動物村人形劇場

日曜学校の動物村人形劇場 第22話~第25話です。

第22話 「香油を塗ったマリア」

ヨハネによる福音書 12章1節~8節

ナレーション:

みなさん、「もったいない」って言葉を知っていますよね? みなさんはどんな時に「もったいない」と思いますか?家族が食べ残して捨ててしまう時ですか?まだ白いページが残っているノートを捨てる時ですか?誰もいない部屋の電気がついている時ですか?
実はね、去年、木をどんどん植えることでノーベル平和賞をケニアの女性ワンガリ・マータイさんが受賞しました。ケニアの環境副大臣でもあるマータイは、この「ものを大切にする」と言う気持ちをあらわす日本語を世界中に広めて三つのR、つまり消費削減(Reduce)ものを使うのを少なくすること、再使用(Reuse)もの使い切りにせず何度も使うこと、そして資源再利用(Recycle)ただ捨てないで形を変えてまた使うことを進めて行こう、と国連の委員会で訴えたのです。
さて、ここ動物村でも「もったいない」がブームになったのですが、何やら本当の意味が間違って伝わってしまったようです・・

カメ吉:

パンパカパーン、それでは私、生徒会長の亀田カメ吉が重大発表をします!動物村小学校の2006年度の方針です!
えーと、「去年ノーベル平和賞を受賞したケニアのトンガリ・マッテヨさんの「もったいない」の精神にのっとり、動物村小学校でも一切の無駄を省き、大切なものだけをして、世界一「もったいなくない」学校にして行きます。みなさんも「もったいないもの」をどんどん止めたり捨てたりしましょう。」

ポン吉:

はーい! ところで本当のところどんなことを止めたり、捨てたりするんだ?

カメ吉:

はい、いい質問ですね! 一番大切なものは時間です。Time is money. 時間はお金。お金は大事だよ~♪ と言うことで必要のないことはどんどん止めて、将来絶対役に立つことしかしないそうです。

ポン吉:

え~? 時間なんか有り余ってるじゃん。僕なんか放課後いっくら遊んでも遊んでも時間があまってるから、楽しくて、楽しくて・・

カメ吉:

ばっかもーん! ああ、もったいない、もったいない! 時間を湯水のようにムダにして・・!
ベル・ゲイツって知っているか?

ポン吉:

ハードゲイツなら、知っているよ、フォ~ッ!

うさ子さん:

まあ、下品ね! もう!

カメ吉:

世界で一番の億万長者だよ! コンピューターを動かす基本的プログラムを自分の頭だけで考えて作った人だ。その人がね、こうオフィスに向かって歩いている時にね、500ドル、約5万円のお札を落としたとするね。
どうすると思う?

ポン吉:

もっちろんすぐ拾うだろ?

カメ吉:

いや、拾わないね。

うさ子さん:

えーっ? うそーっ!

ポン吉:

じゃあ、おいら拾っちゃおうかな? どこどこ?

カメ吉:

ばか! 本当にお前ってやつは・・いや、天下のベル・ゲイツさまならね、拾わないのだ!

こくぐん:

どうして~?

カメ吉:

それはね、1日に35億円稼ぐベルが500ドルを拾うのに1.5秒かかるとすると1秒に約4万円稼ぐビルは、拾わない方が2万円も得するからなんだ。

うさ子さん:

ふ~ん、なんかヘリクツに聞こえるけど・・

カメ吉:

まあ、とにかく学校の「もったいない撲滅運動」の狙いは、学校のもったいないものを全部止めたり捨てたりすることなんだ・・
例えばね・・
体育の授業はなくして、コンピューターの授業になるよ。

ポン吉:

そ、そんなばかな~! 体育で思いっきり体を動かしたり、みんなでサッカーできなくなるの~?

カメ吉:

ボールをけったり投げたりする時間があるなら、将来絶対に必要になるエクセルとかワードの使い方を学んだ方がいいんじゃないか?

こぐくん:

じゃあ、腕相撲大会やまき割りコンテストも?

カメ吉:

ああ、無駄無駄無駄、もったいない! それだけじゃないぞ、音楽も無駄だから、なくして英語を勉強します。

うさ子さん:

え~っ! ありえない~! 歌ったり、ピアノを弾いたりできないの?

カメ吉:

そんなのは家でやればよろしい。学校の時間は1秒1秒が大切、だから将来絶対役に立つ英語を勉強して、国際的アニマルやエコノミックアニマルになんないとね!

こぐくん:

あ~あ、たいこ叩いている時は最高に気持ちいいんだけどな~! ま、放課後に音楽クラブでみんなで合奏したりできるから、いいか・・

うさ子さん:

そうね、授業でできなくてもクラブがあるわね。

カメ吉:

あいや、待った~っ! その音楽クラブもね・・

ポン吉:

えっ! まさか・・!

カメ吉:

そう、ビンゴ~! そのまさかですよ。音楽クラブも、サッカー部も、バドミントンも、み~んな無駄無駄無駄、時間がもったいないから、なくなって、その代わりに受験に役立つ、漢字検定合格クラブ、英検3級目指してレッツゴークラブ、中学受験夜食調理クラブなどになります。

ポン吉:

でも、それってひどいよ。ぼくたちの大切なクラブを勝手に、それも急に止めるだなんて・・

カメ吉:

しかしな、あんさん・・おっとあかん、興奮しよると関西弁に・・
クラブ大切、大切言うてますがな、まじめにやってはりまっか?
どれどれ・・ポン吉はん・・最近クラブに出たのは、2ヶ月前・・! それもバイオリンをさんざんふざけて弾いて、出しっ放しで帰りおってな、スズメ蜂がケースに巣を作って、スズメ蜂駆除の人を呼ぶさわぎに・・

ポン吉:

それは・・

カメ吉:

こぐはんは、先週出たんやけど、力任せにたいこを叩いて、ぜーんぶやぶいてしもた・・

こぐくん:

ごめんなさい、つい力が入って・・

カメ吉:

うさこはん、あんさんは毎日出とるが、一番文句を言うておるのは、あんさんやおまへんか?

うさ子さん:

それはしょうがないわよ、あのピアノ、はっきり言ってぼろいんだもの、さいてーよ。ありえないわ。50年は調弦がしていないみたいで、音がばらばら。真ん中のシとドなんか音程が入れ代わっていて指をクロスさせて弾いてるわ。一応グランドピアノだけど、足が一本折れていて代わりにバットで支えているのよ! 白鍵盤がすっごい汚れていて黒くなっていて、全部黒鍵盤なんだから・・!

カメ吉:

まさに、それが問題なんやな! そんなやたら図体が大きくてぼろぼろ、使い物にならんもんは捨てるしかないんや!

ポン吉:

でも、クラブをなくすのはいやだよー! この通り!(土下座する) 今日からまじめにクラブに出て一生懸命練習するから、チャンスをくださーい!

うさ子さん:

あたしもなんとかピアノを少しでも直して弾くから、もうちょっと待ってよー!

こぐくん:

ん~、ぼくも力をかげんしてたいこを大切にするから、くらぶをつぶさないで・・

カメ吉:

あかんのや! 無駄なものは捨て、意味のないものは止めるしかないんや。場所も時間ももったいないんや。あきらめてーな。もう、決まったことなんや。

ナレーション:

さあ、大変です。大好きな音楽クラブがなくなるなんて! 仲良し3人組はそれはもう必死で話し合いをして、校長先生にクラブをなくさないように頼みましたが、なんとかラストコンサートをやらせてもらえることしかできませんでした。

うさ子さん:

あ~あ、どうしてもだめだったわね。

ポン吉:

まあ、やるだけはやったからね、もう悔いはないけどね。

こぐくん:

ぼく、たいこさんを大切にしてなかったな~。

うさ子さん:

そうね、もう捨てられちゃうのかって思うと、なんだかずっと弾いて来たこのピアノがかわいそうになるわ。

ポン吉:

ぼくもー! 今さら何をしてもそれこそ、無駄なんだけどね・・

うさ子さん:

でも、ポン吉がこれだけ一生懸命に弾いているの、見たことないわ。

ポン吉:

それがね、不思議なんだ。もう少ししかこいつといられないと思うと時間がもったいなくて、1秒でもながく弾いていたいし、1秒1秒心を込めて弾きたくなるんだな・・

こぐくん:

ぼくもー! お母さんと一緒にたいこの皮を新しく張って苦労して直したもんだから、赤ちゃんをあつかうように、優しく叩いているよ。

うさ子さん:

なんだか、今まで当たり前と思っていたものがもうなくなると思うと、本当の大切さが分かるのね・・

カメ吉:

はっはー! またここに来てはりましたか。無駄でんがな・・あんさんらがでんぐりがえりをしても、クラブがのうなるのはもう決まっとるんやで。ああ、時間がもったいない・・そんなもん、ぎこぎこ弾いたり、ぽろぽろ弾いたり、どかどか叩いたりするひまがあったんやったら、受験に使える数式や英単語の一つも暗記する方が、よっぽど大切やないんか? まあ、もの好きな連中やな・・ほな、せいぜいがんばりや・・ほっほっほ・・!

