けて・・
ポン吉:
「その5人目の博士は、バンタルアと言う名前でした。」
・・ん? 「バンタルア」? 「バンタルア」・・「アルタバン」・・あっ! ひどいな、こりゃあ! 「バンタルア」って「アルタバン」を逆に読んだだけじゃないか!
ポン吉:
もう・・! なんて手抜きのネーミングなんだ。もう止めようよ。一気にテンション下がっちまったな。読まなくても、ひどい台本だってこと、まる分かりだよ!
こぐくん:
ポン吉は気が早いな~! まあ、いいじゃないか、どうせひまなんだし・・
うさ子さん:
そうよ。名前は変だけど、いがいとまともかも知れないわよ。
ポン吉:
分かったよ・・続けるよ・・ぶつぶつ・・
「でも、本当の名前は「バンタルア」ではなく、違う名前だったのです。実は博士は5人ではなく、6人いたのです。」
・・おい! もう絶対止めた止めた。ひどすぎるよ、これ。もう、だめです・・!
うさ子さん:
もう~! 貸しなさいよ! 台本をまともに読むこともできないの?
どれどれ・・
・・「それには、こう言う秘密がありました・・けが人を助けて遅れてしまった4人目の博士、アルタバンを追って行った5人目の博士は、真っ暗な山道で山賊に襲われ殺されてしまったのです。」
あ、ここからは、ポン吉たちも手伝ってね。
山賊(ポ):
えっと・・
「へっへっへっ! このおれ様に出会ったのが運の尽きだったな・・ほお~っ! これは驚いた! なんだ? これはどこかの王様が夜逃げでもするところだったかな? すごいお宝を持っているぜ・・しまった! だれか来る!
兵隊(こ):
大丈夫か~! 今、助けを呼ぶ声がしたが・・
山賊(ポ):
あ、大丈夫です・・オオカミに襲われたのですが、なんとか追い払いました・・
兵隊(こ):
おお、これは失礼いたしました。高貴な博士殿・・あっ! これはすごい血ですな・・肩をお貸しします・・街まで送って行きましょう・・ところで、お名前はなんでございましょう?
山賊(ポ):
えっ? な、なまえ? えっと・・あ、ある・・いや、ありますよ、名前ぐらい・・そ、そうだ、「バ、バンタルア」です。ずっと・・ひ、東にある、た、タパテペ王国の星占いの博士ですじゃ。
兵隊(こ):
「バンタルア」さまですか・・い、いいお名前ですね。はて? 「タパテペ王国」は存じ上げませぬが、きっと高貴なお方でしょう・・素晴らしいお召し物ですな。
山賊(ポ):
いや、大したことはありませぬ・・それより、助けていただき、本当にかたじけない・・
・・・おお、やべぇ、やべぇ・・よけいなおせっかいしやがって・・とっさに着替えなかったらばれているところだったぞ・・名前だと? 焦らせるなよ! あの博士が持っていた手紙の宛名を逆さに読んだだけだって・・へへ、おれさまもあったまいいなぁ~っ!」
ポン吉:
・・って、これ、人殺しの山賊の話しじゃないか!「4人目の博士」のアルタバンは、いろんなところで人を助けて、そのためにイエスさまにも会えなかったし、贈り物も助けるためにつかってしまって、なにもなくなってしまった。けれども最後には神様の声が聞こえて、「お前は私に出会って助けてくれたのだ、小さきものを助けたお前は私を助けたのだ。」って言ってもらって天国へ行ったいい人なんだよ! これは、悪い人の話じゃないか! クリスマスにぜんぜんあってないよ。ねぇ、もう読むの止めようよ! 時間のムダだよ!
うさ子さん:
もうちょっと読みましょうよ! 悪い人がよくなるって話かも知れないじゃない?
ナレーション(う):
こうして山賊は博士になりすますことができました。殺した博士の証拠となるものは全て捨ててしまい、街に住むようになった山賊はバンタルアと言う星占いの博士にすっかりなりすましたのです。
ポン吉:
ほほう・・うまい展開だね。人を殺すほどの悪人だった山賊が、バンタルアになって、人助けをする人に変えられる・・うんうん、いいよ、これ。神さまの不思議な力で悪者が神さまによろこばれる人になるお話なんだね。
ナレーション(う):
街に住むようになったバンタルアは、表向きは星占いでなくし物を探したり、たずね人を見つけたり、いろいろ相談に乗ったりしていましたが、裏ではありとあらゆる悪いことをしていました。」
ほら、ここはこぐくんがやってね。
客(こ):
ありがとうございました。おかげさまで、娘が無事にもどりました。感謝です・・それでは、お約束の謝礼です・・
バンタルア(ポ):
よかったですねぇ・・おっと、すいませんが情報提供者の謝礼が嵩んでしまったので、2倍の2万ドルになります・・
客(こ):
えっ! そんな・・でも、娘の命を助けていただいたので、なんとかします・・ありがとうございました。
バンタルア(ポ):
また、どうぞ~!
まったくばかが多いので商売繁盛だ・・手下に子供を誘拐させて、おれが取り返す・・手下に宝物を盗ませて、おれが見つけてやる・・これこそ、占いの博士まるもうけじゃっ・・! はっはっは・・!
