第7話 「嵐を静める」
マタイによる福音書 8章23節~27節
おはようございます。 さて、突然ですが、みなさんはどんな時にイエスさまがおられると思いますか?
- 自分が幸せなとき
- 自分がつらいとき
- どんな時も、ずっと
- あまり感じられない
分かりました。 では、例によって、動物村小学校のお友達の話を聞いて見ましょう。
ナレーション:
動物村教会の日曜学校では、春にも山に登って山小屋でお泊りをするお泊り会があります。
どうやら、体と心を鍛えるために、けっこうきつい山道を登っていくようです・・・
うさこさん:
ちょっとー、あんた! ポン吉! あんたあんまりなんじゃないの? ひどすぎるわよ!
うさこさん:
とぼけないでよっ! さっきまで、牧師先生のおはなしの間中、ずっと寝てたでしょ!
ポン吉:
えーっ! そんなこと、ないよ。 起きてたよ!
うさこさん:
じゃあ、なんであたまをこっくりこっくりしてたの?
うさこさん:
じゃあ、 「むにゃ、むにゃ、もっとカレーのルー入れてよ・・あ、だめだめ、たまねぎじゃなくて、もっとお肉・・」 ってあれなに? 寝言でしょ?
こぐくん:
うん、ポン吉、すごいはっきり言っていたよ・・ ぼく、ポン吉におやさいも食べなくちゃって言ったら、
「じょうだんじゃない、おいらきりぎりすじゃないから、やだもーん。」って。
ポン吉:
それは、ね。 えーと、うーんと。 あっ、そうだっ!
こぐくん:
あはははっ! ポン吉、クレヨンしんちゃんのまね、うまーい!
うさこさん:
ごまかさないでよ! それはしょうがないとして・・ 許せないのは・・
今日、山を登ってくるとき、頭が痛いから登れないって言って、
こぐくんの背中におんぶされて来たんじゃないの・・!
うさこさん:
そうかしら? だって、動物村教会専用山小屋についたとたん、こぐくんの背中から飛び降りて、
わーいわーいってはしゃぎながら、かけずりまわったじゃないのよ!
ポン吉:
あれは、山の上の空気がきれいで体にいいからだよ・・ きっと。
うさこさん:
いいわよ。 じゃあ、とにかくさっき牧師先生がみんなで読んで意味を考えなさい、
と言った詩を読みましょう・・・
じゃあ、かわりばんこにね・・
「砂浜の足跡」
ある夜のこと、一人の人が不思議な夢を見ました。
イエスさまと一緒に海辺を歩いている夢です。
なんと空には、自分の人生の一場面一場面が
テレビのように映し出されているではありませんか!
ポン吉:
どの場面を見ても、二人(ふたり)分の足跡が
砂の上に見えるのでした。
一組は彼のもので、もう一組は
イエス様のものでした。
こぐくん:
人生の最後の一場面が映し出された後、
その人は後を振り向き、砂浜の足跡を見つめました。
すると、人生の場面の中で足跡が一人分しか
ないときが、何度かあることに気付きました。
うさこさん:
しかもそれは、彼が今まで生きて来た中で
一番苦しく、寂しく思っていたときだったのです。
その人は、そんなはずは絶対ないと思い
イエス様に尋ねてみるのでした。
ポン吉:
「イエス様、いったいどうしてなんですか?
私はあなたに従います、と決めたときから、
あなたは私と共に最後まで歩んで
くださると約束してくださいました。
こぐくん:
でも、私が今まで生きて来た中で
一番苦しんでいたとき、足跡は一人分しかないんです。
私があなたを一番必要としていたときに、
どうしてあなたは私から離れてどこかへ行ったのですか?」
うさこさん:
すると、イエス様は答えられました。
「私の息子よ、私の大切な子よ。
私はおまえを愛しているんだよ。
どんなことがあっても離れるはずがないじゃないか。
おまえが、苦しくて苦しくて大変なとき、
おまえが一人分の足跡しかないと言ったそのとき、
ポン吉:
それは、私があなたを背負って歩いていたときなんだよ。
って、これ前に読んだことあるけど、おかしいよ。 なっとく行かないよ。
ポン吉:
だって、だって。 おんぶされてたのに気づかないなんておかしいと思わない?
あとから振り返って見て、一人分の足跡しかないときは、イエス様が背負っていたって言っても、
その時気づいていなければうれしくないし、意味ないと思うな・・
ポン吉:
それにさ、イエス様って神様なんでしょ? だったら、力なんて強いはずなんだから、
一人くらいおんぶするの、なんでもないからさ、全然たいしたことなくて、ありがたくもないな・・
うさこさん:
(悲しそうに) そう・・ (泣く) しくしく・・
ポン吉:
おいおい、おいらなんか言ったかな? 泣くなよ・・
弱ったな、なめくじと女の子の涙には弱いんだ・・ おい、こぐくんもっ!
うさこさん:
あたし、どうしてもポン吉に見てもらって、分かって欲しい事があるの・・ お願い・・
ポン吉:
ってさあ・・ 今からかよ・・ なあ、こぐくん。
こぐくん:
そうだなあ、まあ、もう暗いし遅いから、明日にしようよ・・
うさこさん:
ううん、今日はあたしのわがまま、聞いて、これはこぐくんにも関係あるのよ・・
ポン吉:
しかたない、じゃあ、行くか・・ 懐中電灯を持たないとね・・
ナレーション:
そうして、三人は懐中電灯を持って、うさこさんのリードで昼間登って来た道を降りて行きました・・
ポン吉:
おいおい、けっこう来たけどなにもないぜ? もう帰ろうよ・・
こぐくん:
うん、そうだよ・・ あぶないから、帰ろう・・
うさこさん:
ポン吉、何も見えないの? 何にも感じないの?
ポン吉:
え? ぼく? 別に・・ なにが見えるんだよ・・ さっきからなぞなぞ見たいだぞ・・
「よく見てね・・ポン吉に自分で分かって欲しいの・・」 もうたくさんだよっ! こぐくん、もう帰ろう・・!
こぐくん:
うん、そうしようよ・・ うさこさん・・
うさこさん:
まだ、わからないの?・・ (泣く) しくしく・・
ポン吉:
おいおい、また泣くのかよ・・ 女の子はこれだからいやんなるよ・・ あーあ、座り込んじゃって・・
泣いちゃって・・ まるで赤ちゃんだな・・ さ、もう立った、立った・・ 足元が涙でぐちゃぐちゃだよ・・
あっ!あーっ!