ポン吉:

うー! いやなやつ!

うさ子さん:

うざいわぁ!

こぐくん:

本当は仲間になりたいんじゃないのかなぁ・・

ナレーション:

そうなんです。バイオリンも、ピアノも、たいこも、その他の楽器も捨てられることになっていたのです。そして音楽クラブ最後のステージとなる動物村体育館も老朽化が激しく、なにせ雨漏りがひどすぎて、雨が降った時はみんないっせいに外に避難しろって言うぐらいですから・・そんな体育館もラストコンサートを最後に取り壊される運命でした。
なにか、「もったいない」の本当の意味が逆さになったような学校の方針の中、これもつぶされる運命100%の音楽クラブのみんなはますます練習に励み、楽器も自分たちのできる範囲で工夫をして直していたのです。
さて、いよいよラストコンサートの日が来ました。

カメ吉:

Ladies and gentlemen, and animals! さーて、みなさん、いよいよ音楽クラブのラストコンサートの日がやって来ました。今日をもってこの無駄で意味がなく、もったいないクラブも終わりです。古く、どこか壊れていて、ちゃんとしていない楽器たちも変な音をもう出さなくてもよくなる日でもあります。それでは始まりますが、必要な人は入り口でお配りしました耳栓をしっかりつけて下さい・・ぱちぱちぱち・・

うさ子さん:

ぐすん、私たちの最初で最後のコンサートに来て下さり、ありがとうございます。これから一生懸命演奏しますので、お聞きください。私たちの未熟さ、そして楽器のせいで本当にお聞き苦しいところがありますが、ぜひそこは許してくださり、お楽しみください。それでは、サン・サーンスの「動物の謝肉祭」、バイオリン、ピアノ、たいこのスペシャルリミックス版でお贈りします。

会場:

ぱちぱちぱち・・

ナレーション:

残念ながら、耳栓が本当に必要な演奏でした。特にピアノの音がひどかったのです。多少音程が外れているのはまだ良かったのですが、中の機械部分がさびているのか、手入れの悪い自転車のブレーキがキーキー言う嫌な音がまざって、本当に聞き苦しいのです。

ポン吉:

きこきこーきーこっこ・・うさこ・・もうダメだよ・・会場をごらん。もうほとんどの人が耳栓をしてる・・

うさ子さん:

えーん、これがラストコンサートなのに・・!

こぐくん:

どんどこどんどこ・・続けたいけど・・そのキーキー言う音さえなければなぁ・・

うさ子さん:

そうだ! これよ! これこれ!

ナレーション:

と、うさこさん、何を思ったのか、自分がいつも肌身はなさず今日も首に大切にかけていた小瓶の蓋を取って、グランドピアノのハンマーアクション・・嫌なキーキー音が出る部分にその中身をかけ始めたのです!

カメ吉:

おおっ! も、も、もったいないがな! それはうさこはんのい、命よりも大切なチャネルの5番、あのマリリンモンロウがネグリジェの代わりに夜自分の体に振り掛けた、あんさんがヤクーオークションで10万ドルで手に入れた、モンロウが1瓶だけこの世に残した伝説の香水!

うさ子さん:

そう、これも油が入っているでしょう? きっとこれで滑りがよくなってキーキー言わなくなるわ!

カメ吉:

いやいやいや~もったいない、もったいない! そ、それだけで、そんなボロボロのピアノが何十台も買えるんやで~!

うさ子さん:

いいじゃない、この子が今まで一生懸命働いて来たお礼よ。そして死ぬ前の、せめてものお化粧なの・・

カメ吉:

あんさん、気がちごうておりまっせ!

ポン吉:

それは違うな、うさこさんは、今、始めて何が大切か、本当に分かったんだ。

うさ子さん:

じゃあ、最後の曲を演奏するわよ! わん、つー、わん、つー、すりー!

カメ吉、こぐくん:

おーっ!

ナレーション:

それは、動物村で、いや世界で、いや宇宙でも歴史に残るくらいの素晴らしい演奏でした。演奏の迫力と本物のチャネルの5番の香りが体育館を包み込み、バイオリンとピアノとたいこの音がみごとにハーモニーを作り出し、みんなうっとりと聞き惚れるのでした。
ポン吉はと言えば、左手としっぽの両方に持った2本の弓を使って二人分以上の音を出すではありませんか。
うさこさんは、体が軽いのを生かしてピアノの鍵盤の上をぴょんぴょんはねて両手両足でダイナミックな演奏をしました。
こぐくんはちょーつよいカーボン繊維でできた皮を使ったたいこを超音速でたたくので、校長先生の眼鏡が衝撃波で割れる程の迫力です。
しかし演奏中にハプニングが!

うさ子さん:

きゃー、どうしましょう! ピアノのバットの足が折れたわ!

こぐくん:

だ、だいじょうぶ、僕がこうして肩で支えながらたいこをたたくから・・!

うさ子さん:

きゃー、どうしましょう! ピアノの弦の音が狂って来たわ!

ポン吉:

心配すんな! 僕がグランドピアノに入って足を器用に使って狂った弦を調律しながらバイオリンを演奏するから!

うさ子さん:

きゃー、どうしましょう! ピアノ椅子がこわれたわ!

カメ吉:

よっしゃー! ここはわてにまかしとき! 遠慮せんと、わての背中に座って演奏してぇな!

ナレーション:

こうして仲良し3人組プラスカメ吉はみごとなチームワークでハートフルなステージにしたのです。盛り上がるにつれ、観客は一人二人と立ちはじめ、最後には全員が肩を組んでウェーブをしたり手をあげて一緒になってシャウトしているのです!
演奏が終わっても拍手が鳴りやまず、みなずっと立ってスタンディングオベーションをしているほどでした。すると突然、校長先生が涙でぐしょぐしょになった顔でステージに駆け上がったのです!

校長:

(一人一人をハッグしながら)よかった! 本当によかった! 最高だったよ!

ポン吉、うさこ、こぐくん:

ありがとう!

校長:

(観客に向き直り)みなさん、ぐすん、よくお聞きください。私は今、感動しています、みなさんと同じように。そして今、私は目からうろこが落ちたように何が本当にもったいないのか、何が本当に大切なものか、はっきりと思い知らされました。
大切なものは時間の長さではなく、時間の濃さです。この子たちはこのコンサートまでの一ヶ月、どんなに濃い時間をすごして来たのでしょう。楽器と語り合い、格闘して来た、他人から見れば大切な時間をたくさんたくさん「無駄」にして。
そして大切なことはものを大事にして愛すること。この子たちは楽器を仲間として友として見ています。どんなに古くなっても調子悪くなっても仲間を友だちを捨てないのです。
みなさん、「もったいない」の本当の意味に立ち返りましょう。
それは、何万ドルもする高価なチャネルの香水をたった一回のコンサート、それもそれきりで捨てられ壊されるピアノに振り掛けるのはどんな風に考えても無駄ですしもったいないです。
それでも、うさこさんはそれをかけました。それを売ればこれよりもいいピアノが何台も買えます。そればかりか、このぼろい体育館も数倍立派なものに建て替えられたでしょう。実にもったいない話ではないでしょうか?
でも、思い出はお金では買えません。感動に値札はないのです。しかもお金は使ってしまえばそれまでです。
もったいなくないのです。なぜなら、私たちの心は熱いではありませんか。涙が止まらないではありませんか。一生忘れないものを受けたではありませんか?
そこで提案いたします。学校全体をこの新しい、本当の「もったいない」の考え方で変えて行きます。
でも、まず、この音楽クラブのコンサートを「ラストコンサート」ではなく「ファーストコンサート」にして来年も、再来年も、いつまでもいつまでも続けて行きたいのです!