ポン吉:
こりゃ、ひどいや。悪い人がイエスさまとの出合いでよくなる話しどころじゃない。反省なんかしないで、ますます悪くなるばかりじゃないか! もう・・いらいらするぅ~!
うさ子さん:
ちょっと、待ちなさいよ・・もう少し読みましょうよ。
ナレーション:
でも、そんな人の悲しみや苦しみを食らいつくすような手で、どんなにおいしいものを食べても、どんなにきれいな服を着ても、どんなに金ぴかな家に住んでいても、バンタルアの心の中はまっくら闇だったのです。なによりも、いつ自分が高貴な生まれの博士などではなく、本当は山賊だったことがばれはしないかと、内心いつもびくびくしていました。そしていつのまにか30年の月日が流れました・・
バンタルア(ポ):
・・ああ、おれもいつまでもこんなことをしていていいのかなぁ・・ふるさとにもどりたいなぁ・・さすがにみんなに感謝される善人と、裏では人の弱味につけこむ悪人を使い分けるのは疲れて来たな・・ああ、おれはいったい誰なんだろう・・バンタルアでもないし・・前の名前もすっかり忘れてしまった・・
男(こ):
じゃあ、わたしが教えてやろう・・本当のお前はこぎたない山賊のバラバ、30年前にわたしの兄を山道で殺したかたき、こうしてくれる!
ナレーション(う):
と、いきなりあらわれた貴族のかっこうをした男は、有無をも言わさず、いきなりバンタルアに剣を抜いて襲い掛かったのです。
バンタルア(ポ):
うわっ! ひ、ひとごろし~! ひ、人違いですよ! 私は星占いの博士バンタルアです・・
男(こ):
え~い! しらばっくれるな! この30年間、兄を殺した犯人を追っていたのだ・・「タパテペ王国のバンタルア」と名乗るインチキ博士をな!
ナレーション(う):
とうとうバンタルアも年貢の納め時だったようです。でも、どんどん流れる血を見ても、薄れる意識の中でも、不思議とバンタルアは微笑んでいたのです・・
さて・・バンタルアは死にませんでした、でもその数々の罪状は明らかにされ、一番重い十字架の刑に処せられることになったのです。そうです、もう一人の悪人と、ファリサイ人たちによって罪人とされたイエスと一緒に・・遠くからイエスを見守るマリアたち・・十字架のイエスをやじっている群集と議員たち・・」
あ、ここからは、イエスさまの役はこぐくんやってね。
イエス(こ):
父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。
議員(ポ):
お前は他人を救ったのだ。もし神からのメシアで、選ばれた者なら、自分を救うがよい。
罪人(ポ):
おい! イエスとやら、おまえ、神さまなんだろ? だったら、自分自身を救ってみろ。おれたちも助けて十字架から降りたらいい。どうだ?
バンタルア(ポ):
お前は神をも恐れないのか? おれたちは、自分のやったことの報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしていないのにここにいてくださっている。
イエスさま、私はあの3人の博士のようにあなたに贈り物をしたものでもありません。アルタバンのように、あなたに出会えなかったけれども弱いもの傷つけられているものを助けたものでもありません。むしろ、あなたに会おうと旅していたものを殺しなりすまして30年間も人を欺き苦しめて来たものです。何一つ、何一つ良いことをしていないものです。でも、あなたがなぜここにおられるのか、なぜおろかで罪深く、誰よりも一番低いものと一緒におられるのか、罪のないあなたの傷が何を私達にさえ語ってくれるのか、私には分かります。30年間むなしい旅をして、こんな場所であなたに辿り着きました。いえ、あなたがここに来てくださったのでしょう。どうかあなたの御国においでになるときには、わたしを思い出してください。
イエス(こ):
はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる。
ナレーション(う):
既に昼の十二時ごろであった。全地は暗くなり、それが三時まで続いた。 太陽は光を失っていた。神殿の垂れ幕が真ん中から裂けた。
イエス(こ):
父よ、わたしの霊を御手にゆだねます。
百人隊長(ポ):
本当に、この人は正しい人だった。
ナレーション(う):
イエスを知っていたすべての人たちと、ガリラヤから従って来た婦人たちとは遠くに立って、これらのことを見ていた。見物に集まっていた群衆も皆、これらの出来事を見て、胸を打ちながら帰って行った・・
おわり
こぐくん:
なんか、よく分からないけど・・胸にじーんと来るねぇ・・
うさ子さん:
ええ、あたし、なぜ罪のないイエスさまがあんなひどい死に方をしなければならないのか、少しだけ分かった気がするわ・・
ポン吉:
よし! 絶対これをクリスマスページェントでやろうよ!
うさ子さん、ポン吉、こぐくん:
うん、そうしよう、そうしよう!
ナレーション:
ところが、手分けしてパソコンに打ち込もうと次の日に集まったみんなはびっくりしました。あの「5人目の博士」の黄ばんでぼろぼろになった原稿が、どんなに探してもどこにもないのです。みんなが日曜学校の先生や牧師先生、200歳以上も生きてる一番お年寄りの亀じいに聞いても「よしお」と言う名前の先生や生徒は知らないと言うのです。仲良し3人組は不思議に思いながら、あのたった一回だけ自分たちで読み合わせをしたお話のことを、いつまでもいつまでも考えていたのでした。
(おしまい)