こぐくん:
「あーっ!」てなに? どうしたの・・?
こぐくん:
え? なんか・・ 赤いね・・ なんだろ・・
ポン吉:
これ、血だよ・・血。 しかも・・ おおきな足跡がある・・ その中にあるんだよ・・ 血が・・
こぐくん:
あっ! この足跡・・ ぼくのと同じだ! ぴったりだ!
ポン吉:
すると・・! えーっ? えーっ? そう・・ そうだったのか・・!
うさこさん:
わかった? ポン吉? どうしても、ポン吉に自分で気づいて欲しかったの・・
実はね、こぐくんもポン吉をおぶってから少したって、足がすべった時に、とんがった岩のところで足を切ったの・・
それで、ポン吉をおろしたらって言ったら、今は気持ち良さそうに寝ているから、かわいそうだよって・・
こぐくん、痛いとか、重いとか、一言も言わないで上までずーっとずーっとおぶってくれたのよ・・
それを・・ ポン吉ったら・・ ろくにありがとうも言わないで・・
こぐくん:
いやだなー、はずかしいよ。 友達として当然のことじゃないか・・
うさこさん:
あの詩のイエス様も同じだと思ったの、あれ、こぐくんじゃないかって・・
イエス様は神様でもあるけど、まずは人間でしょ? おなかがへったり、疲れたり、傷つけば血がでるのよ、
悲しいときには涙が出るのよ、それが神様のおくりものでしょ? 私たちと同じのイエスさまを送ってくださったことが・・
そのイエスさまが私たちを愛して、一緒に苦しんでくれたり泣いてくれたりするのよ・・
でも、私たちが一人じゃ耐えられないくらい苦しいときや自分で歩けないときは、私たちをおぶってくださるのよ・・
自分の足に血を流してもね・・ きょうのこぐくんみたいに・・
でも、そのことに気づかないのは私たちだけなのよ・・ ポン吉みたいに・・
ポン吉:
うっうっ! わかったよ・・ よーくわかったよ・・ ありがとう、うさこちゃん・・ そしてありがとう、こぐくん・・
ぼく、みんなに感謝しなくちゃ・・ そして、もっとまじめに聖書のお話とか勉強するよ・・ きっとだよ!
うさこさん:
わかればいいのよ・・ ポン吉ならわかると思ってたわ・・ くしゃんっ! ぶるぶる・・ 急に寒くなったわ・・
ポン吉:
じゃあー、僕が山小屋までおぶって行ってあげるよ・・っ!
うさこさん:
ありがとう、ポン吉! やっぱり、ポン吉はいい子ね!
ポン吉:
うん! さっ、ぼくの背中に乗って・・! (乗る)うさこさんって、軽いね! 羽のようだよ・・。さっ、急いで行こう!
こぐくん:
実は、今さら足が痛くなって来たんで・・ あのーぼくも乗せてくんないかなー?
(おしまい)
第8話 「ペテロの否認」
マタイによる福音書 26章69節~75節
ナレーション:
さて、今日は3月30日、まいどおなじみの動物村にも春がやって来ました。 動物村日曜学校では終業式があって、いろんなプレゼントがありますが、一番人気なのは、聖書カードです。 そして聖書カードにもいろいろあって、普通のカードもあれば、超レアカードでみんな争って欲しがるカードもあります。今回は、聖書カードのせいでとんでもない事件が起こるのです・・
うさこさん:
ねぇ、ねぇ、あたしとーってもデリケートな美少女だから、アトピーで耳が時々、すごーくかいくなるのよね。 もう耳なんかとってしまいたいくらい・・ でね、でね、かいくてかいくて仕方なくて、「もう、耳なんかいらない、なくなってしまえっ!!」と思ったのよ・・ そしたらね!
うさこさん:
そしたら、耳がほんとになくなってしまったの! ほーんと、何にも聞こえなくなっちゃったの!
こぐくん:
うん、だって確かに今生えてるもの、耳。
うさこさん:
うそじゃないけど、夢の話よ・・ ほーんとびっくりしちゃった。 だって、あのノバうさぎ見たいに頭がまる坊主なんだもの。
ポン吉:
ま、うさこさんじゃないけど、確かに自分の体の一部でも、時々いやだなー切って捨てたいって思うこと、あるよね! 僕なんか歯がそうだなーっ!
こぐくん:
ポン吉、甘いもの好きだから、虫歯だらけ・・!
ポン吉:
うるさいな! だから、歯医者さんの所行って、前の人が口の中、がーがーやられて、苦しんでいるのを見ると、「歯なんか、消えてしまえ!」って思うもん。
こぐくん:
でもさ、歯がなかったら、食べられるの、スープかおかゆぐらいしか、ないよ。
うさこさん:
ねぇ、ねぇ、話しは変わるけど、明日の日曜は日曜学校の終業式よね、楽しみじゃない?
ポン吉:
くいしんぼだな! 楽しみは他にもあるだろ!
こぐくん:
あれって? そうか、あれかっ・・で、なに? あれって?
うさこさん:
もうー、にぶいわね! 聖書カードのことでしょ?
ポン吉:
そうだよっ! 今年はどんなカード、もらえるかな?
こぐくん:
ぼくなんか、「聖書は神のみ言葉です。」と言うカードばかり12枚もあるよ。
うさこさん:
運が悪いわねぇー。 レアカードを集めるか、セットで集めるのが通なんじゃない。 私は、聖書の動物と花シリーズよ。 「野のゆり」カード、きれいよーっ! 「私たちは主のブドウです。」のカード、絶対欲しいわー!
ポン吉:
そうだよっ! 僕はもう少しで12弟子が揃うし、超レアカードの、40日の断食でイエスさまが悪魔に誘惑されるカード持ってるもん! なんとか、自分の欲しいカード手に入れたいなーっ! 「ペテロの否認」欲しいよーっ!
うさこさん:
それは無理よ。 だって先生方が並んでいるみんなに次々とカードを渡して行くんだもの。 欲しいカードをください、なんてとても言えないわよ。
こぐくん:
また、「聖書は神のみ言葉です。」のカードじゃ、いやだなー。
ポン吉:
そうだ! いいことがあるぞ・・ みんな、耳を貸して! ごしょ、ごしょ、ごしょ・・
うさこさん:
えーっ! それはまずいんじゃないの?