ナレーション:

校長の言葉は観客全員の気持ちを表したものでした。拍手はいっきに盛り上がり、いつまでも続いたのでした。
さて、「もったいない」の考えで見直された結果、捨てるはずのピアノ、バイオリン、たいこ、その他の楽器は修理をすることになりました。体育館も大幅な修理をし、見違えるほどになりました。お金もずいぶんかかったのですが、PTAが良く働き、たくさんのお金が集まりました。校長先生も率先して夏休みにコンビニで働いたのもよかったのかも知れません。
あの仲良し3人組って?ああ、今日も新しくサックスを始めたカメ吉を特訓しながら一生懸命練習していますよ・・来年のコンサートに向けて!

(おしまい)

第23話 「イエスさまにつながって」

コリントの信徒への手紙一 3章16節~17節

ナレーション:

せっかく夏休みに入ったと言うのに、毎日毎日雨模様で憂鬱ですね。でも、どんな天気でも教会学校の夏期学校は楽しかったようですね。さて、動物村の教会学校にも夏期学校があります。もともと森の中みたいな動物村ですが、さらに森の奥に行くのです。当然危険なので、勝手に出かけてはいけないことになっていたのですが、好奇心いっぱいのあの三人組には馬の耳に念仏です。

うさ子さん:

ねぇ、ポン吉、ほんとうにこの道でいいのよね?

ポン吉:

うん? も、もちろんさ! 僕の勘に狂いはないよ!

うさ子さん:

そう? なんだか頼りないよね・・「マザーテレサ」の映画見ているときも、居眠りしていて・・「おい! おいらの肉取るなよ! これ、ずっと狙っていたんだから・・!」って、よくそんな夢見てられるわね、マザーが食べ物がなくて死にそうになっているインドの人たちのために働いている映画なのに!

ポン吉:

だって~! 夏期学校のプログラムが盛りだくさんでさ~、ほんと、疲れちゃったんだよ!

こぐくん:

そうかなぁ~? だって、映画の後、花火やる時はやる気まんまんで、両手両足はもちろん、おまけにしっぽにまで花火を持ってたし、スイカ割りの時は、一番に手を上げて「ぼくぼくぼく~っ!」ってはりきって、一発でスイカをまっぷたつにしてたよ。

うさ子さん:

ポン吉~! あたしの目はごまかせないわよ。あなた、目隠しをずらしてずるをしたでしょ!

ポン吉:

してないよ! あれは目隠しがずり下がって来たんだよ!

うさ子さん:

うそおっしゃい! 目隠しの下から見てたわよ! 目隠しがずり上がるわけないじゃないよ!

こぐくん:

まあ、まあ、二人とも・・それより、変なんだよ。ここ、さっき来たところじゃない? ぼく、爪でこの木に印つけといたんだよ・・

ポン吉:

これ、印って言うのかよ! 馬鹿力なんだから! ほとんど折れちゃっているよ・・!

うさ子さん:

ばかはポン吉よ! 私たち、同じところをぐるぐる回っているのよ! 完全に迷子になったのよ! もう暗くなって来たし、私たち遭難したのよ! 遭難!

ポン吉:

なんで、ぼくばっかのせいにするんだよ! 「せっかく森の奥に来たんだから、少しぐらい冒険しない? ロマンチックな光蝶々見たいの~」って言ったの、うさ子さんじゃないか!

こぐくん:

まあ、まあ、ここでいがみ合ってもどうにもならないよ・・

うさ子さん:

だって、だって、ポン吉が一番悪いのよ! 方向音痴のくせして、「ぼくに任せろー!」なんていばるもんだから! えぇ~ん!

ポン吉:

うぇ~ん、うさ子さんのいじわる! あっ!

こぐくん:

どうしたの? 「あっ!」って、なになに・・

うさ子さん:

何にもないわよ! いつもの手なんだから、いつもそうやってごまかして・・あっ!

ポン吉:

ああ~っ! あ、あそこ・・!

うさ子さん:

あっほんとだ! 助かったわ!

こぐくん:

えっ? 何が?

ポン吉:

まーだ分からないのかい? あそこだよ、あそこ・・! ほら、明かりが見えるだろ? あれ、まだ遠いけど、森の奥ホテルだよ!

こぐくん:

あ、ほんとだ。やったね! あの吊り橋を渡ればすぐだね!

ナレーション:

あれ? これで三人は助かったのでしょうか? まさか、鶴松先生のお話がこんなに簡単にハッピーエンドで終わる訳はないですよね? そうです、まだまだとんでもないどんでん返しがあるのです!

ポン吉:

やった、やった、らんららんららん♪~! 吊り橋渡れば、すぐホテル!

うさ子さん:

そそらそらそら、あ、うっさぎのダンス♪~! 吊り橋、ゆらゆら楽しいな!

こぐくん:

ドミソミドミソミ、こぐまのダンス♪~!

ポン吉:

あははは、ぜんぜん音が間違っているよ、こぐくん!

こぐくん:

この吊り橋、丈夫だね! こんなにはねても、あ、こんなにはねても・・大丈夫・・

ポン吉:

お、おい、こぐくんは100キロ以上あるんだから、そ、そんなにち、力まかせに・・

うさ子さん:

そうよ、そんなにどすどすやったら・・

こぐくん:

みんな、臆病だな~! おーいらーはあさしょうりゅう! どすこい、どすこい・・あ、あれ~!

うさこさん、ポン吉:

あ~れ~! 落ちる~!

ナレーション:

さあ、大変です。吊り橋の下はゆうに50メートルはあります。早い流れの森の奥川が流れているのです。そこへ三人はまっさかさまに・・この高さから落ちたらいくら水とは言え、やく60キロの速さでコンクリートに打ち付けられるのと同じショックです。三人の運命やいかに!
と、その時、大きな影がならくに向かって飛んで来たのです。鳥か? 飛行機か? はてまたスーパーマンか? いえ、キングコングです。ポン吉のおじさんのキングコングが迷子になった三人を探していて、ちょうど落ちる三人を見つけたのです。
キングコングは空中で三人をつかまえると抱きかかえ、自分の背中から落ちて行きました!天にも届くばかりの水しぶきがあがりましたが、キングコングのふかふかのおなかのクッションで三人は傷ひとつつきませんでした。
しかし大変です! 気を失ったキングコングを急いで岸に上げた三人はびっくりしました。

うさ子さん:

大変よ! コングおじさん、息をしてないわ!

ポン吉:

わーん、ごめんよう! ぼくたちのために死んじゃったんだ!

こぐくん:

おーん、ぼくのせいだよ! ばか見たいに吊り橋で飛んだりしたから・・

うさ子さん:

何言っているのよ! まだ死んでいないわよ!

ポン吉:

えっ? だって今、「息をしていないわ。」って言ったじゃない。

うさ子さん:

ポン吉、夕方ホテルの方が教えてくれた「救命法教室」の時、寝てたでしょう! コングおじさんはきっと助かるわ! でも、時間との戦いよ! 最初の5分が勝負なのよ! あきらめたら、おしまいなのよ!

ポン吉:

で、で、どうすればいいの?

うさ子さん:

まず、ポン吉は足が速いからすぐに森の奥ホテルに行って AED を持って来て、それから救急隊の人たちに連絡して!

ポン吉:

はい、行って来ます!

うさ子さん:

こぐくんは私と一緒に CPR をしましょう!

こぐくん:

CPR ってなに?

うさ子さん:

CPR とは Cardio-Pulmonary Resuscitation の略語で心肺蘇生法のことよ。まず気道を確保して・・こうやって鼻をつまんで・・ふぅーっ、ふぅーっ!

こぐくん:

あ、キスしてるぅ!

うさ子さん:

キスじゃないわよ! これはマウストゥマウス人口呼吸と言って口から肺に息を入れるの。脳に酸素が5分間行かないと脳細胞がこわれてしまうのよ。

こぐくん:

ぼくは何をすればいい?

うさ子さん:

こぐくんは力が強いから、心臓マッサージをお願い。

こぐくん:

マッサージって、こう?

うさ子さん:

それじゃあ、肩もみじゃないの! こうよ! こう、左右のあばら骨がつながるところに指二本置いて・・その上に両手を添えて力いっぱい体重をかけて手の平で押すのよ!

こぐくん:

あっ! そんなに強くやったら痛いよ!

うさ子さん:

いいのよ! あばら骨が折れてもつながるけど、死んだら生き返らないわ! ふぅーっ、さ、やって!

こぐくん:

こう? うんしょ、うんしょ・・

うさ子さん:

そうそう・・1分間に100回くらいの速さよ・・それを15回やるの。そしたら、私がゆっくり2回人口呼吸するの。ふぅーっ、ふぅーっ!

こぐくん:

うさこさん、よく知っているし、冷静だなぁ!

うさ子さん:

もちろんよ。私ナースになるのが夢なのよ! 白衣の天使の看護婦さんよ! だから今日のマザーテレサの映画、目を皿のようにして見てたわ・・ふぅーっ、ふぅーっ!

ポン吉:

おーい! AED を持って来たよ!

うさ子さん:

ありがとう! 救急隊は?

ポン吉:

それが・・一番近い病院からでも20分かかるって・・

うさ子さん:

そう! じゃあ、しかたがない、私たちで AED を使うわよ!

ポン吉:

この AED ってそんなに大事なの?

うさ子さん:

ええ、電気ショックで心臓を動かすの。急ぎましょう。ああ、あった、あった。まずはこのタオルでコングおじさんの体をふいて。濡れていると脈の測定が正確にできないの。

ポン吉:

へえーっ! 分かりました!(ピューッと飛んで行く。)

うさ子さん:

あ、こぐくんは、このかみそりでコングおじさんのこことここの毛を剃ってね。すごい胸毛だもの。

こぐくん:

え? 毛を剃る?

うさ子さん:

急いで! 電気を流すとき、毛で電極と肌に隙間があるとやけどをするのよ!

こぐくん:

わ、わかりました! そりそり・・

うさ子さん:

じゃあ、AEDを開けるわよ。開けると音声でガイダンスがあるの。それに従えば誰でもできるわ。

AED:

「それでは、まず電極パッドを青のプラスチックからはがして、図にある通りに胸の上とわき腹に貼ってください。」

うさ子さん:

しっかり貼るのよ。

AED:

「患者に触れないでください。心臓リズムの解析を行っています。」

うさ子さん:

みんな、離れて。電気ショックが必要か調べているの。

AED:

「待機してください。通電の準備をしています。全員離れてください。点滅しているボタンを押してください。ピコピコピコ・・」

うさ子さん:

いい? 離れている? ボタンを押すわよ・・!

AED:

<<通電>>

コングおじさんの体がショックでガクンとなる。

うさ子さん:

うーん、まだ心臓は動いていないわ・・もう少し CPR を続けましょう。時間との戦いよ! 1分ごとに10%生き返るチャンスが失われて行くの・・ふぅーっ、ふぅーっ!

こぐくん:

ぼくは心臓マッサージだね! うんしょ・・うんしょ・・

ポン吉:

ぼくは何をやればいい?

うさ子さん:

じゃあ、人口呼吸してみて・・! こうよ。ふぅーっ、ふぅーっ!

ポン吉:

なに、簡単じゃないか・・こう? ふぅーっ、あれ? ふぅーっ? あれれ? はぁ、はぁ、はぁ・・むずかしいよ、これ!

うさ子さん:

ポン吉、肺活量がないんじゃない? わたしは、本格的にソルフェージュとか歌の練習しているから、腹式呼吸がしっかりできるのよ。だめねぇ・・ふぅーっ、ふぅーっ・・

ポン吉:

ごめん・・じゃあ、心臓マッサージするよ。マッサージ得意なんだ・・

こぐくん:

じゃあ、やってごらん。ここをこう・・思い切り押すんだよ。このぐらいのリズムでね・・

ポン吉:

簡単、簡単・・こうね・・うんしょ! あれ? どっこいしょ! あれれ?

こぐくん:

あれ? ちっとも胸が沈まないね?

うさ子さん:

ポン吉が軽すぎるのよ! だってコングおじさん、300キロ以上ある巨体だもの・・100キロのこぐくんでようやくできるのよ! だめねぇ、ポン吉は・・

ポン吉:

ねぇ、ぼくだって手伝いたいよ! ぼくのおじさんなんだから!

うさ子さん:

じゃあ、祈って! 祈るのよ!

ポン吉:

祈る? どうやって?

うさ子さん:

なんか、お祈り知っているでしょう? なんでもいいわよ!

ポン吉:

う~ん、あ、そうだ、「聖フランスチョコのお祈り」があった。え~と、「私をあなたの平和の大工さんにしてください・・

うさ子さん:

あ、そこ、「道具にしてください。」でしょ!

ポン吉:

あ、そうそう、そうだった。「私をあなたの平和の道具にしてください・・肉のしみがあるところにファブリーズを・・

うさ子さん:

ちょっと~、まるきり違うわよ、「憎しみのあるところに愛を」でしょ!

ポン吉:

え? そうだった、そうだった? 「憎しみがあるところに愛を・・」う~ん、あと、思い出せないや・・

うさ子さん:

じゃあ、「主の祈り」にしたら? あれなら知っているでしょう?

ポン吉:

うん、ばっちりさ! えっと、「天にもしもし我らの土よ・・

うさ子さん:

えーい、もういらいらするぅ~! 最初からめちゃくちゃよ・・「天にまします我らの父よ」だわ!

ポン吉:

ごめん、ごめん・・「天にまします我らの父よ・・みんなにあっかんべーしますよ。・・

うさ子さん:

ちょっと~! 「御名があがめられますように」よ! もう、やめて、やめて、気が散るだけだわ・・だめねぇ・・お祈りもまともにできないの?

ポン吉:

ごめん・・なんにも役に立てなくて・・くすん、くすん。

うさ子さん:

泣いている場合じゃないわよ。もう一度 AED を使うわよ。

AED:

「患者に触れないでください。心臓リズムの解析を行っています。」

うさ子さん:

みんな、離れて。

AED:

「待機してください。通電の準備をしています。全員離れてください。点滅しているボタンを押してください。ピコピコピコ・・」

うさ子さん:

いい? 離れている? ボタンを押すわよ・・!

AED:

<<通電>>

コングおじさんの体がショックでガクンとなる。

うさ子さん:

うーん、まだ心臓は動いていないわ・・もう少し CPR を続けましょう。・・ふぅーっ、ふぅーっ! まだ、救急隊は来てないの?

ナレーション:

さすがのうさ子さんも焦って来ました。AED は大量の電気を使うので5回までしか通電できないのです。CPR をしては通電し、うさこさんもこぐくんも疲れ果てていました・・

うさ子さん:

これが最後のチャンスよ・・!

AED:

「待機してください。通電の準備をしています。全員離れてください。点滅しているボタンを押してください。ピコピコピコ・・」

ポン吉:

わーん! コングおじさん、死んじゃあ、いやだぁーっ!

うさ子さん:

な、なにしてるの? ポン吉、離れてよ!

AED:

「待機してください。通電の準備をしています。全員離れてください。点滅しているボタンを押してください。ピコピコピコ・・」

うさ子さん:

離れてよ、ポン吉! 通電できないわよ! 最後のチャンスなのよ! こぐくん、ポン吉を引き離して!

こぐくん:

さ、ポン吉、離れないと通電できないよ・・ね?

ポン吉:

わーん!コングおじさん、死なないで! 死なないでおくれよぉ!

こぐくん:

こらあすごい力だ・・ぼくでもポン吉を離すこと、できないよ・・!

AED:

「あと5秒で通電します。」

うさ子さん:

こぐくん! AEDが暴走したわ! いくら解除ボタンを押しても止められないの! 早くポン吉を離さないと、感電するわよ!

AED:

「5・・」

こぐくん:

こ、こら、ポン吉!

AED:

「4・・」

うさ子さん:

は、早く・・こぐくんも感電するわよ! えぇい、私も手伝うわ!

AED:

「3・・」

ポン吉:

神様! ぼくの命をコングおじさんにあげてください!

AED:

「2・・」

うさ子さん:

あー、もうだめ! 神様!

AED:

「1・・!」

<< ガシャン!!>>

ナレーション:

電気ショックはやって来ませんでした。もし、暴走した AED が通電したなら、コングおじさんにしがみついていたポン吉、そしてそれを引き離そうとしていたこぐくんやうさ子さんも10万ボルトの電気ショックを受けて無事でいられるはずはなかったのでした。
なんと、AED は一撃のもとに破壊されたのでした。それでは、それを壊したのは誰でしょうか?
それは、コングおじさんでした。コングおじさんの大きな手が一瞬にして暴走した AED をぺちゃんこにしたのです。
奇跡が起こったのでしょうか? それとも、300キロを越す巨体のコングおじさんには4回の通電が必要で、4回目の後に蘇生していて、みんなのさわぎで気がついたのでしょうか?

うさ子さん:

き、きせきだわっ!