ポン吉:
大丈夫、見つからなければ・・ それじゃあ、今晩12時にね!
ナレーション:
悪知恵だけは天才的なポン吉は、好きなカードを手に入れる、どんなとんでもない作戦を思いついたのでしょうか? それにしてもなにかやばい雰囲気ですが・・
先生:
それでは、プレゼントを渡します、お菓子の袋とカードを配ります。 おや、一番はポン吉ですね。 はい。
ポン吉:
わーい! やったぞ! 「ペテロの否認」ゲーットー!! 今まで生きていて良かったー!
先生:
それは、よかったですね。 はい、うさこさん。
うさこさん:
きゃー、感激っ! 「私たちは主のブドウです。」カード、ゲーットー!! ばんざーい、ばんざーい!
先生:
おーっ! ラッキーですね! はい、次はこぐくん・・
こぐくん:
やったーっ! 「サウロのダマスコの改心」だ。 初めて、「聖書は神のみ言葉です。」以外のカードだーっ! わーい、わーい!
ナレーション:
と、どんな奇跡が起きたのか、3人は欲しかったカードを手に入れたのです。 でも、終業式の後、3人は牧師先生に呼ばれました。
先生:
この三人を呼んだのは、気になることを聞いたので、それを説明して欲しいのです。 正直に言ってくださいね。 実は隣に住んでいる人から、昨日の12時ごろ、二人の人影を見たと言って来たのです。 なにか心当たりはありますか?
先生:
一人は大きくて、もう一人は小さくて、長い耳があったそうですが・・。
ポン吉:
(そうか・・)知らないです! 僕はうちで寝ていましたから!
ポン吉:
でも、その人影なら、きっとこぐくんとうさこさんじゃないかな!
先生:
確かに、大きい人影と耳の長い人影ですね・・
ポン吉:
それに、ぼく、聞いたんですけど、昨日二人は今日の終業式で絶対欲しい聖書カードがあるって言ってました。
先生:
じゃあ、その二人が昨日の晩ここにいたのは、その聖書カードと関係があるのですね。
こぐくん:
う~ん。 先生! ほんとは、ポン吉が・・
うさこさん:
実はこうなんです。 あたしとこぐくん、どうしても欲しいカードがあったんで、こぐくんの頭に乗って、上の窓から教会に進入してカードの箱の一番上に自分たちの欲しいカードをおいたんです。 それで今日プレゼントをもらうとき、一番前に並んだんです。
うさこさん:
本当に二人だけでやったんです! ポン吉は関係ありません!
先生:
でも、それは変ですね。 じゃあ、この、カードボックスについていた、毛は誰のですか? 色はちょうどポン吉くんのと同じですよ・・ それに、ポン吉くんは、こぐくんとうさこさんといつも仲良しの三人組でしょう? そうじゃ、ないんですか? 仲間じゃないんですか?
うさこさん:
そ、そうなんですよ! あたしたち、もう三人組じゃないんです。あ、あたしとこぐくんは、もう、ラブラブで・・ ポン吉はふっちゃったんですよ・・ ねぇ、こぐく~ん?
こぐくん:
え? えぇ? あ、そう、そう。 そうなんですよ。だから、ほら・・ぶちゅ~!
うさこさん:
だ~り~ん! だから、ポン吉は関係ないです。 こぐくんとうさこの二人でやりました。 二人だけ、罰してください。
先生:
本当にそうですか、ポン吉。 先生の目を見て、言ってごらんなさい。 先生の目はごまかせませんよ。 いや、先生をごまかせても、神さまはごまかせませんよ。 ポン吉、きみがゲットしたカードはなんですか? 読んでごらんなさい。
ポン吉:
「ペテロの否認」のです。 「ペテロは、イエス様の予言通り、三度主を知らないと言いました、ちょうどその時鶏が鳴きました。」・・・うぇ~ん!うぅ~~~~え~~~ん!!!
ポン吉:
うぇ~ん! 先生、僕、自分だけ助かろうとして、うそをつきました。 自分だけ痛い目にあわないように仲間を見捨てました。 本当は僕が二人を誘ったんです。 二人にはしごになってもらって、高い窓から入ったのは僕です! え~ん! え~ん!
ポン吉:
罰するなら、僕だけにしてください! 僕のせいで二人を罰しないでください!
先生:
うんうん、よく正直に言えたね、ポン吉。 やったことは自分勝手なことだし、他の人に対してずるいことだし、第一、夜そんなことをしていて、本当に危ないことだよ。 でも、先生、本当に感動しました。 お互いに罪をかぶりあって、うそをついてまで仲間を助けようとする気持に感動しましたよ。
ポン吉:
うぇ~ん! 僕なんか、自分だけ助かろうとして仲間を裏切りました。もう、仲間の資格なんか、ないです。 ごめんね、こぐくん、うさこさん!
こぐくん:
いいよ、ポン吉。 最後にはかばってくれたじゃないか!
うさこさん:
そうよ、ポン吉。 仲間よ。 仲間らしく、みんなで罰を受けましょう。 先生、こんなことしたら、あたしたち、もう日曜学校、来れないのでしょう?
ポン吉:
そうなんだ・・。 だから、日曜学校退学は僕だけにしてください! お願いします、こぐくんとうさこさんは許してください。 先生! うぇ~ん!
先生:
安心しなさい。 日曜学校には退学はありません。 どんな人でも許されます。 それに、もう、イエス様はみんなを許してますよ。 悪かったって心から思っている人をイエスさまは許されます。
うさこさん:
そう言えば、全部「ペテロの否認」のカードみたいね、この話し・・でも、
こぐくん:
そうだよ、聖書では、ペテロが三度知らないと言ったあとで鶏が鳴いたけど、にわとり、鳴かなかったね。
先生:
いや、聖書の通りですよ。 ちゃんと鳴きましたよ。
ポン吉・うさこさん・こぐくん:
えーっ? 日曜学校ににわとりなんていたっけ?
先生:
にわとりはいませんが、みんなもびっくりするぐらい鳴いた人がいますよ・・ それは、だれですか?
ポン吉:
あー、ぼくだった! まったく聖書の通りだ!
ナレーション:
言うまでもなく、3人は前にもましていっそう仲良しになりました。 あ、そうそう、罰と言うのではなく、3人は自分たちから、教会の庭やまわりをお掃除しました。 そして、終業式でのカードのプレゼントは、それからは自分で好きなカードを選べるようになりました。 めでたし、めでたし。
(おしまい)
第9話 「主と共に生きる」
テサロニケの信徒への手紙一 5章9節~10節
ナレーション:
動物村の日曜学校ももうすぐ夏休み・・ と思う頃、新しいお友達が来たのです・・ それはとてもとても変わったお友達でした・・
牧師先生:
みなさん、今日はとってもうれしい日ですよ・・ とーっても遠い国、それこそ地球の反対側で、カンガルーやコアラで有名なオーストラリアからお友達がやって来ました。 名前はフェニーです。 日本に来たばかりなので、みんな仲良くしてくださいね!
フェニー:
Good day, mate! My name is Fennie. Please be my friends. あのー、ワタクシ、フェニー申します。 どうぞ、お友達、なってください! よろしく!
ポン吉:
おーっ! 日本語しゃべれるぞ! すげー、すげー!
うさこさん:
ばかね! 当たり前でしょ! My name is Usako. Nice to meet you!
フェニー:
Wow, you speak good English! Nice to meet you too!
ポン吉:
は? なんて言ってるの? 寝水? ねずみ?
こぐくん:
ちがうよ・・ ないっす・・ みちゅ・・ だから、水がないで、のどがかわいてるんじゃないの?
うさこさん:
ぽか、ぽか! (ふたりをたたく・・) ばか! 恥じかかせないでよ! 私の名前はうさこです。初めまして! って言ったのよ。 まったく日本の恥よ!
ポン吉:
いててーっ! いきなりなぐるなよ! なんだよ! うさこさんこそ、日本の恥だぞ・・! 日本の女の子はすぐなぐる・・ ばいお・・ ばいおれっとだって!
うさこさん:
もうーっ! violetは、すみれ色・・ それを言うならviolent=暴力的でしょ!
ポン吉:
くそーっ! ノバ行っていて、ノバうさぎを持っているからって、いばるなよーっ! この暴力女! どん! (と押す)
こぐくん:
こら、こら、二人とも・・ けんかはだめだよ・・ フェニーが困ってるよ・・
フェニー:
Oh, no! Please stop fighting! けんか、だめです。 なかよし、なかよし・・
ポン吉:
なかよしーっ! このでかぶつのっぽ! きみのせいでけんかになったんじゃないか!
うさこさん:
そうよーっ! あなたのせいで暴力女なんて言われたのよ! なにさっ! 全身変な紫色でっ!
こぐくん:
だめだよ・・ そんなこと言っちゃあ! フェニー泣いてるよ!
ポン吉:
少しぐらい泣いたってかまうもんか! そんなむらさきのリボンつけちゃって・・男のくせに! ビジュアル系のまねかよ!
うさこさん:
それに何? このぶさいくなハートは? こんなの持ってて赤ちゃんみたい! 捨てなさいよ!
フェニー:
(泣きながら・・)I am a girl! I am a girl! フェニー・・・女の子です。
フェニー:
それに・・ このハートは、わたしの妹が病気で死んで、いつももっていたハートのまくらなの・・ 私の妹、マギーのことを忘れないように・・ いつも・・持っているの・・ あーん、あーん・・
ポン吉:
そうだったのか・・ 女の子だったんだ・・ ごめんよう・・ ごめんよう・・ えーん、えーん!
うさこさん:
そんなに大事なものだったの・・ ごめんね・・ ごめんね・・ わーん・・ わーん!
こぐくん:
フェニーさん、泣かないで・・ ポン吉、うさこさん、泣かないで・・ もう・・ 泣かないでようっ! うわーん、うわーん、うわーん!
ポン吉:
うわっ! びっくりした! こぐくん、すごい泣き声!
フェニー:
おどろきました・・ ジャパニーズタイフーンみたいです! ぶおーっ!
ポン吉:
あーぁ、おかしいっ! おなかがよじれるよ・・ 笑いすぎてもう泣けないよ!
こぐくん:
ひどいよ・・ ひどいよ・・ みんなでばかにして・・
ポン吉:
こぐくんも一緒に笑おう・・ 笑っちゃおう・・ あはは、あはははは!
ナレーション:
仲良しになれたのはよいのですが・・ この後、とんでもないことに・・! 毎年、動物村日曜学校では海辺で夏期学校を行うのですが・・ 山育ちのみんなは海の怖さを知らず・・ ゴムボートに乗ったまま・・沖まで流されてしまったのです!
ポン吉:
おい、もう何時間になるかなぁ! こうやって、漂流してるの・・ もう陸のかけらも見えないぞ・・
うさこさん:
それにだんだん暗くなって来たわ・・ こんな所で髪の毛が塩だらけになってシャワーも浴びられなかったら、困るわーっ!
ポン吉:
何言ってんだよ! シャワーがなんだってんだ・・ 僕たち、このままじゃあ、死んじゃうんだぞ!
こぐくん:
まあ、まあ、こんなところでけんかしても始まらないよ・・ 落ち着いて、落ち着いて・・
ポン吉:
お前が言うのか? 僕が、「あの沖のブイまで行こうよ。」って言ったら、その太いうででものすごい勢いでこぐから、とんでもないところまで来たんだぞ!
うさこさん:
だったら、一番悪いのはポン吉よ! 最初から、そう言わなければこんなことにはならなかったでしょ!
ポン吉:
なにを! 「私もオールでこいでみたい」って言って、くらげを見てびっくりして、「あーれー、こわいーーっ」ってテンパって、オールを両方とも流してなくしたのはどこのどなたですか!
フェニー:
私のお父さん、牧師先生です・・ お父さん言いました。 「どんな時も神様はあなたと一緒にいて、あなたを守ります。」
ポン吉:
けっ! いたって、僕たちをどう守るってんだ! もう、真っ暗だし・・ 食べ物だってないんだ・・ このまま、死ぬのは、いやだよーう!
うさこさん:
助かるのね! 早く帰って、「キューティーバニーちゃん」を見なくちゃ! で、どうするの?