こぐくん:

AED さん、ぺっちゃんこ・・さすがはコングおじさんだ・・

ポン吉:

うぇ~ん、うぇ~ん、コングおじさん! うぇ~ん!

コングおじさん:

よしよし・・ありがとう、ポン吉。ありがとう、みんな・・

うさ子さん:

でも、納得できないわ。こんな・・非科学的な・・いったいどうしたの?

コングおじさん:

それが・・わしにも不思議でな・・お前たちが助かるなら死んでもいいって思って夢中で飛び込んだんだが・・突然、お前たちのために生きなくちゃ、と思ったら気づいたんだ・・

うさ子さん:

不思議ねぇ・・でも、信じるわ。わたしも、ポン吉の心からのお祈りが神様に通じたとしか思えないもの・・

コングおじさん:

はは・・でも、うさこさんの冷静な判断とこぐくんの力強い心臓マッサージがなければ、生き返らなかったさ。ところで、ポン吉。

ポン吉:

なに、おじさん?

コングおじさん:

お前、さっき、「神様! ぼくの命をコングおじさんにあげてください!」と叫んでいたな?

ポン吉:

うん、何も考えずに夢中で祈ったんだ。

コングおじさん:

はは・・きっとポン吉の心の叫びがおじさんを救ってくれたんだよ・・ところで、この壊れた AED なんだけど、お前のおこづかいで弁償してくれないかな? お前の命よりずいぶん安いと思うけどね・・25万円だけど。

ポン吉:

25万円! きゃー、くるくる・・

うさ子さん:

それは無理よ、コングおじさま。だってポン吉のおこづかい、月々300円だもの・・70年かかっちゃうわ!

ポン吉:

えーっ! 70年も・・!おじいさんになっちゃうよ!

みんな:

ははははは!

(おしまい)

第24話 「私たちの生きる目的」

イザヤ書 42章5節~6節

ナレーション:

動物村にも新聞がありまして、「動物村タイムズ」と言います。もちろん、普通に色んな広告のチラシが入っています。「動物電気のクリスマス大激安セール」や「動物村不動産のVIP様限定物件下見会」とか「動物村ルミネ、もってけ泥棒ブランド市」とか・・でも、中には怪しい広告もあったりします。おや?例の仲良し三人組が何か興奮して話していますね。

うさ子さん:

ねぇ、ポン吉、これってすごくない?

ポン吉:

うん? も、もちろんさ! 僕たちの究極の夢だね!

うさ子さん:

でも、本当かな~! こんなうまい話・・

ポン吉:

うまい話には裏があるからね・・でも、僕たちはそんなバカじゃないから、簡単には引っかからないだろ? あ~らら、ちょー簡単に引っかかりそうなのが来たね。

こぐくん:

うん? なんの話? 僕もまぜてよ。

うさ子さん:

見てよ、この広告! こぐくん、新聞読まないの?

こぐくん:

読むよ! 失礼だな! テレビ欄は隅から隅まで・・それにマッスルトレーニングのページは切り抜きしているよ、毎日。

ポン吉:

ま、脳みそまで筋肉ってこぐくんのためにある言葉だね! でも、今回のは新聞の記事じゃなくて、すごい広告の話なんだよ! もう、ちょーびっくり!

こぐくん:

なに、なに・・「ついに登場! 身代わりロボットサービス! 今なら無料お試しキャンペーン中!・・なんじゃ、こりゃ。代わりにごはんを作ってくれるの?

ポン吉:

おい、食べる事ばかりだな! お惣菜の宅配サービスじゃないよ! この「ラクラクライフ」って会社が、みんなを幸せにするために、いやーなことをなんでもやってくれるロボットを無料で貸し出してくれるってことなんだよ!

うさ子さん:

考えてもごらんなさいよ、いやーなことをぜーんぶやってくれるのよ、代わりに・・つまらなくていやーなピアノの練習・・

ポン吉:

吐き気が出る宿題・・、逃げ出したいおトイレ掃除・・

こぐくん:

ふーん、僕、いやなこと、ないけどな・・

ポン吉:

幸せなやつだな! だから、お前は単細胞だって言うんだよ! あ、そうだ、こぐくん、蜂蜜好きだけど、蜂に刺されるのは嫌だなって言ってたよね?

こぐくん:

うん、だって「ごめんね、少しだけ分けてね。」ってちゃんと断っても、どんどん刺してくるんだよ・・ひどいよ、ひどいよ。

ポン吉:

ほらね!それも、大丈夫。「ラクラクライフ」の身代わりロボットが代わりに蜂に刺されてくれるんだ。こぐくんは蜜だけをおいしくもらえばいいんだよ!

こぐくん:

へぇー! それはすごいや!

うさ子さん:

ね、こんなすごいこと、みんなきっと殺到すると思うから、学校終わってからすぐに申し込みに行かない?動物村ヒルズの48階だそうよ。

ポン吉:

いやいや、今すぐ行こうよ! みんなで仮病使って早退して行こう!

こぐくん:

え、まずいよ・・それは。

ポン吉:

いいから、いいから。早い者勝ちって書いてあるよ・・

ナレーション:

「なんでもいやーなことはやってくれる身代わりロボット・・」なにか怪しいにおいがしますね。とんでもないことにならなければいいのですが・・

ポン吉:

えっへん! 僕に感謝しなさ~い! 僕のおかげでキャンペーンの身代わりロボットを三人分ゲットだぜい!

こぐくん:

でも、何百人も並んでいる上をポン吉を投げて前に送ったのは僕だよ。

うさ子さん:

ありがとう、ポン吉、こぐくん。ああ、うっとりよ。見て、この輝くアンテナを!

ポン吉:

うん、これ、かっこいいね。テレビで見た火星人みたいだね。

こぐくん:

やったー! きれいな飾りもらってうれしいね!

うさ子さん:

ばかね! ただの飾りじゃないでしょ! これは、私とコピーロボットをつなぐアンテナ。私の命令をコピーに送るためのものよ。もう、早速お掃除当番やってもらったわ! ラッキー!

ポン吉:

でも、命令を送るだけじゃなくて、コピーがしたことも伝わってくるんだ。すご過ぎ。だって、代わりにやってもらった宿題、あ~ら不思議、きちんと理解しちゃっているんだからね! はは・・笑いが止まらないよ。

こぐくん:

でも、僕もいやーな薪割りをやってもらったけど、少しだけ疲れちゃったよ。あの、なんだっけ、少し精気を送らないといけないんだよね。

ポン吉:

あったりまえじゃないか! 何にもしないで、トイレ掃除とか、宿題とか、薪割りとかやれるわけないじゃないか! でも、実際にやるよりかは全然楽なんだぞ!

うさ子さん:

そうよ。この「操作マニュアル」によると、コピーロボットたちは0.5%だけ私たちにエネルギーを分けてもらって、いやーな仕事をしてくれるのよ!感謝しなくちゃ・・

ナレーション:

いやーなことを文句も言わずに代わりにやってくれる僕(しもべ)がいたら、どんなにいいでしょう。まさにそんな夢のようなことが、現実になったのです。しかし、何か裏がないのでしょうか?

うさ子さん:

もしもし、ポン吉、どうしてる? このごろ、めんどくさいから学校へはコピーに行ってもらっているの。

ポン吉:

あっ! 僕も・・へへ。と言うわけで、毎日が日曜日で・・ゲームばかりしてるよ。うさこさんどうしてるの?

うさ子さん:

あたしも嫌なことは全部コピーにさせて、大好きなお菓子作りざんまいよって言いたいところだけど・・ちょっと困っているの。

ポン吉:

どうしたの?

うさ子さん:

あたしのアンテナ、ちょっと調子が悪くて・・この間、ピアノの発表会があったんだけど、コピーが間違えちゃって・・で、「ラクラクライフ」の人に聞いたら、アンテナが調子悪いようだから、「ご迷惑をおかけしますが、新しいアンテナの用意できるまで、少しの間がまんして下さい」って。

ポン吉:

それは大変だね。今、動物村の人のほとんどがコピー使っているから、ちょっと時間がかかるかもね。ところでこぐくんのこと、聞いた?

うさ子さん:

ええ、こぐくんもコピーを学校に送っているけど・・実は連絡付かないの。

ポン吉:

あ、うさ子さんもなんだ! 心配だなぁ。じゃあ、一緒にこぐくんの家に行って見る?