うさこさん:
なーんだ・・ そんなことなの? お祈りでたすかりゃ、世話ないわよ! 無理。
こぐくん:
でも、他にいい方法がないなら、やってみようよ。
フェニー:
それでは・・ みんな手をつないで・・ 心を一つにして・・ 神様、み名を賛美します。 私たちを救うため、御子イエスキリストを与えてくださった父なる神様。 あなたが私たちといつも共にいてくださり、守ってくださることを信じます。み心ならば、命の危険にある私たちを救ってください。 私たちの心を静めて、一つにしてください。 イエス様のみ名を通してお祈りいたします。 アーメン
シーン・・
ポン吉:
だろ? だめだよ。 やめた、やめた・・ もうあきらめて死のうよ! あぁ、僕の遊戯王カードコレクション・・ 弟に取られるのか・・
うさこさん:
お祈りで済めば、世話ないわよ! あぁ、お嫁さんにもならず、ウエディングドレスも着ずに死んで行くのね・・
こぐくん:
だめだよ・・ そんな気持ちじゃあ・・ フェニーさんも言ってるだろう。 信じようよ・・ ん? あっ!
ポン吉:
どうしたんだよ、おい、こぐくん・・(口をおさえられる)
ポン吉:
あ、聞こえる、聞こえる・・ 低く、うなるような音・・ エンジンの音だ!
うさこさん:
見て、見て!あっちの方・・! 光が見えるわよ!
こぐくん:
あれは・・ ヘリコプターだ! 助けに来たんだ! 助かるぞ!
ポン吉:
おや・・? あーっ! こちらでなく・・ 違うほうに飛んでいくぞ! おーい! おーい! ほら、みんなで叫べ!
ポン吉:
だ、だめだ! 何か光るものはないか? なにか燃やすものは?
うさこさん:
あーっ、そのきれいなスカーフ・・ それよ!
フェニー:
あ、いいですよ、これ、燃やしましょう! でも、どうやって・・?
ポン吉:
どうしよう、どうしよう! 考えるんだ・・ なにか・・ マッチとか・・ ライターとか・・ 火をつけるもの・・ そうだ!
ポン吉:
違うんだ! えっと、裏のカバーをはずして・・ 電池のプラスとマイナスをショートさせて・・ あー、指がふるえて・・ よ、よし・・ ばちばち・・
ポン吉:
よ、よし・・ いいぞ・・ 燃えた、燃えたーっ! おーい、おーーーい! これを見てくれーっ!
ポン吉:
しめた・・! こっちに気付けーっ! ・・うわっちっち! あーっ、み、水に落としちゃった!
ポン吉:
も、もうだめだっ! もう少しだったのに・・うっうっ・・
ポン吉:
よーし・・ 携帯の電池で・・ ばち・ばちばち・・ よ、よし・・ いいぞ・・ いいぞ・・ 大きな火だ、明るい火だ・・! おーいっ! おぉーーーい!
ポン吉:
やったーっ! 気付いてくれたぞ! こっちに向かって来たぞ!
ナレーション:
なんと言う奇跡でしょう・・ 捜索を諦めて帰って行き始めたヘリコプターに運良く見つけられた4人は、明るく、大きく燃えるハートの枕のおかげで発見され、助かったのでした・・
うさこさん:
Are you OK, Fennie? You lost your precious heart pillow ... 大丈夫、フェニー? だって、あんなに大切な妹さんの思い出のハートのまくらを・・
ポン吉:
ありがとう、ありがとう! うおーん! フェニーごめんね!
こぐくん:
ありがとうねー、フェニー、ごめんねー、フェニー! おんおん!
フェニー:
It's OK, it's OK, Usako, Ponkichi, and Kogukun! いいのです・・みんな! もう、妹は天国に行って、神様と・・ イエス様と一緒なのですから・・ もう、あのハートの枕は天国にいる、マギーに返しました。 これからは、生きているみんなと一緒です。 私たちを助けてくれた、イエス様とマギーに感謝しましょう!
ポン吉:
わかったよ・・ これからは、僕がフェニーと一緒にいてあげるよ・・
こぐくん:
待てよ、ポン吉! フェニーと一緒にいるのは、ぼくだよ・・! ぼくもくまなんだから・・!
ポン吉:
いいじゃないか・・ みんな平等なんだから・・ 今回のことで、ぼく、フェニーにほれたな・・ フェニー僕と結婚しようよ!
うさこさん:
ちょっと! ポン吉! この間、わたしにプロポーズしたばかりでしょ? 動物村大学を卒業してアニマル商事に入社したら、結婚しようって! あれ、うそなの?
こぐくん:
そんなに簡単に結婚しようなんていっちゃだめだよ・・!
ポン吉:
だから・・ その・・ いいよ! 二人とも面倒見る! 二人とも結婚するから・・許して!
うさこさん:
そんなわけないでしょう! そんないい加減な人、私が断ります! フェニーさんとでも、誰とでも結婚しなさい!
ポン吉:
やったーっ! じゃあ、フェニーさん、結婚しようね! I love you!
フェニー:
わたしも、そんなアバウトな人はいりませーん! No thank you! です。 ごめんなさい!
ポン吉:
あちゃーっ! 二人にふられちゃった! だれかー結婚してくださいーっ!
みんな:
あはは、あはははは! しょうがないな、ポン吉は! あははははは!
(おしまい)
第10話 「へりくだって」
フィリピの信徒への手紙 2章1節~11節
ナレーション:
9月1日は防災の日でしたね。 みなさんの学校でも防災訓練をしましたか? しかも、15・16日にマグニチュード7クラスの大型の地震が来ると予言した人がいて、緊張しましたね。
だから、19日に震度3の地震が来たときはみんな大あわてだったでしょう? 怖いですねぇー! でも、こわいこわいと言っているだけではだめです。
むしろ、普段からの地震に対する準備と心構えをきちんとすることが大事です。 みなさんのおうちでは、家族で避難訓練とか、してますか?
ポン吉:
あててて! なんで教会の裏にこんな段差があるんだよ! 危ないじゃないか!
うさこさん:
ちゃんと前を見て歩かないからでしょ!
こぐくん:
でも、確かにこんなところに地面の出っ張りなんてなかったなぁ。
うさこさん:
何を言っているの、地球は生きているのよ、少しくらいは育つわよ。
ポン吉:
でも、やっぱ不自然だよ、これ。 まさか・・ 断層の亀裂かな・・ 大きな地震の原因と言われてるけど。 そう言えば、動物村地震研究所の人が来て色々調べてたっけ。
うさこさん:
気のせい、気のせい。 それより、今日教会学校のお話しで牧師先生がおっしゃってた、「へりくだる」ってちょっと古いんじゃない? 今は国際化の時代なんだから、リーダーシップを発揮して人の上に立ってどんどん人を使わなきゃ。
ポン吉:
そうだよねー。 あの「他の人につかえなさい」っての、「他の人をつかいなさい。」のミスタイプだと思うんだよね。 男なら、やはり社長とかになってたくさんの人をあごで使いたいよねー。 社員を捕まえて、「お前は首だ!」なんて言ったら、かっこいいね!
こぐくん:
きゃーっ! 助けてぇ~~っ! お助けぇ~っ! (と、木の上に乗ってしまう。)
ポン吉:
な、なんだよ、突然、こっちがびくってしちゃうよ!
こぐくん:
あ、あれ・・! 怖いーっ! がたがたぶるぶる・・
うさこさん:
こぐくんの指の指すほうを・・ 見ると・・ あ、なんだ! ただのかわいいねずみさんじゃないの! ほら!
こぐくん:
あ、だ、だめですぅ・・。 ねずみだけは、怖いんです!
ポン吉:
お前なーっ! なんだってこんなちっぽけなねずみが怖いんだよ! お前、ドラえもんか? しょーがないなー! いくら、図体がでかいからって、そんな弱虫じゃ、世の中渡っていけないよーっ! それにしても、そんなでっかいくせして、木のてっぺんまでよく登るよ、よっぽど、ねずみが怖いんだな。 弱虫~っ!
うさこさん:
そうよ・・ いくら体がマッチョでもだめだめ・・ 世の中、結局才能と・・ お金よ! あたしの夢は歌田ひかりとか、あゆのようなグレートな歌い姫になって、マネージャーとか付き人を持つことなの。
レコードを何百万枚も売って、ミリオネアになるのよ! ♪わたしのすばらしい声で♪、世界でナンバーワンのアーチストになるの!
ポン吉:
おっ、いいねぇ! 僕は、この天才的なのうみそを使うね! このどいなかで人口が約72人の小さな村から、世界へとはばたく最初のスーパービジネースマンになるから・・ あの、ウィルゲイツとかみたいにね!
うさこさん:
ぷふっ! まあ、確かに「悪知恵なら天才的、誰にもまけません。」と通信簿に書かれていたわね。 世界でナンバーワンと言ってもルパンIII世みたいにどろぼーの世界一になるんじゃないの?
ポン吉:
なにをーっ! ひどいこと、言うなーっ! うさこさんだって、香水のくささでは世界一番だよ!
うさこさん:
言ったわねーっ! このおならのくささ宇宙チャンピオン!
こぐくん:
まあ、まあ、二人とも・・ みっともないよ、けんかしちゃ。 それこそ、仲悪ギネスブックチャンピオンになるよ・・
ポン吉:
あっかんべーっだ! こぐくんに言われたくないよ。 この図体だけでかくて、本当は弱虫小虫チャンピオン!
うさこさん:
そうよ、ぐずでのろまで、漢字テスト0点記録更新中で、のーたり~んチャンピオンでしょ! それじゃあ、一生人の上に立つなんてできなくて、一生、人にこき使われるだけよ!
ポン吉:
そうだよ! このうどの大木! 歩くだけで、地面が揺れちゃうぜ! あ、あ、あ、あれあれ? なんだーっ!
うさこさん:
な・な・なにこれーっ! じ・地面がゆれてるわよーっ! こ、こぐくん止めてよ!
ポン吉:
もう、分かったからさーっ! その、おすもうさん見たいにしこをふんで、地面を揺らすの、止めておくれよ!
こぐくん:
えっ? ぼく、ぼくなんにもしてないけど・・?
うさこさん・ポン吉:
えーっ!? じゃあ、このゆれは・・ ホンモノの地震?
サイレン・スピーカーの声:
う~う~う~う~っ! こちら動物村放送局です。 ただいま、マグニチュード8の直下型地震が動物村を直撃しています。 震源地はちょうど、動物村教会の地下1キロメートル。 非常事態発生、非常事態発生! う~う~う~う~っ!
うさこさん:
きゃーっ! 助けてー! 死ぬぅーっ!
ポン吉:
あ、あぶない! 地面の亀裂が広がって・・ あーっ、吸い込まれる・・!
うさこさん:
あーっ! あたしも・・落ちるぅーっ!
ナレーション:
なんと、教会の真裏にあるさっきの亀裂が大きく広がり、うさこさんとポン吉を飲み込んだのです! さいわい地震は止みましたが、今度地震が来てこの亀裂がふさがったら、うさこさんとポン吉の命はないでしょう!
うさこさん:
あ、脚をくじいちゃった見たい・・ もうだめだわ!
ポン吉:
おーい、こぐくん! 上から助けてくれないか!
こぐくん:
大変だ! ほ、ほら、手を伸ばすから、つかまって!
うさこさん:
どうしましょう! もう、助からないわ・・ また地震が来たら、私たちぺっちゃんこよ!
ナレーション:
ポン吉とうさこさんがびっくりしたのも、無理ありません。 なんと! こぐくんは、自分から穴の中にどすんと落ちて来たのです!
ナレーション:
と、こぐくんはそのボブサップもびっくりのふとーい腕で、ポン吉とうさこさんを穴の底から信じられないくらいすごいパワーで上まで投げ上げたのです!
ポン吉:
あれれれ? あ、外だ、穴の外だ、助かったよ!
うさこさん:
本当だわ? いったい何が起こったの?
ポン吉:
あれ? 今度はこぐくんが穴の底だ・・ え? と言うことは!
うさこさん:
こぐくん・・! ありがとう! でも、こぐくんはどうするの?
ポン吉:
ロープもないし・・ 今度地震が来たら・・ あああああ、ゆれて来たぞ・・ どうする、どうする?
うさこさん:
さっきはごめんなさい! こぐくんのこと悪く言って、ポ、ポン吉、なんとかしてよ!ポン吉~~っ!
ポン吉:
そ、そんなこと言ったって、どうやってあの戦車みたいに重いこぐくんを上に引っ張るんだい? 登るにしても深すぎるよ・・登る・・はっ! そうだ!