うさ子さん:

そうしましょう。

ポン吉:

じゃあ、放課後にね。

うさ子さん:

うん、コピーが帰って来たら。

ポン吉:

コピーに行かせよう。

ナレーション:

おや? なにかおかしいと思いませんか? 連絡がつかないお友達が心配なはずなのにコピーを送るとは・・そしてこぐくんはどうなったのでしょう?

うさ子さん:

もしもし? ポン吉? 久しぶりね、どうしてる?

ポン吉:

ああ、うさ子さん。最近、いろいろめんどくさくなってね。一週間に一度は学校に行っていたけど・・

うさ子さん:

みんなもそう見たいよ。コピーは頭がよくてどんどん覚えるから、もうあまり命令を送らなくても問題ないみたい。だから学校はみんなコピーが行っていて、運動会も前よりも立派らしいわよ。

ポン吉:

そうそう、見に行っているお父さんお母さんもコピーだしね。校長先生もコピーなんだよね。しかも忙しいから2台だって! 二人ならんで応援席で見てるって!

うさ子さん:

あのね・・ポン吉・・

ポン吉:

いやー、僕もね、実はテレビゲームもモンスターとかと戦うのかったるくなって来て、コピーにやらしているんだ。もう一台うちにいるんだよ。そのうち「ベッドサービス」頼もうと思っているんだ。ほら、自分は一日中酸素カプセルにいてよくて、全部コピーたちがやってくれるサービス・・ごはんだって食べなくていいんだよ! 全部点滴で体に入れるから・・

うさ子さん:

ね、ポン吉、聞いて。実は、大変なのよ。秘密を知っちゃったのよ。

ポン吉:

ひみつ? なんの?

うさ子さん:

あたしのアンテナ、調子が悪いって言っていたでしょ? もう待てなくて、自分で直そうとしたのよ。あたし、ラジオ技術者1級の資格持っているから・・で、いろいろいじっているうちに、イヤホンから変な声が聞こえて来たの!

ポン吉:

コピーに直させればいいのに。で、どんな声?

うさ子さん:

聞いただけで背筋が凍る声。でも怖いのはその内容なのよ!

ポン吉:

なんて言ってたの?

うさ子さん:

「いよいよ計画も99%進んで終わりに近づいて来たな。後は教会で頑張っている牧師さえコピーにすればいい・・」って。

ポン吉:

それってみんながいやーなことしないですむ、全員が幸せになる計画のことじゃないの?

うさ子さん:

そうじゃないのよ! 「あとはアンテナのスイッチを切り替えれば、コピーがオリジナルをコントロール出来る。この村は俺たちのものだな。」って言うのよ! ポン吉! 助けてよ!

ポン吉:

それは大変だ。今どこにいるの?

うさ子さん:

この動物村の最後の砦よ! 動物村教会の近く。牧師先生に助けてもらうわ! こんな時、こぐくんがいれば頼りになるのになぁ!

ポン吉:

こぐくん? あ、連絡ついたんだよ。わかった、こぐくんも連れて行くよ。動物村教会だね・・

うさ子さん:

そうなの? やったー! こぐくんがいれば百人力よ!

ナレーション:

やはり、このうまい話には裏があったようです。しかし、仲良し三人は、動物村を、地球を「ラクラクライフ」の魔の手から助けられるのでしょうか?

うさ子さん:

こんばんは! こんばんは! 牧師先生はいらっしゃいますか? せんせ~い!

牧師先生:

やあ、いらっしゃい、うさこさん。

うさ子さん:

ああ、よかった! 先生、大変なんです! 動物村のみんなが危険なんです。先生、助けて下さい。助けられるのは先生だけなんです。

牧師先生:

はは、話さなくても全部知っているよ。もちろん助けてあげるよ。

うさ子さん:

あ、ありがとう! 先生! さあ、一緒にみんなを助けましょう! あ!

牧師先生:

どうしたんだい?

うさ子さん:

そ、その・・あの・・アンテナ・・

牧師先生:

ああ、これかい? いいだろう? ようやく手に入れたんだ。牧師の仕事はね、忙しくて、大変で、いやーなことも色々あったんだ。だから、コピーを特別に3台貸してもらったんだよ。

うさ子さん:

ち、近寄らないで! 怖いわ・・

牧師先生:

さ、全部、先生に任せて。助けてあげるから。うさ子さんはそのアンテナがこわれているのが問題なんだ。さあ、この新しいアンテナをつければ、幸せになれるよ。

うさ子さん:

きゃー、助けて! に、逃げなきゃ・・

牧師先生:

おっと、君の大好きなお友達に挨拶もなしに帰るのかい? お行儀が悪い子だね。君たちも、うさ子さんをなおすのを手伝っておくれ。

ポン吉:

うさ子さん、抵抗するから怖いんだよ。

こぐくん:

うさ子さん、この新しいアンテナを付ければしあわせになれるよ。

うさ子さん:

こぐくん、どうしたの、その血だらけの手!

こぐくん:

あ、これね。僕のアンテナも調子悪くて、抵抗して戦ったんだよ。でも、新しいアンテナを付けたら、ぜんぜん痛くないんだよ。痛みも悲しみもないんだよ。

ポン吉:

それっ! つかまえた!

こぐくん:

じゃ、先生、お願いします。

うさ子さん:

や、止めて! みんな、正気に戻って!

ナレーション:

ポン吉とこぐくんに押さえつけられ、手も足も出ない・・しかも、敬愛する牧師先生にアンテナを付けられる・・それだけで、心がくじけてもしょうがない、とうさ子さんは思いました。ところが・・あばれているうちに、棚の上にあったヒムプレイヤーが落ち、偶然スイッチが入り・・讃美歌がなったのです。♪いーつくしみふかーき、友なるイェスはー・・♪ するとポン吉、こぐくん、牧師先生は一瞬とまどいました、動きが止まりました。でも、一瞬でよかったのです。

うさ子さん:

えいっ! うさ子の耳パワーっ! アンテナ白刃どりーっ!

ナレーション:

うさ子さんは、自由自在に動く耳を使って、牧師先生がうさ子さんのあたまに刺そうとしていたアンテナを両耳ではさんで脇に放るが早いか、鞭のようにしなり、超音速で動く耳で次々とポン吉、こぐくん、そして牧師先生のアンテナをポンっ、ポンッ、スポポンッと次々に引き抜いてしまったのです!

牧師先生:

おおーっ!

ポン吉:

ぎゃーっ!

こぐくん:

うおーっ!

うさ子さん:

・・おまえたちは、すでに自由になっている!

牧師先生:

おや? 私はどうしていたんだろう・・?

ポン吉:

ありゃあ、まるで悪い夢からすっきり醒めたみたいだ。

こぐくん:

あれれ? ぼく、どうしてたんだろう?

牧師先生:

そうだった・・うさ子さん、すまない、イエス様に仕える私が心も体も奪われてしまうとは・・!

ポン吉:

大好きなうさ子さんを押さえつけてロボットにしようとしてたなんて! ごめんね!

こぐくん:

僕も許してね! 僕も戦ったはずなのに・・おおーっ! 手が痛いよー!

うさ子さん:

みんな、心が痛いでしょう? こぐくんも手が痛いでしょう? それが自由よ、生きる証よ! でも、謝っているひまがあったら、今は戦いましょう! みんなを自由にするのよ!

ポン吉:

おーっ! そうこなくちゃ! いいねぇ、さっきのうさ子さんの台詞、「おまえたちは、すでに自由になっている!」さあ、出撃だっ!

ナレーション:

自分たちまで心と体を奪われ、うさ子さんを襲ったことを後悔していたこともあって、この後牧師先生、ポン吉、こぐくんがどのように「ラクラクライフ」のオフィスがある動物村ヒルズで暴れたかは、「動物村英雄列伝」や「動物村の歴史」に詳しく書いてありますが、とにかく48階が消えてなくなったとだけ、言えばいいでしょう。ロボットや人体コントロールアンテナを作る工場も、アンテナを付けられた人の自由を奪う電波を送るコンピューターも全部ちりとなって消えました。もちろん、「ラクラクライフ」の悪者たちも一網打尽に逮捕され、今は動物村刑務所で反省の毎日を送っています。コピーロボットたちはどうなったでしょう?捨てるのはもったいないので、動物村パルコの洋服売り場でマネキンとして使われることになりました。

うさ子さん:

この間、お洋服買いに行ったら、ポン吉のコピー、子供売り場でかわいいおこちゃまの服を着せられていたわよ!

ポン吉:

あれ、ぜったい恥ずかしくていやなんだけどなー!