ポン吉:
う、うさこさん! だまって、う、うさこさんのぬいぐるみ袋出して・・!
うさこさん:
なによ!いいけど・・ イギリスはメリーソート社の、愛子さまも持ってらっしゃる、ハイソなぬいぐるみよ! 手荒に扱わないで! あー、乱暴な!
ポン吉:
そんなこと言ってる場合じゃないんだ! あー、あった、あった! これだ! それっ! こぐく~ん! ほらーっ!
ナレーション:
ポン吉は、いったい何を投げたのでしょう? その小さいものを穴の底のこぐくんめがけて投げつけたのです。 それを見るや否や、こぐくんは、ぎゃっと大きな声をあげ、一気に深い穴を駆け登り、穴の外に出てしまったのです! その小さいものとは・・ いったいなんだったのでしょう?
こぐくん:
怖いよ~っ! 怖いよ~っ! 助けて~っ! がたがた・・ぶるぶる・・
うさこさん:
ちょっとーっ! いったい何を投げたのよ! 教えてよ、ポン吉!
ポン吉:
よかった~っ! うまく行って・・実は、うさこさんのぬいぐるみ袋に入ってた、ねずみのやつを投げたんだ! さっき、こぐくん、ねずみが怖くて木のてっぺんまで登っただろ?
うさこさん・ポン吉:
あ、ああああ! また、地震だ! 大きいぞ! あー、見てごらん! あ、穴がふさがって行く・・!
ポン吉:
あぁ、完全に元通りにふさがった・・ 危機一髪だったね! もし、こぐくんがあそこにいたとすると・・ いくらこぐくんでも、紙ぺら見たいにぺっちゃんこになっていたよ・・ よかった・・ よかった・・
うさこさん:
ちーっとも、よかったじゃない! (ぽかりっとポン吉をたたく)・・って、あたしのねずみさんのぬいぐるみ、サリーちゃんをどうしてくれるのよ! サリーちゃんは、あたしの一番のお気に入りだったのよ! 今頃、穴のそこでどろどろになってつぶれているわ! 絶対許さないわよ! 弁償してもらいますからね!
ポン吉:
そんな・・! うさこさん、そんなこと言っている場合じゃないだろ? こぐくんの命が助かったんじゃないか! ぬいぐるみの一つや二つ・・
うさこさん:
だーかーらー、男の子って鈍感ね、レディーの心がぜんぜんっ! 分かってないのよ・・ おーんおーん! サリーちゃんは、あたしの親友なのよ、心の友なのよ・・! えーん、えーん!
ポン吉:
なんちゃってね・・ うさこさん、このひもを引っ張ってごらん?
うさこさん:
えっ? なに・・ このひもを引っ張ると・・ あーっ、サリーちゃん、サリーちゃんね! 助かったのね! ちゅっちゅっ! よかったー、うれしいーっ!
ポン吉:
そこまで、読んでいたのさ! だから、僕は天才って呼ばれているのさ! えっへん!
こぐくん:
あーっ! ね・ず・み・・っ! 怖い~~~っ! う~~~ん!(失神する。)
ポン吉:
あ~あ、気絶しちゃった。 よっぽど、怖いんだね!
うさこさん:
ほんと! 体は大きいのにね! あ・り・が・と! こぐくん! あたしたちの命を助けてくれて・・! これはお礼のキッスよ! ちゅっ!
ポン吉:
あ、ずるいぞっ! 僕だってこぐくんの命を助けたんだし、うさこさんのサリーちゃんだって、助けたんだよ! さあ、キッスしてよ!(目を閉じて唇を差し出す。)
うさこさん:
(その唇をぎゅーっとつねって・・) だーめ! うぬぼれないでよ! レディーのキッスはそんなに安っぽくないの! それに・・かわいそうにサリーちゃん、泥がついて汚れちゃったのよ!
ポン吉:
あててて! ひどいよ、ひどいよ! うさこさん!
うさこさん:
でも、みんな危機一髪で死ぬところだったのに、助かってよかったわね! 一番えらいのはサリーちゃんかな? はい、キッス!
ポン吉:
そ、そうだね! 一番活躍したのは、サリーちゃんだった! あは、あははははは!
こぐくん:
ねぇ、どうしたの?なにを笑っているの?
うさこさん:
よかった、よかった! ありがとう、弱虫のヒーローこぐくん! あはははは!
みんな:
よかった、よかった。 あは、あはははははーっ!
(おしまい)
第11話 「主が来られる」
マルコによる福音書 1章1節~8節
先生の勤めている学校は小金井市にあるので、中央線を使っている教師も生徒も多いのですが、困ったことに時々事故で電車が止まってしまって大幅に遅刻してしまうことがあります。 理由は分かりますね。 人身事故、つまり人がわざと電車に飛び込んでしまうからです。 悲しいことですが、世の中には何かとてもつらいことがあって、自分で死ぬことを選んでしまう人がいるのです。
ナレーション:
ここ、動物村は東京みたいな大都会とは違って、のんびりしたところだと思うでしょうが、どこにでも、そして誰にでも悩みは平等にあるのです。
最近、ポン吉は災難続きでした。 つまらないことでうさこさんとけんかして、「レディの気持ちが分からないポン吉さんとは、もうお付き合いしません。」と言われて別れてしまったり、勉強をなまけて、0点ばかりとってお父さんお母さんに怒られました。 そしてそれを挽回しようとして、漢字テスト中に漢字を小さく書いた紙を使っているのを見つかってしまい、「バカなのはしょうがないとして、いんちきをする子はうちの子ではないぞ!」と激しく怒られ、かなり落ち込んでいました。
半分、家出をした形になったポン吉は、近所の川辺に座っていました。 ちょうどその晩は、台風が近づいていて、ものすごい集中豪雨で、川は洪水のようです。 何を考えているのでしょう、ポン吉はずっと濁流うずまく水を見つめているのです。
と、その時、遠くからポン吉を呼ぶ声がしたのです。 そうです、家を飛び出したまま、いつまでも帰らないポン吉を心配してお父さんお母さんが頼んでみんなで一緒に探していたのです。
ポン吉を一番最初に見つけたのは、いつもその周りで一緒に遊んでいるこぐくんでした。
こぐくん:
ポン吉ーっ! どこにいるんだーっ! おーいっ! や? あそこにいるのは・・! おい、ポン吉じゃないか!
こぐくん:
来るなったって、こんな雨の中だし、遅いしお父さんやお母さんも心配しているから、もう、帰ろうよ。
ポン吉:
ぼ、ぼくなんか、いなくなった方がいいんだ! 死んだ方がいいんだ!
ポン吉:
ど、どうせばかだよ! みんなでばかばか言って! わーん! どうせぼくなんか・・ ぼくなんか・・!
ナレーション:
と、言うなり、ポン吉は激しい流れの中に飛び込んでしまったのです。 あっと言う間にポン吉は水の流れに飲み込まれてしまいました。 しかし・・
ナレーション:
と、言うが早いか、こぐくんも川に飛び込みました。 そしてポン吉にとうとう追いつき、ポン吉を左手でつかみ、幸運にもボート乗り場のそばを通る時、ボートをつなぐための綱に右手でつかまることができたのです。 これをたぐり寄せれば二人とも助かるはずです。 ところが・・
こぐくん:
ふーっ! 助かったね、ポン吉! もう大丈夫だよ・・! 痛(いて)ててて! ポン吉っ! どうしてそんなに僕の手を噛むんだい?
ポン吉:
僕なんか、僕なんか死んだ方がいいんだ! 死なせておくれよぅ! がぶがぶがぶっ!
こぐくん:
痛いっ! そんなことしたら、手を離しちゃってポン吉は・・ 本当に死んじゃうよっ!
ポン吉:
いいんだっ! 離せよ! 僕は死にたいんだ! がぶがぶっ!
こぐくん:
ばかーーーーーーっ! (激しくポン吉の頭をなぐる。)
ナレーション:
激しく降る雨の中、そしてものすごい勢いで流れる川の水と戦いながらこぐくんは、ぐったりとなったポン吉をかかえ、ロープを頼りにようやく岸までたどり着いたのでした。
こぐくん:
はーはーはーっ! ようやく着いたぞ・・ はーはーはーっ! もう、大丈夫だよ・・ ポン吉!
ポン吉:
んーっ! あれ? ぼくは・・? なんで、ぼくなんか助けるんだよぅ! 死なせてくれよっ! (とポン吉、また川に飛び込もうとする。)
こぐくん:
おいっ! 待て! この手は絶対離さないぞ!
ポン吉:
離せよ、離せよ、ぼくみたいな、女の子の気持ちが分からず、頭が悪くて、平気でカンニングするやつなんか、死んだほうがいいんだっ!
こぐくん:
どんな子だって、死んだほうがいいってことはないよ! 自分が悪いって思ったら、がんばってなおせばいいじゃないかっ!
ポン吉:
ぼくだって、何度も何度もなおそうとしたさっ! でも、だめなんだ! 自分の悪いDNAには勝てないよ! 生まれたときにもう持っている、悪いものは絶対変えられないんだ! 死なせておくれよぅ!
こぐくん:
そうか・・ そんなやつは、ぼくがこの手で殺してやるっ!
ナレーション:
と、こぐくん、突然ものすごく怒った調子で言うと、左手でポン吉をつかみ、恐ろしいほどのパワーを秘めた右手をポン吉にふり降ろした!
ナレーション:
と、ポン吉が恐怖で叫んだのも無理はありません。それほどこぐくんの顔は真剣だったし、ポン吉もこぐくんの右手の威力は知っていたのですから・・ しかし、こぐくんが振り下ろした手は、ポン吉には当たらず、地面にたたきこまれました・・
こぐくん:
ポン吉・・ 5年前を思い出さないか? まわりを見て見ろよ・・
こぐくん:
そうだよ・・ なんの偶然か知らないけど、ここなんだよ! まだ小さかったぼくと妹のモモとで・・ 嵐の日だった・・ 新しく買った赤い長靴が試して見たかったんだろうな・・ あっと言う間に水にさらわれたももを追いかけて・・ さっきと同じように片手で綱をつかんで、片手でモモを抱えて・・ 綱をつかむ手がしびれて来て・・ 「モモ、おにいちゃん、もうだめかも、でも、死ぬなら一緒に死のうね。」って言ったら、「だめっ!おにいちゃんは生きて!もものぶんも・・!」とももが言って、いきなり手を噛んだんだ・・ 思わずももを離してしまって・・ 僕もおいかけようとしたけど、手が凍ったように綱から離せなくて・・ 「おにいちゃーん!おにいちゃーんは生きてーっ!」と言う声が小さく、小さくなるまで、泣きながら綱にしがみついていた・・ その後どうやって助けられたか何も覚えてないけど・・ な、生きたくても死んでしまう子もいるんだ・・ 死んじゃあ、だめだよ・・
ポン吉:
おい・・ おい・・。 しくしく・・。 うん・・ わかったよ。 でも・・ ぼく、これからどうすれば・・
こぐくん:
むずかしいことは分からないけど、前のポン吉は、さっき死んだんだよ。 さっきまで、自分がきらいできらいで、生きるのがいやになって死のうって思っていたポン吉は、一回死んで、新しいポン吉が生まれたんだ。 だから、生きようよ、新しい気持ちで・・!
ポン吉:
そ、そうだね。 一回死んだと思ったら、この新しい命がすごく大切に思えて来た・・。 モモちゃんのためにも・・
こぐくん:
うん、ぼくは毎日モモのために、大切に生きているよ。 モモにもらった命、半分はモモの命なんだ・・
ポン吉:
あ、このきず・・ 血が出ているよ・・ こっちは僕が噛んだきず・・ こっちは地面をなぐった時のきず・・ ごめんね、ごめんね!
こぐくん:
いいんだよ、ポン吉。 ぼくの血の少しぐらいで、ポン吉が死ぬものじゃなくて、生きるものとなれば、安いもんさ・・
ポン吉:
あーいたたた・・! なんだか痛いと思っていたけど、さっきこぐくんに思い切り殴られた頭、ものすごく大きなたんこぶができてるよ! これ以上頭が悪くなったらどうしてくれるんだよ!
こぐくん:
あはは! ごめんごめん。 つい本気でやっちゃったかな・・! でも、いいんじゃない、大きなたんこぶで頭が大きくなった分、のうみそが増えて頭が良くなったかもよ! あはははは!
ポン吉:
そんなこと、あるわけないよ! でも、おかしいね! あは、あははははは!
(おしまい)