こぐくん:

あ、ぼくも見たけど、子供がお母さんにあの中身のおさるさん欲しいって言ってたよ。

ポン吉:

言うなよ! あー、恥ずかしいな!

うさ子さん:

でもね、ポン吉。いやだとか、恥ずかしいだとか、痛いだとか、疲れただとか、みんな生きているってことよね。

ポン吉:

そうなんだよ。あんなことがあってから、いやなことがありがたいって思うもん。

こぐくん:

本当だよ。だってこの間トイレ掃除一緒にしてたら、ポン吉、うふふ、あはは、おトイレそーじ、楽しいなってにやにやしながらやっていたよ。

うさ子さん:

きもーい!

ポン吉、こぐくん、うさ子さん:

あはははは!

ナレーション:

みなさんも、安心してはいけませんよ。自分の頭の上を確かめて下さい。いつの間にか、誰かに見えないアンテナを埋め込まれて、コントロールされていませんか?

(おしまい)

第25話 「クリスマスの喜び」

マタイによる福音書 2章1節~12節

ナレーション:

今年の大ヒット映画と言えば「ゲド戦記」でしょうか? インターネットなどの評判はよくないのですが、さすがはジブリブランド、多くの人、特に家族連れが見たそうです。 でも、世界中のクリスチャンが注目した映画と言えば「ダビンチ・コード」でしょう。この映画は、天才発明家でもあり画家のレオナルド・ダビンチが名画「最後の晩餐」にイエス個人についてのびっくり仰天する事実を「暗号」にして隠した、というものです。 「まったくのデタラメでひどい。」と言って怒り出す者もいれば、「作り話として見れば面白い」と感心する人もいますが、なんと! この映画以上のミステリーサスペンスが動物村を襲うことになったのです! しかも、クリスマスが近いだけに、やはりサンタにまつわる話なのでしょうか?

うさこさん:

ね、ポン吉、大変よ!「動物タイムス」を読んだ?

ポン吉:

うん? も、もちろんさ! 動物村始まって以来の大事件だね!

こぐくん:

うん? なーに? 「今年のクリスマスケーキは蜂蜜入りがトレンディー」の特集なら、読みまくったさ! うさこさん、作ってくれるの?

うさこさん:

まあー、こぐくんったら一面全部使った世紀の大事件には目もくれず、お料理のページしか見ないのね!

ポン吉:

ほんとだよ! スポーツ新聞も青ざめるような200ポイント以上のでか文字の大事件なんだぜ! ほらっ!

こぐくん:

ん? なになに? 「今年のサケは脂が乗っていて今が旬」? ほほ~大ニュースだね!

ポン吉:

もう~ばーか! こっちだよ! 「動物村美術館に連続強盗!館長も襲われる!」

こぐくん:

えっ! 動物村美術館の館長って、カメ吉くんのお父さんじゃない?

うさこさん:

そうよ! カメ吉くんのお母さんで自分の体を犠牲にして新しいお薬を作って亡くなった、「おカメはん記念館」は美術館の一部だから。

ポン吉:

そうなんだよ。しかもすごーく怪しい事件なんだ。 「・・動物村警察によると、強盗は複数と見られ、ここ一ヶ月の間に何度も動物村美術館のセキュリティシステムをかいくぐり、侵入し、何かを探しているように荒らしているが、高価な美術品にはまったく手をつけず、何が目的かはナゾだ。しかも、昨晩は24時間体制で警備をしていた館長も襲われ、全治3ヶ月の重傷を負っている。その後、サンタの格好をした不振人物が現場から逃走するのを目撃した者もいるそうだ・・

うさこさん:

もうこれは、あれね!

ポン吉:

うん、あれしかないね!

こぐくん:

だね! んだ、んだ! あれ!

ポン吉:

ちょっと、こぐくん、あれってなんの意味だかわかってる?

こぐくん:

え? あれは・・その・・はっはっは! 全然わからん!

うさこさん:

もう~、にぶいわね! つまり、私たち「動物村探偵団」の出動ってわけよ!

ポン吉:

そう、「じっちゃんの名にかけて真実はひとつ!」って言うだろ? 僕たちでこの事件を解決しようよ!

うさこさん:

でね、ポン吉と話してたんだけど、まずは、お見舞いがてら、カメ吉くんのお父さんに会って話を聞いてみない?

こぐくん:

じゃ、何買って行く? 冬にメロンって変かな?

うさこさん:

もう~! 食べることばっかり!

ナレーション:

さて、なんとも不思議な事件ですが、カメ吉くんのお父さんが襲われた、というのはなにやら危険なにおいがしますね。動物村探偵団なんて言って・・大丈夫なんでしょうか? それにしても、サンタの格好をした強盗たちは何を探しているのでしょうか?

ポン吉:

カメ父さん! ずいぶん元気そうですね! お見舞いに来ました!

うさこさん:

「背中をナイフで一突き、3ヶ月の重傷」って書いてあったけど、なんともないのね!

カメパパ:

はは、・・「がんがん、とたたく」・・だてにカメをやってないよ。自慢じゃあないが、クリント・イーストウッドにマグナム銃で撃たれたことあるけど、平気じゃった。

うさこさん:

まあ、いつもあることないことおっしゃいますね。でも、時々本当だって思えることもあるんですもの。

カメパパ:

はっはっは・・全部、本当じゃ!

ポン吉:

じゃあ、聞きますが、この連続強盗事件の真実はなんなんですか? 僕は、おじさんがこの事件のなぞの鍵を握っていると踏んでいるんです!

カメパパ:

ギクッ! いや~、わしは、な~んも知らんのじゃ。まったく心当たりがない・・

ポン吉:

じゃあ、どうして今急におじさんの脈拍が20%速くなって、血圧も急に上がったんですか?

こぐくん:

すごーい! ポン吉、天才だね! どうしてわかるの?

ポン吉:

そりゃ、わかるよ。今カメおじさんにつながっている脈拍計と血圧計が目の前にあるだろ?
おじさん、僕も調べました。この事と、カメ吉くんが昨日からいないことは、関係があるんでしょう? 警察に言えないことも、僕たちに言ってください。きっとなんとかしますから・・!

カメパパ:

君たちには何も隠せないようだね・・それなら、今すぐこの病院を連れ出してくれ! 今すぐじゃ! ほら!

うさこさん:

大変! 変なサンタの格好をした男たちが病院に向かっているわ!

ポン吉:

よし! じゃあ、こぐくん、カメおじさんを背中にしょってくれ! 裏口から脱出だ!

ナレーション:

さあ、大変です。ナイフでカメ吉くんのお父さんを刺したとなると殺意があるのでしょうか? 動物村人形劇場始まって以来の危険なお話に突入するのか? そして、追うものと追われるものの行き詰る追跡劇の始まり、始まり・・!

ポン吉:

病院をなんとか出たはいいけど、いったいどこへ行くんですか?

カメパパ:

美術館じゃ! 君たちに見せたいものがあるんじゃ。それに、やつらもまさか、わしたちが美術館に行くとは思っておらんじゃろう!

うさこさん:

なるほど! 美術館ね! さ、急ぎましょう!

ナレーション:

舞台は美術館に移るようですが、ナゾは深まるばかりです、亀吉くんのお父さんが3人に見せたいものとはいったいなんなのでしょう? そしてカメ吉くんは無事もどるのでしょうか? また危険なサンタたちからみんなは逃げることができるのでしょうか?

カメパパ:

さて、ここなら安心じゃ。こぐくんも外で守ってくれているから・・

ポン吉:

ここは、美術館の特別倉庫ですね。うわさでは聞いていたけど・・その見せたいものって、ここに隠してあったんですね?

カメパパ:

いや、違うな。君たちは、あの有名な「ダビンチコード」に出て来る、「サング・レアル」の秘密は知っておるかの?

うさこさん:

あの本なら英語の原書を読んだわ。「サン・グレアル」と読めば「聖なる杯」、イエス様たちが最後の晩餐で使ったもの、十字軍がずっと大切に保管していた宝物のはず。でも、「サング・レアル」、つまり「本当の血」と読めば、イエスの本当の血筋、現代まで生き残っているイエスとマグダラのマリアとの間に生まれた実の娘サラの末裔、と言うことになるわ。

カメパパ:

ほう~っ! 博識だの・・じゃが、もう一つのイエスから伝わる宝、「エリキシール」は知っておるのかの?

ポン吉:

「エリキシール」?・・「錬金術において鉛などを金に変える」と言う薬? もしくは、不老長寿の薬? まさか・・命そのものを生み出す禁断の液体?

カメパパ:

どれも間違いじゃ。それは・・

サイパンダ:

そこまでだ! 手をあげろ! この銃が見えないか!

ポン吉:

ど、どうしてここがわかったんだ?

うさこさん:

ご、ごめんね・・あたし、どうしてもジャイロのファー付きくるみボタンロングコートが欲しかったの~! この冬のトレンドで、あゆがチョイスしているのよ・・

サイパンダ:

はっはっは、と言うわけだ。でも、おまえもそこに並べっ! 裏切り女にやるものなんかないわ!

うさこさん:

ありえない! うそつき! えーん!

ポン吉:

へん! 自業自得だよ・・

サイパンダ:

さ、エリキシールを出せ、おいぼれ。お前が背中に背負っていることぐらい、調べはついている。

ポン吉:

え? 背中に?

サイパンダ:

そうだ、この中にな!

(と、ナイフでカメ吉のお父さんの背中に切りつける)

うさこさん:

きゃーっ!

ポン吉:

あ、背中のふたが取れた・・

サイパンダ:

おい、そこのサル! 中のものをゆっくり取り出してこっちによこせ!

ポン吉:

ん? ただのぼろぼろのきれだけど・・

サイパンダ:

それが「エリキシール」だ。そうだな? 動物村美術館の館長、いや、ソニエール・・私も一生かかってこのなぞを解いたのだ。つまり、ELIXIR とは、「十字架にかかったイエスが王であり救い主である」という意味で、その布切れそのものがイエスキリストであり、命を与えるものなのだ・・
Elixirのシンボル的解読

うさこさん:

さっぱりわからないわ。それがこの汚いきれと何の関係があるの?

サイパンダ:

問題は、それがだれのきれか、なのだな、ソニエール?

カメ吉パパ:

そうなのじゃ。ポン吉くん、うさこさん、どっち道、話すつもりじゃった。
そのきれは、イエス様のよだれかけじゃ。

うさこさん:

うそっ!

ポン吉:

本当に、あのイエス様の?

カメ吉パパ:

本当じゃ。実は、わしは生まれたばかりのイエスさまを訪ねた博士の一人のカメだったのじゃ。そしてわしがお願いして連れて行ってもらったのにはわけがあってな・・
わしの生まれたばかりの子が今にも死にそうで、もしかしたらその約束の救い主が助けてくれる、と信じて・・

うさこさん:

すごーい! じゃあ、イエス様は赤ちゃんなのに神様だから、ちゃちゃっと直してくれたのね?

亀吉パパ:

いやいや、ごく普通の赤ちゃんじゃった・・しかし、なんとかイエス様の飼い葉桶の下から「わしの赤ちゃんを助けてください。今にも死にそうなんです。」と真剣にお祈りしたら、あばれたのか、このよだれ掛けが落ちてきて・・

ポン吉:

それが、カメの赤ちゃんにかかって赤ちゃんが元気になった・・

カメ吉パパ:

まさにその通りじゃ。

うさこさん:

でも、するとおじさんは・・2000歳以上じゃない?

カメ吉パパ:

うーん、自分でも何歳かは忘れたが・・小さいころなんとなく恐竜を見たような覚えがあるな・・

ポン吉:

はっ! すると・・その赤ちゃんって・・

カメ吉パパ:

カメ吉じゃ。

ポン吉:

でも、カメ吉は4年生で、僕たちと同じ10歳のはず・・

カメ吉パパ:

2010歳じゃよ。

ポン吉:

がーん! そうなんだ・・

サイパンダ:

話が盛り上がっているようだが、これはもらうぞ。

カメ吉パパ:

それを、どうするつもりだ?

サイパンダ:

もちろん、真実が知りたいだけだ。ぼろきれについたよだれが問題なんだ。よだれにはDNAがたっぷり入っている、これを調べればイエスのすべてがわかる。

ポン吉:

うそだ! お前は真実が知りたいんじゃない! お金もうけがしたいだけだ、力を持ちたいだけだ!

サイパンダ:

はっはっは、なんとでも言え。DNAさえ手に入れば、なんだってできる。キリスト教のやつらにこの秘密をばらすと言えば、言うなりだ。キリストをクローンして売り飛ばしてもいいな・・・

(いきなりこぐくん、もう一人の人物と部屋に入る。こぐくん、すばやくサイパンダを取り押さえる。)

サイパンダ:

うう!

うさこさん:

こぐくん!どうしたの?

こぐくん:

見張っていたら、この人が来て本当のことを教えてくれたんだ。

ラングドン:

そこまでだ!

サイパンダ:

お前はだれだ? おれの邪魔をするやつは?

ラングドン:

ハーバード大学象徴学教授のラングドンだ。お前は間違っている。この世の中には秘密にすべきことがあるんだ。このよだれかけのように・・イエスを科学で分析しても知ったことにはならない、信じて初めて意味があるんだ。私は、お前のような欲に目がくらんだ者からその秘密を守るために来たんだ。そうでしょう? 館長?

カメ吉パパ:

いえ、もう、いいんです。そのきれにはもう、何の意味もないのです。

ラングドン:

え? どう言う意味ですか?

カメ吉パパ:

そのよだれかけには、確かに不思議な力があったのじゃ。瀕死のカメ吉を生きかえらせたのはもちろん、その後も多くの命を救って・・わしの命も、な・・

うさこさん:

あっ! あの地震で研究所が火事になった時ね・・

カメ吉パパ:

そうじゃ、あの時、わしは死ぬことになっていたのじゃ・・

ポン吉:

カメ吉とお母さんを体で業火からかばったんですね。

カメ吉パパ:

おカメはんは、ずっとずっと、そのよだれ成分のどんな傷、どんな病気をも治す不思議な力を研究していたのじゃ・・大事に大事に少しづつ使って研究して・・ついに一人しか助けられないほどしかなくなってしまって・・薬の実験台となって死ぬかも知れない自分に使わず、わしに使ってしまったのじゃ・・「おとんが助かる可能性が27%、わたしが助かる可能性が26%やから・・」ってな。

うさこさん:

じゃ、その万能薬、エリキシールの研究は?

カメ吉パパ:

ああ、おカメはん、言ってたな・・それは神の領域だって・・命は神様が与えるもの、決めるもの、わたしは科学が到達できないものがあることがわかったことがこの研究の結論だって言って、満足していきよった。

ポン吉:

すると・・これはもうただのきれなんですね。

サイパンダ:

ふん! つまらん! ただのよだれかけか! 無駄足したわい・・ごきげんよう!

(サイパンダ、去る)

うさこさん:

ただのよだれかけでもいいわ・・だって、だって、イエスさまのなんでしょう? すばらしいわ・・そうだ! ね、おじさまは本物のイエスさまをその目で見たんでしょう?

カメ吉パパ:

ああ、そう言うことになるかな?

うさこさん:

じゃ、教えて。イエスさまってどんな赤ちゃんだったの? ほら、頭に光るわっかとか、ついていなかった?

カメ吉パパ:

いや、別になかったな・・

うさこさん:

そうか・・つまんないの。じゃー、あ、そうだ、赤ちゃんなのに話ができるとか・・そう、動物と話がふつーにできたりしたんじゃない?

カメ吉パパ:

はは、それもないな。ごく普通の赤ちゃんだったよ。あ、でも・・

うさこさん:

でも、なに?

カメ吉パパ:

目がとってもきれいで、みつめられるとなにか心が洗われるような感じだった・・。で、人間の弱さとか悪いところとかはちゃんと見ているけど、暖かく希望をもって見ている感じだったな。

ポン吉:

でも、それっていくらでも言えるんじゃない?

うさこさん:

そうね。イエスさまは神さまでもあるのに本当に普通の赤ちゃんとしてこの世に生まれてくださったことに意味があるのよ。

ポン吉:

でも、奇跡のよだれかけだったね! ところで、おじさん・・

カメ吉パパ:

うん? なんじゃ?

ポン吉:

おじさんってさ、恐竜を見た覚えがあるって言ったじゃない? 恐竜は白亜紀の末期に絶滅したから、それっておじさんは少なくとも6500万年生きていることになるよね?

カメ吉パパ:

はは・・そうなるかな? で、なんじゃ?

ポン吉:

これからまたずっとずっと生きていくわけなんだけど、何が人生の最終目的なの?

カメ吉パパ:

ああ、そう言うことか・・わしにもよくわからんが、イエス様が命をかけて愛し救った人間を、いつまでもいつまでも見守って行くかのう・・

(おしまい)

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